魔王の居ない世界で少女はその記憶の在処を夢む。
その巨大な門扉が塵と化すと同時に、それは幕を開ける。
タタタタンッ!と、駆け抜け様に石の床を蹴り、少女は宙を舞う。
「せやあぁぁぁあぁあ!」
瞬間、その気合いと共に、相対するダークエルフへとその刃が降り下ろされた。
害意ある全ての物を塵へと変える能力、シャットダウンが付与されたそれは、彼女を護る闇色の殻を易々と突き抜け、そして──。
「っ!?」
しかし、それがダークエルフに届くことはなかった。
「開始早々物騒ですね、貴女は」
「‥‥」
睨む少女。嗤うダークエルフ。
相対する彼女の周りには、闇色の霧が舞っている。
魔王の下僕。それがあの霧の能力だ。闇の精霊を従え、影を操り、陰気を操る。
万物滅却の盾と鉾。それがあれだ。
しかし少女にはあれは無意味である。何故なら、彼女の持つ能力、害意物還元は、自分に対して障害となるもの、害意のあるものを全て塵へと化すのだから。
だが、さっきのあれは‥‥。
──初撃で決着をつけようと思いましたが、無理でしたね‥‥。
彼女は必死に頭を巡らせる。
本来ならば小学6年生であるこの年の頭で、今までの経験を全部ひっくり返して、考える。
何か勝機はないかと探る。
「‥‥無視、か‥‥お姉さん辛いよ?せっかく来てくれたんだから、何か話そうよ?」
しかし、少女には話す気はない。
突然の神隠し。かと思えば、エルフによる友人たちの暗殺。もとい、食人。
許せるはずもなかった。
彼女にあるのは、ただひとつ。
幼い身に宿る復讐心だった。
それから幾度となくその剣戟は続き、やがての決着を見せる。
「──合格だ‥‥私を倒せたんだ。約束通り、望みを果たそう──」
黒い塵へと化していきながら、それは最期の力を使った。
少女の友人たちは復活し、閉じ込められていた世界は焼失し、消失した。
目覚めたその日から、少女は思う。
すべての記憶をなくした友人たちへと、願う。
(もっと、強くなければ‥‥)
──弱者は仲間を守れない。
──亡くした記憶を、あれに取り戻させることができたなら。
──また、あの世界へと誘われたい。誘われて、今度こそはと仲間を守りきって、そして、亡くした記憶を取り戻してあげたい。
少女は願う。
世界に願う。
また、あの日が来ることを──そして、もうあの日がやってこないことを。
魔王の居ない世界で少女はその記憶の在処を夢む。