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エスペラント  作者: O氏
第1章
4/6

エスペラント

危うく、この恐ろしいマシーンに飲み込まれる所だった。否、もう意識の半分以上は飲み込まれていただろう。


ブルーノは機体の周りに取り付けたままの鉄筋を駆け上がる。

完成しているのか否か…まだ直径30センチほどのコードが全身に繋がれている。

でも、動かせれば何だって良い。動かせれば。



コックピット部分は恐らく、ストライザの胸部分、ブルーノはその正面に立った。

改めて近くで見ると本当に恐ろしい。凛々しい顔に傷ひとつない白銀の装甲…。



ゲームで見るストライザより現代的でこの何トンもの重さがある金属の塊を自分の手で動かすことになる。

心臓が高鳴った、怖かった、同時に僅かながら期待も生まれた。



コックピットはICリングを近づけると反応してゆっくりと開いた。



そこには、ゲーム同様に一席のシートと、ハンドルがある。他には大小様々なスイッチが至る所についていた。

入る前はもっとわけのわからないボタンやダイヤルが取り付けられ初見では分からない物かと想像していたが、思いのほかシンプル。



「これなら…俺にだって…」



ブルーノは機体に飛び乗ると、再び自動でハッチは閉じた。



両手を例のように2つの球体の上に乗せる。どうやら、このシステムも人の脳波を読み取って起動する物だろう。



「やるしかない…やってやる…。」



だが、ブルーノの意気込みとは裏腹にピクリともSストライザは起動しない。

もしやまだ未完成品…?いや、ハッチは開いた。なら…起動条件を満たしていない?

数個のボタンを順番に押して行く、が、あざ笑うかのように何も起こらない。その手に焦りがジワリと滲み出る。

こうしている間にも何人もの人が命を落としている…。




もしかすると…コイツ…まだ…。



脳裏に容易にカールやじーさん、そしてフレンダの姿が浮かんだ。


自分自身はこうして比較的安全な場所にいるにも関わらず、彼らは戦場の真っ只中に投げ出されたままだ。



「……頼むよ……。」



「…動いてくれ…。」


ピクリともしないストライザ、そして自身の無力さにブルーノの怒りの沸点はとうに超えてしまった。



「動けよ!!」




シーンと静まり返るストライザ。無情にも蚊の鳴く音さえ聞こえない。まるで自分が聴力を失ってしまったかのように音が全くしない。




ダメかと諦め掛けたその時だった。



――ピピッ



どこからか聞き覚えのない小さな音がした。


ブルーノは俯いた顔を勢い良く上げる、その目は潤んでいた。


すると360度、全方向に凄まじい勢いで数字や英語が羅列されて行く。

それが何の計算式なのかブルーノにはさっぱりわからない。


ブルーノのその青い目にはそれが満天の星空に見えた。

奇跡さえ起こせる…。そんな流れ星…。宇宙に投げ出された、そんな気分にさせてくれる。

全てがこのストライザと一体化した気がした。




ディスプレイに大きく表示される文字。






『Esperanto』






「エスペラント……。




希望…。」


無意識に口走っていた。



この時の為に付けられた様な名前、「エスペラント」。ブルーノはかつて何かの書物で読んだことがある。希望の言葉…それがエスペラントだと直感的に思い出させてくれた。


画面が更に切り替わり、今度は一気に視界が明るくなる。360度、フルスクリーン。ゲームのそれと全く同じで外の景色が映し出されたのだが、リアリティが段違い。

左腕をそっと動かしてみる。指を動かしてみる。

念じるだけで動く、それもゲームと同じだった。


ガガガと重い体を動かすと、火花を巻き上げ、まるで血管のようにまとわりついたホースを無理矢理剥がしていく。



「行ける…これなら行ける!」



ブルーノは機体の後部に装着してあるバーニアを全開にさせ、思いっきり前進する。


それと比例して慣性力がブルーノの身体を襲う。

こんな猛烈な勢い、ゲームでは到底再現不可能。



今歩いて来た壁に向かって直進をした。



瞬きをする暇もなく、そこに突撃をする。



まるで落雷のような音がして、壁はあっさりと砕け散った。

内装こそ鉄だが、コンクリート製の壁であったようだ。



――ピピッ



エスペラントの液晶、ブルーノから見て左下付近に表示されている数字が100から92に変化した。


それを目だけ動かしてブルーノは確認する。

今はその数字の意味が何なのか追求するより先にやる事がある。



先ほどまで広く感じた下水道のような通路も、このストライザにはとても窮屈で、若干しゃがんだ態勢でなければ天井にこすってしまう。



「くそ…間に合え!!」

ブルーノはSTRの背中と足に取り付けられているバーニアを再び最大火力まで押し上げる。



再び熱風を巻き上げ、彗星の如くその場を置き去りにした。



その爆発的な推進力は、恐るべき適応力のあるブルーノでさえ追いつくのでやっとだった。


時速何キロ出ているのか…かつての人類は車という四つ車輪がついた鉄の塊を200キロ近くまで速度を上げることができたという。

きっと、それとは比にならないスピードだろう。

足が接している地面には火花を巻き上げ、甲高い金属音を演奏する。



その移動速度はブルーノ自身の身体にも多大なストレスを与える。

強烈な慣性力、目から入ってくる情報のスピード、初めて乗るストライザ。

常人が乗れば気絶や目眩を起こしてもおかしくない状態だが、かろうじてブルーノはアドレナリンで補っていた。



遠くに見える光の出口が、物凄い速さで近づいてくる。



などと頭の中で情報を整理する暇なく、あっと言う間に機体は太陽の浴びる場所に晒された。



その勢いのままだと、止まる前に建物に突っ込んでしまう。



それを瞬時に悟ったブルーノは全てのバーニアを地面と垂直に向けて急上昇。

今度は上から降り注ぐ慣性力に頭を殴られたような衝撃を受ける。




その銀色の機体は太陽に反射されて眩いほどだ。

地上にいる人々にはそれがストライザだと一瞬で気がついた者はいないだろう。


液晶に映る景色。


煙を立ち上げ燃える街、まるでおもちゃのように破壊される建物、我先に逃げる住民。

つい数時間前まで平和に過ごしてきた場所とは到底思えない。



「そんな……。」



――ピッ



音と共に画面の一部分に四角形が出てきて拡大し始める。

そこには黒煙の中にストライザが一機。




そしてそのSTRの視線の先には……。




「くっ!!」

ブルーノはそのストライザに急速接近する。

まるで自分以外がスローモーションに見えた。




振りかざすサーベル……。




光のような速さのエスペラント…。




――ガツン…




耳を塞ぎたくなる程の金属がぶつかる音が鳴る。



ブルーノのSTRがギリギリで間に合った。

振り下ろされたストライザの腕を、ブルーノが掴み受け止める形となって、収まった。間一髪振り下ろされずに済む。



「何でだよ……。」

ブルーノが呟く。その声はストライザからも発信され辺り一面に聞こえる。



「何であんたたちは罪もない人を殺すんだ!!」



するといとも簡単に敵機を押し倒す。ビルに突っ込むような形でストライザは倒れた。




「もしかして…その声はブルーノ…!?」


そしてここにブルーノに助けられたフレンダが腰を抜かして座っていた。


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