彼と友人たちの日常は緩やかに流れていくらしい。
「それで、柊さん。ホムンクルスのほうは大丈夫ですか?」
「‥‥まあ、できそうな気もしないではないけど」
彼は煮えきらない答えを出しながら、物質生成の項目に指を添える。
(どうせなら、男女二人一組のものを二つ作った方がいいよな‥‥一人にひとつの家事用ホムンクルス。夢があるな)
柊はまず手始めに、一組のホムンクルスを造り出した。
金髪の少年少女のホムンクルスだ。
少年は執事服、少女はメイド服を着せ、小さめの鞄を肩から提げさせる。
鞄の中はちょっとした倉庫並みの容量を持つように設定してある。
「どう?」
彼は三人に、その出来を聞いてみた。
「‥‥いい‥‥」
「え?」
御崎の言葉を、智久が聞き返す。
「かわいい!柊、この子私にちょうだい!」
いきなりそう言って飛び付いてくる彼女に、少年執事が助けを求めるようにこちらを見る。
「嫌がってるから離れろ!」
そんな御崎を、智久が力ずくで引き剥がす。
「えーっ!?だってかわいいじゃん!どうしてダメなの~!?」
「コロコロかわる変な人ですね、御崎さんは」
そんな様子を見て、伊予が彼にそう耳打ちをする。
「御崎には決まった性格が無いんだよ。なんていうか、人の前で性格がコロコロ変わるというか」
「奇遇です。隠岐は中学校の先生にたいしてはいつもそうでしたよ?」
「あー、でも御崎は見境ないから」
「それは困った人です」
隠岐伊予はそうコメントして、ため息をついた。
(この先、真っ先に死ぬのは御崎さんかもしれませんね‥‥)
心の中で彼女は呟きながら、さてと彼の袖を引っぱる。
「隠岐は外で待っています。準備ができたら、すぐに来てください」
彼女は彼にそう耳打ちをして、その部屋をあとにした。
(全く、おかしな人たちが選ばれたものですよ‥‥)
彼女は一人、心の中でそう思う。
この四人の中で、最もこの状況を正しく理解しているのは、隠岐伊予、彼女ただ一人だ。
どうやら他三人の高校生は、これを神隠しか何かと勘違いしていたらしいのだが、まったくもってそれは不正解である。
それは、彼女自信の経験からも言えることだったが‥‥。
伊予はその帯を見つめながら、一人黙考する。
(チーム分けがこの世界で生きる分には、最低限必要‥‥かといって、御崎さんにあのような態度をとったのは、少し芳しくなかったかも‥‥)
と、していると、背中から声がかかった。
「お待たせ。で、このホムンクルスはついて来させてきたけど、問題なかった?」
自信の無さそうな顔で、彼はそう聞く。
「問題ないです。それで、エルフの件なんですが──」
(背後から殺気!?)
振り向き、伊予は一点を見据えた。
「どうしたの?」
「‥‥エルフです。こちらを狙っています」
「狙ってる!?え、でもエルフって僕たちを招待したんだよね?」
「──まぁ、平和ボケしているあなた方には、理解が遅れるでしょうけど」
不思議がる彼の前に立ちふさがるように、彼女は立つ。
「平和ボケって、それ酷すぎないか?」
「話しかけないでください。集中力が乱れます」
瞬間、彼女は目の前に拳を掲げた。
その拳には、一本の矢が握られていた。
その矢は折られ、塵となって消えていく。
「射られた?エルフに?」
膝を震わせ、力が抜けたように崩れ落ちる柊。
(ちっ‥‥もう毒が回っていましたか‥‥)
──幸い、創造物に身を包んでいる間は、エルフたちの精神毒に対抗できているけれど‥‥でも、彼にはそれがない。
(私が無理矢理気を変えないと‥‥)
「何でもいいですから、武器をお願いします。追撃しますので。話はまた後でしましょう」
──その光景を見て、僕の頭の中はフリーズした。
その情景を見ただけで、全てを理解した。
彼女の周りを纏う色に、彼は唖然とした。
神隠しなんてものじゃない。
これは──。
「はやく!」
気がついた頃には、俺は彼女に自動拳銃を渡していた。
これが、獲物の気持ちなのだと、理解した瞬間だった。
これが、これからの日常なのだと、彼は悟ったのだった。