6衣食住
ファルマーティアは恐ろしく人が多く、広く、賑わっている大都市だ。
魔術学校はすぐそばにあるし、王が住む嫌味なほど高い城もその中心部にそびえ立っている。
国が主催するパレードも、気まぐれに行われるスピーチも、すべてこの大都市で行われるため必然的に人は集まり商業も発展していく。
国の中で迷いなく一番進んでいるといえるのがこのファルマーティアだった。
そのために貧富の差が大きいのも問題視されているが、この町並みからはそんな様子は全く見えない。
「やっぱり凄いですね、ここは」
ほぅ、と安心したような圧巻されたような複雑なため息を零すカディさん。
確かに、この街を見ると先ほどまでいたあの場所がとてつもなく寂しく見えてくる。
「そういえば、これからどこに住むんですか?」
ふと疑問に思って尋ねる。
なんでこれまで気にしてこなかったのかわからないほど基礎的な質問だ。
まるで当たり前のように試験を受けにここまで来たはいいが衣食住はどうするのだろうか。
今更ながら危機感を感じ始める。
自分はなんて無責任なのか、見習いという意識がそうさせたのだろうか。
カディさんには本当に申し訳ない。
「そのこと、話し合っていませんでしたね。どうしましょうか・・・一応、アテはあるのですが」
「アテ、ですか?」
カディさんが申し訳なさそうに説明してくれた内容はこうだ。
これから見習いをつけるとなると、少なくとも半年間で一級まで受かる必要がある。
いくらファイアオレストで躓いていたとはいえ二級でさえ四ヶ月間学習する必要があったことから一級合格のためにはもう一度魔術学校に通学するべきだと思っている。
魔術学校に通学するためには専属寮に入らなければならないので自分はそこに行くつもりだ。
だが、見習いは魔術学校に通学できないし専属寮にも入れない。
そこで私に与えられる選択肢は2つ。
其の一
ファルマーティアにあるカディさんの知り合いの家にお世話になる
其の二
魔術学校の敷地内に設置されている見習い寮に入る
見習い寮について詳しく説明すると、
私みたいな立場の人間は他にもいるらしくそんな人のために、いやそんな人たちを利用したい『フリエーゼル団』という大手の商会が設置した施設だ。
その商会は私にも馴染みがあった、
というのも、確かその商会を率いるのは正式名称を『フリエーゼル・トイノール・レイ・アヌエル』とする私の熱狂的ファンだからだ。
私のやること1つ1つを褒め称え、いちいち記念日だと騒ぎ立ててはプレゼントを送ってくる頭のネジが外れた男を思い出す。
私が死んだって知ったら自ら命を絶ちそうな危うささえ感じてしまう。
悪い妄想は振りはらい、寮のことに頭を切り替えよう。
国にも信頼されているフリエーゼル団は見事魔術学校の敷地内に寮を置くことを認められ利用者は多いらしい。
もちろん国の支援で成り立っているわけではないのでまともにお金はかかるが、もう1つその寮には良いことがある。
なんと、働き口が提供されるのだ。
といっても、必ず稼げるわけではない。
魔術師資格二級から受注できる魔術師に当てられた依頼の中で、上級魔術を必要としないと認められたものを見習い寮を利用する者たちに回してくれるらしい。
魔術学校に通う生徒は依頼を受けられるほど暇じゃないし、上級魔術を使える魔術師は限られているためなるべく難しいものをこなしてもらいたい。
そういうことで、魔術学校に通わない分他より時間があり曲がりなりにも魔術が使え替えが利く、見習いに任されることになったという。
しかし、身元がはっきりしない者に任せるわけにもいかないので国が認める寮に住む見習い魔術師のみに与えられた特権ということだ。
依頼をこなせば相応の報酬が手に入るし「頭ではなく体で覚えろ」とばかりに見習いとしても勉強になるのでそれを理由に寮に入る人もいるらしい。
よく考えてみたが、上級魔術を必要としないような依頼をこなせないわけがないので金銭面はなんとかなりそうだしいろいろ気遣ってくれるカディさんに頭を下げてもらうわけにもいかない。
私は見習い寮に入ることにした。