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大罪のルティナ

作者: ゼシル

漆黒のローブを纏いフードで素顔を隠している人間が二人、広大な荒地に突っ立っていた。

一人は172cmくらいの身長で、フードの奥から鋭い眼光を覗かせており、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。体つきはローブで良く分からないがおそらく男だろう。

もう一人の人間は一人目と比べると小柄の155cmくらいで、胸元に僅かな膨らみが感じられる。少女と断言していいだろう。

男と少女を格好の獲物と見たのか、夥しい数の巨大な狼が二人を囲んでいた。


「レン・・・やれる?」


少女がレンと呼んだ男を見る。レンと呼ばれた男も其れに反応するように少女に目を向ける。


「ああ・・・。クロウウルフ150体か。やるぞティア」


レンはティアと呼んだ少女と背中合わせになる。ティアも其れに合わせる。二人が狼と対峙しようとした瞬間、闇のレーザーが降り注ぎ、吐き気を催す程いた狼の群れを一掃した。


「あはっ! 横取りしちゃったかな?」


この場に似合わない、幼さの残る声が響いた。

レンとティアは声のした方向、空に目をやった。するとそこには少女が空中で浮遊しておりレン達を見下ろしていた。身長はティアと同じくらいの150cm台で、フードに覆われていないその顔はあどけなさが残る美少女と形容して良い、とても整った顔をしていた。


「誰だ、降りてこい・・・」


レンが殺気を放ちながら少女に言った。少女は其れに従いゆっくりと降下し地面に静かに着地した。そして笑みを浮かべると口を開いた。


「ボクはルティナ。名前くらいは聞いた事あるんじゃない?魔王の右腕をやってるからそっちでもかなり有名な筈だよ?」


気さくな感じでレンに話かけるルティナと言う少女。レンは其れに動じずに、ルティナの問いに答えるように口を開いた。


「そうか、お前があの"大罪のルティナ"か・・・」


「ピンポーン!当ったり~!良く分かったね」


異様とも言えるハイテンションで、少々はしゃぎ気味のルティナにレンとティアは少しの間言葉を失う。其れ程までにレン達の思い描いていた"大罪のルティナ"がかけ離れていたからだ。

"大罪のルティナ"は残虐非道で、出会ったら最後嬲り殺される・・・と聞いていたからだ。冷徹で淡々と殺す"大罪のルティナ"というイメージは完全に崩れ去った瞬間だった。


「さて、そろそろ本題に入ろうかな・・・」


ルティナが声のトーンを少し落として一人呟く。その瞬間、レンとティアの全身の感覚が危険信号を発した。咄嗟に身構え、臨戦態勢に入る二人。


「お、大体汲み取ってくれたかな?ボクの狙いは君達二人がどれだけの実力を持っているか測る為にここに来たんだ。殺す気は無いから安心してね?じゃあ・・・・・・早速開戦と行こうか!!」


ルティナが言い終わる頃にはレンの眼前に移動しており、既に攻撃モーションに移っていた。

レンは即座に其れに反応し、身体を屈めて右フックを躱すとバックステップで距離を置き、間合いを取る。ルティナは追撃をせず、レンの事を見ていた。


「やるねぇ。あの速度の移動と攻撃を見切られるとは」


躱されたというのにルティナは追撃もせずレンに賞賛の言葉を送っていた。レンは其れを不愉快に感じたのか舌打ちをするとルティナに襲い掛かった。レンは全身を雷でコーティングしたかのように、電気がスパークをしていた。

レンは右ストレートをルティナの顔面目掛けて放つ。が、左手で払われてしまう。続いて腹部への膝蹴り。これも右手で押さえ込まれ掴まれてしまった。ルティナはレンの全身がスパークしていると言うのに気にもせずまだ物足りないと言うような笑顔を見せていた。ルティナは左手を引くとレンの顔面目掛けて拳を繰り出した。其れはレンの鼻にめり込み、鼻血を噴き出し、上体が大きく反れた。


「あはっ、クリーンヒットかな?」


レンの返り血を浴びて子供っぽい笑みを見せるルティナ。膝を掴んでいた右手も離し前蹴りをレンの腹部に見舞った。其れが当たりレンは地面を数回跳ねて転がるように滑って行った。

ルティナの背後からティアが空中で剣を振り上げながら向かってきた。


「んー、筋は良いんだけどまだまだかな・・・よっと」


僅かな移動と上体を捻ってティアの剣を躱したルティナは腹部に膝蹴りを入れた。ティアの身体が痛みにより鈍くなる。其れを見計らい顔面にも膝蹴りをめり込ませた。

鼻血を噴き出しながら仰向けに倒れるティアに追撃するように顔面を思い切り踏みつけ地面に叩きつけた。


「思ったより手応えが無いな・・・。ボクの見込み違いだったかな?」


ルティナが二人に聞こえるように言い大袈裟に肩を竦めて見せる。その言葉に反応するようにレンが静かに立ち上がった。鼻から鼻血を出し、唇の端から血を滲ませていても眼光はルティナを見据えていた。フードによって隠れていた短髪の黒髪が露わとなっていた。


「そうこなくっちゃ。まだまだ楽しませてよね」


「出し惜しみは止めといた方が良かったか・・・。闇炎ダーク・フレア


レンは全身に闇の炎を纏わせる。その熱量は離れているルティナも少し顔を歪ませる程の熱量だった。


「凄い熱量だね!ならボクもそろそろ体を動かそうかな。

"傲慢"」


ルティナの周辺にある地面の小石や岩などが浮かび上がる。魔力が飛躍的に上昇するのをレンは感じ取った。ルティナは全身に薄いオレンジ色のオーラを纏っていた。


「ふふ、光栄に思いなよ?"大罪のルティナ"の七つの大罪の一つ、傲慢を使って戦ってあげるんだから!」


七つの大罪・・・。ルティナは少なくともあと六つ能力を持っている事になる。其れを頭の隅に描きながらレンは警戒する。


(ティアはまだ倒れてる・・・。回復は難しいか?)


未だ意識の回復しないティアをチラッと見てそんなことを思う。


「余所見とは大した余裕だね!舐められたもんだ」


その言葉が聞こえたと同時に右顎に強い衝撃が走り顔面が跳ね上がる。痛みを堪えながらレンは反射的に蹴りを放つ。目で確認してたら間に合わない、そう判断したのだろう。だが蹴りは空を切った。


「"エナジー・レーザー"」


ルティナはレンの真上へ移動しており両手を空中へ上げて直ぐに下ろした。その約2秒後、極太の光のレーザーがルティナを呑み込みさらにその下に居るレンをも呑み込んだ。光のレーザーは天を貫く光柱となり神々しいかった。その最下層から細々しい闇の炎が垣間見えた。一瞬で消えはしたが直ぐに吹き返し多少押し上げ闇炎の塊がレーザーを突き破って出てきた。


「はぁ・・・はぁ・・・」


闇炎の塊は段々と人の形になり最終的に片膝を付いたレンに変化した。

ルティナは其れを見て良く出来たと言わんばかりに拍手をしていた。


「へぇ・・・炎にも変化出来るのか。ちょっと興味深いな」


「黙れ・・・! 」


怒気を含む言い方でルティナを黙らそうとするレン。レンは片膝を付いた状態から瞬間的に加速しルティナの顔面に向けてハイキックをかました。ルティナは蹴られるがままに吹っ飛ばされた。レンは追撃として闇炎を散弾させ、その全てをルティナに当たるように軌道を調整した。其れらは全てルティナの全身に直撃した。舞い上がる砂塵、レンは痛みを堪えながらルティナが倒れている場所を睨み、臨戦態勢に入る。

やがて砂塵の中から何事も無かったかのようにルティナが出てきた。


「まだ威力不足だね・・・実力差が出始めちゃったかな?」


嫌な笑みを浮かびながらルティナはゆっくりと歩みを止める事なくレンに近づいて来る。


「ぐっ・・・貴様は化け物か!?クソッタレが」


無傷のルティナに明らかな苛立ちを含んだレンは歯噛みする。闇炎を両腕を集中的に纏わせルティナの背後に回り腕を組んで頭上にあげ振り下ろした。


「クス・・・"怠惰"」


レンの動きが限りなく遅くなる。ルティナは其れを余裕を持って避けた。

そしてルティナはレンと向き合い指を鳴らした。途端にレンは息を吹き返したように動きが元に戻った。当のレンは何が起きたか分からないと言った困惑の表情をしており何かを振り払うようにルティナに殺気を放った。


「おお、怖い怖い。どうだった?怠惰になった気分は・・・?実に凄い能力でしょ?

何もしたくないと思ったでしょ?クスクス・・・面白いなぁ」


あからさまにレンを挑発するルティナ。レンは言葉が出なかった。ルティナに言われた事が図星だったのだ。

あの瞬間、何もかもが面倒くさいと思ってしまった。まるで脳が強制的に眠らされたかのような感覚だった。


「さて、時間も掛けられないから今日の所は一気に行かせてもらおうか!!"七重掛け"」


ルティナから衝撃波が発生する。ルティナの足元の直径5m程陥没し、ルティナを中心に爆風が吹き荒れる。


「ぐっ!? ・・・・・・こいつ、今まで俺達相手に手加減していたというのか!?」


今までとは桁違いの力に目を見張るレン。そして次の言葉が出てこなかった。


「・・・済まないねレン。"私"が本気を出したからには一撃で沈めてあげるよ。じゃあね・・・」


その言葉を最後にレンの意識はブラックアウトした。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


レンとティアとの戦闘を終えたルティナは気を失っている二人に必要最低限の治療を施し二人をただ見下ろしていた。

哀愁の篭った瞳で何か言いたげだが口に出さないような何とも言い難い表情をしていた。


「・・・・・・・・・またすぐ会うことになるだろうね。君達には期待しても良いかな?・・・クス。今度はもっと楽しませてよね」


それだけ言うとルティナは闇に包まれる。闇が晴れるとそこにはルティナは居なかった。

ただ倒れているレンとティアに少し強い風が吹き付けていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ルティナ強すぎですね! これで魔王でないなんて一体魔王はどれだけ強いんですかね。
[良い点]  安定の面白さでした!とにかくルティナが強すぎる!!それでいて7つある能力のうち2つしか使っていないとか……ルティナと戦ったレンとティアには同情しますww  怠惰の能力が若干チート過ぎる気…
[良い点] これ、一番好き! 短編なのに、三人の関係性も、キャラ立ちもはっきりしていて、マジぱねえ。 [気になる点] 短編なところ。 [一言] これをプロローグにしたこの続きが読みたいよ~。
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