22 宇宙のはての離れ湯
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「まあ、窓の外みれや、ここは、新庄銀河温泉の、ご自慢の離れ湯だべさ!」
宮田さんが窓を開け、富樫さんが笑って、矢七さんがふざけた。
窓のそとには、青い空、飛んでいる惑星たち、木星みたいのや、半分に欠けた赤い彗星、さきほど課長が包まれた、湯気みたいな白い雲、そしてその下に、青い海原、金色の砂浜・・・
「あの、海みたいなのが、みんな温泉だど!」と、矢七さん。
「すごいね、来た甲斐があったでねえの、絵村さん」富樫さん。
「あとで、ゆっくり浸かりにいくべね、夕方がいいかな」宮田さんがにっこり笑う。
そうだ、やっぱりいい人たちだ。世界中の人が、みんな、山形の人たちみたいなら、世界は、もっと平和で、きちんとしたモラルがあり、ずっとずっと優しいものになったにちがいない、そう真剣に考えたことを課長は思い出した。
それから話がはずみ・・たとえば、「宮田さん、昔の作家の文章は鋭いといってたね、北杜夫の小説とか。宮田さん、就職できたら、毎日、文庫本づけの生活しようっていってましたよね、そんな生活、できましたか?・・・」とか聞いたりする話・・・をした。
しばらくの時間がすぎて、そしてまた、窓を開け、外を見た。
夕暮れが近づき、温泉の海は、オレンジ色に染まり、そらには、見覚えのある惑星が・・・。
「あれま、あれ、地球でねえか?」矢七さんが声をあげた。
見ると、確かに地球が飛んできていた。
「ああ。あの星で、いろんなことがあったねえ」
宮田さんが、しみじみと、いった・・・
と、とつぜん、課長は衝撃的に悟った。
課長は、みんなの顔をみた。みんなの顔には、わたしたちは、もう、死んでいる、と書いてあった。
「みんな、どこから来てくれたのだろう・・・」課長は、尋ねるような、独白するような、 あいまいな感じで、いった。
「遠い向こうから・・・」
誰かが、そう、教えてくれた。
課長は、自分ばっかり、愚痴りまくったことを、心底、恥ずかしく思った。
課長は、やまがたの、真の友人たち、3人をもう一度見た。
この人たちには、課長なんかより、よっぽどつらい日々があったのだ。そして、いまやすでに、死んでしまっていたのだ。なのに、遠い、遠い、宇宙の果てより遠い向こうから、課長に会いに来てくれたのだ。
あなたたちがいてくれて、ほんとうによかった、だから私は、ここまで生きてこられたのだ。
そうだ、この友人を、友人の「思い出日記」を得たというだけで、おまえの人生は、幸せそのものじゃないか!!
課長は号泣した。
そうだ、幸せ、そのものだ!!
・・・はなちゃんの声がした。
「そろそろ行くぞ、帰っぞ。今度は、最北ニューグランドホテル、ニューヨーク館でも、いくか」
課長の心に、ニューヨークにたたずむ、温泉ホテルのイメージがひろがった。なんか悲しい、課長の心の絵だった。そのとおり、悲しいことがおきる。
時空がまた変転した。
課長は、「いやだ、ここにまだいたい」と思ったが、変転はとまらない。課長は時空の果ての天たかくへ、また、はなちゃんといっしょに、飛んでいった。
宮田さんたち3人が、砂浜にでて、また、走って、見送ってくれた。22年前の新庄駅で送ってくれたように。
そして、3人、みんなして、課長に呼びかけて、叫んだ。
「また来いよ!」
・・・つづく




