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姓名不明

所属不明

 失礼、こちらの席は、空いておりますか?

 どうもね、歳をとると、息切れがひどくなってね……ああ、どうもありがとう。助かりました。


 ――ところで、その懐中時計は、新しいものですかな?

 ほう、最近の流行、と……いや失礼、生まれてこの方、流行など気にしたこともなかったものですから。

 ですが、そのデザインが、流行する日が来るとは。いささか、驚きを隠せませんな。


 おや、そのデザインが何を意味するか、ご存じないのですか?

 まあ、そうかもしれませんね。あなたは随分とお若い。革命戦争も、革命継承戦争も、あなたにとっては「歴史」でありましょう。


(私は冗談めかして、自分がギリギリの「戦中派」であることを明かした。

 私は革命継承戦争が停戦を迎える数週間前に生まれているから、完全に嘘ではない。

 とはいえ革命継承戦争は、停戦条約が結ばれる1年前には事実上終息していたので、不誠実な物言いではある)


 おっと、これは失礼。そうでしたか。

 いやいや、謙遜なさらなくて結構。あの戦争は、大変な戦争でした。

 始まる前も、戦争中も、終わった後もです。

 あなたのご家族は、あなたを無事に育て上げるために、それはそれは、苦労なさったことでしょう。あなたご自身も、あの戦後の混乱期を生き抜いたことを、誇りに思われるべきです。


 話が横道に逸れましたな。


 あなたが持っておられるその懐中時計に刻まれたマークは、旧帝国時代において、流浪民であることを示すマークでありました。

 流浪民は、成人と同時に、そのマークを額に刺青されておったのです。

 そしてその刺青がある限り、帝国のどこに行こうとも、人間として扱われることはありませんでした。

 街中では、最低ランクの店にすら入ることを許されず、生ゴミ同然のものを、お金を払って引き取ることで、食いつないでいたと聞いております。

 かといって村落においても、条件はさほど変わりません。むしろ、もしその村落で盗みがあったり、あるいは流産や死産といった不幸があろうものなら、流浪民が悪魔と結託して成した悪事であるとして、村民総出の私刑の末、最悪の場合、命を落とした、と。


 それゆえ、そのマークを負った者は、彼らの名が示す通り、流浪するほかありませんでした。

 街から街を巡り、いかがわしい、あるいは後ろ暗い仕事を請け負っては、再び何処ともなく消えていく。

 それが、流浪民の一生であったのです。


 まったく、世の中は、変わるものですなあ!

 かつては苛烈な烙印であったものが、若い方のファッションとなるとは。


(私は、その話は、自分が聞いている逸話とだいぶ違っていることを指摘した。

 このマークは伝書使(クーリエ)の紋章であり、今では新聞記者を中心として、情報流通を職業とする者の間で流行しているのだ、と)


 ――伝書使(クーリエ)ですか。これはまた、懐かしい言葉を聞きました。


 そうですなあ……そのような誤解が、若い人の間で広がっていたとしても、不思議はありませんなあ。

 なにしろ伝書使(クーリエ)は、原則として、流浪民でありましたから。

 そこで何かしらの取り違えが起こっているとしても、それもまた歴史というものでありましょう。


 ああ、大丈夫ですよ。私は伝書使(クーリエ)ではありませんでしたから。

 この通り、額にも流浪民の印はありません。

 ただ、そうですな、ご心配の通り、もし元伝書使(クーリエ)があなたの懐中時計を見て、そしてあなたが今語られたような誤解をもとにお話をされたとしたら、彼らは自分たちの名誉を傷つけられたと思うかもしれません。

 そこは、注意されたほうがいいでしょう。


(私は軽く頷くと、伝書使(クーリエ)について随分詳しいのですね、と話を振ることにした。

 ここまでは、台本通りだ)


 詳しい、ですか。

 そうですね――詳しい、とても詳しいと申し上げて、良いかと思います。


 あの戦争の間、たくさんのことがありました。


 私は、こう見えても、革命軍に参加しておったのですよ。

「貴族と言えど、同じ人間には違いない!」。この言葉は、若い私の胸を燃え上がらせました。

 当時、教会の腐敗は、私たちのような無学な人間にとっても、目に余るものでした。洗礼を受けるために寄付、日曜礼拝に参加するために寄付、葬儀のために寄付。洗礼においても、寄付の額によって祝福の言葉の長さが明確に違っていました。

 でもそれだけなら、我々は苦しみながらも、その苦しみに慣れてしまったかもしれません。


 ですが、この腐敗に異議を唱えられた方がいました。ゴルツ修道院長です。後に列聖されておりますから、聖ゴルツ様と申し上げるべきですな。

 聖ゴルツ様は、清貧と勤労を説かれ、聖職者こそが最も清貧と勤労の美徳を追求すべきである、と語られました。


 だのに貴族たちは、聖ゴルツ様を、異端として殺してしまった。


 それでも、聖ゴルツ様が火刑台の上で叫ばれたというかの言葉は、我ら革命軍の心に火を灯しました。

 神のご意思は、聖ゴルツ様の言葉を通じて我々の心に届き、我々は本来あるべき人の世へと世界を糺すことができたのです。


 ですが、そのためには、汚れた仕事に手を染める者も、必要でした。

 仕方のないことです。

 想像してください。旧レインラント帝国は、巨大な汚物貯めのような状況でした。

 これを清める掃除夫は、己の身を汚すことを覚悟しなくてはなりません。


 私は、そういう思いを胸に、己に与えられた任務を果たしました。

 そのことに悔いはないし、神の前に立った時にも、己の行いを恥ずることはないでしょう。


(私はそっと、戦争中に何をされていたのですか、と聞くことにした)


 ――私はね、帝国軍の捕虜を尋問する役目を負っていたのです。


 私の家は、まじない師と医者を足して2で割ったような仕事を、代々受け継いで参りました。それゆえ、私は人体の構造について、それなりに深い知識を持っておったのです。

 最初、私は軍医として革命軍に参加するつもりでおりました。

 実際、革命軍に身を投じて最初の1ヶ月は、軍医として働いておったのです。

 ですが、革命軍は、貧乏な軍隊でありました。弾薬にも事欠く軍隊が、医薬品を十分に揃えられるはずもありません。結果、簡単にいえば、軍医が余ってしまったのです。


 こうなると、ちゃんとした医学を学んだわけではない私は、真っ先に軍医の席を失いました。仕方のないことです。

 そして代わりに配属されたのが、尋問係でした。


 もう、ご想像いただけるかと思います。

 私と伝書使(クーリエ)の関わりは、そういう関係でした。


 彼らは本当に、手強い相手でした!

 帝国軍兵士にせよ、将官にせよ、そのたぐいの面々は、一晩あれば協力的になってくれました。

 ですが伝書使(クーリエ)だけは、絶対に口を割らなかった。


 革命軍にとって、伝書使(クーリエ)の発見と捕縛は、最優先命令でありました。彼らが持ち運んでいる機密文書は、戦争の行方を変える可能性があるのですから、躍起になるのも当然です。

 しかし伝書使(クーリエ)が運ぶ伝書筒には、特別な仕掛けがありました。彼らは一瞬にして、運搬している伝書筒を焼却できるのです。このため伝書使(クーリエ)を捕らえても、機密書類が無事だったことは、ほぼ、ありませんでした。


 ですから、捕縛に成功した伝書使(クーリエ)から情報を直接聞き取るというのは、非常に重要な仕事となりました。

 私自身も革命軍首脳部に呼び出され、自分の任務の重要性を何度も念押しされたものです。実際、軍医時代よりも、必要な資材の確保はずっと容易でしたよ。


 にも関わらず、私は最後まで、担当した伝書使(クーリエ)に喋らせることができませんでした。

 いえ、私だけではありません。革命軍の尋問係は、誰一人として、伝書使(クーリエ)に口を割らせられなかったのです。

 これは絶対に、間違いないことです。

 なぜなら革命戦争中、もっとも有能だとされていた尋問係は、私なのです。

 もし伝書使(クーリエ)の口を割らせることができた尋問係がいたなら、その尋問係こそが、最優秀とされたでしょう。

(老人の声は、奇妙な熱を帯び始めていた)


 それどころか、伝書使(クーリエ)を尋問することには、リスクすらありました。

 彼らは、決して、諦めないのです。

 それも「救出されるかもしれない」ことを期待し続けるのではなく、「自力で脱出する」機会を、諦めずに、最期まで、待ち続けるのです。


 私自身、一度、危うい思いをしたことがありました。


 その伝書使(クーリエ)は、まだ少女と言うべき年齢でした。

 ひどく痩せた、貧弱な体つきで、もし少年と言われたならば、それを信じたかもしれません。


 私が受けた任務は、いわば、無能な同僚がしでかした不始末の、尻拭いでした。

 そもそもの予定で言えば、彼女を尋問するのは、私ではなかったはずだったのです。


 どういう経緯で件の伝書使(クーリエ)を捕らえたのかは知りませんが、伝書使(クーリエ)をほぼ無傷で捕獲できたということは、あまりおおっぴらにできない、敵との内通があったのでしょう。

 哀れな若き彼女は、敵味方双方の手によって作られた、巨大な網にかかった蝶、といったところです。

 ですので、誰が彼女を尋問するのかも、既に予定は組まれておりました。悲しいかな、革命軍内部にもそういう手柄の奪い合いや、同僚への嫉妬、出世競争への執着といったものが、あったのですよ。


 ああ、いえいえ。


 私としては、正直なところ、伝書使(クーリエ)の尋問などという不毛な仕事を与えられずに済んで、実に重畳と思っておりましたよ。

 尋問すべき相手は多いのです。効率よく案件を捌いていかなくては、捕虜が餓死しかねない――そんな冗談すらささやかれるほど、私たちの仕事は多忙でした。


 しかるに、手柄を焦った愚かな同僚は、他の同僚たちと同じ結果しか得られませんでした。

 つまりは、完全な黙秘です。

 しかし、せっかく無傷で伝書使(クーリエ)を捕獲したのに、何も聞き出せないとあっては、革命軍上層部が激怒するのは自明です。何らか、成果が必要でありました。

 かくして尋問係を束ねる長の命令が、私に下ったという次第です。


 彼女を最初に見たときの印象は、「可哀想に」の一言に尽きました。

 前任者は、年端もいかぬ少女の口を割らせるなど簡単だと思っていたのでしょう。尋問のためではない、ただ己と――おそらくは前任者の助手たちの――欲望を満たすためだけに行われた行為の痕跡が、そのまま残っておりました。

 遺憾ながら、このようなことは、決して珍しくありませんでした。

 なにしろ結果だけが問われる仕事です。職務に対して不誠実で、非効率的な手段であったとしても、それで必要な情報ないし承諾が得られるなら、表立って非難できません。


 当然、かの伝書使(クーリエ)は、そのような無意味な尋問には、まるで屈しなかったのでしょう。

 期日が迫ってきたことに焦った前任者は、突然、その方針を大きく転換したようでした。つまり、過度の加害です。

 火箸を押し付けたのでしょう。彼女の左目は無残に焼けただれておりました。それだけでなく、顔には深い切り傷が刻まれておったのです。


 いやはや、なんとも無残で、非道で、残虐な仕事です。

 前任者は、せっかく捕らえた貴重な伝書使(クーリエ)を売春婦として消費しただけでなく、その身体機能を不可逆的に破壊してしまったのです。これでは何のために無傷で捕らえたのか、前線の兵士たちは何のために苦労したのか、わかりません。


 しかしこうなっては、やむを得ません。

 まず私は、彼女の身体を清め、大きな怪我を治療するところから着手しました。このまま放置すれば、とおからず死ぬことは間違いありませんでしたから。

 それから数日かけて、滋養のつくものを食べさせ、体力の快復を待つことになりました。尋問は、するほうも、されるほうも、体力を消費するものです。


 幸い、彼女は順調に快復しました。いえ、驚異的と言ってもいいですね。

 一週間後には意識もはっきりして、きちんと拘束しておかねば、すぐにでも逃げ去ってしまいそうなくらいにまで快復しておりました。

 いよいよ、ここからが本当の「仕事」です。


(このとき突然、老人の声から、異様な興奮が抜け落ちた。

 私は思わず「大丈夫ですか?」と聞いていた)


 ――ああ、ああ、失礼。大丈夫ですよ。

 あのときのことを、思い出しただけです。


 私には私なりに、こうすればどんな捕虜でも口を割るという、いわば必勝法がありました。


 尋問とは、共感です。

 そう。尋問とは、愛なのです。


 捕虜は最初、混乱し、怯えきっています。

 彼らの混乱と恐怖に正しく向き合い、共感し、愛することで、次第に彼らは私に心を開くようになります。実際、この段階で、半分以上の捕虜は協力的になってくれます。


 残り半分に対しては、身体的な実害としては小さいけれど、精神的打撃が大きい、効率のよい手段を用います。紐に、針に、ナイフ。あとはせいぜい、ペンチ程度。それで十分すぎます。

 焼きごてだの、鋸だのといった、美しからぬ道具は不要です。それらは捕虜の身体をひどく痛めるだけでなく、精神から正常な判断力を奪ってしまうことが多いからです――結果、捕虜は「必要なことを話して解放される」のではなく、「無意味な意地を貫いて黙秘する」ことを選びさえします。


 私は、混乱から解放された捕虜が、共通して抱く思いに注目しました。それは、「帰りたい」という、思いです。

 「帰る」というのは、ただ生きたまま家に帰れれば、それでいいというわけでは、ありません。帰ったあと、今までどおりに、平穏に、生きていけること。これが「帰りたい」という思いの、中心にあります。

 捕虜の身体機能を大きく損なってしまうやりかたは、この当然の心理に、真っ向から反するのです。


 そうではなく、私はあなたを無事に家に帰すために、あなたは無事に家に帰るために――苦痛に満ちた非日常から、安全な日常へと帰還するために、互いに協力する。

 それが、わたしのやり方です。

 捕虜に対する共感と愛こそが、彼らの真の協力を得るための、秘訣なのです。


 ですが……

(老人は、しばらく口ごもった)


 ですが、彼女は、何かが違いました。

 いや、何もかもが、違っていたのです。


 本格的な尋問を始めるにあたって、私はまず、自己紹介しました。

 尋問は、共同作業です。互いに互いの名前も知らないようでは、建設的な結果は得られません。


 しかし彼女は、私の名前を聞くなり、「連絡があります」と言い始めました。

 今でも、彼女の「連絡」のことは、一字一句覚えております。


「レインラント帝国の支配者、ビューラー皇帝陛下から、あなたへの伝言です。

 帝国は、あなたを月額最低2万ターラーの給金で雇用する準備があります。

 最低雇用期間は6ヶ月間。期間満了後に、再契約の検討を行い、この段階で終身雇用をお受けすることもできます。

 身分としては、最初は上級技師として。成果次第で、叙勲及び一代貴族資格が授与される可能性があります。

 連絡は以上です」


 先ほど、捕虜は混乱し、恐怖しているものだと申し上げました。

 ですがこのときばかりは、私が混乱し、恐怖しました。


 彼女はまさか、私にこれを伝えるために、わざと捕らえられたのだろうか?

 こんなとんでもない提案がなされたことが上司にバレたら、私は反革命分子として処刑されるのでは?

 むしろ彼女は既に正気を失っていて、これはただの妄言なのでは?


 混乱と恐怖から脱しきれぬまま始めた尋問は、当然ながら、まともな成果を得られませんでした。

 いえ――私は完全に、己を失っておりました。まるで悪夢の中を歩むかのように、日頃の自分ではあり得ぬほど、彼女の身体を無意味に傷つけたのを、覚えております。

 私は、恐怖していたのです。

 共感どころか、理解すら及ばぬ存在と、密室において、1対1で立ち向かっているという状況に、深く、深く、恐怖していたのです。


 私のことを、「革命軍の怪物」と呼ぶ者がいることは、存じております。

 やむを得ないことです。彼らは真の怪物がいかなるものであるか、知らないのですから。

 私の目の前で、華奢な体を椅子に縛りつけられたまま、無表情に尋問に耐え続けるあの少女こそが――怪物でした。


 まもなく日が暮れようとする頃、私は尋問を中断しました。

 怖かったからです。かの怪物と、同じ部屋で、夜を迎えるのが。


 それから、私は急遽、上司に面会することにしました。

 この世のあらゆる壁には、耳がついております。あのような提案があったということを、悪意ある同僚に報告されてしまうよりは、自分から報告しに行ったほうが良いに決まっています。

 それに、「私に対する引き抜きが画策された」という情報が持つ意味を、私自身で判断することなど、できません。私はただの尋問係であり、情報を集めるのが仕事であっても、判断するのは仕事ではありませんから。


 残念なことに、そのとき上司は片道2日ほど先の城塞で、別件を処理しておりました。

 ですので私は、尋問の続きを前任者に任せ、上司への報告に向かうことにしました。同僚たちは、私が伝書使(クーリエ)から何か重大な情報を引き出したのだと信じていたようで、嫉妬と興奮で色めき立っていました。

 私は、焦っていたのでしょう。その嫉妬と興奮が何を導きうるか、想像できませんでした。


 上司への報告を終え、再び尋問の場に戻ってきた私は、3日前の朝、伝書使(クーリエ)が脱走したことを知らされました。

 かの少女は、またしても我欲を満たそうとした前任者を音もなく絞め殺すと、誰にも気づかれることなく逃げ去ったということです。

 そんなことがあり得るか、私は彼女の右足つま先を、ほぼ完全に破壊していたのだぞ――と言おうとしましたが、言っても詮無きことだと思い直しました。


 怪物は、来て、伝えて、去った。それが、すべてです。

(老人は再び口を閉ざした。しばらくの間、沈黙が落ちた。

 その沈黙には、明らかに、恐怖が滲んでいた。

 かの怪物が、いまも老人をどこからか見張っている――そんな恐怖が)


 本当に、多くのことが起きた戦争でした。

 ですが、あんな怪物に出くわしたのは、後にも先にも、あのときだけです。

(老人は、再び沈黙した。

 私は無意識のうちに、懐中時計を触っていた)


 ……やれやれ、少し休んだら、また歩こうかという気力が湧きました。

 こんな老人の昔話につきあってくださって、本当にありがとうございます。

 もうお会いする機会もないでしょうが、あなたに神の祝福があらんことを。


(そう言うと、老人はゆっくりと立ち上がり、去っていく。

 私はその背中に、声をかけた。予定にはない行動に、周囲の監視員たちの間に緊張が走るのが、はっきりとわかった。

 だが私は、言わねばならない。

 そしてこのイレギュラーな行為が、誰かの怒りや、失望を買うこともない。

 唯一、目の前の老人を除けば)


「窮地に追い込まれた人間は、家を恋しく思うものなのでしょう。

 ですが、伝書使(クーリエ)には、帰還すべき使命はあっても、帰るべき家などありません。

 確かに、彼らには旧帝国内務省から宿舎が与えられていましたが、それが彼らの〈家〉であり得たはずはないでしょう?」


(私の言葉を聞いた老人は、雷に打たれたかのように、びくりと体を震わせた。

 そうしてしばらく棒立ちになっていた「革命軍の怪物」は、何も言わぬまま、いずこともなく去っていった)


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