表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

【第08話】 揺れる少女たち・後編

「……どういう風の吹き回し? あんたが女の子をこんな時間に連れ回す男だったなんてね」

「……その言い方だと俺がプレイボーイみたいじゃないか」

「あんたがそこまでモテる奴だなんて思ってないわよ。手癖が悪いって事」

「人聞き悪い事言うなよ。もうちょいお前が早く帰ってくれば明るいウチに来れたんだよ」

「来たいなんか言った事ないけど?」

「ったく……あー言えばこう言うなあ」


 来て早々に若干不機嫌なルキに悠月は嘆息しつつ、自分の財布の中身を確認する。

 ルキが家に住むようになって二日経過した現在。言っていた通り夕方遅くに帰ってきたルキを無理矢理連れて悠月は駅前のゲームセンターへとやってきていた。先ほどルキが言っていたように別にルキが来たいと言った訳ではなく、悠月が思いつきで勝手に連れてきたのだ。

 もう十八時を回ったゲームセンターにはまだ学生たちがちらほらと居る。それでも昨今は学生のゲームセンター滞在は時刻制限があるので、この時間から学生の数は減り始める。

 財布に小銭が無いので、悠月はお札を小銭に両替する為に両替機の前へとやってきた。


「……自販機もそうだけど、このお金を自動で両替する機械もすごいわね。人を介さずここまでの事が出来るなんて、やはり技術レベルはコチラの方が上ね」

「これでも現金を使うのは旧時代だとか言われてきてるんだぜ。今はもっぱら電子マネーが主流になりつつあるからな」

「知ってるわ。専用のカードや端末にチャージして使う電子化通貨の事でしょ? 大切なお金をデジタルみたいなよく分かんない物に変換するなんて考えられないわ」

「田舎のじいちゃんばあちゃんみたいな事言ってんな……」


 話しながらもお札を小銭に両替し、悠月はその小銭をルキへと渡す。小銭を受け取ったルキはまだ困惑の表情をしている。


「……なによこれ?」

「ゲーセンで遊ぶ金だよ。だが使うのは千円までな」

「あたしもお金持ってるし」

「これは俺の奢りだ。あんまり使わずにそれくらいにしとけって」

「それにあたしってゲーム自体やった事ないし」

「まあ、そうだろうな。出来る限り教えてやるからとりあえず何かやろうぜ」

「……だから、なんであんたがあたしに奢ってくれるのよ」

「こよりを助けてくれた礼をしてなかったのと、俺も気晴らしにゲーセン来たかったしな」

「こよりちゃんを助けたのはあたしだけじゃなくてあんたもでしょ」

「だがお前と出会わなければ、俺はこよりの危機に駆けつける事は出来なかった。事件に巻き込まれたのはいささか不満だが、それでもお前に感謝してる。サンキューな」

「意味分かんない……」


 少し頬を赤くしたルキがクレーンゲームの前に行き、中を覗き込んだ。中には今人気のアニメキャラのぬいぐるみがわんさかと入っており、アームで取るタイプのスタンダードなヤツだ。

手の平サイズのぬいぐるみはそこまで大きくないので取りやすそうではある。


「やり方は手前のレバー付近に書いてあるぜ」

「……なるほど、アームを操作して商品をつり上げて取るのね。ちょっと面白そうね」

「やってみようぜ。どうせ何回か失敗するから五百円入れるか? そうすれば六回プレイできるぜ」

「でも最初で取れたらお金が勿体無いわ」

「ばっかお前、そんなにクレーンゲームは甘くねーぞ」

「見てなさいよ。格の違いを見せてあげるわ」


 そう言いルキは百円玉をコイン挿入口に入れると機械から音が鳴り、ゲームが開始された。

 ルキは第一ボタンを操作してアームを左に移動させ、ここと思ったところでボタンを離してアームを停止させる。それは悠月が予想していた位置が合致したので密かに感心する。

 次に第二ボタンで奥方向へと移動させ、ここと思ったところでボタンを離す。するとアームが開き下に降りていく。そのままぬいぐるみの紐の部分スレスレに降りて惜しくも引っかからず再び上昇していってしまった。


「惜しかったな。だが筋は悪くなかったぞ」

「そうでしょ? こういうのは自身あるのよ。絶対に次で取るわ!」


 そう意気込んだルキは再び百円玉を挿入し、ボタンでアームを操作する。


「……友達と遊ぶこの感じ久々だわ」

「なんだ……お前も友達居るんだな」

「失礼ね。これでも元の世界に友達は居るわよ。……少ないけど」

「……少ないのか」

「こういう特別な力を持っていると、どうしても疎遠になるのよ人間関係が」

「………」

「だからと言って寂しいと感じた事は無いわ。本当に信頼できる仲間が側に居てくれたし。世界中で一人っきりになってしまう訳ではない。まあ、今は一人ぼっちだけどね……」

「……そんな事は、ない」

「やったっ!! 取れたわ!」


 悠月の声をかき消すほどの絶叫を上げ、ルキは見事にダクトに落としたぬいぐるみを取り出し口から手に取って大はしゃぎする。普段からとは違うルキの無邪気な態度に悠月が呆気に取られていると、我に返ったルキが咳払いをしつつ居住まいを正した。


「……どう? 二回で取ったわよ?」

「大したもんだ……。クレーンゲーム初心者とは思えねーな」

「あたしってゲームの才能あるかも。別のヤツもやってみましょう!」


 はしゃぎにはしゃぐルキに苦笑しつつも悠月はその後もルキとクレーンゲームを楽しんだ。

 そして時刻が十九時半を回った時に二人はゲームセンターを後にして、自宅への帰路を歩いていた。上機嫌なルキの両手には五つのぬいぐるみが入ったビニール袋が持たれている。


「たった千円でここまで無双する奴初めて見たぜ……」

「あたしも自分の才能が恐いわ……」

「自分で言ってりゃ世話ねーな。なんだったらう少し居ても良かったんだぞ?」

「もう帰ってこよりちゃんを守ってあげないと。いくら緊急用の魔石を持たせてるとはいえ心配でしょ?」

「まあ、それは確かにそうだけどな」

「……今日はありがとうね。気を使わせちゃったみたいね」

「いや、別にそうでもないけど……」

「寂しそうな素振りは見せてないつもりだったけど、油断したわね」

「たまたまだよ。それにやっぱり異世界に飛ばされりゃ誰でもナーバスになるわな」

「……その点は大丈夫よ。覚悟はしていたから」

「覚悟……?」

「さ、明日からは気合入れて敵の捜索をするわよ! ぬいぐるみどこに飾ろうかしら」

「ぬいぐるみに気合奪われてるぞ」


 まるで子供のように笑うルキ横目に見つつ、少しでも気晴らしになったら嬉しいかもなと悠月は柄にも無くそう思った。絶対に口にはしないけど。


          *


「おはよう、悠月くん」

「ああ、おはよう」

「少し聞きたい事があるから、椅子に座りたまえ」


 次の日、学校へと登校して悠月が教室へと入った途端、険しい表情をして悠月の椅子に座っている麻美に声を掛けられた。


「座るも何も……。俺の席に座ってるのお前じゃん」

「じゃあ、こっちに座って」

「はいはい……」


 麻美が前の席を指差しながらそう言い、意味は分からないが悠月は仕方なくそれに従った。悠月と対面するように座り直した麻美は仰々しく手を前で組み始めた。どうやら取調べ室を意識しているようだ。


「実は昨日、井上くんがゲームセンターから出てくる悠月くんと件の親戚の女の子を目撃したの。しかもそれだけでなくそのまま一緒に君の家に入っていくのを目撃したらしいのだけど、本当かね?」

「……だとしたら、何なんだ? 別に親戚が俺の家に来るのは不思議な事じゃないだろ?」

「本当に親戚だったらね」

「……それはどういう意味だ?」

「あたしも井上くんも悠月くんの親戚の話は聞いた事あるけど、あんな歳の近い親戚が居るって聞いた事ないもん。悠月くんのご両親とも一人っ子でしょ?」


 コイツ……変なところで勘が良いな。確かに少し無理がある設定だとは思ったがそこまで攻めてくるとはな。ベタだが上手く理由をつけるしかないか。


「遠縁ってヤツだ。俺だって最近知ったんだから」

「本当かな? なんか嘘ついているような気がする」

「確か親父の腹違いの兄妹かなんかだったぜ」

「でも今になってそんな……」


 その最中、教室にあるスピーカーからチャイムが鳴り始めた。それを聞くなり、麻美としぶしぶ自分の席へと歩いていった。その顔はまだ諦めてはいないようだ。

 確かに少々無理がある話だが、どうも麻美はルキに御執心のようだ。怪しい奴に女の勘が働いたのかどうかは分からない。だがこれは注意する必要がある。

 その日は移動教室や男女別の授業が多かったので麻美ともほとんど接点は無く、それ以上に言及される事は無く放課後になった。

 それから時は流れ……井上はその後も普通に話しかけてきたが、なぜか麻美だけは悠月にだけ話しかけてはこなかった。どうしたのかとは思っていたが、悠月自身もこれ以上のボ(・)ロ(・)を出す訳にもいかないので話しかけなかった。

 これで無事帰れそうだと一安心した悠月だったが、すぐ帰らなかったのが命取りとなった。


「悠月くん」

「うおっ!? あ、麻美か……。今帰るところか? まあ、俺も帰るところだけどな」

「悠月くんはこの後の予定って空いてる?」

「よ、予定?」

「うん、一緒に本屋に付いてきてほしいの。実は前にすっごく面白い本を見つけてそれを買おうと思って」

「……その買い物に付き合わせてまた質問攻めするつもりか?」

「そ、それは……」

「俺の話を信じてくれないなら、今日の放課後は付き合わない」

「そ、そんなっ!?」

「やあ。まだケンカしてるかい、お二人とも?」

 

 少しピリッとした空気を払拭するかのように井上がヘラヘラした表情で近づいてきた。自ら出した空気とはいえ、それが四散していくのには悠月も少し安堵した。


「……別に喧嘩なんかしてねーよ」

「そうかい? さっき君たちの会話から本屋に行くっていう単語が聞こえてきたのだが、それって駅前にある本屋の事かい?」

「……うん、そうだよ。私はいつもあの本屋で買ってるから」

「う~ん、あんまりあそこに行くのはオススメしないな」

「? どうして?」

「実は駅前の本屋付近には最近になって妙な噂があるんだ。あの本屋付近を歩いていた人間が急に消えてしまうっていう怪談みたいなヤツなんだけどね」

「あ、それ私も聞いた事ある。でも、みんなは単なる都市伝説だって言ってるよ?」

「人が消えるだと……?」


 井上の口からは悠月の予想の斜め上を行く話が飛び出してきて思わず眉をしかめた。

 人が消える……。いわゆる都市伝説ではメジャー中のメジャーな話だ。ネットでもよくある話であり、電車に乗っていたらこの世ではない駅に辿りついたとか、神隠しとかもこの部類の話になる。この手の話で恐いのは今まで何でも無かった見知った街中で不可思議な出来事が起こるという事だ。小学生くらいなら身近に迫る恐怖というのは実に恐いものだ。

 高校生にもなればそう言った雑談話で終わる程度の話である。本当の誘拐とかでなければ大して盛り上がりもしない三流の都市伝説だ。……今までなら悠月もそう思っていただろう。


「……麻美」

「な、なにかな、悠月くん?」

「親戚の話は信じてくれ。本当にやましい事は一つも無い」

「……わかった、もう言及しない。悠月くんを信じるよ」


 観念したように微笑む麻美に悠月は罪悪感を感じざるえなかった。

 嘘をついているのは事実だ。それが友達を魔の手から守る為とはいえ嘘は嘘。それを信じてくれとは自分はとんでもない男だと思う。結果として麻美を騙しているという事実は消せない。いずれ自分は罰を受けるだろうなと心の中で自虐する。


「なら放課後に本屋付き合ってよね! 帰る準備してくるから待ってて!」


 麻美は実に嬉しそうな声で返事をし、小走りで自分の席へと戻っていった。

 それを見送った悠月はポケットから携帯電話を取り出し、用事があるのでこよりに今日は一人で帰ってくれとメールをする。敵に襲われないように願うしかない。

 もし悠月が思うように人が消えているのが事実だとしたら、それはもしかしたら次元のひずみが関係しているのかもしれない。思わぬ所で得た情報を確認しない手はない。


「水瀬、良かったじゃないか仲直りできて。僕と都市伝説に感謝してよ?」

「だから別に喧嘩してた訳じゃないって」

「どうかな~。まあ、後悔ないようにね。いつ何が起こるか分からない世の中なんだからさ」


 そう言いつつ井上は鼻歌まじりに荷物を持って帰って行ってしまった。

 普段から掴みどころのない井上だが、こと今日に限っては掴みどころが無さ過ぎて悠月も首を捻るしかなかった。

 そうこうしている内にやってきた麻美と共に悠月は本屋に向けて教室を後にする。悠月はようやく見つけた手掛かりに浮き足立ち、麻美も悠月と本屋に行けるのが嬉しくて笑顔になっている。


 この時の悠月には、後に起こる悲劇など知る良しもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ