7魔術学校
魔術学校は私も何度か足を運んだことがある。
というのも、生徒を活気付けて欲しいとのことで見世物のような形で魔術を披露しに行ったことが何度かあった。
派手な術ばかりやらされるものだから、何をやってもキャーキャー悲鳴が聞こえてくる。
真面目な生徒はじっくりと指の先まで観察してくるものだからとても居心地が悪かった。
講義をして欲しいとも言われたが、どうにもやる気になれなくて断った。
直談判してきた生徒には見習い予備軍に入ってもらった記憶がある。
まあそんなわけで、私の魔術学校へのイメージはとても賑やかで華やかで楽しげな施設だというもの。
しかし、私のそんな考えは魔術学校へ足を踏み入れた瞬間に払拭されたのだった。
立派に構えられた門を潜り敷地に入る。
迷わずにずんずんと先を歩いていくカディさんを見失わないようにしながら周りを見渡した。
全然生徒が見当たらない。
丁度昼休みの時間帯だと思っていたが違ったのだろうか。
左右は見晴らしの良い庭園が広がり、ところどころにテーブルや椅子も用意されている。
だが、そのどこを見渡してみても人の影どころか声も聞こえてこなかった。
広い敷地に不自然な閑散とした雰囲気。
不思議に思いながらも学校の中に入った。
学校内も数えられる程度の生徒しか見当たらない。
自分のイメージ像とのあまりの違いに思わずカディさんに尋ねてしまった。
「あの、あまり人がいませんね」
「あぁ、試験前だからですね。それに・・・」
「それに?」
「伝説の大魔術師様って馬車で話しましたよね?」
「あぁ、はい」
それが、どうしたというのだ。
私が何か関係しているのだろうか。
「あの方が、亡くなったという噂が広まっているんです。確かにここ数ヶ月の間はどこにも姿を現していないので信憑性も高くて」
「それがどうかしたんですか?」
今その話が出てくる理由がまったく理解できなくて首をかしげる。
するとカディさんは訝しげな顔をして言った。
「あの方は魔術師界のトップクラスですよ?メイリス・ティの位を与えられている上に若い、誰もが認める実力の持ち主でもある。この学校に通う生徒は皆あの方に憧れているんです。そんな方が亡くなられたかもしれないなんて、ご飯も喉を通らないレベルでショッキングな出来事でしょう?」
え?ご飯も喉を通らない?
馬鹿馬鹿しいと思いつつも再度辺りを見回す。
なんだか、現実味を帯びてきた。
え、嘘でしょ。
死んだことにするなんて少し悪いことをした気になってきた。
それにしても、そんな噂が出回っているってことは私の死体工作は立派に成されたようだ。
そのことに関しては少し安堵した。
「カディさんは、どう思ってるんですか?」
「俺は、死んだとは思ってません。そう簡単に死ぬとは思えませんし」
はい、大正解。
と言えるわけもなく曖昧に笑う。
「私もそう思います」
一言添えるとカディさんは嬉しそうに笑った。
見習い申請と受験申請は総合案内所で受け付けてくれるというのでそこに向かった。
総合案内と言っている割には魔術学校の端っこの方に位置していて結構歩いた先にあった。
渡された紙を見て少々驚く。
てっきり身分の位や親の名前、育った場所など様々な個人情報の開示を求められると思っていたが私に関して書く場所は名前の欄だけだった。
どうやら、見習いのうちは師となる魔術師の身分がしっかり把握されていれば問題ないらしい。
有る事無い事書いてばれたら困るのでどうしようかと考えていたのだ。
名前にしても正式名称を求められるのでどうしようかと軽く迷う。
身分証明みたいなものなので、調べられたりしないかという不安がある。
もちろん本名を書くわけにはいかないので少し躊躇しながらも架空の名を書いた。
『ルーネイ・ハイアン・レイ・ネシア』と。
ハイアン・レイはどこにでもいる普通の平民。
国内の人口の割合でいっても一番多い。
魔術師証明を求められ、軽く指先から火を出してみせると正式な『魔術師見習い証明手帳』を渡された。
長いので一般的には『見習い手帳』と言われるものだ。
これを見せることで三級魔術師の見習いだという事が認められ特別待遇を受けられる。
無事に魔術検定の申請もでき、ありがとうございましたと礼をして立ち去ろうとすると「少しお待ちください」と声をかけられた。
「見習い様は敷地内に設置されています見習い寮に入るおつもりでしょうか?」
受付の女性の柔らかな声に肯定するつもりで首を縦に振る。
「それでしたら、こちらをお持ち下さい」
そう言われて渡されたのは二つの鍵。
疑問符を浮かべていると「後にご説明がありますので」とにこやかに笑った。
それから私たちは学校を出てそれぞれの寮に向かった。
魔術学校の広大な敷地にあるために部屋は有り余るほどあるらしく事前に何かしなくても寮には入る事ができるのだとカディさんに説明されていた。
手にした地図を見ながら道を歩く。
すると遠目でも確認できるほど豪奢な建物が見えてきた。