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【第09話】 真実の向こう側へ・前編

「……麻美。ちょっと外を見てきていいか?」

「もう、さっきからそればっかり!」


 麻美は手に持っている本を棚へと戻しつつ深い溜息をつく。鈍感な悠月でも麻美が相当苛立っているのは分かり、少々ばつが悪い表情となる。

 学校を跡にした悠月たちが現在居るのは、駅前から少々離れた商店街にある本屋。麻美の希望でやってきた訳だが、当の本人である麻美はかなりご立腹であった。その原因は悠月にあった。

 本屋に来たのは良いのだが、来てからというものの麻美そっちのけで悠月は本屋の周辺や内部を気にしてばっかりだった。麻美が何を話しかけても適当な相づちばかりで同行者としていかがな態度が続いた。

 悠月は麻美には内緒で時空のひずみに関する情報が無いものか探していた。実際、この本屋周辺に近づいてから微かに妙な気配を感じてから居ても立ってもいられなかった。だがそんな事情を全く知らない麻美の機嫌は急速に悪くなっていく。

 そんな麻美の心境を知らないデリカシー皆無な悠月は、買うか買わないか悩んでいる麻美に焦れて急かすように話しかける。


「……なあ、それ買うのか? じゃあ俺先に外に出て……」

「今から買ってくるから外出ずに待っててよ。なんなのさっきから!」

「お、大きな声出すなよ。分かった、待ってるから」


 いったいなぜ麻美がここまで激怒しているのか悠月にはすぐ分からなかったが、麻美がぼそっと漏らした「せっかく一緒に来たのに……」という一言でようやく自分がやった過ちに気がつく。

 正直買い物などどうでも良かったと考えていた自分の辛辣な態度に麻美は怒っていたのだと悠月は気付くが時すでに遅し、怒った麻美は会計を済ませてすぐに悠月を置いて店を出て行ってしまった。慌てて悠月もその後を追う。


「お、おい麻美待てって……」

「……ありえない。最近の悠月くん変だよ、全然周りの事見えてない」

「いや、さっきの態度は悪かったって。他に気になる事があってつい……」

「気になること? それってなに?」

「それは……言えない」

「ほら、やっぱり。悠月くんはなにか隠してる。あの悠月くんの親戚の子が来てからずっとおかしい。どうして私たちには何も話してくれないの? 何を抱えているの? ……私じゃあ何の力にもなれないの?」

「………」

「ごめんね、たかが買い物に付き合わせちゃって。今日一日で分かった。悠月くんは私たちと一緒に居るのを鬱陶しく思ってる」

「ちがっ……!」

「違わないよ。私が関わろうとするのを極端に避けてるもん」

「それは……」

「どんな理由かは分からない。それを悠月くんが話してくれないから。……話せない理由があるのかもしれない、それを頭で分かってても心では理解できない。私は、勝手な女だから。悠月くんの事が知りたいし頼ってほしい」


 麻美はそれからすぐに顔を歪ませつつ、涙をポロポロと流し始めた。一生懸命に袖で拭き取っても溢れてくる涙は麻美の意思を無視して流れ続ける。まるで感情が決壊して目から溢れ出てしまっているかのように止まる事はない


「麻美……」

「……そんな事を思ってしまう自分も嫌い。私に何も話してくれない悠月くんが嫌い。悠月くんの事を嫌いになりきれない自分が一番嫌い」


 それだけを言って麻美は悠月に背を向けて走っていってしまった。だが悠月にその麻美を追いかける資格は自分にはないと思ってしまう不甲斐なさに打ち震えていた。

 ……いったい自分は何をやっているのだろうか?と悠月は必死に足りない頭で考えるも、一向にその答えは出てこない。

 麻美とは付き合っていない。正しくは『まだ』付き合っていない。

 自分に好意を寄せてくれている事はもう知っている。それに気付きながらも今の友達としての生温い関係を崩したくなかった一心で必死に気付いていない演技を続けていた。自分に麻美のような良い子はふさわしくないと自分に枷を与え、だが麻美からの好意を利用したぬるい関係に満足していた最低の自分。はっきりと答えを出さずに希望を与え続けた自分の残酷さとそう思う傲慢さに吐き気を覚える。

 選ぶ立場になった時の自分の醜悪さときたら、とてもじゃないが自分自身で直視する事は出来ない醜さだと。そうやって気付かない振りをして現実から目を背けて適当な態度をしていた、そして麻美を泣かせてしまった。

 友達を巻き込まない為に黙っていた事は逆効果となり、今までのぬるい関係を壊すトドメとなった。甲斐性も度胸も無い悠月にはもはやこの状況はどうしようも無かった。


 だが追わなければ。しかし会ってどうする? 謝るのだ? なにを? 酷い事をした事への謝罪を? 今日の事を? 彼女の恋心を弄んだ事を? だがこんな自分には麻美は勿体無い、ならいっそこのまま……。


「……こんなところでぼうっと突っ立って何してるの?」


 思考の波に飲まれていた悠月はふいに声を掛けられて現実に戻ってくる。声を掛けられた方を振り向くとそこには不思議そうな顔をしたルキが立っていた。

 

「あんた、なんて顔してるのよ……。なにか嫌な事でもあったわけ?」

「嫌な事、か……。どっちかというと嫌な事しちまった方だがな」

「なにそれ? 仕方ないわね、聞いてあげるから話してみなさいな。特別サービスだからね」

「……珍しいな、お前がそんなに」

「うっさいわね。この前のお礼よ。ケースバイケースってやつ。いいから話なさいって」


 ルキのそんな柔らかい笑顔を見た悠月は最初は言うつもりも無かったが、自然と今日起こった事を順番に話していった。麻美と本屋へと行ったこと。怪しい噂の解明ばかりに気を取られ、麻美をおざなりにして怒られたこと。麻美の恋心に気付きながらも自らの自意識過剰と自虐心が長いこと麻美を苦しめていたこと。

 話が進むにつれてルキはどんどん険しい表情となっていき、最後まで聞き終わった後にはどうしようもない物を見る目で大きく溜息をする。


「……女の子に対するデリカシーが無いとは思ったけど、ここまで馬鹿だったなんて思わなかったわ。あまつさえ追いかけないなんて男として恥ずかしく無いわけ?」

「それは、急だったから……」

「言い訳は見苦しいわよ。あんた、自分がモテたからって天狗になってんじゃないの?」

「ぐっ……」

「この事件に巻き込みたくない気持ちは分かるわ。でも仮にも自分を好いている女の子に対してもうちょっと気遣いとかないわけ?」

「……付き合っても無いのに気遣うのか?」

「あー言えばこー言うあんたの性格良くないわよ。あんたは自分が傷つくのも相手も傷つくのも見たくない臆病者なわけ?」

「臆病者……だと?」

「ええ、その麻美さんと付き合えなくなったとしても答えを出す事によって進む未来はある。その未来さえも奪って自分本位に接しているツケが回ってきたって事よ。あたしから言わせれば麻美さんもあんたも馬鹿ね。好かれてる事を素直に受け止めきれないあんたのメンタルの弱さにも辟易だわ」

「だが……」

「また言い訳? 言っておくけどね、世界はもっと冷たいものなのよ。善意に対してちゃんと向き合わないと後悔するわよ。あたしのようにね」

「お前は……」


 そこまで言った悠月は魔導人形を感じ取り、その気配を感じる方を向く。ルキも同じようで悠月と同じ方向を向いた。だがその気配は今までと比べて少し妙だった。明らかに強い気配と共に他にも微弱な気配を様々な所から感じる。本屋で感じた気配と似ているような微弱な気配が一斉に街中からする。


「……話は一旦終了ね。魔導人形が現れたみたいだけど、これはいったいどういう事かしら?」

「……街中に魔導人形が現れたって訳じゃねーよな?」

「それにしては反応が小さすぎる。あの大きな反応が邪魔をして分かりにくいわね。でもこの感覚どこかで……」

「とにかくあのでかい反応は間違いなく魔導人形だ。被害が出る前に片付けるぞ」

「そうね、行きましょう」


 駅方面へと走るルキの後を追って悠月も走り出す。

 高架線を抜けて駅前へとやってきた二人はそこに広がる光景に絶句した。バスターミナル付近に居る人々は皆倒れており、駅前だというのに辺りは静寂に包まれていた。慌てて悠月は近くに倒れているサラリーマンを抱き起こす。苦悶の表情を浮かべて気絶している。


「おい、どういうことだ!?」

「……おそらく、ここに倒れている人たちは生命エネルギーを吸われたのね。でもこんなに沢山の人が一度に襲われるなんて思わなかったけど」

「生命エネルギーだと?」

「ええ、人間の生命エネルギーを吸収し魔力に変換する。あたしの世界で『魔元団』の魔導師たちが自らの魔力を補給する為の常套手段よ。とは言っても元々この世界の人間は魔力に適正が無いから大した量は取れないだろうけど。だからここら辺の人たちも命には別状ないと思うわ」

「これも、デュナミスの仕業なのか?」

「おそらくね。あたしも最近の調査で分かった事だけどデュナミスはどうやら定期的にこうやって魔力を集めているみたいね。その魔力を何に使うのかは分からないけど」

「こんな事を毎回やってるのか? でもそんなニュース見た事ないぞ」

「それはこれから分かるわよ」


 ルキがそう言うと突如として悠月が抱きかかえていたサラリーマンが覚醒した。そしてすぐに立ち上がり、そのまま何事も無かったかのように歩き出す。それを皮切りに周りの人々も起き上がり、それぞれが何事も無かったかのように普段の生活に戻っていく。


「こいつはいったい……?」

「生命エネルギーを抜かれた人間は抜かれた時の記憶を失い、奪われる直前にリセットされる。本人たちは奪われる直前から一秒も経過していない感覚のはずよ。この世界で奪われる量はたかが知れてるから、おそらく何か疲れを感じる程度だと思うわ」

「ほ、本当に何もなかったかのように生活が戻っている……」

「調査通り、いくらデュナミスといえど奪える生命エネルギーの分量には限界があるみたいね。内部のエネルギー構造が根本的に違う地球人からはあまり奪えないのがその証。これがアステラス人ならからっからのミイラになるまで生命エネルギーを抜かれるわ」

「恐いな……だが実行犯の魔導人形はどこに?」

「! 見なさい、あそこに居るわ!」


 ルキが指差す方を見ると、デパートの屋上に爬虫類型の魔導人形の姿が見えた。いったい何をしているのかこちらには見向きもせず明後日の方向を向いている。

 その状態に悠月は疑問を感じている中、ルキはハッと何かに気付いて苦い顔をした。


「やられたわっ……! これは陽動で、本命は別にあるんだわ。この微弱な反応はかく乱の為の魔法ね」

「どういうことだ?」

「このかく乱の魔法は自分自身の居場所を誤魔化す為の魔法なの。この効果範囲内だと魔導師は索敵はおろか転移も難しくなるわけ」

「!? おい、まさかっ……!」

「敵の目的はこよりちゃんね。転移の魔石も使えない状況にされたわ。敵は……あたし達の手を読んでいるわよ!」


 ルキのその声に反応するようにデパート屋上の魔導人形が飛び降りた。だがそのまま空中で回転しつつ地面に着地する。

 いきなり駅前に現れた得体のしれない化け物に人々は困惑し悲鳴をあげる。


「やっぱり邪魔しに来たわね。こっちはあたしに任せてあんたはこよりちゃんの方に向かいなさい! 最後に気配を感じたのは土手付近にある建設中のマンションの近くよ」

「くそっ……ここは任せた!」


 騒ぎになり始めた駅前に背を向け、悠月はルキから教えて貰った場所へと走り出した。

 悠月は敵は自分の弱点であるこよりを狙い、悠月を陥れようと考えていると思っていた。だが実際は、敵の狙いは悠月ではなく、こより本人であった。

 なぜ敵がこよりを狙うのか? なぜ今になって狙い始めたのか?


 考えが甘かった。おそらく俺の予想が当たっているなら、こよりにも……。


 思い当たる中で最悪の予想が当たりそうな予感に悠月は歯噛みする。

 およそ5分ほど走り悠月は土手付近へと辿りついた。インペリアルナイフを握っていると魔力が高まる関係か悠月は全力に近い速さで走ったが息切れをしていない。無意識にやっていた事だが急いでいる悠月にはありがたい効果である。

 そしてついに件の建設途中のマンションへと辿りついた。周りを見渡すと工事作業員専用の扉が開け放たれている。悠月は迷わずそこから中へ侵入する。

 中は建設途中を思わせる資材や作業道具で溢れており、辺りには作業員はおろか人っ子ひとり居ない。逸る気持ちを落ち着かせ悠月が神経を研ぎ澄ますと、マンションの建物の奥から人が居る気配を感じ取った。


「!? こよりっ!!」

「お……兄ちゃん……」


 中へと飛び込んだ悠月の目の前には倒れるこよりが目に映った。こよりは息絶え絶えといった感じで苦しそうに首を悠月の方へと向けた。しかしそれだけではなかった。倒れているこよりの前方にゴーレム型の魔導人形が居り、その手には制服姿の少女が握られていた。

 ぐったりとするその少女を見て悠月は目を見開き驚愕した。


「あ、麻美っ!?」

「麻美お姉……ちゃんが、こよりを守ろう……として……」


 敵の手に捕まっている麻美は手足をだらんとしており、まるで人形かのように動かなかった。麻美の額から流れている血を見た途端に悠月の中で何かが音を立てて切れた。


「貴様あああああああああああああああああああっ!!!!」


 持っているナイフを長剣へと変形させ、悠月は雄叫びを上げながらゴーレム型へと突進していく。

 迫りくる敵に向けてゴーレム型は、悠月を薙ぎ払うかのように腕を振るってくる。だが悠月は臆する事なく跳躍し、迫りくる腕目がけて上段から長剣を振るってゴーレム型の腕を瞬く間に叩き割った。

 割られた事に同様したのか一瞬隙が生まれたのを見逃さず、悠月は着地と同時に麻美を掴んでいる方の腕に長剣を振るって同じくその腕を手首から粉砕する。壊れた手から滑り落ちる麻美を空中でキャッチして倒れているこよりの付近に着地して麻美を地面へと寝かす。麻美は額が割れていてそこから血が出ている以外に外傷は無いが、顔面蒼白で気絶している。

 そんな中腕を失ったゴーレム型がしゃがんでいる悠月を踏み潰そうと足を上げてくる。


「邪魔だクソがああああああああッ!!」


 だが悠月が瞬時に立ち上がり力を込めると突如として長剣が光り輝き出し、元の大きさより一回り以上でかい大剣へと変化した。その大剣を遠心力に任せて悠月が振るい、目の前に迫ってきたゴーレム型をあっという間に真っ二つに叩き割った。ゴーレム型の身体はそのまま崩れるように消えていった。

 敵が消える様を見る事もなく剣をナイフに戻した悠月は、倒れる麻美の側にしゃがみ込んだ。麻美は今も苦悶の表情で気絶している。先ほどまで起きていたこよりも今は気絶してしまっているようで全く動き気配がない。


「くそっ……とにかく二人を病院に連れて行かないと。救急車を……って圏外だあ!?」

「無駄だよ。ここら辺は魔力結界で電波障害を起こしているだろうからね」

「!? 貴様……デュナミスかっ!?」


 突如として響いた合成音のような声にナイフを構えながら悠月が振り返ると、そこにはデュナミスと思わしきローブ姿の人物が立っていた。まるで実体が無いかのような不安定な存在に思えるその人物は、まるで笑っているかのように手で口を押さえるような動作をする。


「なかなか能力を使いこなし始めてきたようだな。まあ、戦い方はまるで獣のようだったがな」

「今すぐにでもそのふざけた面をズタズタに引き裂いてやりたいが、二人を病院に連れて行くのが先だ。邪魔すんならぶち殺す!!」

「血の気が多い獣だ。まあ、この様子なら当たり前か。心配せずとも邪魔などせんさ。すでに目的は果たした」

「目的だと……?」

「そうだ。それに病院に連れて行く必要はない。すでに駅前の魔導人形を始末したルキ・ハーディストがこちらに向かっている。病院よりも奴の回復魔法の方が手っ取り早いだろうな」

「……テメーの言う事を信じろと?」

「それは貴様次第よ。私は目的以外の事に興味が無い。その二人が死なずに居たのがその証拠。ただの人間なぞ数秒もあれば殺せるのだからな。とはいえ邪魔をしてきた小娘には痛い目を見てもらったがな」


 悠月はデュナミスの事を当たり前だが信じていない。ここで奴を倒して二人を病院に連れて行くのが明らかに最善だ。だが人二人を守りながら得体の知れない敵と戦うのは危険だ。むしろ守る対象があるぶん悠月の方が不利である。一か八か賭けに出るにはまだデュナミスの事を知らなすぎて危険だ。


「……手を出さないのは賢明だな、水瀬悠月。この魔導人形は特別性でね。動けないほどの損傷を負った場合は自身のボディと共に半径約百メートルの空間を食い潰す。果たしてお前にその二人を守れるかな?」

「……ハッタリだな」

「なら試してみるか?」

「…ぐっ……」

「良い表情だ。目的も果たしたし私は失礼させてもらおう。ルキ・ハーディストがやってくると厄介だ」

「待てっ! 貴様の目的は何なんだ!? こよりに何をしたっ!」

「フフフッ……目的か。我が目的は主であるベルゼビュート様の持つ『ダークマター』の解放、そしてこの地球の侵略だ」

「やはりそれが目的か……」

「光はもちろんの事、熱や魔力さえも飲み込む暗黒物質『ダークマター』の解放は世界を制する事と同義。すでに解放の第一段階は終了し、次元に切れ目が入った。世界と世界を分かつ忌まわしい次元は崩壊しつつある」

「次元が崩壊すればどうなるのか分からないんだぞっ!」

「確かにこのままでは両方の世界は消えてなくなってしまうだろう。だが常識を凌駕する魔石『ダークマター』の力を使えば次元すらも意のままに操る事ができる。その『ダークマター』の解放に貴様の妹の力が必要だったのさ」

「なッ……!? やはりこよりにも力がっ!?」

「貴様と同じ『アンリミテッド』の担い手さ。その力の大半は先ほど頂戴したがな」

「頂戴しただと……? 何をしやがったっ!?」

「水瀬こよりの能力は貴様同様に今日目覚めた。だからその魔力を奪ったのさ、我が目的の為にな。全ては愚かな『ブレイブ』の人間とルキ・ハーディストのおかげだ、貴様もその妹も能力に目覚めたのは。これで予想よりも早く計画を次の段階へと進められる」

「ルキのおかげ……だと?」

「馬鹿な人間共よ。自らの首を絞めるとはなんとも愚かなリ」


 それだけを言うとまるで霧が消えていくかのようにデュナミスの身体は透けていき、数秒もしない内に完全に姿を消した。気配を辿るも周辺に先ほどまで感じていたデュナミスの魔導人形の気配はない。前回と同じ方法で姿を眩ましてしまった。

 それと同時に何者かがこちらに走ってくる音が響く。


「悠月、無事なの!?」

「ルキ……」

「!? この二人はどうしたのっ!?」

「魔導人形に襲われたんだ。頼む、二人の怪我を治してくれ」

「わかったわ。事情は後で聞くわ」


 デュナミスの言った通りルキはやってきた。おそらく魔導人形を倒してきたのだろう。つまりデュナミスは嘘をついていなかった。だから後に言っていた事もおそらくは……。

 混乱する悠月はルキが二人を回復している様子をいただただ見ているしかなかった。

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