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【第11話】 異世界の化け物・前編

「……そんな、全てデュナミスの策略だったって事? しかも『ブレイブ』上層部も手の内だったなんて」

「まんまとしてやられたって事だ。お前の改造も村壊滅も、それに俺やこよりの能力覚醒もな」

「あ、あたしはずっと敵の為に戦っていたってこと……?」

「……そうなるな」

「………」


 ルキは愕然とした様子で崩れ落ち、そして自らの頭を抱えて蹲ってしまった

 敵に利用されてみすみす見殺しにした人達、それに気付かなかった愚かな自分、すでに内部から歪んでいる『ブレイブ』、始まる終わりの時を見ているしかいない現状……その全てが頭を巡ってルキはパニックになっているのかもしれない。それは悠月も同じで、状況の整理と対策に頭が落ち着かない現状である。


「ごめん、なさい……あたしはなんて事を……」

「……言っても仕方ない。とにかく一旦家に戻るぞ。明日、また今後の対策を練る」

「……一緒にはいけない。これ以上一緒に居ても迷惑が……」


 まるで今までの態度が嘘のように震えた声で弱々しく言うルキを見て悠月は舌打ちをし、座り込んでいる所へと歩いていき腕を引いて無理矢理ルキを立たせる。


「お前は敵の手の平で踊らされていたのは事実だ。だが、それはお前だけじゃない。アステラス世界の住人全てが術中にハマってるんだよ。でもこの事実に気付いているのは俺たちだけなのかもしれない。なら俺たちがどうにかしないといけないんだ」

「無理だよ……あたしが動けばまた、」

「ルキは頑張った」

「……ッ…!?」

「世間からの風当たりも強くお前を化け物扱いする。そんな奴らの為に戦う必要なんか本当は無いんだ、でもお前は歯を食いしばり戦い続けたんだろう?」


 悠月はそう言いつつゆっくりと掴んでいたルキの腕を下ろす。問いかけられて呆然とした顔のルキの瞳からは涙が自然とこぼれ始めた。そんなルキの頭に悠月は優しく手を置く。


「もう十分だ。お前は十分戦った」

「でも……あたしは、許されない罪を……」

「世間が何を言ってもほっとけ。俺がお前の罪を赦す。ルキはもう報われても良い」

「いい、の? あたしを赦し、てくれるの……?」

「そうだ、もう休んでいい。お前はもう十分戦った。あとは俺に任せとけ」


 たったそれだけの言葉で限界を迎えたルキの涙腺は崩壊し、わんわんと泣き出してしまった。そんなルキを悠月は優しく抱きしめ、泣き続けるルキの背中をさすり続けた。


          *


「……皆も守る為に戦ってきた、でも世間からどんどん見放されていくのが恐かった。戦う為に生まれ、守るべく人々に気味悪がられてまで戦うあたしの存在は何なのだろうって」

「………」


 ここは住宅街。泣き止んだルキを連れて悠月は我が家に向けて歩いていた。辺りはすっかり夜であり、仕事から帰宅する人々の姿もちらほら見える。


「捨て子だったあたしは物心ついた頃から親の顔を知らないし、すぐに『ブレイブ』の魔導師養成施設に送られたから友達も大して居なかった。数少ない友達もあたしが改造されてから会えてない。風の噂では偏狭の街で魔導師をやっているって話だけど」

「………」

「魔力適正が元々低かったあたしは魔力結晶移植の実験体に選ばれ、見事に適正した。でも、それも沢山の実験体となった子供たちの命の上に立っている。その子たちの実験結果があったからこそ魔力結晶の移植に成功したって聞いて、あたしは罪悪感と重くのしかかる期待感に潰されそうになった。それでも戦うしかなかった。あたしが生きている意味はそれしかなかったから。例え造られたとしても戦って力無き市民を守らないといけない」

「……大した奴だよ、お前は」

「でもすでに絶対数で負けていたあたし達はどんどん『魔元団』に押されていった。どんなに質が良くても戦争で数には勝てないと知ったわ。悪化していく状況と国民からの嫌悪感に心をすり減らしながら戦っていた。でもあの村を壊滅させてしまってからあたしの心は折れてしまった。それが『ブレイブ』上層部とデュナミスの策略だったとしても、あたしにもっと力があれば守る事はできた。でも出来なかった。それが悔しかった……」

「お前ひとりじゃ力があってもどうしようもなかったと思うぞ。そういう問題じゃないんだよ」

「そうだね……あたし、ぼっちだもんね」

「なんてネガティブ思考……まあ、今はしょうがいないか」


 まだ落ち込んでいる状況から立ち直れていないルキに苦笑しつつ、悠月は辿りついた自宅の玄関の扉を開けてルキを中へと入れる。


「とにかくお前は風呂に入ってもう寝ろ。泣いた後はすっきり眠れるぞ」

「わ、忘れてよそれは。こっちだって恥ずかしいんだから」

「そう恥ずかしがるな。感情を内に溜め込まずに吐き出すのは良い事だ」

「うん……」


 照れくさそうにしつつルキはさっさと玄関を上がって風呂場へと行ってしまった。実は悠月も自分には似合わないキザな台詞を言った事を少々恥ずかしがっていた。しかし頭を切り替え、悠月はこよりの部屋へと向かった。

 階段を上ったすぐにある『こよりの部屋』というプレートが掛かっている部屋の扉をノックし、返事が返ってきてから部屋へと入る。中に入るとパジャマ姿がこよりがベッドから起き上がり、寝ていたのか目を擦りながらこちらを向いた。


「……すまんな、もう大丈夫か?」

「うん。ルキさんに怪我も治してもらったし、もう少し休めば大丈夫だと思う」

「そうか、なら良かったよ。それで身体の方はどうだ?」

「なんか変な感じ。なんか身体の奥底で今まで感じた事のない力が渦巻いているような、なんかそんな感じがする」

「……ルキから話は聞いたのか?」

「うん。別世界の事や魔導師のこと。それに私が『アンリミテッド』っていう力に目覚めちゃったのも。えへへ、魔法使いになっちゃった」

「ったく、楽観的だな。それに魔法使いじゃなくて魔導師な」


 緊張感なく笑うこよりに悠月は一安心し、そのままこよりのベッドに腰掛ける。

 そこでふと悠月はある事を思った。こよりはおそらく転移系の魔法を使えるようになったはずであり、ルキは気をオーラに変換して放つ魔法。なぜ自分だけ剣なのだろう? 確かに魔法で剣を変異させているがどちらかというと剣士寄りの能力だ。同じ『アンリミテッド』の能力なのにかけ離れている。いったいこれには何の意味が隠されているんだろう?

 そう思いつつ悠月はポケットからインペリアルナイフを取り出した。様々な剣へと姿を変える、鉄のような銅のような不思議な材質のナイフ。ルキに聞いた話だと『アンリミテッド』の担い手専用の伝説の武器として保管されていた物とのこと。結局は悠月にしか扱えなかったが、ただの武器ではなく何かが隠されているような、そんな雰囲気を感じる。


「それって、お兄ちゃんの武器?」

「えっ……? あ、ああ、そうだ。『アンリミテッド』専用の武器だってよ」

「良いなーちょっと見せてよ」

「良いなってお前……ちょっとだけだぞ?」


 そう言って目を輝かせるこよりにナイフを渡した。こよりがナイフを上下左右に動かして色んな角度からナイフを見ている様子は、なんか絵面的によろしくないものを悠月は感じた。

 もう返してもらおうと悠月が手を伸ばしかけたその瞬間。


「えっ!?」


 突如としてこよりの手の平のナイフが青色の輝きを帯び始めた。咄嗟に悠月が奪い取り、こよりと距離を取った。だがそれと同時にナイフから青い輝きは失われた。ナイフを恐る恐る見るが、それ以上に変化は起きない。


「な、何なんだいったい!? こより、大丈夫か?」

「う、うん。なんかちょびっとだけ力が抜けたような感覚があるけど大丈夫」

「まさか……こよりの魔力をこのナイフが奪ったのか?」


 そう思ってまじまじとナイフを見ていた悠月の頭の中に何かが流れ込んできた。それは魔力なのか言葉なのかよく分からないモノであり、一瞬の出来事ではあるが悠月の頭にはっきりと何かの情報が入り込んできたのだ。


「こよりの魔力に触れ、ナイフが新たな力に目覚めただと……?」

「えっ? 新たな力?」

「すまん、こより。ちょっと外に出てくる。すぐ帰ってくるからよ」


 弾かれたようにこよりの部屋を出た悠月はそのまま靴を履いて住宅街へと飛び出して行った。

 そのまま夜道を走り続け、昼間に来た駅前の商店街へとやってくる。そして本屋付近の裏路地へと入っていき、目的の物を見つけ出してそこへと向かう。


「……やっぱりここにも次元の切れ目があったか」


 視線を向ける先にあるゴミ箱の裏に、今まで比べて小さい次元の切れ目を発見する。

 そしてポケットよりインペリアルナイフを取り出し、悠月は意識をナイフに集中させる。するとナイフが青く光りその姿を変化させていき、元より少し大きいダガーと呼ばれる短剣へと変わった。そのダガーを次元の切れ目に向かって振り下ろすと次元の切れ目が少し大きくなり、そしてしばらくしない内に元の大きさへと戻っていった。


「やはり……この形態のインペリアルナイフは、次元を切り裂く為の武器だ」


 驚愕する悠月はダガーを元のナイフへと戻してポケットに入れる。

 こよりの部屋で悠月はナイフの新しい変化による情報が瞬時に脳内に入り込んできた。なぜそんな事が今になって起こったのかは分からない。しかしナイフが教えてくれたと直感的に理解した悠月が力を試す為に飛び出してきたが、その考えは正しかったようである。だが流れてきた情報はそれだけではない。他にある新たな変化先への情報も入ってきた。その覚醒方法も。

 この確認で確信を得た悠月は、不利な現状を打破する為の手段を思いつく。だがそれはあまりに無謀であり、自分が無事である保障は無い策だ。


「……だがやるしかねえ。落とし前はきっちり取らせてもらう」


          *


 夜中の深夜1時過ぎ。自宅へと戻ってきた悠月はゆっくりと扉を開けて部屋へと入る。

 見ると床に敷いてある布団でルキがぐっすりと眠っていた。風呂に入って疲れが出たのか悠月が入ってきても全く起きる気配が無い。

 起こさないように忍び足で寝ているルキの近くへと歩いていった悠月は、ポケットからインペリアルナイフを取り出した。ルキ起きてしまう前に事を終わらせる必要があり、さすがに緊張しつつも悠月は恐る恐る枕元へと近づいていく。

 そしてナイフを逆手に持ち直し、柄の方を布団から出てるルキの手の平に慎重に乗せる。するとナイフが黄色く輝きだしたので、悠月は意識を集中させてその輝きを最小限に抑える。こよりの時と同じで悠月の頭の中に『それ』に関する知識が流れ込んでくる。身構えていたおかげか今回は前回ほど立ち眩みも起こらなかった。

 なんとか事なきを得た悠月はナイフをポケットにしまって枕元から離れ、今度はルキの荷物が置いてある机にルキ宛の手紙を置いた。そして再び忍び足で扉へと向かい、ドアに手を掛けてルキの方を振り返る。ルキはまだ起きずに相も変わらずぐっすりと眠っていた。


「……じゃあな、こよりを頼んだぜ」


 悠月の予想通り、インペリアルナイフは新たな能力に目覚めていた。今まで発動しなかったのは、こよりに触れて覚醒状態のナイフをルキが触れるという条件があったからだ。そこをクリアした事により悠月の求める能力を手に入れる事が出来た。

 そして5時間後、睡眠を取った悠月は私服に着替えて必要な食べ物などを詰めたリュックを背負って玄関へと向かった。

 だが玄関にはいつもはこの時間帯に起きているはずの無いこよりが起きており、少々バツが悪い顔をしながらも悠月は玄関に座って靴を履く。


「……行っちゃうの、お兄ちゃん?」

「ああ……」

「もしかして、すごい遠い所に行っちゃうの?」

「……知ってたのか。そうだよ」

「帰ってこれないかもしれないんだよ?」

「それでも行かなくちゃな。この世界だって危ないんだ」

「お兄ちゃんが居なくなったら、こよりは……」

「俺は帰ってくる。全てを終わらせてな。それまでルキと大人しく待ってるんだぞ」

「嫌だよ、行かないで……」

「いってきます」


 こよりの静止の声を聞かず、悠月は玄関の扉を開けて出て行ってしまった。

 そして駅前の商店街へと歩いていき、そして本屋の裏路地にある時限の切れ目の前へと辿りついた。そしてポケットからインペリアルナイフを取り出し、ダガーに変形させて勢いよく次元の切れ目を切り裂いた。すると次元の切れ目は瞬く間に切れ目が拡張され、やがて人が一人通れるくらいの次元の穴となった。

 そしてさらに悠月はナイフをダガーからわずかに曲がった細身の片刃刀・シャムシールへと変化させた。これこそがルキの魔力を吸収して誕生した新たなインペリアルナイフの形態である。ちなみに悠月は長剣タイプをクレイモア、双剣タイプをツインカッツバルガーと呼んでいる。


「……シャムシールの能力は持ち主をオーラ化させて一時的に魔力の粒子へと変換する能力。この力を使えばこの次元を超える事が出来るはずだ」


 シャムシールを構えた悠月は空を眺め、そして意を決してシャムシールへと魔力を注ぎ込む。


「いくぜええええええっ!!!」


 突如としてシャムシールが金色の輝きを見せたと思ったら、剣もろとも悠月の身体は黄色い粒子へと散っていきその粒子は吸い込まれるように次元の穴へと入っていった。


          *


「くっ……なんでこんな数の魔導人形がウチの街を……ひっ!?」

「ギシャアアアアアアアアッ!!」


 燃え盛る家屋の屋根からこうもり型の魔導人形が現れ、驚愕する農民の男に襲い掛かってきた。逃げようとするが足が絡まって農民の男は倒れてしまい、それをあざ笑うかのように奇妙な鳴き声を上げて魔導人形が口を開いて飛び掛ろうとしたその瞬間。


「ラ・フードゥルっ!!」


 その掛け声と共に上空から放たれた落雷が魔導人形に直撃。凄まじい雷鳴と共に丸焦げとなった魔導人形はそのまま地面へと落下し完全に沈黙する。それと同時に皮で出来た鎧と緑のマントを身に纏った青年がどこからともなく農民の男の側へと降りてくる。


「大丈夫ですかっ!? さあ、早くあちらから村の外に逃げてください」

「あ、ありがとうございます。魔導師さま!」


 そうお礼を言って逃げる農民の男と入れ違いでその青年と同じ格好をした少女がこちらへと走ってきた。


「無事だったか、ミーナ!」

「マイク……あなたもね。すでにストリーガスの町・北東の入り口までもが敵に奪われてしまった。これで二つの出入り口が制圧され、残る所は南の出口のみ」

「厳しい状況になってきたね……。『ブレイブ』の残存人数は?」

「私とマイクを入れて九人足らず……。冒険者も合わせるともう少し居るけど、実力者はもうやられてしまった」

「……すでに長期戦により魔力も底を尽きかけている。残っている住民を逃がし次第、即時撤退を……」

「! マイク!?」


 マイクと呼ばれる青年がその声に振り返ると、そこには狼型の魔導人形二体が飛び掛ってきていた。応戦しようと杖を取り出そうとするが、そこでマイクは杖を取りこぼしてしまう。奇襲に対して命取りとなるミスを犯してしまったマイクは瞬時に自分が食い殺される未来を予想した。だがしかし。


「おりゃあああああああああっ!!」


 だがそこに突如として謎の人物が乱入し、横合いから手に持つ長剣を振りかざした。急な乱入に対処できなかった魔導人形一体は真っ二つに身体を切り裂かれ、地面へと落ちていく。だがもう1体の方がマイクへの攻撃を止めて着地からさらに跳躍してその乱入者へと飛び掛かる。

 だがすでにもう1体へと向かってきていた乱入者は先ほどとは違いなぜか二本の剣を握っており、それを高速で振りかぶって首と胴体を切り上げた。離れ離れになった魔導人形だった物体は宙を舞い地面へと落ちていった。

 瞬く間に魔導人形二体を葬ったマイクでも見た事がない服装を着た乱入者が着地して一息つくと同時に二本の剣は光り輝き、一本のナイフへと変わっていった。それを見てマイクは驚愕する。


「まさか、それはインペリアルナイフ!?」

「お、これの事知ってるのか」

「と、当然だ。それは我ら魔導師の秘宝だ。でもそれはルキが持っていったはず……!」

「ルキも知ってるのか。これは手っ取り早いな。一週間掛けてようやく手掛かりを見つけたってところか」

「……ありがとう、あなたのおかげで助かった。それであなたは何者? 魔導師?」

「俺か? 俺は……」


 驚くマイクに変わり例を言うミーナに対し、乱入者である青年はナイフを長剣へと変化させて魔導人形が暴れる場所へと向いて顔だけをミーナ達へと向けて邪悪な笑みを浮かべる。ルキを拒絶したこのアステラス世界に自分が復讐しにやってきたと伝えるために。


「異世界から来た化け物さ」


創世暦三一〇五年、ストリーガスの町に異世界転移した自称化け物・悠月が姿を現す。

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