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家族で異世界生活  作者: しゅむ
10/215

10. 先生

前回のお話

魔力は大事だよ。


このお話から漢数字を止めて数字にしました。1~9話に関しては気が向いたら直します。

縦読みの方すみません。私は横表記で書いて、読んでいるので違和感が爆発しました。

 優剛は温かいベッドの上で目を覚ました。

 昨夜はヒロに締め上げられた後にお風呂を使わせて貰ってから眠りについた。

 あの時はトーリアも目に涙を溜めていたが、優剛が申し訳なさそうにお風呂について確認すると、トーリアからレミニスターに話しかけて解散になった。


 レミニスターからの指示でトーリアが優剛たちの世話をするリーダーで、その他に2人ほど選ぶようだが、昨日はトーリアが全てを用意してくれた。


 優剛たちが着る服はレミニスターの了解を貰ってトーリアが準備してくれた物である。

 優剛はレミニスターの長男と次男の子供時代の服。

 麻実はレミニスターの奥様の服。

 由里はイコライズの服。

 真人も優剛と同じレミニスターの長男と次男の子供時代の服。


 服を渡された時にどんな服なのかも説明されている。優剛が着ている服は分類的に子供服であると・・・。

(服を貸して頂けるだけで感謝ですよ・・・。)


 トーリアの身長も優剛より高く、その他の大人用の服も優剛のサイズに合う服は屋敷にはなかった。優剛が着れる女性服はあるのだが、優剛は謹んでお断りした。

 街に行けば優剛のサイズの服もあるが、着られる物があるだけで良いとトーリアには伝えたので、優剛は子供服を着る事になった。

(お金稼げるようになったら大人用の服を買お・・・)


 優剛が身体を起こすと、麻実も起きていたようで目が合った。二人は「おはよ」と言い合って、ベッドから出る。


「起きたらこれを着るのよね?」

「そうそう。昨日、トーリアさんが用意してくれた服だね。麻実・・・、着られるの?」

「着られるわよ!失礼しちゃうわ!ちょっと大きいくらいよ!」

(丈だけね・・・。横幅がフィットしている感じからレミニスターの奥さんも少し太め・・・。 )


「・・・何を考えているの?」

 少し強く麻実が優剛に問う。


「肌触りとか、どうかな?って。」

「ふーん。」

(切り抜けた!)


 優剛が絶妙な返しで切り抜けた事を安堵した時に扉をノックする音が聞こえた。

「おはようございます。トーリアです。入ってもよろしいでしょうか?」

「はい。大丈夫です。」


 扉を開けてトーリアが入ってくると優剛は朝の挨拶をする。

「おはようございます。トーリアさん。」

「おはようございます。」

「おはようございます。ユーゴ様、マミ様。ユリ様とマコト様もよく眠れたようで、今は身支度を整えております。」


 由里と真人の部屋はそれぞれが別の部屋が与えられていた。真人は1人で寝られるのか不安はあったが、ヒロと何やら話した後に一人で寝ると決意表明をしてきたので、1人で寝かせた。

 既にトーリアに選ばれた世話係が2人の面倒を見てくれているのであろう。


「ありがとうございます。トーリアさん。あとでトーリアさんが選んだ2人に挨拶をさせて下さい。」

「いえいえ。私たちに挨拶など不要です。」

「そういう訳にもいかないですよ。文化の違いだと思って下さい。」


 渋々了承して貰ってから、朝食の為にみんなが集まっている部屋に行くとヒロ以外は揃っていた。


 おはようございます。と声をかければ、レミニスターとイコライズがそれぞれで挨拶をしてくれた。

「おはよう。ユーゴ。マミ。昨日は見苦しいところを見せてすまなかったな。」

「おはようございます。マミさん。先生。昨日はありがとうございました。」


「ご飯が終わったらイコの魔力量を確認しますね。」

「はっはっは。全く気にしていないか。ありがとう、ユーゴ。」


 由里とイコは打ち解けたように楽しく会話していた。

「由里と真人もおはよ。二人はちゃんと寝られた?イコと話をしていたの?」

「うん!ちゃんと寝られたよ。イコが色々教えてくれるの!」

「ボクは1人で寝られたよ!」

 真人は初めて1人で寝られた事でドヤ顔が決まっている。


「真人、偉いぞー。」少し大げさに真人を褒めてから席に座ったタイミングで扉が開いてヒロが入ってきた。


「ガッハッハ。おはよう!みんな元気そうじゃな!」


 それぞれが挨拶をヒロに返すのを聞きながら、ヒロは席に座った。全員が席に座ると朝食がテーブルに置かれていく。白米、お味噌汁、お漬物だ。

(こ・・・これは理想の朝食というやつではないか?)


「異国の者は匂いと見た目がダメで食べられないから、今日は納豆を抜いて貰ったぞ。あれは癖が強いからな。」

「儂らは好きじゃがな。」

「納豆?僕が想像している食べ物と同じ物ならは好きですよ。昨日、僕たちも日本人だって言ったじゃないですか。納豆って名前も同じだし・・・。」


「そうなのか?うーむ。それなら明日から出そう。」


 そんな会話をしながら良い雰囲気で食事が終われば、イコが優剛に歩み寄ってきた。

「先生、私の魔力量を見て下さい。」

「さっきも思ったけど、僕は先生になったの?」

「ユーゴ、すまんな。昨日、ユーゴが風呂に行ってからイコと話をしてな。ユーゴが良ければ半年ほど、イコの家庭教師をしてくれないか?もちろん住み込みで、待遇も今と変わらん。」


「僕にとっても最高の環境だと思いますので、もちろん良いですよ。しかし、半年なのは何故ですか?」

「おぉ。受けてくれるか。ありがとう。イコは半年後に王都にある学園に通える年齢なのだ。今までは魔力が使えなかったから行く事は無いと思っていたが、ユーゴに任せれば半年で人並みには使えるようになるかもしれんからな。ふふふ。」


 嬉しさを滲ませながらレミニスターは説明した。

(王都の学園って言うくらいだから、色んな場所から優秀な子供が集まるから人脈も出来るだろうし、上流階級の人たちには大事な教育機関なんだろうなぁ。)


「イコは何歳なの?」

「もうすぐ10歳です。」

(入学時に10歳なら入れる。みたいな感じか?そうするとイコは由里の1学年上か。)


「へぇー。由里の1つ上だね。」

「それは昨日ユリから聞きましたわ。さぁ先生、早く魔力量を見て下さい。」


 ういうい。と言いながら優剛はイコライズの魔力量を昨日と同じように魔力玉の中にイコライズを入れて確認する。

(うーん。昨日より増えているけど、やっぱり少ないな・・・。比べる対象がレミだからか?わからん・・・。)


「昨日よりは増えているよ。」

「やった!増えているのですね!私、お部屋で昨日と同じ練習をしてきますね!」

「落ち着けイコ。ユーゴ、どうなんだ?」

 昨日より魔力が増えた事を喜ぶイコを落ち着くように言ってから、レミニスターは優剛に確認する。


「んー。僕の意見は1日1時間くらいの訓練で良いと思うんですよね。空き時間に練習するのは良いですけど、魔力を枯渇させてまでやると他の事に差し支えが出ると思います。」

 貴族だと他にも何か習い事や勉強をやっていますよね?と確認する優剛。


「なるほど、確かに他にもやる事があるな・・・。」

「父さま!1時間は少ないです・・・。」


 縋るような瞳でレミニスターに魔力の習熟訓練の時間を増やすように懇願するイコライズ。気持ちがわかるだけに、負けそうになるレミニスター。魔力が使えるようになって嬉しいのはレミニスターも同じである。


「1時間っていうのは僕との訓練ね。イコの空き時間にやる分には良いと思うよ。ただし、魔力の枯渇を感じたらすぐに止めるって言うのは約束して欲しい。」

「むぅ。わかりました・・・。」

「ありがとう。ユーゴ・・・。」

 残念そうなイコライズと押し切られそうだったレミニスターは優剛に礼を述べる。


「では今日はいつやるのじゃ!?儂もイコの魔力を見たいぞ!」

 ヒロは昨日見られなかったイコの魔力が見たくて仕方がない様子だ。


「これからはどうですか?予定はありますか?」

「ふむ。どうだ?」

 レミニスターは近くにいた壮年の執事に尋ねた。


「はい。旦那様はご見学出来ないでしょうが、1時間程度であれば問題ありません。」

「良し!では行くぞ!今日は天気も良いから庭に出てやるぞ。イコ、儂にも魔力を見せてくれぇ!」

 待ち切れない様子でヒロがイコを誘うと連れ立って庭に出ていく。


「みんなで行こうか。3人にも教えたい事あるしね。」

 由里や真人が「はーい」という返事を返しながら優剛たちも庭に向かう。もちろんトーリアの案内付きで。

 そんな6人を寂しそうに部屋で見送ったレミニスターは昨日溜めてしまった書類仕事を思って溜息をついて虚空を見つめていた。


 庭に出れば真剣な表情でイコライズの手を見つめるヒロとイコライズの姿がすぐに見つかった。


「先生、遅いです!それに昨日みたいに動かせませんし、出てきません。」

「ごめん、ごめん。んー、外に出すよりも、体内の循環を重点的に練習した方が良いと思うよ。」

 優剛は言いながら水晶に魔力を入れる要領でイコライズの体内に魔力を入れた。


「うっ。気持ち悪いです・・・。」

「はい。はい。我慢する。ヒロが見たがっているから出しても良いけど、終わったら体内循環ね。」


「昨日も気になっていたんじゃが、なぜ優剛はイコに触れたままなのじゃ?」

「あぁ・・・。うーん。僕の魔力をイコの身体に入れる。他人の魔力は異物感として認識される。イコの魔力で異物を動かせば、イコは魔力を動かしている事になって、魔力が鍛えられる。ただし、イコの魔力は少なすぎて、1人では動かせません。ではどうする?」


 優剛は順序立てて説明をして、1人で動かせない場合はどうするかをヒロに質問する。


「そうじゃな・・・。誰かに動かして貰うのが良いじゃろう。」

「それはイコが動かしているんじゃなくて、僕がイコの魔力を動かす事になるから、イコの訓練にはならないでしょ。」


 むぅ。と唸って再び考え込むヒロ。そこに麻実が「あっ」と声を出して優剛に自分の考えを告げる。

「優剛の魔力をイコちゃんが動かそうとした方向に優剛が動かす。じゃない?」


「おぉ!麻実、正解。」

 ふふん。と麻実はドヤ顔が決まっている。


「そんな事ができ・・・。」

「お爺さま!出ますよ!」

 ヒロのそんな事は出来ないのでは?という問いを抑えつけるようにイコライズがヒロに告げる。

 その言葉を受けてヒロは疑問を引っ込めてイコライズの手を凝視してから数秒後、細く短い煙がイコライズの掌から出てきた。


「おおおおお!イコ!凄いのぉ!」

 掌から魔力を出したイコライズは昨日と違って座り込む事は無いが、肩で大きく息をしている。


「優剛、今の説明だと、掌から出てきている魔力って優剛の魔力じゃないの?」

 麻実の質問に「え?」っという驚きの表情でイコライズとヒロは優剛を見る。


「あー。うん。そう思うよね。僕も最初はそうなりそうだった。実際に外に出る瞬間にイコの魔力を置いて、僕の魔力だけ外に出ちゃいそうになったよ。でもそれじゃあ意味がないから、外に出る壁?みたいな物の前にイコの魔力だけを集めて、そこから動かないように僕の魔力で逃げ道を塞ぐ。そこからイコの魔力だけで壁を押すんだ。だから壁を抜けて外に出ているのは純粋にイコだけの魔力だよ。」


 イコとヒロはホッとしたような表情で解説を聞き終えた。そしてヒロは再び尋ねた。

「やはり疑問じゃな。何故、触れ続ける必要があるのだ?」


「魔力を動かすのに慣れていないからこうやって僕と魔力が繋がってないと、イコが僕の魔力を押す力がわからないんだよ。」

 そういって左手から魔力を出して、ふわふわと漂わせる。


「この魔力との接続を切って空中に漂わせても動かせるんだけど、精密には動いてくれないんだよ。」

 空中に放たれた優剛の魔力は動いているように見えるが、優剛に言わせると精密には動かせないとの事だ。


「なんとまぁ・・・。大したもんじゃな・・・。」

「へぇー。」


 感心するようなヒロと麻実に、尊敬の眼差しで優剛を見るイコライズ。照れるように優剛が手を叩いて訓練内容を告げる。


「はい。はい。やる事を教えるよ。イコは魔力の体内循環ね。最初の目標は1人で体内循環させる事ね。出来たら次に行こう。」

 はい!という元気な返事をして魔力の体内循環を始める。


「お父さん、私たちは?」

「昨日ちゃんと考えた!まずは、魔力で身体を覆って。10分ね。始めー。」

 優剛の時計は現地時間に合っていないが、時間を計るだけなら出来た。


「おぉ!儂もやるぞ!」

「はいよー。ヒロでも厳しくいくよ。」

 望むところじゃ!と言ってヒロは魔力で身体を覆いだすと同時に麻実たちも身体を魔力で覆いだした。


「ヒロ、ここに穴が開いている。ここも。こっちもね。」

 むぐぐ。と唸りながらヒロは身体を覆っている魔力の穴を塞ぐ作業に集中しだす。


「麻実たち3人は上手だね。・・・ヒロ、ここ。」

 優剛は穴が開いている部分を次々に指差してヒロに伝える。


 10分が経過して優剛が「止めてー」と言った時、ヒロは大きく息を吐き出した。

「ふぅー。短い時間だか、穴が塞ぎ続けるのは疲れるのぉ。」


「ん?最終的には1時間ずっとだよ?って言うか穴を開けちゃダメなんだよ。ヒロは10分間、穴が開かない状態を維持出来るまで続けるよ。」

「なんと・・・。」

 力なく呟くヒロを気にする風も無く、優剛は次の訓練内容を口にする。


「次は魔力を外に出して、1から10までの数字を書くよ。10分で全部の形が作れたら成功ね。」

 こんな感じで。と言って、優剛は掌を上に向けてその上に魔力で数字を形作っていく。

「10は1と0を離して作るのが大事だからね。数字を作るのは指の上でも頭の上でもどこでも良いよ。やり易い場所を自分で探すのも大事だからね。じゃあ、魔力で身体を覆いながら始めて。」


 説明を聞いたヒロは悔しそうに「ぐぅ」と呟いて魔力で身体を覆いだす。すぐに優剛が「ここ」と穴が開いている箇所を指摘するのが続いた。


「これは麻実が上手いね。」

「って言ってもなかなか数字にならないわよ・・・。」

 5分ほど経過した段階で麻実は3を作っていた。由里と真人は2で苦戦中だ。



「あっ。ヒロ、ここね。僕に甘えないで自分で気づきなよ。」

「ぐぅぇ」と悔しさと抗議を同時にする器用なヒロ。


「はーい。止めてー。これは難しかったかな?」

「難しかったわ・・・。」

 結局、麻実が6の途中。由里が4の途中で真人が3を終えたばかりであった。


「結構出来ていると思うよ。最初は難しくて僕もかなり練習したよ。ヒロは次も身体を覆うやつだけど続ける?」

「悔しいからやるぞ。もう少しだと思うんじゃ・・・。」


「次はこうやって魔力を外に出して、身体との接続を切って浮かべる。ゆっくり10数えて、その後は・・・。」

 優剛は手から魔力の玉を出して、空中に漂わせたまま、辺りをキョロキョロと見渡す。


「あの木が良いね。あそこまで魔力を飛ばして、木にぶつける。成功したら魔力を2つに増やす。魔力の形はなんでも良いよ。飛ばしやすい形を探すのも練習ね。始めてー。」

 優剛は10mほどの距離にある木に魔力玉をぶつけて、やる事の説明を終えると、5個の魔力玉を作って、それぞれを不規則に自分の周辺を飛ばし始めた。


「優剛、何してんのよ。」

「僕だって練習だよ。変化の練習もしていたからね?それにさっきも言ったけど、身体から離れた魔力って上手く動かないんだよね。」


「お父さん・・・きもい。」

 由里の言葉に「ガーン!」という効果音が聞こえてきそうな優剛の表情に。追い打ちをかけるように麻実も続ける。


「優剛は出来すぎじゃない?変よ?変!」

「アニメと漫画を真面目に見てれば出来るよ・・・。練習も大事だけど魔力って結構イメージが大事みたいだし・・・。」

「アニメや漫画を真面目にって何よ・・・。由里の言うようにきもいわね。イメージが大事ならヒロさんが出来ないのは説明出来ないじゃない。」


 巻き込まれてディスられたヒロは「ぐっ」と傷ついた声を出した。

「ぐぅ・・・。練習をして下さい・・・。」

 麻実は頼むような優剛の小さい声を聞いて、それ以上の追及を止めて魔力玉を空中に出す練習を始める。


 止めてー。の優剛の声に「うおぉぉ!」という声で応じるヒロ。

「ヒロ、どうしたの?」

「マコト!10分穴が開かなったのだ!ガッハッハ!穴が開く前兆のようなものがわかるようになったからな。先回りにして開かないように補修して回ったぞ。」


「ボクは浮かぶまでは行くんだけど、木までは届かなかったよ・・・。」

「私も同じよ、真人。優剛が変なだけだから気にしないのよ。あっ。きもいから気にしないのよ。」

「わざわざ言い直す!?ねぇー?魔力玉の練習は1番時間をかけたから出来るんです!」


 抗議するように魔力玉の練習に時間をかけている事を主張する優剛。


「もう次の練習行くよ。次は強化ね。」

「それは得意じゃぞ!」

「筋肉じゃないよ?反射神経の強化だよ。」

 遂にみんなと同じ訓練が出来るヒロは張り切って得意だと告げたが、優剛の言葉に首をかしげる。


「肉体を強化して、早く動いたり、重い物を動かしたりするんじゃろ?それが魔術強化の基本じゃぞ?」

「やっぱり基本なんだ。でもそれって最後の課題で必須になるからやらないよ。ここからの10分は主に脳を強化する。」


 優剛は反射神経についてヒロと子供たちに説明する。自分の認識が合っているか確認するように麻実が聞き耳を立てる。


 身体を動かすには脳からの指令が、動かしたい箇所まで届いた時に筋肉が反応して動く。仮に魔力で筋肉だけを強化しても、速く動けるようになるだけで、その速さに見合った反応が出来なければ、同じ速さで動く相手に反応が出来ない。


「なるほどのぉ。もしかしたら儂らは無意識に反射神経を強化しているのかもしれんのぉ。」

「それを意識的に強化する練習になるかな。」


「どうやって強化された事を確認するんじゃ?」

「今日はこの魔力玉が遅く見えたら手を挙げて僕に教えて。」

 そう言って優剛は自分の身体の前で丸を描くように、2つの魔力玉をグルグルと空中に飛ばし始めた。


「手を挙げた人に魔力玉を1つ飛ばすから避けてね。遅く見えたら動体視力の強化は成功していると思うけど、実際に高速で動く物に反応して、身体を動かせて成功だから。」


「強化を始めてー」という優剛の掛け声で4人は脳の強化を試みる。ここですぐに手を挙げたのはヒロだった。


「くっ。結構きついが、遅く見えるぞ。」

「ほい」と言って、優剛は魔力玉をヒロに飛ばすと、ヒロの顔面に魔力玉が直撃して煙のように消えた。


「ぬおぉぉ!見えていても、身体が動かん!これは面白いのぉ。ユーゴ!次の魔力玉を儂に飛ばすんじゃ!」

 不敵な笑みを浮かべて、再び手を挙げるヒロ。


「遅く見えるようになったのは凄いと思うけど、遅く見えたら少し身体を動かすとかして、遅い世界で身体が動くか試してから手を挙げてね?」

「むぅ。確かにそうじゃの。よし!少し待て。」

 ヒロは身体を揺らすように動かしながら、時折、素早く左右に身体を振る。


「優剛、良いよ。」

 そう言って手を挙げたのは麻実だ。やはり知識や無意識にでも体験した事があると強化も容易なのかな?と仮説を立てて優剛は魔力玉を麻実に飛ばした。


 麻実は「んー」という呻き声を出しながら避けようとしたが、残念ながら右肩の先端に魔力玉が当たってしまった。


「惜しかったね。次行くよー。」

 もう少しで避けられそうだと感じた優剛は、次の魔力玉を麻実に向かって飛ばした。


 麻実は予想外の追加に「キャ!」と軽く悲鳴を上げながらも、今度は避ける事に成功した。


「おぉぉ!素晴らしい。」

 パチパチと手を叩きながら麻実を褒める優剛。


「何故、マミには2連続で魔力玉を飛ばしたのじゃ!儂にも飛ばさんか!」


「ヒロは・・・。ほい。」

 ヒロは避けられないでしょ?と言うつもりであった優剛であるが、ヒロが身体を動かす速さを見て、避けられるのでは?と思い直したので、魔力玉をヒロに向かって飛ばした。


「ぬおぉ!」ヒロは唸り声を上げながら魔力玉を避けきった。

「おぉ!ヒロも出来たね。」

 パチパチと麻実と同じようにヒロも褒める優剛。


 ドヤ顔が決まっている2人に優剛が練習内容の変更を告げた。

「これから2人には前触れ無く魔力玉を飛ばすから避けてね。いつ飛ばすのかは教えないから、強化はずっと維持したままね。」


 麻実は「うん」と首を縦に振り、ヒロは驚きの表情で優剛を見つめながら呟いた。

「ずっと維持か・・・。辛いが戦闘中にこの状態を維持出来れば・・・。」


 ヒロは「集中してー」という優剛の声が聞こえたかと思った時には、魔力玉が額に当たっていた。

 ヒロは「むぐぐ。」と言って額に手を当てて悔しがったが、すぐに不敵な笑みを浮かべて優剛の周囲に飛んでいる魔力玉に集中しだした。


「お父さん、玉は遅くなるけど、身体が動かないよー。」

「ボクもたぶんヒロみたいに当たっちゃう。」

 由里と真人が不満顔で優剛に告げてきた。


「んー。これは難しいか・・・。僕が強引に1回だけ強化してみようか。イコ、ちょっとイコの魔力を動かすのが難しくなるけど離れるね。」

「はい。大丈夫です。」言いながらイコは首を縦に振った。


 優剛は魔力玉をその場に残しながら、由里と真人に歩み寄って、魔力玉が見えるように2人の間に立ってから頭に手を置いた。


「脳を強化しながら、脳からの指令が届くように身体全体も少しだけ強化するんだよ。」

「頭だけじゃないの?」


「脳からの指令が早く届くように、脳から動かしたい場所までの道を作るイメージかな?この辺は出来るようにならないと、なんとも言えないんだよね。」

 脳だけを強化していた由里の質問に優剛は答える。


「避けられそう?」

 2人は魔力玉を見つめながら、身体を軽く動かしている。


「うん。出来そう。」

「ボクも。」

 それを聞いた優剛は2人に向かって魔力玉を飛ばした。


 2人は優剛から離れるように左右に大きくステップして、魔力玉を避ける事に成功した。

「おぉ!凄い!出来たね!じゃあ1人で出来そうだと思ったら手を挙げてね。」

「「うん!」」

 力強い返事に優剛は満足して、元の位置に戻ってイコの靴に触れながら地面に座り込んだ。


(疲れた・・・かな?この疲労感はなんだろ?肉体的な疲労でも精神的な疲労でもないな・・・。寝られないだろうけど眠い?これが1番近いか。初めての感覚だ・・・。)


 優剛は不思議な疲労感を感じて座りながら、4人に魔力玉を適当に飛ばし続けた。

 時折、魔力玉に当たる4人であったが、集中を維持している間は避ける事に成功していた。


「止めてー。疲れたね。」

「「疲れたー」」

 止めての声と同時に座り込んだ由里と真人が優剛に同意する。


「あと10分くらい?最後は何をするの?」

 麻実は残り時間で何をするのか優剛に確認した。


「説明とかに時間を使ったからあと10分くらいか・・・。最後は鬼ごっこしよう。」

「やる、やるー。」

「鬼は誰がやるのー?疲れたから鬼はやりたくなーい。」


 一気にテンションが上がった真人と疲労感から鬼は誰がやるのか気にする由里。

「鬼は全員だよ。僕に触れたら終わりにしようか。イコも一緒にやろう。ここまで真面目に体内循環だけをやっていたからね。」


「ユーゴに触れば終わりになるのか?簡単ではないか?」

「ほほぉ?まぁやってみよう。いつでも来なさい。」

 優剛はヒロの言葉を受けて5人を挑発する様に手招きした。

 それを見たヒロがすぐに動き出して優剛に向かって飛び掛かる。その速度は非常に速く、触るというより体当たりである。


 しかし、それを難なく身体を横にしてヒロを躱す優剛。そこに続いたのが真人だったが、飛びついてきた真人のバランスが悪いのに気が付いた優剛は、避けながら真人の足を掴んで、ゆっくり地面に真人を寝かせた。



「真人、足を強化するのは良いけど、身体全体も忘れずに強化しなさい。1部分だけ強化して動くと身体のバランスが崩れて怪我するからね。身体のどこかが動けば、違うところで無意識にバランスを取っているんだよ。」


 真人は「はーい」と落ち込むような返事を優剛に返した。

「動きは良かったから、次だよ次!」


「そうじゃ!マコト!立て!そしてユーゴを捕まえようじゃないか!」

「うん!」という元気な返事と共に再び優剛に襲い掛かる真人。


 そんな2人に気圧されたのか動かない由里に近づいて手を伸ばす優剛。そして、その手に触れようと素早く手を動かす由里。


「触らせないけどね。」いたずらっ子のように手を素早く引いて由里の手を躱した優剛。

「むぅぅ」怒ったような声を上げながら由里は優剛に襲い掛かった。


 麻実が想像していた鬼ごっことは違った鬼ごっこが始まっていた。

 優剛は殆ど走っていないのだ。狭い範囲で細かくステップを踏んで3人を避けていく。


「優剛、そこにイコちゃんが入っていくのは危ないんじゃない?私もだけど。」

「んー。確かにそうかも・・・。ヒロがぶつかったら怪我するね。まぁ入れそうなら入るって事で・・・。」

「隙ありじゃあ!」


 優剛は身体をクルっと回してヒロを躱した。

「くぅ!触れんのぉ!」言いながらヒロは楽しそうに優剛に突撃を繰り返す。


「うーん。イコが入れないのは課題だね。」

「そう・・・よね!」

 不意打ち気味に飛びついてきた麻実をギリギリで躱す優剛。


「今のは危なかった!」

「行け!行け!行くのじゃー!」

 テンション爆上がりのヒロを筆頭に4人は優剛に突撃を繰り返しては躱されるのを繰り返した。後半には力尽きたヒロの代わりにイコも入って、激しくも楽しい雰囲気で鬼ごっこは終わりを迎えた。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。


次回もよろしくお願い致します。

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