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エルシュペー伯トーレス

元レインラント帝国陸軍小将、現レインラント共和国市民軍中将

(その後、極めて高い緊張に満ちた時間を彼らと過ごした私は、ヴォイグ氏の「夜も更けたから家まで送ろう」という紳士的な提案を最後に現場を後にした。ヤノーシュ氏は「自分で自分の身も守れぬくせに伝書使(クーリエ)とは」とかなんとかブツブツ言っていたが、そこはまあ、私も同感だ。

 とはいえヴォイグ氏の「すぐそこだから歩くぞ」にはちょっと怯えた――伝書使(クーリエ)の言う「すぐそこ」を信用してはなるまい――が、歩き始めてみると実際それほど遠いわけではなく、途中で置いて行かれることもなく無事歩き通せた。歩くペースは早かったが、さすがにこっちも歩くのは商売のうちだ。

 歩きながら、いろいろな話をした。

 多くは、ヴォイグ氏の独り言で、私は相槌をうつだけだ。

 最後に彼は「この国は、今のままではダメだ。誰かがなんとかしなくては」と呟き、「もし君が協力してくれるのであれば、アレンカに連絡しろ」と言い残すと、夜の街を去っていった。

 部屋に戻った私は、着替える気力もないままベットに倒れこむと、そのまま夢も見ずに眠った)


(翌日、やや溜め込み気味になっていた新聞社の仕事を片付けて家に帰ると、家の前にエルシュペー伯の紋章をつけた従卒が立っていた。思わず、溜め息が漏れる)


 あなたがリュシール・アルダン様ですね?

 我が主人がお呼びです。急ぎ、館までご案内いたします。


(せめて着替えさせてくれないかとも思ったが、考えてみれば伯爵邸を訪問するのに適した服を持っているわけでもない。

 私はひとつ頷くと、5分だけ時間をもらい、仕事道具を部屋に押し込んでから、従卒のもとに向かった。

 従卒に連れられて少し歩くと、伯の紋章つきの馬車が待っていた。

 お世辞にも豪華な馬車ではないが、堅牢さと突破力は相当のものと見た。これは馬車というより、戦車(チャリオット)と言うべき何かだろう。

 黒塗りの馬車に揺られて15分ほどで、館に到着した。館もまた質素なもので、実にエルシュペー伯らしい。従卒にエスコートされて正面玄関に向かうと、中では老いた執事が待っていた。キビキビとエスコートがバトンタッチされ、館の中を歩く。

 中に入ってみると、質素に見えるがなかなかしっかりとカネのかかった作りなのが、私の目にもはっきりとわかった。このあたり、伯爵家には必要な投資ということだろう。

 しばらく歩いた私は、応接室に通される。お茶が振る舞われ、そこで待つこと5分ほどで、エルシュペー伯がその姿を現した)


 おお、生きていたか。

 両手両足、きちんと揃っているようだな。ならばよし。

 こと君の情報に関しては、この目で見るまではどうにも信用できんからな。


(エルシュペー伯は私を見下ろしながら、何度も頷く。

 ……って、これが目的? これだけ?)


 せっかくここまで来たのだ。

 面白いものを見せよう。ついてこい。


(エルシュペー伯は着座すらしないまま、踵を返す。

 私はあわててお茶を飲み干すと、立ち上がってその後を追った。

 廊下を歩き、階段を登って、いくつかの扉を抜けた先で、エルシュペー伯は立ち止まると、懐から鍵を取り出した。鍵を開けた彼は、秘密基地を自慢する男の子のように、にんまりとした笑みを浮かべながら、扉を開いてみせる)


(扉を開けた先には、大きな部屋があった。

 部屋の中央には、これまた巨大なテーブルが鎮座している。

 が、真に驚くべきは、そのテーブルの上に置かれている、模型だった。

 テーブルの上には、首都の精密な模型が、一面に広がっていたのだ。しかもその街路のあちこちに、騎兵や歩兵、大砲の人形まで置かれている。

 これは――なるほど、秘密基地だ)


 次の戦争がどのような戦争になるかは、知らん。

 だが次は必ず、この首都が戦場となるだろう。そういう覚悟が必要だ。


 先の戦争においては、我々帝国軍の間には、「ウルム大要塞は決して突破されない」という前提があった。ウルムの要塞が突破されるような可能性を論ずることは、かの大要塞を建設したゲルハルト大帝の威光を疑うものである、とな。

 馬鹿げた話だ。ウルム大要塞を突破された我々は、そこからどう守るか、あるいはどう反撃するかについて、確固たる戦略を持ち得なかった。ヴージェとファールンが攻めて来なかったら、私もまた絞首台に登っていただろうよ。


 次は、そんな無様な真似はさせん。


(テーブルの上では、激しい市街戦が展開されていた。

 あちこちに炎上を示す赤い綿が置かれ、歩兵の人形が散乱し、騎兵の人形が倒れている。

 それはおそろしく静かで、そして禍々しい光景だった。

 だが同時に私はその光景に、心の底から、見とれていた。

 誤解を恐れずに言えば、それは――美しかった)


 ミコラーシュは、この模型を滅多な人間に見せるなと言っている。奴が何を心配しているのか、私にだってわかる。

 だが、当のミコラーシュはもちろん、バルマーのように毎週この部屋に通ってくる者は多い。ショーシュの小僧に至っては、毎度毎度、実によく考えぬかれた机上演習規定書を持ってくるくらいだ。あれは、きちんと本にして模型と一緒に売れば、ガキどもの良い玩具になるだろうな。


(エルシュペー伯の説明は、半分も頭に入ってこなかった。

 私はただただ、目の前の「戦争」に、見入っていた)


 ……随分とそれが気に入ったようだな。

 それだけでも、連れてきたかいがあった。


(私は小さく頷くと、なおも模型に見入った。

 大聖堂には歩兵4個小隊が立てこもり、高所には大砲が2門。

 この防御線を前に、歩兵10個小隊が足止めされている。

 歩兵3個小隊が大聖堂の裏手に回ろうとしているが、このままでは大鐘楼にこもった狙撃兵がその大半を片付けるだろう。

 だが迂回を試みている3個小隊は、油樽と火口を携行している。

 これを使って大聖堂に隣接する僧房に火をつければ、発生する煙は、鐘楼から見たときのキルゾーンとなる墓地を覆い隠す可能性が高い。


 そんなことを考えながら、私は何気なく、迂回中の3個小隊を僧房に入らせた。そのあたりにあった赤い綿を、僧房に置く)


(エルシュペー伯は、そんなことは予想していたとばかりに、大鐘楼の狙撃兵を、より墓地の見通しが効きやすい、屋上へと移動させた)


(私は少し考えてから、軽く屈みこむ。

 それから、大聖堂正面で釘付けになっていた10個小隊のうち、5個小隊を大聖堂へと突撃させる。残る5個は援護射撃だ)


(エルシュペー伯は大聖堂内部にいる歩兵と大砲を軽く配置換えして――そしてわずかに眉をひそめた)


 なるほど。屋上の狙撃兵は、突撃してくる歩兵を撃てんな。

 鐘楼からなら射線が通るが、屋上からでは通らんか。

 だがこれでも、突撃した連中は、半分は死ぬぞ?


「ですがこれで大聖堂は陥落します」


(私は突撃した5個小隊のうち3個小隊を大聖堂前の広場に倒し、2個小隊を聖堂内部に突入させる。

 続いて援護していた5個小隊が、突入を開始。

 聖堂内部の4個小隊が全力でこれを迎え撃てば、突入した2個小隊が4個小隊を背後から殲滅する。大砲は装填中で、射撃できない。大聖堂の防衛隊は、全滅するだろう)


 ふむ。君は指揮官にも向いているかもしれんな。


(私は激しく頭を横にふる)


「とんでもありません。

 この戦闘で、歴史ある僧房は焼け落ち、少なくとも50名前後が死にました。

 私にそれを命じる度胸は、ありません」


 だが必要とあれば、君はそれを命じる。

 なぜなら、それが最適解であることを思いついた以上、君にはそれを選ばないという選択肢はなくなるからだ。

 違うかね?


(私は無言で、大砲のミニチュアの上に、赤い綿を置いた。

 進退窮まった砲兵は、降伏が許されないのであれば、その場に備蓄した弾薬を爆発させ、大聖堂に侵入した「敵」を、己と大聖堂ごと葬るだろう)


「――おそらく。

 私はきっと、やるでしょう。

 自分がただの新聞記者でよかったと、心底思います」


 君が、ただの新聞記者とはね!

 そろそろ教えてくれてもいいだろう。昨晩は、何があった?

 例の地下倉庫の主から、どうやら君が何者かに誘拐されたようだという連絡を受けたときは、気が気ではなかったぞ。


「伯爵には、感謝の言葉にできないほど、多くの援助を頂いています。

 ですがそれでも、お話できないことは、あります」


 それは俺も同じだ。

 だが俺はお前に、俺の秘密の1つを見せた。

 ならばお前も俺に、秘密の1つくらい、明かしても良いとは思わないか?


(伯は急に砕けた口調になったが、決して不快ではなかった。

 実際のところ、ここに至る前で伯の愛人であるという噂を本気で否定しようとしなかったのは、伯に「お前」と呼ばれるのが、少し嬉しかったからだというのは、ある)


「――仕方ありませんね。

 では、昨晩何があったかを、話せる範囲で、簡単に」


(私はざっくりと、昨晩起きたことを説明する。

 とはいえ、隠すことはほとんど何もない。元伝書使(クーリエ)たちの、名前くらいだ)


 なるほどな。

 しかしお前までもが伝書使(クーリエ)だったとはな。

 アーシュといい、アレンカといい、お前といい、近頃のお嬢さんは男より威勢がいいようだ。


(私は軽く首を横に振る)


「私は、先帝陛下から正式に任命された伝書使(クーリエ)ではありません。

 もっとも、心の奥底には、自分は伝書使(クーリエ)の一員だという誇りがあります。超人的な体力も、戦闘技術も、サバイバル術も、なにひとつ身につけてはいませんが」


 人が〈何者かになる〉には、資格や承認が必要だ。

 だが人が〈何者かである〉ためには、誇りさえあればいい。

 お前が己を伝書使(クーリエ)だと誇るならば、お前は伝書使(クーリエ)だ。

 ――とはいえ、なにやら複雑な事情も、あるようだな。

 そこは俺にはまだ話せない、のか?


「まだ、今は。

 ですが、そう遠くない将来、何もかもお話しします。

 なすべき任務を果たすまで、あと一歩というところまで近づきましたので」


(ふむ、とエルシュペー伯は大きく頷いた。

 だが続く言葉は、まったくの予想外だった)


 それは、非常に良くない状況だな。

 お前ほどの人間が、何をしている?


「――何を、と言われますと?」


 任務達成まであと一歩なのだろう?

 ならばなぜ、今日のうちにその一歩を詰めなかった?


「い、いや、それは……

 まだ準備が必要ですし、それに1日で片付くことでは――」


 ということは、今日は何もしていないということか。

 お前は馬鹿か? いったい何をグズグズしている?


 いいか。現代の戦争は、速度だ。速度が、勝負を決める。

 敵組織の内部を情報が移動するより早く、こちらが動く。動き続ける。敵の持つ情報を、常に時代遅れの情報とする。

 そして可能であれば敵の全縦深に対し、一撃でこれを麻痺させるような打撃を加える。最前線から最高司令部まで、同時に打撃を与えるのだ。敵はこちらの速度に加え、同時に発生する膨大な情報にも対処しなくてはならない。こうなれば、もはや敵の数など問題ではない。


 それを成しうるのが、騎兵だ。俺たちがアルツェイに無理して転進し、強行軍を重ねた疲労を無視して突撃を敢行したのは、この理論に基づく。

 アルツェイに布陣したヴージェ軍に、ファールン軍が負けたという情報が届くよりも早く戦場(アルツェイ)に到着し、ヴージェ軍が状況を把握できていない間に、さらに彼らが対応すべき状況を複雑化させる。


 これが、騎兵の戦いだ。これが、俺たちの戦いだ。


(私は半ば呆然と、エルシュペー伯が語る言葉に耳を傾けていた。

 彼は決して、猪突猛進の猛将というだけではなかった。

 彼は、速度を武器にするという意味を、誰よりも知り抜いていたのだ。

 情報より早く、進撃する。

 その途方もない野望を、彼の騎兵隊は、成し遂げた。それが、アルツェイだったというわけだ)


 翻ってお前は、貴重な時間を無駄にしている。

 何に怯えている? 何を恐れている?


(私は目を閉じ、ひとつ深呼吸する。

 怯えているつもりはないが、歴戦のエルシュペー伯が私の内側に怯懦を見ているというなら、私はきっと怯えているのだ。

 ではいったい、何に?

 その答えは、すぐに出た)


「私は――最後の詰めに入ること、それそのものに、怯えています。

 正直に告白すれば、今回の件は、もう私の手に余っています。

 クラマー元少将に拷問される程度であれば、まだ状況は私のコントロールする範囲にありました。

 ですがミコラーシュ大将に使命を授けられ、アレンカ女史に出会い、地下室の男に出会い、そして元伝書使(クーリエ)たちの秘密結社に出会った今、私にはコントロール不能なところにまで状況が拡散しています。

 ですから、なおさら急がねばならない。その通りです。

 なのに私は今日、無関係な仕事から、真っ先に手をつけました。

 まだまだ後回しにできる仕事だと思いながら、それ以上何も考えずに、関係のない仕事を片付けました」


(一瞬、口ごもった。

 ここから先は、自分の弱さを語るだけになるから。

 でも、もう言葉は止まらなかった)


「怖いんです。この巨大な絵に、最後の一筆を入れるのが。

 その一筆をしくじったら、何もかもが失われます。すべての努力は、水泡に帰します。やり直しなんて、許されない。

 たぶん私はいま――泣きたい出したい気持ちで一杯です。

 絶対に、失敗したくない。絶対に。失敗なんて、できない。

 でもこの一筆は、ほんの小さなミス1つ、不運1つで、すべてを破壊します。

 そのプレッシャーに、私の足は、すくんでいます。

 そして、『もっとしっかりと準備する』という、一見すると合理的な選択に、逃げ込んでいます」


(せきを切ったように、口から言葉が迸った。

 そしてようやく、私は自分の尊大さを思い知った。

 私は〈これ〉を、すべて一人でできると思っていた。

 そして、そのように振舞ってきた。

 だが実際には私は、最後の最後で、不安に押しつぶされ、一人でうずくまろうとしていた)


「怖いんです。

 伝書使(クーリエ)の誇りを胸のうちに抱いているはずの私の足は、もう、動かないんです。

 失敗することより、失敗するかもしれないことが、怖い。

 いえ、違います。

 何かを選ぶことが、怖い。

 何かを決断することが、怖い。

 何もかもが、怖いんです。

 もう、何もしたくない。放り出したい。

 なのに、手を打たなきゃいけない。

 手を打たなきゃ、この状況は私自身をも喰らい尽くす。

 わかってるんです。

 でも、怖い。怖いんです!

 考えることさえ、怖い!

 何もかもが、怖いんです!!」


(自己嫌悪と恥ずかしさに、視界がゆがむ。

 けれどここで泣くわけには、いかない。

 エルシュペー伯に、そこまで弱い私を、見せるわけにはいかない。


 だが伯は、そんな私に何を言うでもなく、ただカップを突きつけた。

 初めて会ったとき、彼の執務室で使った、あのカップだ。

 カップを手に取ると、中には例の酒が入っていた。臭いですぐにわかる)


 飲め。

 我らが栄光ある黒騎兵隊に、乾杯だ。


(乱れきった感情を押し込めるように、カップに注がれた酒を呷る。

 あのときと同じように、一気にアルコールが体の中を駆け巡った)


 馬鹿者が。この、大馬鹿者が。


 戦場は、怖いに決まっているだろう。

 俺だって、怖い。当たり前だ。


 騎兵の命は、速度だ。敵より早く。敵の思考より、早く。

 だからいつだって、決断は一瞬で下す。

 さもなくば、騎兵などという巨大な的は、歩兵銃の前に血祭りだ。

 だがそうやって一瞬で下した判断が間違っていれば、俺も、部下たちも、誰も彼もが死ぬ。


(エルシュペー伯の大きな手が、私の頬に触れた。

 そのいかつい指が、頬をそっと撫でる。

 いつのまにか、私は泣いていた。涙は、こらえていたはずなのに)


 戦場全体をコントロールできる者など、この世にはいない。

 昔、ショーシュに聞いたことがある。

 お前の指揮は、戦場を支配しているようにすら見える。

 どうしたらそんなことが可能なのか、と。


 奴は散々悩んだあと、言ったよ。「戦場の完全な支配は、無理です」とな。

 戦場に、正解などない。「より間違いから遠い選択」があるだけだ。

 戦場は、そんなクソッタレな場所だ。

 ショーシュが言うんだから、仕方ない。


(涙が、止まらない。

 正解がないのに、それでも正解を追求しなくてはならないだなんて)


 それでも俺は、決断し続けねばならない。

 それでも騎兵は、走り続けねばならない。


 しゃがみこんで、後悔する暇など、どこにもない。

 弱音を吐く暇があったら一歩でも前に進むのが、騎兵だ。


 それは伝書使(クーリエ)だって、同じだろう?

 違うのか、伝書使(クーリエ)リュシール?


(泣きながら、ゆっくりと、頷く。


 そうだ。

 どんなに怖がっても。

 どんなに躊躇っても。


 私は伝書使(クーリエ)だ。

 何をしくじったとしても、伝書使(クーリエ)の誇りだけは、汚してはならない)


 だが戦場には、一人で戦わねばならんという掟はない。

 言え。お前の次のターゲットは、誰だ?


(私は一瞬だけ躊躇ってから、計画の最終段階を打ち明けた。

 これだけ無様にボロ泣きしているいま、もうなりふり構ってなどいられない)


「共和国警察大臣にして市民軍参謀本部長を務める、イグナーツ・オンドルフ閣下です」


(エルシュペー伯は、盛大に舌打ちをした)


 なるほど、奴が相手か!

 それは多少足が竦んでも、仕方ないかもしれんな。

 だが、だからこそ拙速を重んじるべきだ。

 面会の予定は?


「まだアポイントは入れていません」


 馬鹿者。明日の昼に約束をねじ込め。

 それくらい、できるだろう?


「はい。

 ――必ず、明日の正午に」


 いいだろう。俺は明日の正午、警察本部前の広場で黒騎兵隊の閲兵をする。

 もちろん、偶然に、だ。

 だがお前は、その状況を好きなように使え。

 オンドルフの執務室からは、広場が見えるはずだ。


 ああ、そうだ。いざとなったら、窓を叩き割れ。

 それを合図に、騎兵隊が警察に突入する。


(ちょっとレベルが違う「援助」の申し出に、思わず鼻白む。

 ああもう、この人の相手をしていると、自虐の涙にくれる暇すらない)


「それ、戦争になりますよね?」


 もうこの国は、戦争をしてる。

 そろそろ、取り繕う必要もあるまい。


「まあ、そうかもしれませんね。

 伯爵も準備は万端のようですし」


 ふん、ようやくマシなツラになってきたな。

 ならば、行け。明日は決戦だ。

 さすがに、オンドルフとの一騎打ちに、二日酔いで顔を出すわけにはいくまい?


「あれは、最悪の経験でした。

 同じ間違いは繰り返さないのが、ポリシーですので。

 ではこれで、失礼します」


 ああ。

 相手が誰であろうと、戦うからには、勝てよ。


(エルシュペー伯のハイレベルな要求を聞いた私は、軽く笑ってそれを受け流す。

 いつのまにか、涙は止まっていた)


「勝ちます。そして必ず、ここに帰ってきます。

 私は、伝書使(クーリエ)ですから」


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