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8見習い寮

なんだか既視感のある建物だ。

真っ白い壁は全くの汚れを感じさせない上に周りが新緑の木々で覆われているために目立つ。

建物自体は開けた印象を感じさせるほど横に長く、やや半円状に広がっていた。

若草色の芝生は丁寧に刈り取られており、控えめに植えられた色とりどりの花は手入れの良さを表している。

中心部には噴水があり、高々と吹き上がる水はキラキラと輝いて見えた。

屋根は藍色、幾つも並ぶ窓枠は茶色、入り口の扉は重々しく年季を感じさせた。

よく観察してみると、あることに気づく。

どこかで見たことがあると思ったら、私の魔術街にある屋敷にどことなく似てる。

何と言っても配色がそっくりだ。

私の屋敷は白、藍、茶の三色を主にしているし、庭園には噴水もある。

この建物を設置したのがフリエーゼル団だとしたら真似をした可能性もあるな、と嘆息した。

くだらないことに気づいてしまった。

気を取り直して建物の中に入る。


中を見る限り、さすがに内装までは似せていなかったようだった。

入ってすぐの所にあったフロントへ行って話しかける。

「すいません、入寮したいのですが」

まさかこんな言葉を生涯のうちに言うことになるなんて、考えもしなかった。

「新しい見習い様でしょうか?」

「はい、さっき魔術学校で受付を済ませてきたところです」

「そうでしたか、お疲れ様です。それでは、見習い手帳の提示をお願い致します」

「あっ、はい」

先ほどもらったばかりの見習い手帳を差し出すとお姉さんは書類に何かを書き込み始めた。

「ご存知でしょうが、こちらの寮は専属寮とは異なり相応の料金のお支払いをお願いしておりますのでそちらのご説明をさせていただきたいと思います。料金のお支払い方は二通りございます。一つ目は前払い。寮の滞在期間を事前に決められてその分をお支払いしていただきます。二つ目は後払い。一ヶ月の滞在を約束していただき、一ヶ月ごとにひと月分の滞在料金をお支払いしていただきます。ルーネイ・ネシア様はどちらをご希望でしょうか?」

「後払いでお願いします」

今はそこまでお金を持っていない。

金品は全て魔術街の屋敷にあるし、住み込み労働三ヶ月分のお給料は衣食住の分を引かれて元々、雀の涙ほどしかなかった。

「了承いたしました。では、こちらの部屋をお使いください」

そう言われて渡された鍵には5731との文字。

「その鍵を使ってそちらにあるボックスへと入られると自動的に部屋へ移動いたします。もちろん階段等を使って部屋まで行くことも可能です」

そう言って手で指し示したのは、壁に埋め込まれた扉。

その幾つか並んだクリーム色の扉の中心部には鍵穴があった。

「もう一つ、部屋は防魔の壁で仕切られておりますので魔術を使っても大丈夫です。しかし、上級魔術からは伝わってしまいますので頭に入れて置いてください」

防魔の壁とは、対魔術用の壁のことだ。

例えば、普通の壁が粉々に崩れるほどの魔術を同じ強さで防魔の壁にぶつけたとしてもせいぜい亀裂が入るくらい。

その名の通り、魔力を弾き返す性質がある。

対魔術用と言いながらも防魔の壁は魔術師が魔力を注ぎ込んで作るものであって作り手によってその強度は異なる。

高価な上に【魔力を弾き返す】という特性を除けばただの壁なので、一般民家に使われることはまずない代物だが、魔術街の家や、王城、重要な施設などには使われているものだった。

ここも、見習いとはいえ魔術師である人々が住む場所ということで取り入られているのだろう。

この建物の近辺に来てもピリピリとした感覚が全くしなかったので、予想はしていたが。

魔術による建物の崩壊を防ぐというよりも、魔力を隔ててくれることによってピリピリとした感覚が来ないのがこの壁の1番の魅力である。

あの平素な街で使えなかった中級魔術もここでなら使える。

少しは動きやすくなるだろう。



とりあえず、自室へ入ろうとクリーム色の扉に鍵を差し込んで開いた扉の中の空間へ入る。

人が三人くらい入れる広さで、物珍しげにどんな仕組みだろうかと観察する。

扉はすぐに閉まり、一瞬物凄い光が空間を支配した。

ギュッと目を閉じて、再び瞼を上げる。

そこは、ベッドに本棚、テーブルその他諸々が置かれている宿屋にあるような一室だった。

短い時間で考えてから、あの一瞬で移動したんだ、と妙に納得する。

あの光は移動の術に似ていた、というかあれは移動の術を応用したものだろう。

あの扉自体が魔術品の指輪や腕輪のような役割を果たしていて、鍵を差し込むことにより事前にかけられた移動の術が解術される仕組み。

おそらくそんなところだ。

発想の転換が凄いな、と知らない誰かを褒める。

ふと、部屋の中に視線を彷徨わせるとテーブルの上に何かが置かれていることに気づいた。

小さな木箱と、分厚い紙の束だ。

紙の束はこの寮についての説明や、ルール、マナーなどが書き記されたもので以来の受注方法や場所、寮内の地図までも載っている。

見た限り、売店が並んだフロアやお風呂、食堂など様々な場所があり生活に不自由はしなさそうだった。

木箱の方を手に取ってみる。

なんだろう、と少し粗雑に扱っているとぱかっと開いた。

中には小さな紙と、鍵穴のようなものがあって首をかしげる。

しかし、少し考えて見ると魔術学校でもらったものかと思い出しポケットから引っ張り出した。

小さな紙には【26頁】と書かれており、紙の束から26ページを探す。

26ページには、『意思疎通の術に関する説明』との題が書かれている。

説明によると、『意思疎通の術は互いの魔力が必要な上に高度上級魔術であるために難しく、使うことは困難だとされるが部屋と部屋での結び付きを作ることによりこの場所から特定の場所へのみ術の発動が可能になった。鍵を差し込むことにより解術され相手の部屋全体へ言葉を投げかけることが可能になる。相手も鍵を差し込むことにより、相互での会話をすることが出来る。これは見習いと師である魔術師が交流するために設けられた手段である』とのことだ。

意思疎通の術は使えるけれど、使うわけにもいかないし四日後の試験のためにカディさんも必死だろうし、寮が違う分簡単には連絡が取れない。

どうやって会おうかとちょうど考えていたところだ。

これがあれば、会う約束を取り付けることも可能かもしれない。

カディさんもいろいろ忙しいだろうと今すぐ使いたい衝動を抑えて、私は地図を手にしながら寮内を探索してみることにした。

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