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家族で異世界生活  作者: しゅむ
100/215

100. 平和の象徴

前回のお話

ドラゴンだぁぁぁあ!

え?草食系?


 優剛はラグナイドにグリーンドラゴンについて説明を始めていた。

「最初にラグさんとドラゴンの目があった時って覚えてる?」

「当たり前や。目が合った状態から目を離したら危ないやろ」

「あの時さ、このドラゴン……左の後ろ脚が1歩退いたんだよ。それが違和感のきっかけかな」

「嘘やん……」


 驚くラグナイドに優剛は説明を続ける。

「次にドラゴンの咆哮の後にラグさん叫んだよね?あの人たちを呼ぶ為だと思うけど」


 優剛は遠くの位置で警戒している2人のエルフに視線を流す。


 ラグナイドは振り返って自分が呼んだエルフたちをチラっと見てから口を開く。

「せやな。1人でドラゴンに向かうほど自惚れてへんよ」

「その時も1歩退いたんだよね。僕とラグさんが会話してた時も、ラグさんが1回叫んだよね。その時も退いたんだよ」

「はぁ?何か?こいつ……、この図体でビビってたんか?」

「グルゥアァ!」

「おっふぅ!」


 ビビってると指摘されたグリーンドラゴンが抗議するかのように吠えた。その声を至近距離で聞いたラグナイドは、ビクっとなって変な声まで出てしまった。


「あははは。これだけ近ければ聞こえるよ。言葉がわかるからね」

 優剛は笑いながらグリーンドラゴンの大きな鼻の上でもある上顎をポンポン撫でる。


「それが確認出来たから1つの可能性が浮かんだんだよ。もしかして、戦いたくないんじゃないかってね」

「逃げれそうなら逃げたかったって事かいな……」


「そんな感じだね。僕と同じ雰囲気を感じたのよ。だから近づいて聞いたの。それで言葉が理解出来てそうな表情をしたから、あとは魔力通信で会話が出来れば良いなぁって事で魔力を飛ばしたの。出来なければどっか行って欲しい事を、直接伝えれば良いと思ったんだよ」


 話を聞き終えたラグナイドは優剛に尋ねる。

「最初はなんて聞いたんや?」

「なんでここに居るの?って聞いたよ。魔力通信が久しぶりだったみたいで、咆哮と一緒に返事が飛んできたけどね」


 ラグナイドは優剛が近距離で咆哮を受けていた時を思い出していた。そして、優剛はグリーンドラゴンの真似をする。

「ちょっと!人間!マジ待って。なんで襲うの!?儂、さっきも言ったけど主食は草木や果実なの!肉は食べないの!人間なんか食べないし、襲わないよ!……げふ」


 優剛はグリーンドラゴンの真似が終わってすぐに、背中をグリーンドラゴンの鼻で勢いよく押された。地面に手を付いた優剛は、押された箇所を触りながら立ち上がる。

「いてて……。おいぃぃぃぃぃ!鼻水メッチャ付いてんじゃん!」


 優剛の背中と手はビチャビチャになっている。しかも少し粘ついていて非常に気持ちが悪い。

 優剛はジトっとした目付きでグリーンドラゴンを睨むが、プイっと顔を逸らされてしまった。


 優剛は鼻水塗れの手を傍に居るラグナイドに向けてゆっくり近づける。ラグナイドは素早い動きで後ろに下がって優剛から離れていく。


 優剛は無言でラグナイドとグリーンドラゴンを交互に睨む。

「いや、俺は関係ないやろ」

『ふん。つまらんモノマネをするからだ』


 優剛は溜息を吐き出してから魔術で作り出した巨大な水玉の中に入る。全身クリーニングを終えて出た後に、鼻水を含んだ水玉を地面の上で消した。地面には粘ついた液体が広がっていく。


 優剛の独特な魔術を見て驚いているラグナイドとグリーンドラゴンを無視して、鼻水から解放されてさっぱりした優剛は口を開く。

「ふぅー。つまりこのドラゴンは草食です。こちらから攻撃をしなければ安全って事ね」

「し……信じられへんよ」

「そんな事を言われてもね。現にこうやって大人しいじゃん」


 優剛はポンポンとグリーンドラゴンの上顎を撫でている。背中の上では真人がキャッキャっと興奮した様子で遊んでいる。


「く……。せや!ドラゴンはみんな草食なんか?過去には喰われた奴もおるんやで」

『儂のような大きなドラゴンは基本的に樹を食べるぞ。肉だと身体を維持する食糧を確保するのが、非常に面倒だ。もちろん襲われたら殺して喰ったりもするが、積極的に獲物を探して狩ったりはしないな』


 優剛はグリーンドラゴンの言葉をラグナイドに告げた。グリーンドラゴンは優剛と真人にしか魔力を飛ばしてこないのだ。


 ラグナイドは優剛から答えを聞いて俯いてしまう。

「嘘やろ……。今までの犠牲は俺らが挑まんかったら発生しなかったんかい……」


 俯くラグナイドに優剛が告げる。

「それは違うと思うよ。だってこのドラゴンだってこのまま進んだらエルフの里に被害が出るでしょ。田畑も壊れて、樹も食べられたら木の実も取れなくなる。それを防ぐために戦いを挑むのは仕方ないと思うよ」

『むぅ?この先は行ってはいかんのか?』


 優剛はグリーンドラゴンの問いに答える。

「この先は沢山のエルフが住んでるから来て欲しくないかな。彼らの食糧まで君が食べちゃいますよね?」

『むぅ……』


 何故かグリーンドラゴンも俯いてしまった。そんなグリーンドラゴンにラグナイドが呟くように告げる。

「もっと早う話しかければ良かったっちゅー事か……。いや、無理やな……」

『儂は何度も話しかけたぞ』


 優剛はグリーンドラゴンが何度も話しかけたと言うので、疑問を抱いて質問してしまう。

「どうやって?」

「グガァァァアァァァァアア!!」


 優剛が質問した直後に至近距離でグリーンドラゴンの咆哮を受ける優剛とラグナイド。優剛は目を閉じて咆哮に押されるように顔を上に向けている。ラグナイドは刀の柄に手をかける。


 ドラゴンの背中の上では真人も一緒に吠えだしている。

「うおぉぉぉ!」


 ドラゴンと真人の咆哮が終わって優剛が口を開く。

「それ……完全に威嚇だよ。僕らにしたら、強烈な咆哮で、メッチャ怖いもん」

『え?』

「え?」


 キョトンとした表情で見つめ合う優剛とグリーンドラゴン。


 ラグナイドは話の流れを理解したのか、首を横に振って口を開く。

「和睦の交渉にしては過激やな」

「ぶち殺す!!ヤァァハァァァアア!!って感じに僕たちは受け止めるよ」


 グリーンドラゴンは目を見開いて驚いている。今まで襲わないで欲しいという懇願の叫びは、戦闘前の威嚇行動と変わらないと言われたからだ。


「不幸なすれ違いだね。今後は繰り返さない事が重要なんじゃないの?」

「せやな……。他のドラゴンも同じやねんな?」

『大きい者だけだ。小さい者は肉食も居るからな』


 ラグナイドは今後の為に質問を繰り返す。

「空腹の時に目の前にエルフが居ったら喰うんか?」

『樹が無ければ喰うな。お前も食糧が他に無ければ食いたくない物でも食うだろ?』

「確かにそうやな……。しかし、樹が無くなったら俺らもこの辺にはおらんで」


 その後も優剛を介した会話は続けられた。そして、最後にグリーンドラゴンが後ろを振り返って告げる。

『儂は何処に行けば良いのだ?あっちには戻りたくないぞ』

「あの巨大な馬鹿デカイ樹がある方?」

『そうだ。少し前に乱暴者が住み着いてな。相手をするのは良いんだが、しつこいんだ。それに殺すのも悪い気がしてな。面倒だからこうして離れた訳だが……』

(相手をするのは良いんだ……。このドラゴンより弱いけど、ウザイって事かな?まぁかなり遠いし関係無いか)


 優剛はグリーンドラゴンの会話内容をラグナイドに伝えてから尋ねる。

「あっちの方向以外で行っても良い方ってある?」

「うーん。あっちなら魔獣が強くて俺らは寄り付かんな」

『おぉ!ではあっちに行くとするか。この辺の樹はあんまり美味くないと思ってたところだ。強い魔獣が居れば魔力も濃いだろう』


 グリーンドラゴンは嬉しそうに、ラグナイドが指差した東の方角を見つめている。強い魔獣は眼中にないらしい。

『それじゃあ世話になったな』

「うん。強い魔獣に気を付けてね」

『儂の鱗を傷つけられれば本気で相手もしよう』

(うわー。この鱗って硬いのか……)


 優剛はグリーンドラゴンの鱗の強度を確かめるようにコンコン叩く。

(わからんわ)

「おっと……、真人!ドラゴンがあっちに行くから降りてきてー!」

「はーい!」


 グリーンドラゴンは大きな身体を器用に動かして、木々をヒョイヒョイ避けながら行ってしまった。


 優剛はグリーンドラゴンを呆然と見送っているラグナイドに告げる。

「今回は被害が無くて良かったね」

「……ええ方に考えたらそうやな」

「……あっ、もしかしてドラゴンの爪や牙、鱗なんかの素材って貴重だった?」

「貴重やけど撃退出来ればそれでええねん」


 真人は優剛に大人の両手を開いて並べたくらいの大きさの鱗を、自慢するかのように見せつけて口を開く。

「これ取れたの!」

「……え?鱗って取れんの?」

「うん!なんか取れそうだったから引っ張ったら取れたの」

(ドラゴンが1回だけビクッ!って動いた時か……?痛かったんじゃね?)


「そ……そっか。でも次は取る時に一言教えてあげてね」

「うん!ドラゴンにも無理矢理取らないでって言われたよ」

(やっぱ痛かったんじゃん……。優しいドラゴンで良かったわ)


 優剛はグリーンドラゴンを思い出しながら口を開く。

「ドラゴン初めて見たけどカッコ良かったね」

「うん!」


 ハルもドラゴンである事を優剛も真人もすっかり忘れている。ハルはドラゴンの形をした猫である。

「でも、あの鋭い牙が樹の幹を食べる為とはね……」

「はは、あの爪もやな。獲物を狩る為の武器やないんやなぁ……」


 ドラゴンのイメージが壊れた2人は揃って溜息を吐き出した。

「はぁー。帰ろうか」

「そやな」


 ラグナイドはグリーンドラゴンが倒した樹を避け切っていたエルフの部隊を再集合させて帰り支度を整え始めた。巨大な樹だったにもかかわらず怪我人が居なかったのは、元々優秀な部隊だったのだろう。


 ボーっと優剛がラグナイドの指示する様子を見ながら、真人ともしっかり会話している。


 そして、そろそろ出発かという時に、優剛は接近する大きな魔力に気づいて口を開く。

「ラグさん、結構大きい魔力が近づいて来るんだけど」

「は?どっちからや?」

「あっち」


 優剛は北の空を指差して告げたが、ラグナイドは未だに優剛の言う魔力を感知する事が出来ない。

「勘違いや……違うな。かなりお……全員隠れぃ!」


 ラグナイドの叫ぶような命令を受けて、エルフたちは素早く樹の裏や草葉の陰に身を隠す。既に全員が凄い速度でこちらに向かってくる大きな魔力の位置を特定していた。


 完全に出遅れた優剛と真人は隠れるのも間に合わず、接近してきた大きな魔力の持ち主に見つかってしまう。

『其方ですか?昨日、空を飛んで東から来たのは』

「はい?」


 優剛に話しかけてきたのは赤い鳥。全身が真っ赤な羽毛に包まれた鷲のような鳥である。全身が赤い鷲は1本の太い枝に降り立ち優剛に問いかける。


『昨日、うちの子が見たって言うんですよ。東の山を越えて人間が飛んできたって。フハハ。信じられる訳ないですよね。それで昨日からうちの子と一緒に探してたんですよ。この辺りに居る人間をね』


(完全に僕です。何の用でしょう)

「そうなんですか……。ちょっとわかんないですね」


 嘘つき優剛である。しかし、これが悪手であった。

『フハハ。いや、いや。もううちの子に確認して、其方だとわかってるんですよ』

(ガーン。ハメられたわ)


「あらー、それはすいませんでした。ご用件って言うのはなんでしょうかね?」

『拙者の事は知らないのですか?』

(拙者?なんか面白い鳥だな。武士かなんかなのかな?)


 優剛はシレっと聴覚を強化していた。ラグナイドや他のエルフが何か呟けば聞こえるように。しかし、何か言ってくれたら良いなぁ程度の理由であったが、すぐにラグナイドの呟きが聞こえてきた。

「……神の鳥や」

(聞きたくなかったああぁぁぁぁ!)


 優剛は平静を装いつつも赤い鳥の質問に答える。

「申し訳ありませんが、知らないです」

『そうか。では覚えて下さい。拙者はこの大陸の守り神であり、平和の象徴である。平和を著しく乱すもの、害するもの、それらを排除する神鳥である』


(そんな排除するとか言っちゃう物騒な平和の象徴なんて無いから……。って言うかこの間の戦を止めろよ。仕事してないじゃん。3歩進んだら忘れちゃうんじゃないの?)


『空を飛ぶ人族は久しく現れていなかった。加えて非常に強大な魔力を有している。危険だ。其方は本当に危険だ』


 優剛は赤い鳥が現れる少し前から警戒して魔装を纏っていた。優剛にとっては5割ほどだが、他者と比べると纏っている魔装の規模は非常に大きい。


「いえ、いえ。完全に無害な生き物です。色んな人に確認を取って頂ければ、僕の無害性は飛び抜けてます。いや、マジで」


 赤い鳥は仰々しく両羽を広げて優剛に告げる。

『魔王ユーゴよ』

「別人です」


 そして『カチンカチン』という小さな音が鳴り、赤い鳥は炎に包まれてその姿を大きくしていく。赤い鳥は優剛の即答を無視して告げる。

『死ね』


 直後に赤い鳥の前に羽根を模した炎の羽根が大量に発生する。大量の炎の羽根は赤い鳥の宣言通りに、優剛を殺す為に一斉に優剛に向かって飛んでくる。


「真人!」

 優剛は炎の羽根が動き出す直前に真人を呼ぶ。真人もわかっていたのか、手を広げて優剛を迎える。


 優剛は真人を抱きかかえながら炎の羽根を全て回避した。幸いにも優剛だけを狙った炎の羽根は、真っ直ぐ飛ぶだけで追尾性能は無かった。さらに言えば真人を抱えなくても真人には一切被害は無かった。炎の羽根は優剛だけを狙っていたのだ。


「殺される理由が無いんですけど……」

『其方のような人間は危険だ。人を害し、恐怖で従える。そして国を作り、近隣の人族を蹂躙するだろう。そして、幾万の屍の上に其方の支配地域は大陸中に及ぶ』

「国作りの面倒さって知ってます?クソ面倒なんですよ。リアルで国作りとか発狂しますよ?」


 赤い鳥は優剛の反論に聞く耳を持たずに続ける。

『大陸を恐怖のどん底に叩き落し、幾万の屍の上で其方の世代は平和を築くだろう。数十年の短い期間だけな』

「恐怖政治反対です」


『其方が死んだ後は其方に蹂躙された人族の生き残りが、自分たちの国を取り戻す為に戦って死んでいく。やがて小国が乱立し、別大陸の人族も参入してくる。もはや今のような平和な大陸ではなくなってしまうのだ』


 優剛は横目でラグナイドの位置を確認する。このアホ鳥と戦う事まで想定して、戦場にする範囲と真人の避難場所を確保する為だ。


『数百年後には再び平和が訪れるかもしれんが、それまでの間は平和とは言えん。これまで大陸の平和を守ってきた拙者の一族は、あのお方になんとお詫びすれば良いのだ!』

『話を聞いてますかー?魔力通信なら聞こえますかー?』


 優剛は全く言葉の届かない赤い鳥に向かって魔力通信も試みた。しかし、これも悪手であった。

『おぉ!其方は魔獣とも意思疎通が出来るのか。あぁ……あぁ……。危険だ。魔獣を使役し、平和を害する其方は非常に危険だ』

「どっちも通じねぇな!」


 口調が乱れた優剛に狙いを定めるかのように、次々と炎の羽根が赤い鳥の周囲に発生していく。

「ラグさん!真人をよろしく!怪我させたら全力で殴るからね!」

「はぁ!?この状況でマコトを怪我させただけで、俺はユーゴに殺されるんかい!」

「ぶぅーーん!」


 真人は優剛に投げられて飛行機のように両手を広げて、隠れていたラグナイドに向かって飛んでいく。飛行速度は速く、ラグナイドは慌てて真人を受け止める体勢を整える。

「おぃ!こっち来るだけで怪我するんちゃうんかい!」


 ラグナイドと真人がぶつかる直前に急ブレーキが掛かった真人は、ゆっくりラグナイドの胸に飛び込んだ。

「なんでやねん!ちょっと前の俺の覚悟を返せや!」


 ラグナイドが真人から優剛に視線を戻した時、優剛に襲い掛かる為に準備された炎の羽根の量に絶望する。

『魔王ユーゴよ』

「別人です」

『死ね』


 無数の羽根が優剛を襲う。優剛の逃げ道を塞ぐかのように、時間差で外側から追い込むように炎の羽根が飛来する。

(1回やってみたかったんだよね)


 優剛は両手を胸の前で合わせて祈るようなポーズを取る。そして、両手を地面に置くと、巨大なぶ厚い土の壁が優剛の前に聳え立つ。

(あははは!大成功だ!)


 好きなアニメシーンの再現に歓喜する優剛は、再び両手を合わせて今度は目の前の壁に両手で触れる。すぐに先端が尖った土の槍が壁の外側に次々発生して、グングン伸びて赤い鳥に襲い掛かる。


(かなり魔術が上手い鳥だ。炎の羽根っぽいけど周辺は燃えてない……。たぶん僕に当たらない羽根はすぐに消してるんだろうな。まぁ、僕に当たったら容赦なく燃やすんだろうけど)


 迫る複数の土槍には赤い鳥も驚き、枝から空高く飛び立って土槍を回避。そして、優剛の背後にある枝に降り立ち優剛を睨みつける。

『忌々しい』

「神様!私は無害を主張します」

『これだけの力を持ってる者が無害な訳あるか!』

「いや……、僕から仕掛けてないし、襲われたら自衛するでしょ!?黙って殺されるなんてしないでしょ!?」


 優剛の言葉に怒りを抱いたのか、赤い鳥の魔力が急激に高まっていく。

『ただの土壁で余の攻撃が防げると思うなよ!』

(あらら……、炎の拳ですか……)


 赤い鳥の胸の横、翼に近い位置から生えた炎の腕と拳。拳というよりは岩である。大きさも直径が2m近い。そんな拳と腕を両脇付近から生やした鳥が、優剛に向かって翼を広げて飛んでくる。


(それで羽が動くん!?)


 優剛に赤い鳥が重そうな炎の拳を維持したまま飛んでいる原理はわからない。しかし、赤い鳥の両脇付近から炎の腕と拳を生やしたまま、器用に飛んで優剛に巨大な拳を繰り出してくる。

(火には水でしょ!)


 優剛は赤い鳥の拳と同じ大きさの水玉を作って炎の拳を受け止める。半分ほどが水の中に入って止まった拳を見ても、赤い鳥は慌てる事無く優剛に告げる。

『良い事を教えてやろう。水は温かくなると蒸発して消えてなくなるのだ。……こんな感じにな!』


 しかし、いつまで経っても水の量は減らない。赤い鳥も不思議そうに首を傾げる。

「水は100度まで温度が上がると蒸発するんですよ。神様が温めた傍から僕が冷やせば100度まで上がらず、水も蒸発しない。神様なのに中途半端な知識ですね」

「ピェ?」


 可愛らしい鳴き声が赤い鳥から漏れた。しかし興奮状態で告げてくる。

『炎だぞ!炎の塊だぞ!水なんて一瞬で蒸発するんだぞ!』

「キンキンに冷やしてますんで。急速冷凍なんですよ」


 赤い鳥は優剛の水玉を蒸発させる事を諦めて引き抜く。そして、左右の腕を横に大きく広げて、優剛の左右両サイドからフックのようにして攻撃する。


 優剛は目の前から炎の腕と拳が消えた事で、一気に前進して跳び上がり赤い鳥に突っ込む。

「ピ!」

「失礼しまーす」


 優剛は跳び上がって赤い鳥の嘴を掴んで腕を振り上げる。優剛の位置は少々高い。地上から4mほどの高い位置だ。


 嘴を優剛に掴まれた直後に、赤い鳥は纏っていた炎を全て消失させてしまう。翼を何度もバサバサと動かすが、優剛が嘴を離すまでには至らない。


 やがて優剛が着地。同時に鳥は地面に「ビタン!」と叩きつけられる。赤い鳥が地面に叩きつけられた瞬間「ピグェ」っという苦悶の鳴き声が聞こえてきた。


 優剛はピクピク動いている鳥に告げる。

「この状態で本気のビターンしたら死んじゃうかもしれないから手加減しましたよ。じゃあ……お話をしましょう」


 赤い鳥は恐怖する。全身を地面に叩きつけられた痛みで身体は動かない。優剛はお話と言うが、魔王の噂は聞こえてきている。しかも優剛に掴まれた直後から、体内の魔力が勝手に動いて上手く操れない。


 赤い鳥は大陸の平和を守れなかった事を先祖に詫びる。

 優剛に嘴を掴まれたまま、エルフたちに囲まれた状態になっても、赤い鳥は先祖に謝罪の祈りを捧げていた。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。


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次回もよろしくお願い致します。

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