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15死の理由

恐ろしいほど天気がいい、今日この頃。

昨日は早く眠りについたために、朝は寝起きもよく爽快な気分だ。

窓を開けると風が入ってきて気持良い。

グッと腕を伸ばして息を漏らすと、少し騒がしい声が耳に入ってきた。

何かあったのか、と昨日達成した癒力スープ調達の資料と財布を鞄に入れて部屋を出て、

廊下のはじの奥まったところにあるボックスに入る。

昨日気づいたそれは、フロント行きで迷子防止の為に数カ所設置されているらしい。

もっと早く知っておきたかった。

フロントまで行けば、依頼所は目と鼻の先。

直線距離で歩いていける。

ボックスから出ると、騒めきは一層大きくなった。

朝早く、試験前日の筈なのに凄い量の人がいる。

その中にシェリアの姿を見つけた。

キョロキョロと辺りを見渡していた彼女は私の姿を捉えると駆け寄ってくる。

「おはよう!ネシア」

「おはよう、何かあったの?」

「うん、なんかね、来てるらしいの」

「何が?」

シェリアは瞳をキラキラさせて言う。

「七大魔強師様が!」

ピキリ、と私の時は止まる。

そんな様子にも気づかずに嬉々としてシェリアは説明し始めた。

「しかも、全員よ!?全員!こんなこと初めて!オーディションをするらしいのよ、ここで。引き抜きってやつ?スカウト?ああ、もう!突然すぎるよね!?」

興奮のあまり捲したてるシェリア。

スカウト?オーディション?引き抜き?

ナニソレキノウキイタハナシトニテル

あなたには才能があります、と言い放ったアルケナの姿が浮かぶ。

ヤバい、ヤバい、ヤバすぎる。

信じたくないと、重い足を引きずるようにして人の山に紛れ込むと誰かに押されて一気に視界が開けた。

ああ、いる。7人並んでる。

真ん中はハイネ。見習いの中では一番頭脳的に優秀で型にはまってるタイプの常識人。であって欲しかったが、実際にはかなり腹黒く小癪なやつ。

その両隣は、褐色の肌に筋肉質な軍人タイトと奔放を極めた傍迷惑な上に心が読めない謎の男フェリアス。

タイトの隣は真紅の瞳をギラつかせたアルケナ。

フェリアスの隣は、見習いの紅一点であり冷徹な美貌を持つ人嫌いのミラン。

アルケナの隣には、唯一私が安心できる真面目で献身的なナリュア。

そしてミランの隣が、いつも通り目元まで髪で顔を覆い隠し無気力に俯いているライウェルである。

私も数ヶ月前まではあの列の後ろについて歩いていたものだが、今となっては懐かしい・・・いや、憎らしいぞ。

何故、来た?

そもそも私が死んだことにして現れない時点で、見習いとして何か察するべきだと思うんですけど、ん?

主人の意思を尊重しましょうよ、そこは。

しかもこんな大仰に登場しやがって。

私はただ平和に暮らしたいだけなの。

はあ、とため息をついてから人混みを抜けてシェリアの元に戻った。

シェリアは私の突然の行動に驚いた様子もなく、にこやかに笑っていた。

ん?いや、にこやかにっていうか。

ニヤニヤ・・・してる?

「あの、シェリア?」

私の声が耳に届いていないのか、人混みの方を見つめて逸らさない。

ここから見たってあいつらの姿は映らないのに。

「シェリア、シェリア!」

何度か呼びかけ、しまいには肩を揺するとゆったりとした動作で私を見た。

「あ、ああ。ネシア、忘れてた」

ポケーッとした様子のシェリアに疑問符しか浮かばない。

どうしたんだろう、まさか調子が悪いとか?

人混みに酔ったとか?

「ネシアには言っちゃおうかなぁ。あのね、えっとね・・・」

シェリアは少し頬を赤らめながらドギマギして次の言葉を紡ごうとする。

なんでそんなにためらう必要があるんだろう、少し不審に思いながらも次の言葉を待つ。

「私、七大魔強師様のハイネ様を・・・お慕いしているの!」

小声で私の耳に口を近づけて、それでも勢いよく言ったその言葉に呆気にとられる。

え?は?ん?待て待て待て待て。

あの腹黒策士野郎を?小姑野郎を?

嘘でしょ、ねえ嘘だと言って。

「やめたほうがいい」

咄嗟に出た私の言葉にシェリアはムッと口を尖らせる。

「もちろん難しい恋だっていうのはわかってるよ?でも、あの凛々しい立ち姿!端正な顔!うっとりしちゃうほど甘くて優しい声!ああ、もう!!あの方のお側に行きたい!!」

ギュッと自らの身体を抱きしめながら悶えるように言うシェリアは、本気だ。

全く、理解できない。どんな感性を持っているんだ、彼女は。

それに。実際にハイネの側に行ってみたらそんな気持ちはすぐになくなるであろう。

断言できる。

いやあ、それにしても。

あんな奴を想ういたいけな少女がいるだなんて・・・世も末だ。

私のそんな考えを知ってか知らずか、身震いするほど一際大きくハイネが声を出した。

「此度、アーネシア様に仕える我々7人は優秀な人材を探し出し、場合によっては俗に言われるシャルネイヤ一族へ加勢させることを目的に参った!」

見習いどもが一斉にどよめく。

彼らにとってはチャンスそのものだ。

だが、私にとってはピンチだ。

いや、別に逃げ惑わなくたって部屋に閉じ篭れば・・・。

「又、今回の引き抜きはアーネシア様のご意向により本日の日暮れまで自室へ入るのは禁止する。これは、皆に平等な機会を与えるためでもあり我々が求むる人材を見つけやすくするためでもある。アーネシア様の意を持ってここに宣言するが、それに異議があるものは直接言いにくるが良い。特例を認める場合もある」

言ってねえよ、そんなこと言ってないんだけど?

何勝手に名前使ってんだ、不敬罪で訴えるぞ。

逃げ道をふさがれ、額を手で押さえる。

さあ、どうしたものか。

試験前に理不尽なことを言われているのに他の見習いは不満を持つどころか嬉々としている。

ああ、もう!

わかった、わかりましたよ。はいはい。

正々堂々と・・・逃げ抜いてやる!


とまあ、的外れな考えに陥った私ですが・・・いやね?だってそれしかないじゃないですか。

彼らは私がアーネシアであることを確信しているわけじゃないだろうから決定的な高等魔術を使うわけにはいかないし。

だからと言って私はアーネシアではないと訴えてみても、とりあえず屋敷に連れ帰ろうとするだろうし。

結局は私の安全を確保しつつ、アーネシアが生きている事実を知らせないようにすればいい。

今の私にできることと言ったら逃げることのみ。


そんな覚悟を決めた直後、人々の騒めきが大きくなった。

未だに身悶えているシェリアは置いておき、再び人の山に入り込むと7人がこちらへ歩いて来ているのが見える。

なんだか眩しい。目がおかしくなったのだろうか。彼らにオーラが見える。

アーネシアとして彼らの側にいる時はそんな事感じたりはしなかった。

こうして魔術から離れてみると、いかに彼らの存在が大きかったかがよくわかる。

まあ、私には及ばないけどね。うん。

そんな悠長なことを考えているうちに7人は確実に私たちとの距離を縮めていた。

ギラリと光るアルケナの眼を見ると、急に焦り始める。

そうだ、一刻も早くここから離れないと。

捕まらないように、連れて行かれないように、生きていることがバレないように。

思い出せ、思い出すんだ。

どうしてこうなったのか、何が最善なのか。

私は何故己を亡き者にしようとしたのか。



あれは数ヶ月前。

私は愛鳥が直に届けに来た手紙に押された真紅の封蝋を忌々しく見つめていた。

この家紋にはいい思い出がない。今度は何用なのだろうか。

この封を開けるべきか、否か。

その選択を誤りたくはなかった。

数日前から机の引き出しにあったそれを暫く眺めてから、私は封を開けた。

手紙の内容は当たり障りのない話から始まり、幸福を祈るといって締められていた。

手紙自体に特に重要なことは書いていなかったが、直に話がしたいので都合のいい日を連絡してくれと面倒な要求が記載されている。

しかも1人で、という条件付きだ。

悪い予感しかしない。

しかし国の一二を争う貴族を無下にすることもできない。

私は翌日に約束を取り付けて、彼らと会うことにした。


「ということです、アーネシア嬢。お力をお貸ししていただけませんかな?」

「あら、楽しげな妄想と冗談を仰るために私を呼んだのですか?そこまで暇だと思われていたなんて、心外ですね」

彼らの言うことが突飛すぎてこめかみがピクピクと動く。

なにをふざけたことを。

私がそんな話に乗るわけがない。

「そうですか、残念です。それならしょうがないですな。貴方は我らの妨げになる存在。此処で命を落として頂きます」

高飛車ジジイの言葉に合わせておぞましいゾワゾワとした感覚が私を支配する。

これは、一度体験したことがある。

まさかっ!

一番考えたくないことが頭に浮かび周りを見渡す。

相手が指定してきたこの場所は森の奥深く。

木が茂っているはずの場所から砂煙が舞い上がっていた。

目をこらすと、先ほどの私の想像が当たってしまったようだった。

魔界獣ヤルサード、殺戮の象徴的存在であり大量の魔力を持ち攻撃的高度魔術を使用する。何よりも残虐だと言われる獣。

普段は魔界と言われる魔力で作られた世界にいるが、大量の魔力と高度召喚魔術を使って呼び出すことができる。

確か私を此処へ呼んだ彼らは私の見習い並みの魔術師を囲っているという噂を聞いたことがある。

そいつが呼び出したのだろう。

教養を施されているのか、魔界獣ヤルサードは私に狙いを定めているようだ。

ズドンズドンと足音を立てながらこっちに向かってくる。

私は前にも一度こいつと対峙したことがある。

グォォオオオオンッ!!!!

そう心臓に響く鳴き声を上げながら私に近づいてくるヤルサードを見ていると吐き気がこみ上げてきた。

五年前、街中に誰かの手によって魔界獣ヤルサードが召喚されたことがあった。

あの時に受けた背中の傷は今も深々と残っている。

治癒魔法を心得ていても魔界獣に負わされた傷には効かない。

確かに私を殺すには適している。

よく考えたものだ。

しかし、魔界獣を召喚し調教するなんて・・・。

って、そんなことを考えている場合ではない。

ヤルサードは物凄いスピードで私に迫ってきている。

ヤルサードの通り抜けた跡は、木々が灰と化して無惨な光景だった。

魔界獣が持つ魔力は人間のを生とすると死そのものだ。

人間の魔術で受けた傷ならば治すこともでき、草木花も再生させることが可能だ。

しかし、魔界のものが放つ魔術で受けたものはどうすることもできない。

数年はあの場所に木々が生えることはないだろう。

なんて愚かなことを。

でも逆に言ってしまえば、彼らにとってもまた人間の魔術で受けた傷は回復不可。

あれと対峙出来る人間は限れる。

私がなんとかしなければ。

近くにあった木の枝を折り、術式を唱える。

キィンと耳鳴りがして、木の枝は対魔界獣用の剣へと変わった。

足をしっかりと地につけ、魔力を溜める。

それでもじりじりと後退してしまうほどの衝撃波と共に低いうなり声を上げたヤルサードが突進してくる。

地を蹴り上げて体を宙に浮かし、振り上げられた獣の腕に剣をあてがう。

空気がブルリと揺れて弾き飛ばされる。

体が地面に叩きつけられる前に移動の術を使った私はヤルサードから少し離れたところに着地した。

赤く光る剣はドロドロとした紫の色の血が付いていて、私の顔にも同じものが跳ねている。

木の枝だって生きている。生に生の魔力を込めた剣は想像以上の威力を発揮してくれたようだ。

グォォオオオオオオオンッ!!!

因縁の獣が怒りの声を上げた。

さあ私を舐め腐ってる彼奴らに一泡吹かせてやろうじゃないか。

5年前の私はまだ幼かった。

今の私に、魔界獣なんてちょっと手の内が少なすぎたんじゃないか?

これが終わったら見習い引き連れて報復に行ってやるからな、覚えてろ。



そう、そう思っていたのに・・・

急に過去編行きました・・・もう少し続きます

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