国家領域
今回は国家領域についてです。
ただし、ここで解説するのは国際法を基準とした原則のみで領土問題などは扱いません。
①領土
国家の主権が及ぶ陸地の事です。もっとも、その範囲については必ずしも世界共通で認められているとは限らず、国境線の画定を巡る問題と並んで係争中の地域もあります。それと、各国大使館のように治外法権が認められている場所もあります。
②領海
基線(領海策定にあたって基準となる線)から12nm(ノーティカルマイル:海里・1nm=1852m)以内で当該国家が自由に設定でき、その国家の主権が及ぶ海域の事です。
他国と隣接する海域は陸上の国境線を参考に、重なる場合は双方の基線から等距離にある中間線を境界として定めるのが通例です。もっとも、こちらにも境界線や認定の有無を巡る争いは存在します。
しかし、海上交通の要となる重要な海峡(例外あり)まで領海に含まれるのでは不都合が生じる為、あえて12nm未満の領海としている海域もあります。あるいは、可能な限り速やかに通過する事を条件に後述するものより自由な航行(航空機を含む)を認めている場合もあります。
そして、外国船舶は沿岸国の安全や秩序を乱さない義務を果たす事(逆に言えば、沿岸国は義務を果たしている船舶の航行を認める必要がある)で領海内を航行できます。
また、他国の海軍艦艇であっても上記の義務を果たし、同時に交戦の意思が無い事を明確な形(兵装や射撃レーダーを作動させない。国旗を掲げる。潜水艦の場合は浮上する、など)で示していれば領海内を航行できます。
ちなみに、満潮時に海面下へ水没する陸地・人工島・岩には領海・接続水域・排他的経済水域は設定できない事になっています。
③接続水域
基線から24nm以内の範囲で当該国家が自由に設定でき、原則は公海(どこの国家にも属さない海域)と同じものとして扱われます。
ただし、通関・出入国管理・衛生といった限定された法令違反への対処については当該国家の権限の行使が認められており、安全保障上の対応についても警告や監視などの強制力を伴わない行動なら可能としています。
④排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)
基線から200nm以内の範囲で当該国家が自由に設定でき、海域内(海底下も含む)の水産資源・鉱物資源・自然エネルギーの探査・開発・管理を独占的に行える権利を有します。
もっとも、これらの資源は採掘(水揚げ)されるまでは所有権は発生せず、自然エネルギーに関しても電力などに変換しなければ所有権を主張できません。
また、人工島や海上(海中)施設の建設、自然環境の保護・海洋科学調査といった事柄に対する許認可権も有しており、他国による事前申請の可否や違反時の許可の取り下げなども行えます。しかし、航行や上空飛行、海底へ通信ケーブルやパイプラインを敷設する権利は当該国家以外にも認められています。
さらに、こちらも領海と同じ条件で他国との境界を定めていますが、どこを基線とするかで両国の主張が食い違うなど外交問題にまで発展するケースが幾つもあります。
⑤領空
領土と領海の上空に広がる当該国家の主権が及ぶ空間です。一応、宇宙空間はどこの国家にも属さない事が条約で定められていますが、領空と宇宙空間の境界に明確な基準はありません。ですが、大抵の場合は大気圏内を領空としている事が多いように思われます。
ちなみに、領土と領海の上空に設定されるという性質上、境界線の画定していない領空も存在します。
また、当該国家の許可を得ずに侵入した航空機(飛行物体)には対領空侵犯処置を取る事ができ、航空無線による警告・軍用機による警告・威嚇射撃・強制着陸・撃墜と5つの段階を踏んで対処するのが基本ですが、紛争地域や独裁国家などでは一部が省略される事もあります。
ただし、無防備な民間機に対する撃墜行為は原則として禁止です。
⑥防空識別圏(ADIZ:Air Defense Identification Zone)
当該国家が防空上の必要性から領空とは別に設定した空域ですが、主権は及ばないので強制力を伴う法的処置を取る事はできません。
さらに、異なる国の領空とADIZが重なると航空機の運用に支障をきたす(自国の領空内を飛行するのに他国から干渉されるのでは矛盾が生じる)ので普通は設定しませんが、通過する航空機に対する何らかの監視活動を行っている可能性も否定はできません。
こういったADIZが設定されるようになった背景には、現代の航空機の移動速度では領空侵犯を確認してから行動していたのでは間に合わないという事情があるからです。そこで領空の外側にADIZを設けて常時監視活動を行い、ADIZへの接近(侵入)の兆候が見られる段階から対処を始める防空体制が確立されました。
ちなみに、ADIZに接近(侵入)する航空機の照合・照会にも利用される飛行計画(フライトプラン:事前に通報する飛行予定に関する計画)ですが、当該国の戦闘機による監視などを受けても構わない(防空体制を探る目的での行為など)なら敢えて提出しないという選択肢もあります。
⑦非武装地帯(DMZ:Demilitarized zone)
紛争(戦争)状態、あるいは停戦状態にある勢力間において条約や協定に則って設定する軍事活動を許さない地域の事です。なので、基本的には軍事境界線(停戦ライン)に沿う形で設定されます。
もっとも、停戦ラインそのものの位置を巡って双方の主張に食い違いがある地域もあり、ごく小規模な軍事衝突が繰り返されている場合もあります。
その為、国連の名の下で組織された部隊が派遣されてDMZ周辺に駐留し、停戦状態が守られているかを監視している地域もあります。
⑧実効支配
明確な定義はありませんが、概ね法的に認められた支配勢力とは異なる勢力が統治(支配)している地域を指します。
もう少し具体的に表現するなら、国連や国際社会から主権国家としての承認を受けていない(あるいは、極めて限られた国家しか承認していない)勢力が支配している地域の事です。
そういった捻じれを抱えている地域という事で常に緊張状態にあり、外交問題や軍事衝突にまで発展するケースも少なくありません。