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12封蝋

迷いなく食材を手に取り入れて行き、会計を済ませてしまう。

赤い果実、ナズの実

青い果実、ハーピャの実

白い果実、ノルネットの実

黒い果実、ワイザスの実

黄酒、ファイズム

紫のスパイス、タルマーゼ

それらが、(オリジナル)癒力スープの材料。

あとはその他、魔力抑制スープに使うもの合わせて先ほどの報酬の1割ほどだろうか。

癒力スープをまともに買うと、報酬をまるまる使ってしまう。

そんな馬鹿馬鹿しいことはしたくないので、絶対に成功させてみせる。

そろそろ魔術学校が終わるくらいの時間帯だろうか。

急いで、見習い寮に帰って待ち合わせ場所に行こう。

地味に重い荷物を持って、歩く。

幸いにもここから魔術学校はそう遠くない。


少しばかりライウェルのことが気がかりだったが、何事もなく寮に帰り食材を置いて魔術学校へと向かった。

外は日も暮れてきて、暗くなりつつあった。

だが、そんな景色も木々に囲まれた此処では奥ゆかしく感じられる。

ああ、こんな時にこそ魔術を使いたい。

私も屋敷にいた頃は、気分のままに庭園をいじくりまわしたものだった。

はあ、と然程昔の事でもないのに感傷に浸る。

やっと魔術学校が見えてきたところで、気持ちを切り替え小走りにカディさんの元に向かった。


少し開けた場所に出ると、「ネシアさーん!」と私を呼ぶ声が聞こえ声の方向に視線を彷徨わせる。

少しすると、クリーム色の髪を目印にしてカディさんを見つけ手を振った。

カディさんは、丸いテーブルと背もたれ付きの椅子が二つ置かれている場所にいた。

駆け寄って、空いている椅子に座る。

「突然お呼びしてすいません、お忙しいのに」

「いえ、ネシアさんも不慣れな場所でしょうし。少しでも自分が役に立てるならいつでも呼び出してください」

「ありがとうございます」

私が魔力を抑制しようなどと最悪な下心を秘めていることを知らないカディさんは胸が痛くなるほどの優しい言葉をくれる。

本当に、すいません。

感謝の言葉より先に全力で詫びたい。

しかし、私も必死なのだ。

此処で譲るわけにはいかない。

あのファイアオレストを披露すればカディさんにはいろいろと有利に働くが、私にとっては不利なことしかない。

「何か聞きたいこととかありますか?」

「えっと、あっ。聞きたいことっていうか報告があって」

「報告?」

「はい!今日、依頼を受けてきたんです!無事、成功して報酬も貰えたので。明日、何か美味しいものでも作りたいなって」

「それはおめでとうございます!凄いですね、昨日の今日で。どんな依頼だったんです?」

「割の良い仕事だったんですよ。キャ、じゃなくて、家具の補強です!足が折れてしまった椅子とか、そういう魔力式家具を直すっていう・・・」

咄嗟に、昨日見た難易度1の依頼内容を話す。

危ない、キャナイチュアなんて言ったら確実に変に思われる。

魔力式家具とは防魔の壁のように術式を刻まれた家具で、壊れても魔力を使うことによって直せるという環境に良い家具だ。

貴族なら使っているところも多い。

全壊していたら話は別だが、少しの補強くらいなら若き見習い下級魔術師だって出来る、お手軽簡単な依頼だ。

「ああ、そうだったんですね!とりあえず、お疲れ様です!」

「ありがとうございます!あ、それで料理の件ですが」

どこかへ行ってしまった私の本題を、取り戻すように話す。

「あ!すいません、話を飛ばしてしまいましたね」

全く悪意はありません、と言うようにサラリと謝るカディさん。

本当に申し訳ありません、私は悪意に満ちています。

「スープでも、作ろうかなと。頂いてもらえますか?」

いいえ、とは言わせないぞとカディさんの目を血気盛んに見つめる。

「はい、もちろんいただきたいです!料理はよくなさるんですか?」

それがスープへの自信と捉えたのだろうか、普通は引くべきところを爽やかな笑顔で言葉を返してくれる。

「よかったです!そう、ですね。料理は昔から作ってました、家事任されていましたし。あと、自分なりのレシピを作るのが好きで」

うん、嘘は言ってない。

ただ、普通の料理ではないけどね。

「そうなんですね、楽しみです。あっ、俺も報告することがありました!」

なんだろうか、カディさんが私に報告したいことって。

「これ、渡してって預かったんです」

そう言って渡してきたのは白い封筒。

【ルーネイ・ネシア様】との宛名。

裏を見てみると、これまた見覚えのあるものが見えた。

真っ青で特徴的なデザインの封蝋。

塔を模した形に、古代魔術文字でシャルネイヤ。

ああ、分からないはずもない。

私が適当に作った封蝋だ。

ちなみに青い色なのは、私が碧眼だから。

「それ、シャルネイヤ一族の封蝋ですよね?知り合いでもいるんですか?」

一族ってなんだ、一族って。

「シャルネイヤ一族、ですか?」

すると、キョトンとした顔でカディさんは告げる。

まるで、そんなことも知らないのかと言いたげに。

「大魔術師様と見習い、その予備軍を総じてそう呼ぶんです」

ヘー、ソンナコトハジメテシッタヨ?

張本人が知らない間に、七大魔強師だとかシャルネイヤ一族だとか・・・。

聞けばもっと出てきそう。

そんな考えも一瞬、意味を理解し始めると背中がゾワリと震えた。

シャルネイヤ一族の封蝋ってことは・・・もはや一人思い浮かんでしまう。

嫌な予感を全身で感じながら、封を開けて中の紙を取り出す。

手触りで質の良い物だということがわかった。

そっと開いて文を目で追う。

【ルーネイ・ネシア様

突然のお手紙、誠に失礼いたします。

先ほどの依頼の件のご無礼のお詫びにと今一度、お時間をいただきたくご連絡致しました。

明朝、お迎えにあがりますので魔術学校前へとお越しください。

尚、明日のご予定に不都合等がございましたら差し支えのないよう配慮致しますのでご安心ください。

ガーベ・メイリス・リー・ライウェル】

悪い予感的中。

惜しげもなく位を晒しやがって。

嫌味か?ん?

それに、これを書いたのは文体からしてライウェルじゃないだろう。

それなら、誰かって?

ハイネに決まってるわ、この策士が!

『用事があるんで』っていう言い訳が通用しないよう根回しされている所とか、あいつらしい。

どうせ、私を追いかけるのがめんどくさくなったライウェルは諦めて屋敷に帰り、一応報告したらハイネがそれは不審だ、と私を怪しみ、素性を調べ上げ手紙を書いて送らせたってところだろう。

本当に妙に勘が冴えててムカつく。

「なんで書いてあったんですか?」

興味津々に尋ねてくる無邪気なカディさんに、いろいろと疲れ切った私は返す嘘も見当たらず、とりあえず手紙を渡した。

「え!?これって、七大魔強師《銀乱のライ》様からじゃないですか!」

慌てて口を押さえる。

思わず笑い声が漏れそうになった。

必死にこらえてはいるが、多分頬はピクピクと引き攣っているだろう。

銀乱のライ?何そのネーミング。

真眼のアルケナを聞いた時より衝撃的なんですけど。

乱れるって何よ、あいつが乱れるって・・・

無気力人間のライウェルが・・・と考えていると、想像を絶する気持ち悪さに身悶える。

ライウェルが激しいダンスを踊っている光景を想像してしまった。

うっ、なんだこの不愉快さは。

「ぎ、銀乱って・・・?」

またキョトンと目を瞬かせるカディさん。

「普段はあまり動かないライウェル様が、魔術を使う時に魔力の波動で髪が乱れる様がカッコよくてそう呼ばれているそうです」

その言葉を聞いて、気持ち悪さが少し軽減した。

あぁ、そういうことね。

嫌な想像をしてしまった。

「今日の依頼で、ライウェル様にお会いしたんですか?」

もっともな質問に、こくりと素直に頷く。

「突拍子もなくデリカシーの無い事を言われて、逃げるように帰ってきたんです」

嘘なく告げる。

無駄な嘘はつきたく無いのだ。

「そうだったんですか」

これ以上は突っ込んで聞いてこないようで安心した。

カディさんは空気が読める好青年だ。

あの銀髪とは違って。

「それにしても、羨ましいです。同じくらいの年なのにメイリス・リーの位を与えられている彼に会えるなんて・・・」

どんな事を想像しているのだろう。

やめとけ、夢が壊れるぞ。

心の中で可愛げの無い事をぼそりと呟いて、カディさんに笑顔を向けた。

「折角なんで、明日行ってきますね。でも、スープはちゃんと作りますから!」

うん、行っておいでと保護者のような温かい言葉を私にかけてからカディさんは心配そうな顔をした。

「無理はしなくていいんですよ?明日じゃなくても、俺は構いませんし」

いや、私が困るんですよ。

「大丈夫ですよ!要件もすぐに終わるでしょうし、心配ご無用です!」

「そうですか?それじゃあ、楽しみにしていますね」

ふわり、と笑うカディさん。

本当に得する顔をしている。


私たちはそれからいろいろな話をしてから別れた。

寮に帰る途中、手紙をじっくりと眺める。

明日、どうしよう。

寮まで来られたら困るしな。

でも、疑われている中に行くのもかなり勇気がいる。

もう一つ言うと、もしそこにアルケナがいたら一貫の終わりだ。

本当に、どうしようか。

そこでハタと思いついたのは、変身の術を変異の術に変えること。

上級魔術になるので使ってこなかったが、外から魔力で包む変身の術とは対照的に内側から魔力を放出し続け見た目を変化させるのが変異の術だ。

それならば、もしもアルケナがいたとしてくぐり抜けることが可能かもしれない。

あいつだって、人の体内にある魔力までは見通すことができないはずだから。

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