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遠い夏の日のアルバイト

作者: 龍槍 椀

 

 浦原海浜水族園と言えば、行政が手を出して、盛大にコケた複合施設だっけか。 大学の夏休みに、バイトに行った事を思い出した。 なんで、今頃そんな事思い出したかと言うと、一通の同窓会の案内状が、俺宛で来たんだ。 手元にな。


 同窓会って云っても、大学のゼミの仲間が、たまに、”飲もうや~”って集まる感じの緩いものだったんだが、ここ何年も、俺だけ忙しくってな、そんで、出席出来なかったんだ。 まぁ、律儀にこうやって案内状を送りつけてくる奴もいる。



   まぁ、ダチだ。 



 なんで、忙しかったかって? そりゃ、仕事さ。 あっちこっちの国を行ったり来たり。 小さな商事会社で、何でもかんでも扱ってて、下っ端はいつも、謀殺されていたんだ。


 で、体を壊したって、お定まりのコース。 今は療養中。 そんな中に、この招待状がきたんだ。 行くしかないだろ? 行くよ、俺は。 許可取れなくてもさっ!



==========


 でだ、この招待状を送って来たダチ・・・こいつ変な奴でな。 フリーターで喰ってるって、他の奴が言ってたな。 顔は思いっきり広い。 仕事でも、何度か助けてもらった事が有るんだ。 その交友関係の広さに。


 で、今年は、そいつが幹事するって云うからさ。 俺も、重い腰上げたわけだ。


 でだ、その会場。 浦原海浜水族園のすぐ近く。 開園してる時は、それなりに賑わっていたよな・・・今、どうなんだろ? あの施設がコケて、なんか、ゴーストタウンみたいになったって、地元の奴が言ってたような・・・ 店ってあるのか?


 指定時間に、指定の店に行ったんよ。 




     ちゃんとあったんだよ。 店。





 うら寂しくなった、シャッター通りの奥にね。 なにも、こんなところでやらなくったって・・・そう思ってたんだ。 で、店内に入ると、意外に明るい。 客もそこそこ入ってるんだ。 なんか、刺身みたいな、赤身喰ってるおっさん、爺さんが多いな。 


 ゼミの仲間が其処に来た。


「よう!」

「おう!」


 久しぶりだ。 懐かしい顔があるな。 全部で5人。 幹事のダチも来てた。 予約がしてあったから、奥の座敷に通された。 久々に、会った奴等、みんな、めっちゃいい笑顔だった。 なんか、充実してんなぁって、妙に気に障った。 


 そうさ、俺は、体壊して、病気療養中なんだ。 ホントなら、出歩けないんだがね。


「此処のおすすめ、良いぜ、喰ってみろよ!」


 ダチが進めて来た。 ビールから、焼酎に代わって、酒ばっかり飲んでたからな、気を使ってくれたんだろう。 そうだな、チョット腹に入れるか。


 出て来たのは、さっきおっさん共が喰ってた赤身。


 クジラか? マグロか? なんだ? 


 一口行ってみる。 


 美味いな。 脂ものってて、口の中にうまみがジュワァって広がる。 ある意味爽快感がある。 なんか力ついてくる感じがあるな。


「美味いだろ!」

「おう!美味いな! いくらでも行けそうだ」

「どんどん行け!」


 遠慮なく食わせてもらった。 他の奴らも、笑いながらつついている。 酒もうまいし、いい飲み会だ! お前ら、こんな同窓会続けてたんだ、今度から、絶対に来るからな!!


「ああ、来い、来い! 待ってるぞ!!」


 でだ、懐かしい話に花が咲いた。 当然、浦原海浜水族園でのバイトの話もあった。そう言えば、こいつ等、みんなバイトも同じだったな。 餌やりとか、掃除とか、受付のモギリもやったけな・・・ くそ暑い夏の日、休憩時間に集まって、馬鹿笑いしたり、閉園後に花火やったり、で、怒られたり・・・


たのしかったなぁ・・・


「そう言えば、お前、大水槽担当した事無かっただな」

「ああ、 あそこは正規職員だけって云われてな」


浦原海浜水族園の目玉施設、大水槽。 高さ15メートル、全面アクリルガラス張り。 小笠原の海を持って来た! ってコンセプト。 でも、・・・めっちゃ厳重に施錠されてた。 バイトの俺なんか、近寄りも出来なかった。 ダチは・・・そう言えば、なんか入ってたよな・・・ 羨ましかった覚えがある・・・


「そうか・・・なら、あの噂は、知らなかったんだな」

「何を?」

「アクアツアーで「謎の生き物の影が見えた」なんて話なんだが・・・」

「ほう・・・まぁ・・・風の噂ならな」


 たしか・・・浦原海浜水族園が閉園になった理由の一つだったような気がする。最初の頃は、それこそ、千客万来な感じだったんだが、目玉のアクアツアーで、子供が何人も、「謎の生き物の影が見えた」って言い出してな。 長い髪の毛の女の人が居たって。 ラングも付けて無くて、腰から下が魚だって・・・ 馬鹿な! それじゃ、人魚じゃねぇか!!


 水族園も必死に否定して、色んな対策打ってたけど・・・結局口コミで、ヤバい水族館って話が出回って、ネットに書き込みが相次いでな・・・ 不鮮明な写真まで出回ってたような・・・ バイトの期間が終わって、大学に帰って、忙しくして内に、そんな事も忘れちまったよ。 確か、五、六年前に閉園したはずなんだよな。


「あの大水槽、いま、どうなってんの?」

「あぁ、なんか、特別な処置で、水は抜かれて無いよ」

「なんでだ? あれの維持費がバカ高すぎて、経営破綻したんじゃねぇの?」

「色々あるんだよ。 色々」

「ほぅ・・・そうなんだ」


 店主が新しい、食い物の皿を持って来た。ダチが、今の話を告げると、爽やかな笑みを浮かべながら、店主が応えたんだ。


「ええ、そうですね。遊園地が営業してい頃にも、アクアツアーで「謎の生き物の影が見えた」なんて話が何度もありましたね。 それ、今でも見えるらしいですよ。 でも、あの遊園地、今は誰も入れないんですがね、誰が、”今でも” 見てるんだようか? 噂って、当てになりませんよねぇ」


 そんな事言われて、思わず笑ってしまった。 美味い酒と、美味い食い物。 気の置けないダチたち。 いい時間だ! 最高だね! 喰って飲んで、最高の気分のまま、俺は寝落ちした・・・







 *****************






 で、今、俺は混乱している。 


 病気療養中で、病院に居たんだ。 かなり悪くてな。 ICUに入ってたんだ。 うん、正直に言おう、死にかけてた。



 だから、俺は、同窓会に行けるはずも無く・・・



 でだ、混乱している理由? そうだな、奇跡が起こった。 気が付いたら、ICUの前の廊下で倒れてたんだ。 病院の先生達、泡食ってたな。 物凄い勢いで、ありとあらゆる検査を受けた。



 診断結果?



         うん、健康体。



 前日、もうダメで、今夜が峠って言ってた先生の声を覚えている。 それが、一夜明けて、健康体。 うん、混乱してる。  医者も首を傾げていたが、取り敢えず、実家に戻った。


 様子見だそうだ。 親、なんか、微妙な顔で俺を見てた。 座敷には喪服が出してあった。 ・・・リビングの机の上に葬儀屋のパンフ乗ってんの見て、何ともいえない気になった。そう言えば、俺はこの家にも居場所が無かったんだっけ。 


 優秀な兄弟と違って、三流大学へしか行けないし、ほぼ零細っていう、商社にしか、勤め口なかったしな・・・ 国家公務員の親父とか、一流商社に勤めている兄さんとか、一流の医者の嫁さんになった姉さんと比べられても・・・ 


 そうさな、好きの反対は、嫌いじゃないんだよ。 無関心なんだ。 多分、親も、死ぬって判る時まで、無関心だったんだろうな。 だから、あんな状態になってたんだ・・・


 でも、あれは・・・夢か?  物凄く、現実感が有ったぞ?  スマホの連絡先にダチの電話番号があった。 かけてみた。

 


 呼び出し音が、数回なった後、ダチの声が聞こえた。



「よう! 元気になったようだな」


「えっ?」


「あんだけ喰ったんだ、暫くは、死ねないぞ? そうだな・・・八百年くらいか?」


「な、なに?」


「今から、浦原海浜水族園来いよ、特別飼育員に任命してやるよ」


「どうゆう事だ?」


「お前、死にかけてただろ? だから、俺たちの仲間にしたんだ。 この世に未練が無さそうな奴が、この世に未練タラタラな爺さん相手の薬を作ってるんだよ。 ・・・いや、人魚の肉の生産かな。 あの肉喰った人間にしか、飼育出来ないんだよ。死ねない奴にしかな。 待ってっから」


「お、おい、ちょっと待てよ! どういう事なんだ?」


「・・・お前、いい奴だったし、死なせたくなかったんだよ。 他の奴も同じ意見だった。 だから・・・食わせた・・・迷惑か?」


 思い出した。 恥ずかしそうに語るこいつは、もう何年も前に行方不明になってた事を、そんで、あそこに居た連中も・・・そうか、いつも、ボッチだった俺を連れ出して呉れたり、仲間にしてくれたダチだもんな。 寂しそうにしてた俺を、日の当たる場所に連れてってくれて、思いっきり笑わせてくれたのも、こいつらだったよなぁ

 

 こいつらが居ない場所じゃあ、やっぱり無理だったみたいだ。


 ああ、行くよ。 親には悪いけどね。 また、あの夏の日の様に、馬鹿笑いしながら待ってるんだろう。



そうか・・・あの謎の生き物の影は、人魚で、奴等が飼育してたんだ・・・まぁ、今度も仲間に入れて貰うとするか・・・






初、ホラーです。


ホラーは、難しい・・・色々、胸に来る感じが難しい・・・

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― 新着の感想 ―
心が温まるホラーというのもあるのですね。
[気になる点]  「謀殺」は計画殺人のこと。  忙しいことは「忙殺」。
[良い点] 得たいの知れない肉って言うだけで最高に薄気味悪くてわくわくしながら読み進めていたのに、よりによって肉の正体が明かされる前に「暫くは、死ねないぞ? そうだな…八百年くらいか?」の台詞が入って…
2017/07/22 21:49 退会済み
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