王太子と悪役令嬢と男爵令嬢
「イザベル・レゲンデーア!! 貴様との婚約はこの時を持って破棄する!!」
王太子リチャードの声が高らかにハメット王立学園の卒業パーテイ会場に響き渡り。
人々は動きを止めその信じられない光景に釘付けとなる。
王太子は愛おしそうに傍らの少女を抱き寄せる。
ストロベリーブロンドに緋色の瞳の男爵令嬢は可愛らしいピンクのドレスを身に纏い。
幼さを残した顔立ちは妖精のようだ。
彼女は特待生としてハメット王立学園に編入してきた。
魔力の量がイザベルを抜いて断トツなのだ。
対してイザベルは髪は鉄色で髪の先が黒い。瞳はアイスブルーで何処か冷たい。
目は吊り上がり、美しくはあったが、まるで氷で出来た彫像のようであった。
「そしてこの時よりドロシー・ウェスト男爵令嬢が私の婚約者になるのだ」
王太子は高らかに笑う。
これでやっと自由になったと。
男爵令嬢と笑い合う。
イザベルはそんな二人を見つめて王太子に尋ねる。
「リチャード様。婚約破棄の理由をお聞きしても宜しいでしょうか」
「理由だと!! 俺がドロシーを愛したからだ。真実の愛を見つけたのだ!!」
王太子はテレもせずにそう答える。
「ドロシーさん。貴女もリチャード様を愛しているのですか?」
「ええ。心よりお慕いしております。私達が出会ったのは運命。誰も私達を引き裂くことは出来ないわ。真実の愛ですもの。どんなの困難も乗り越えて見せます」
王太子は満足そうにドロシーの答えを聞く。
「おお。そうであった。ステハン」
ステハンと呼ばれた男が王太子とイザベルの前に進み出た。
王太子の取り巻きの一人で神官の格好をしている。
精霊教会の神官で今度、枢機卿の位につく。
若いが、かなりの実力者だ。
「イザベルとの【婚約の儀】を解き、新たにドロシーとの【王妃の儀】を執り行うぞ」
「【王妃の儀】……よろしいのですか? ドロシー殿。【王妃の儀】を受け入れたなら引き返せませんよ」
「王妃……勿論ですわ。神の前で愛を誓います」
「宜しい。では……」
ステハンは神聖語でリチャードとイザベラとの【婚約の儀】を破棄した。
二人の体から光が現れ消える。
そしてリチャードとドロシーとの間に【王妃の儀】を執り行った。
見事な魔法陣が現れ二人の躰の中に消える。
「ああ……嬉しい。これで私は王妃になれるのですね」
ドロシーは微笑む。
リチャードも酒を掲げて。
「さあ皆。私とドロシーを祝ってくれ」
「これは……何の騒ぎだ!!」
この国の王が会場にやって来た。側にはリチャードの母もいる。
その後ろにはイライザの父であるレゲンデーア卿もいた。
近衛騎士団も王の周りを取り囲んでいる。
本来ならば、この場を借りて正式にリチャードとイザベラの結婚発表が執り行われるはずであったが。
「どういう事だ。リチャード?」
王は魔眼を発動した。
そしてリチャードとドロシーが【王妃の儀】を執り行ったことを知る。
「リチャード【王妃の儀】を執り行ったのか?」
「はい。父上彼女ドロシー・ウエスト男爵令嬢がこの国で一番魔力量が多いのです」
「なんと!! 素晴らしい!! 【王妃の儀】を執り行ったのならイザベラは王妃にならなくて済むのですな。リチャード様感謝しましす。これイザベラお前も王太子様にお礼を申し上げよ」
溢れる笑みを浮かべてイザベラは王太子に頭を下げた。
「この度は私のために贄を用意してくださり。誠にありがとうございます」
「うむ。当然だ。イザベラの様に優秀な者が贄になるなど、勿体無い。お前は側室として存分に腕をふるい。私の子供を産んでくれ」
「賜りました」
イザベラは笑って王太子にキスをする。
「えっ? なに? 贄? 贄って生贄のこと?」
周りの空気が可笑しいことに気付いたドロシーはリチャード王太子に尋ねる。
「うむ。そうだ。お前は平民から養女になったから知らなかったんだな。この国では王妃と書いて生贄と読むのだ。この国の王族は呪われている。昔愚かな王が神に魔力と引き換えにこの国を豊かにすることを誓わせた。国一番の魔力を持つものを生贄に差し出すことを条件にな。王は国一番の魔力の持ち主を王妃に迎え生贄とした。なに死ぬわけではない。ただ死ぬまで魔力を吸われ続けベッドから起き上がれなくなるだけだ。お前はバカだから王妃教育などしたくないだろう。礼儀もなってないから。外交などもってのほかだ。魔力さえ与えるだけで。食っちゃ寝の王妃の座だ。うれしかろう。子供を産むのも。政治も。舞踏会や式典の準備も。みんなイザベラがやってくれる。ウエスト男爵そちに褒美をとらそう金か? 爵位か? 土地か? よくぞ贄を連れて来てくれた」
「勿体無いお言葉。私は王家の家臣として当然のことをしたまでです。でもどうしても褒美をくださるのでしたら魔の森の近くにある町の自治権を頂きたく存じます」
「良かろう」
王太子の代わりに王が答えた。
王太子とイザベラは抱き合って幸せそうに見つめ合っている。
「冗談じゃないわ‼ あんた達はみんな知ってて私を嵌めたのね‼」
男爵令嬢は吠えた。
「取り消しよ‼ こんな事認めない‼」
「取り消しは出来ないと私言いましたよね」
冷たくステハン神官は答えた。
「ステハン何とかして貴方私のことを愛しているんでしょう」
ステハンは冷たく言う。
「私達に魅了は効きませんよ。それに私が愛しているのは彼だけです」
「はっ‼ 彼? あんたホモなの‼ えっ? 私達?」
ドロシーは王子の後ろに控えている三人の高位貴族を見た。
「ごめんね。僕婚約者を愛しているんだ」
美男子の侯爵はふにゃりと笑い婚約者を招き寄せた。
彼はロリコンだった。婚約者は10歳の少女だ。
ドロシーは彼女を妹だと思っていた。
「ふ~やっと猿芝居から解放される。俺にはハニトラは無理だな」
凛々しい近衛騎士が肩をすくめる。
「え~~~。一番ノリノリだったくせに」
彼の婚約者は彼の頬をつつき、演技指導大変だったのよと侯爵の婚約者と話している。
「まあこれで不味い手料理から解放される」
と大富豪の伯爵は腹を撫でた。
「これで胃薬ポーションから解放されるわね」
調合師の婚約者は彼に解毒ポーションを渡した。
「良かったね。ドロシー。私言ったわよね。『身の程知らずの恋は不幸になると』でも嬉しいわ。家臣として王族に仕えるのは当たり前。ましてあなたは王妃になれるんだから。しっかりと王妃の務めを果たして魔力を差し出すのよ」
「ふざけんな‼ ああ……あああぁぁぁぁぁぁ……」
ドロシーの手や顔に蔦のような模様が浮かび上がる。
「なにこれ……なにこれ……なにこれ……いやいやいや‼ 魔力が吸われる!!!!!」
ドロシーが倒れる。
近くにいた騎士が倒れる前に抱きとめる。
「まあ。神様ったらせっかちね。まだ結婚式も挙げていないのに」
「半年も待てないみたいだな。大切な贄だ。ベットに運べ」
「これは急がせないといけないわね」
「いっそうのこと皆の結婚式も一緒にしちゃう?」
「まあ。それはいいわね」
クスクスと五人の婚約者が笑う。
数か月後。
盛大な結婚式が王都のヨハネル教会で執り行われた。
車椅子に座らされベールを被った王太子妃の姿は異様だったが、幸せそうな王太子とイザベラの姿は国民に受け入れられる。
彼らは皆神の祝福を受けて末永く幸せに暮らしましたとさ。
~ Fin ~
~~ 登場人物紹介 ~~
★ イザベル・レゲンデーア 18歳 ㊛
王太子の婚約者で伯爵令嬢。
髪は鉄色で先が黒い。アイスブルーの吊り目。
優秀。生贄になるのを嫌い馬鹿なドロシーを王妃にする。
ただの屑。
★ リチャード・ウイルハウゼン 18歳 ㊚
王太子。イザベル・レゲンデーア伯爵令嬢と婚約を破棄し。ドロシーと婚約する。
ドロシーの事は使い勝手の悪い贄だと思っている。贄として愛している。
かなりな屑。
★ ドロシー・ウエスト 18歳 ㊛
金と権力が欲しくて王太子に近づいた。目論見道理に王太子妃になれた。
ただなったのは王妃と言う名の贄だった。只今食っちゃ寝の生活を満喫中。
おバカな屑。
★ ステハン神官 18歳 ㊚
天才。この若さで枢機卿。高度な契約魔法もお手の物。
契約前にちゃんと確認するしっかり者。プラトニックホモ。
ホモ系屑。
★ ペルザー・アントレス 18歳 ㊚
近衛騎士。婚約者の協力のもとドロシーに恋した振りをしていた。
その演技力はオスカーもの。婚約者は演劇部鬼部長。
彼女の扱きにより彼の演技力は開花した。
アカデミー賞物の屑。
★ ホセ・アードマン 18歳 ㊚
侯爵子息。ロリコン。10歳の婚約者がいる。
ロリコン派屑。
★ ローレンス・ハイライン 18歳 ㊚
ドロシーの手作り攻撃の被害者。胃薬ポーションが手放せない。
婚約者のポーションに愛を感じている。
食い道楽な屑。
★ ウオンボー帝国
昔屑王が己が后を贄に神(邪神?)に取引を持ち掛けそれ以後国で一番の魔力の持ち主が王妃
になって神に魔力を捧げた。その中には男もいた模様。
そのおかげで皆王妃になりたがらない。イザベルも嫌だったが王太子が阿保を見つけてくれ
たので喜んで側室になり辣腕をふるう。5人の子供を産み。幸せに暮らす。
貴族は贄の事を知っていてドロシーに警告する者もいたが。嫉妬していると取り合わなかった。
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2018/9/13 『小説家になろう』 どんC
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