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リップクリーム

作者: 木村りえ

イライラしていた。


乾燥しがちな僕は、この時期になるといくつか必需品がある。


それらがないと、ドアには触りたくないし、会話で笑いたくもなくなる。


全部忘れた今日は最悪だ。


何イライラしてんだよって、そんなの見ればわかるだろ。


リップクリームがない1日は本当に最悪だ。


常に唇を下で濡らして気持ち悪い。


笑い方もぎこちない。


ご飯だって食べづらかった。


おまけに今日はあの子が嫌いなやつと話してる。


遠目にチラ見してるのがバレたらスクールカーストがまた下がる。目線は最低限で慎重に。


あの子はたまに話してもなんだか的を射ない。


僕の話を聞いているのか聞いていないのかわからない。


返事はいつもふわりと宙に浮く。


別に、もうすぐ冬だからって焦ってるわけじゃない。


もうすぐ卒業だからって焦ってるわけじゃない。


ただ、このままあの子と何にもないのは乾燥よりも最悪だ。


だから今日は思い切って遊びに誘うおうと思っていたのに。


それなのに。今日に限ってあいつが邪魔して話しかけれない。


このままじゃ冷静さを失ってから回る。


さっさと掃除を終わらせて帰ろう。作戦は明日でも決行できるんだ。


夢中でほうきを降っていたら、聞き慣れた声が近くにきた。


「なーに怒ってんの?」


「別に、怒ってないよ」


「うそ下手だよね〜」


「うるさい」


「それで、どうしたの?」


「リップクリーム忘れて唇が痛いんだ。会話するのもつらいくらいにね」


「なーんだ、そんなこと」


そんなことって、僕にとっては一大事なんだ。


睨みを聞かせて追い返そう。そう思って振り返ったら、こっそり綺麗な白い手が伸びてきた。


「それくらい、早く教えてくれればよかったのに」


はい、っと渡されたあの子の見慣れたリップクリーム。


突然すぎて頭は真っ白。


「えっ、あっ」


「なに照れてんの」


「照れてない」


「ふふふ」


「借りていいの?」


「いいの?」


まただ。いつものように会話がうまくいかない。


「いや、どういうこと?」


「なんでもないよ」


さっぱりだ。慌てて返すと彼女は笑っていた。


からかわれてる気がしてまたイライラしてきた。


でもなんだか忘れてよかった気がした。

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