迫害されていた王子様は。
とある大陸の、とある王国は隣国の帝国と戦争を行っておりました。その王国の王含む王族は性根が腐っているといえるほどに好き勝手にしている連中ばかりでした。そもそも戦争のはじまりは、我儘な王族たちが税金を使い潰した結果、国庫が減ってきて、それを補うために隣国を征服すればいいと頭の悪い思考に陥って戦争を吹っかけてきたためでした。
これに帝国はもちろん、応戦します。王国の我儘のために国をぶんどられるわけにもいかないためです。さて、皇帝は第二皇子に命令を下し、戦争に応戦しました。あっけないほどにすぐにけりはつきます。なぜなら王国軍はどうしようもないほど弱かったためです。第一国庫がなくなってきていたための戦争です。そんな国で装備などが整えられるわけもなく、権力者たち以外は食べるのにも困っていたのです。
寝返りを促せば簡単に寝返りました。
王国の民たちも、失意のどん底にいたため、こちらが勝利した際の生活を保障すれば道を開けていきます。
そんなわけで、王城を占拠した第二皇子は王族たちを捕らえました。
その時に迫害され、離れの牢獄ともいえるような場所に閉じ込められている王子が居る事をしります。なんでも気持ちが悪い赤い瞳を持っているという事で呪われているなどといわれてそんな状況になっているそうです。赤子のころから世話係と共に閉じ込められ、外に出た事もない王子らしいのですが、あろうことがろくでもないこの国の王族は「戦争はその王子の命令だ」などと子供でも分かる嘘をほざいて、自分は助かろうとしていました。
もちろん、助かるはずがありません。こんな嘘にだまされるような存在は滅多にいないでしょう。彼らの未来は処刑で決まっています。
それはともかくとして第二皇子様はその迫害された王子を憐れに思っておりました。王族として生まれながら閉じ込められ、迫害されているなどというのは同情するのに十分です。戦争の罪など、あったものではないでしょう。第二皇子は王子を保護しようと考え、騎士たちと共にその離れへと向かいました。
しかし、その離れの中はもぬけの殻で、生活感のない空間が広がっているだけでした。
*
「へぇ、あの国滅んだんだ」
さて、王国が滅ぼされてひと月ほどたったころ、王国より遠く南に離れた傭兵国家で一人の少年が面白そうに声を上げておりました。
その少年は、何処にでもいるような茶色の髪を持っていましたが、目の色は珍しい赤色です。少年が居る場所は酒場であり、背中に大剣を背負っています。
「そうですよ、ボス。ボスの故郷なんじゃなかったですっけ」
少年の周りには大勢の人々が居ます。少年率いる傭兵団のメンバーたちです。その傭兵団はこの傭兵国家の中でも有名な存在であり、今回酒場を貸し切って飲み明かしていました。
少年よりも年上の存在は沢山いるのですが、誰もが少年をボスと呼びます。少年は齢16歳ながらにこの傭兵団のトップでありました。
「んー、故郷っていっても七歳で飛び出したっきりかえってねぇしなぁ。全然愛着もねぇな。寧ろこの国の方が俺にとっての故郷かな」
少年はそういいながら自分の後ろにひかえる二人の存在を見ます。彼女たちはこの場では不自然な侍女服を身にまとっています。このような場にそんな存在は正直相応しくはありませんが、彼女たち二人も傭兵団の一員です。しかも戦闘力は高く、『戦メイド』として有名な二人です。
二人は少年と共に故郷を一緒に出てきた存在であり、少年よりも一つ年上の双子です。そして少年の妻でもあります。
「二人は?」
「カイ様にとって良い記憶がない場所が私にとって良い場所であるはずがありません」
「同じく。滅んでざまぁと思っております」
二人にとってどうかと問いかければそんな答えが返ってきて、少年――カイは苦笑します。
カイはあの国の事を思い出します。
カイは実はあの国で王子という立場に生まれました。しかし赤い瞳を不気味がられ、閉じ込められていました。
乳母である二人の侍女の母親と、その子供である二人としか会話をしたことのない生活をしていました。それでも五歳ぐらいまではまだ食事も届けられていたのですが、迫害されている王子の元へ監視がくるといったこともなく、食事を届けていたものはそれをやめてしまいました。あんな王子なので何もいらないだろうと。徐々に減っていきます。鍵がしまっているから問題ないだろうと、見張りも気づけばいなくなり、大変なことになりました。それもこれも閉じ込めて視界に入らなければいいとそのまま放置されたことが理由です。せめて王族であるから生かそうと思っているなら食事ぐらい届けろよとカイが悪態をつくのも無理はないでしょう。
鍵をどうにか壊そうと必死でした。そうしなければ餓死するからです。そうして頑張って頑張って餓死寸前の時に鍵が外れ、外に出て色々調達をすることになりました。二年近く、離れでそれから食事も届けられないままに暮らしました。
そうやって暮らしているうちにこの国で暮らす意味もないとカイは思いました。鍵もあいていることだし、外にも自由に出れるわけである。こんな国で生活を続けるより外で自由に生きたいと思うのも当然の事でした。しっかり準備をして、旅の支度をしてカイたち四人は外に出ました。正直、いずれそれが露見されるだろうとは思ってましたが、まさか国が亡ぶまで気づかれないとは思っても居ません。
それで色々と旅をしている中で、カイはどんどん強くなりました。二人の侍女も同様でず。傭兵国家に根付くことになったのは、この国が生まれや育ちに煩くないからでした。さまざまな場所から人が集まり、居場所のないものも多く居ます。その代り無法地帯ともいえるぐらい治安は悪いです。弱ければ奪われます。そんな国でカイは育ちました。そして頭角を現し、傭兵団を作りました。その過程で病気で乳母が死んだのは悲しい出来事でしたが、カイはすくすくとこの国で育ち、立派に生きています。
「だよなー。あははっ」
二人の妻の言葉に高らかに笑うカイは帝国の第二皇子に同情されるほど不幸ではありません。寧ろ幸せに自由に生きているのでした。
―――迫害された王子様は。
(いつの間にか抜け出して自由気ままに傭兵として生きています)
不幸な現状を自分から抜け出して自由に生きているキャラとか凄く好きなので勢いのままに書いた作品です。