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幽体離脱8
今回は馬上目線です。
夕暮れだった。夕日が沈みかけて、オレンジ色だった空は群青色に染められていた。冬の冷たい風が木を揺らし、俺の冷たい頬を掠めて去った。
帰り道は意外と人が多かった。駅から住宅街へと向かうサラリーマンや学生は不思議と速足で、俺を置いて行くようにぬかしていった。
住宅街に差し掛かると、あたりはもうすでに暗くなっていて、家の明かりと、街灯だけが暖かそうな色をしていた。人の流れの中、ひとり左へ曲がり神社の境内に入る。すると空気が軽くなったような気がした。
階段を上がり、お賽銭を入れ、両手を合わせる。
どうか、彩の風邪が早く治りますように。
それだけを願うと、一礼し、帰ろうとした。
ふと、そこの木の根元で何か動いた気がした。おそらく猫か何かだろう。
家々の中で一つだけ明かりの灯っていない家。それがうちだ。渡部と書かれた表札は随分と汚れていた。
自分の部屋に入ると、目に入るのは写真だった。
彩、いつかの約束を思い出してくれる日を楽しみに待っているよ。
案外短くなってしまった。