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【第06話】 新たなる日々・後編

「あ、お兄ちゃん!」

「待たせたな。友達は大丈夫だったか?」

「うん、あの後にお母さんが迎えに来て一緒に病院に行ってた」

「そうか。怪我の他に何もなけりゃいいけど」


 小学校の校門で待ち合わせをしていた悠月とこよりは、二人並んで夕方の住宅街を歩き始めた。現在の時刻は夕方四時半を過ぎており、空はキレイなオレンジ色に染まっている。

 麻美とのちょっとしたハプニングはあったが、ここまで来るのに敵の襲撃は無かった。こよりもそのようで悠月は安堵する。しかし警戒を怠らず周りに魔導人形どもが居ないか神経を向けつつ歩いていく。


「……ねえ、今日の化け物は何なの?」

 

 ……やはりその話になったか。まあ、あそこまで危険な目にあったんだし、当然と言えば当然だよな。だがこよりに真実してしまっていいものだろうか?


「教えて、お兄ちゃん……」

「……わかった」


 こよりの真摯な視線に観念した悠月は、今までに起こった出来事をこよりに話した。

 ルキとの出会いからデュナミスという敵の事まで。まだ悠月も分からない部分もありつつも、記憶を頼りに出来るだけ噛み砕いて説明した。

 悠月が話すまるで妄想のような話を、こよりは一切茶化す事なく真面目に聞いていた。


「……ってな感じだ。こんな事に巻き込んで悪かったな」

「ううん、大丈夫。こよりはとっても頼りになるお兄ちゃんに助けてもらったから」

「こ、こより~!!」


 優しい笑みを浮かべて言う妹が天使に見え、悠月は感動し過ぎてその場でこよりを抱きしめてしまった。抱きしめられたこよりはアタフタしながら恥ずかしさに頬を染める。


「お前は本当に良い子だなっ! 絶対にお前を守ってやるからな」

「く、苦しいよ~」

「あっと! すまんすまん」


 ハッと我に返った悠月が抱擁を解くと、こよりは少し咳き込みながらも乱れた服を整えた。あまりにも出来た妹に感動し、少々大人気ない事をしてしまった事に反省しつつ悠月は話を続ける。


「……まあ、とにかく今はデュナミスが操ってる魔導人形を見つけ出す事が先決って事だ。もしかしたらまたお前を狙ってくるかもしれない。だから異変を感じたらすぐに俺に連絡してくれ」

「うん、わかった」


 そこまで言って悠月はルキとの連絡手段が無い事に気がつく。それどころかルキがどこに住んでいるのかも知らない。まさか何かある度に悠月の学校に来るのだろうか?

 別れる前に聞いておけば良かったと悠月が後悔していると、隣のこよりが暗くなりつつある空を眺めてから悠月の手を握った。

 

「……なんで、お兄ちゃんがその凄い魔法使いなんだろうね?」

「魔導師な。まあ、たしかにそれが一番の謎なんだよな……」

「もしかしたら、お母さんかお父さんがあっちの世界の人だったりして」

「うわ、それ本当にありえそうだから困るよ」

「そしたらこよりも魔法使えるのかな~」


 無邪気に答えるこよりに対し、悠月はなんとも複雑な表情になるしかなかった。


          *


「若いのに大変ねえ……」

「いえ、そんな事は。でも、なんてお礼を言えばいいのやら……」

「いいのよ、困った時はお互い様だし。自分の家だと思ってくれていいからね」

「すいません、本当にありがとうございます」

「おいいいいいいいいいいっ!!」


 家へと帰った悠月はリビングのドアを開けた途端、今日渾身の叫び声を上げた。


「悠月、お客さんの前で大きな声を出さないの! お母さん、恥ずかしいわ」

「お客さんって……。おいどういう事なんだ、ルキ?」

「あ、昨日はありがとうございました!」

「はっ?」


 リビングのソファーに座っていたルキはそう言いながら立ち上がり、唖然としてる悠月に対して丁寧にお辞儀をした。

 混乱する悠月を他所に悠月の母親が立ち上がり、ルキの肩へと手を置いた。


「聞いたわよ、悠月。家出中のルキちゃんを助けてあげたんだって?」

「い、家出……?」


 母親の言っている事が理解できず、悠月は間の抜けた顔でルキに視線を送った。

 するとルキは母親に見えないようにウインクをしてきた。それを見て悠月はどうやらルキが母親に嘘をついているという事を理解した。どうや悠月と出会ったきっかけを自分が家出中に悠月が何かしら助けたという事にしたらしい。いったいどんな風に助けたかと言うと……。


「人さらいマフィアに拉致されそうになったルキちゃんを助け出したらしいじゃないの。ルキちゃんは家が裕福らしくて、家が嫌で逃げ出したルキちゃんを捕まえる為に、お父様がマフィアを雇って捕まえさせようとしたんですって。そんな子を助けるなんて、もう男になったのね」


 そんなとんでもない話に愕然とした悠月がルキの方を見ると、ルキは舌をぺロっと出して「テヘッ☆」とでも言いたそうな表情となった。その仕草を見て悠月が腹を立てたのは言うまでもない。

 こんなとんでも話を信じる母親に悠月はガックリとうな垂れるが、ヒートアップした母親は止まらない。


「事が落ち着くまで、この街に身を隠したいらしいの。だから、家に置いてあげる事にしたからね!」

「あたしはお礼だけを言いに来たんだけど、どうしてもって言うから……」

「安心してね、ルキちゃん! こんな可愛い子を危険に晒す訳にはいかないわっ!」

「いやいや、別に家に住まわせんでも……」

「なに言ってるのよっ! 自分を守ってくれた男の家にやってくる少女……。ああ、青春って良いわ! そういえばお父さんとの出会いも運命的だったのよ。私が高校生の時に……」


 悠月の母親はそう言いつつ、ウットリとした表情で窓の外を眺めて語り始めてしまった。自分の世界へとトリップしてしまった母親は、すでに外界からの音は聞こえていないのだろう。きっと漫画などであれば周りに薔薇などのエフェクトが入っているはず。


「……あんたのお母さん、どうしちゃったの?」

「あまり見ないでくれ……。うちのお袋は青春系に目がないんだ。子供の頃からこれでもかってくらいに過保護に育てられた箱入り娘だったみたいで、バイトはおろか恋愛すら出来なかったんだ。かなり厳しい教育方針だったようで、俺の親父とはお見合いで知り合ったんだ。だから……こんな夢見がちな人になっちまったのよ」

「ふうん。あんたの家も大変ねえ……」

「子供の頃に事故でお袋が強く頭を打ったみたいだが、それも関係あんのかな……」

「ルキちゃんっ!!」

「は、はいっ!?」


 悠月とコソコソ話していたルキは、自分の世界にトリップしていたはずの悠月の母親にいきなり話しかけられ、油断してたせいでビクッとしながら返事をする。


「本当にこの家を自分の家だと思っていいから! あなたの青春は消させはしないわ!」

「あ、ありがとうございます……」


 ルキの両肩を持って鼻息を荒げながら熱弁する悠月の母親は、ルキにとってみればかなり恐い状況なのだろう。案の定、ルキは少し引き気味に返事を返している。

 悠月自身も、こんなにヒートアップした母親を見るのは久しぶりであった。


「ふふふ、助けてもらった男と一つ屋根の下……。いずれ悠月とも……」

「だああああっ!! ルキ、あの後にお前がどうなったのか気になってたんだよっ! 俺の部屋で話を聞かせてくれ」

「う、うん」

「こよりも来いよ! 三人の方が楽しいからさ」

「あらっ? 二人っきりじゃないの?」

「お袋、もう黙ってろっ!」

「あらあら……恥かしがり屋さんねえ」


 まったく動じない母親に対し返答するのも疲れた悠月は、そのまま何も答えずに二人を連れてリビングを後にした。

 ようやく魔の手から逃れた悠月たちは、二階にある悠月の部屋へとやってくる。

 あまり飾り気がない部屋ではあるが、悠月は一応変な物を置いてないかを確認した上でルキを部屋へと招いた。ルキは床に置いてあるゲーム機をまたぎ、ベッドの上へと座る。こよりもその隣へと座って悠月が椅子に座ってからようやく一息ついた。


「ふう、まさか魔導人形以外の脅威が迫ってくるとはな。そんで俺の家に上がりこんだ挙句、ちゃっかりと一緒に住むように仕向けた目的は何なんだ?」

「大した理由じゃないわよ。デュナミスが狙ってるのは、どうやら悠月や妹ちゃんみたいだから同じ屋根の下に居た方が効率が良いと考えただけよ」

「……うちの母親がその話を断ったりしたら、どうするつもりだったんだ?」

「そうなったら、夜にでも忍び込んでバレないように潜伏するつもりだったわ。ま、結果として住める事になったから良かったけど」

「とんでもないなお前……。今まで住んでいた所は大丈夫なのか?」

「毎日カプセルホテルだったしね。問題ないわ」

「荷物とか金とかはどうしてたんだよ」

「お金は占い師として稼いでたわ。これでも当たるって有名だったのよ? 毎日数万程度稼げてたから問題なかったし。荷物は魔石で圧縮してコンパクトにできるの。魔導師なら常識よ」

「さいですか……」

「あ、あの……」


 ルキの豪快な生活話に悠月が若干呆れていると、今まで黙って座っていたこよりがおずおずと口を開いた。


「ルキさんって本当に魔導師なんですか?」

「ええ、そうよ。こよりちゃん……だったわよね? 悠月、事情を説明したの?」

「話したさ。敵に顔を覚えられてる可能性もあるし、話した方が良いだろうと思って」

「まあ、賢明な判断ね」


 そしてルキはこよりの方を向き直り、人差し指を上へと突き出す。すると、指先に光り輝く小さな光の球が発生する。おそらくアグニで出したオーラだろ。

 こよりはそれを見て「うわぁ~」と歓喜の声を上げ、満足したのか笑顔となった。


「ありがとうございました!」

「はい、どういたしまして。ごめんね、こんな事に巻き込んじゃって。あなたは絶対にあたしが守るから」

「それで……何か良い案は思いついたのか?」

「……やっぱりデュナミスを見つけないと話にならないわ。でも、ただ待っているだけというのも時間の無駄ね」

「それは俺も思ったよ。今の段階で状況を知っているのはデュナミスだ。ルキが元の世界に戻る方法を探す方法も含めて奴を探した方が手っ取り早い……だが、」

「見つけ出すのはなかなかに困難ね。ここまで索敵して見つからない事を考えるに、魔導人形を隠すのが相当上手いわね」

「どうしても後手後手に回っちまうって事か……」

「残念ながらそうなるわね。もう少し他の方法が無いか怪しい事が起こっていないかは明日以降に調べてみるつもり」

「デュナミスの狙いが俺って事だから一緒に居るのが下手したら手っ取り早いかもな」

「まあ……そうね。今のところは」

「なるほど、了解した。じゃあ今日はこの辺にして、また明日なにか考えようぜ」

「じゃあ、ルキさんはこよりの部屋で寝てよ! すぐに準備するから」

「ええ、いいけど……。まだ寝る時間じゃあないわよ」


 ルキの返事も聞かず、こよりは意気込みながら一目散に部屋から出て行ってしまった。

 それに見て呆気に取られていたルキだが、すぐにフッと笑ってベッドから立ち上がって扉の方へと歩いていく。


「……なあ、最後に一つだけ聞きたいんだけどよ。デュナミスは本当に俺が狙いなんだろうか?」

「……どうかしらね? デュナミスに聞いてみないと分からないわ。でも、なんで?」

「いや、なんかそんな気がしただけだ。悪いな、引き止めて」

「? わかったわ……」


 どうにも奥歯に物が挟まったような言い方が気になったのか、ルキは怪訝そうな表情をしながら部屋から出て行った。残された悠月は椅子から立ち上がり、ベッドへと仰向けに寝転んだ。


 いったいなぜ自分が魔導師になったのか? 伝説の『アンリミテッド』の担い手に選ばれた理由は? もしそれならばもしやこよりも……。


 そう考えながらゆっくり目を閉じると、押し寄せる波のごとく急に眠気が襲ってきた。

 悠月はその波に逆らわず、すぐに眠りへとついてしまった……。

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