幽体離脱7
「おじゃましまーす。」
馬上は恐る恐る家に上がる。
あの後、私は2-4の授業を受けていた。馬上に何度も帰れと言われたのだが、帰っても寝ている自分を見るだけだと言って無理やり居すわった。
そして、帰り道の途中にある私の家でお粥を作ってから帰るそうだ。以前“お礼”を強要された身としては、優しくされると何か企んでいるのではと勘繰ってしまう。
いそいそと、準備をする馬上に素朴な疑問をぶつけてみた。
「なぁ、お前料理出来るのか?」
明らかに馬上の表情が固まる。
「え。……出来るはず。」
し、心配だ。
「いや、おまっ!私は風邪をひいているんだぞ!それに料理した事のない奴の飯って、病状悪化するに決まってんだろ!死ぬぞ、死んでしまうぞ。」
「大丈夫だって。米を煮るだけの料理誰が失敗するんだよ。」
馬上は笑顔で親指を立てた。
本当はもう少し文句を言いたいのだが、そろそろ空腹で死んでしまいそうなので任せる事にするか。
「出来た!」
「何が出来ただ。ほとんど私が指導してやったんじゃないか。」
私の文句はお構いなしにズカズカと私の部屋に入る。もう少し恥じらいを持ってほしいものだ。
「あ、そうだ。彩。体に戻って。寝てる状態で物食わしたら詰まって死んじゃう。」
そうだった。仕方なく体に戻る。
霊体になっていた反動で、体が重い。それにさっきよりも悪寒が酷い。目の前がくらくらし、座っているのでもやっとだ。朦朧とする意識は今にもどこかへ行ってしまいそうで。でもお腹が空いている事だけははっきりとわかる。
レンゲに手を伸ばそうとするが力が入らない。
すると、馬上は片手で私の体を支え、もう一方の手でお粥を口に流し込む。馬上の手は大きくて暖かかった。
馬上が煮過ぎたので、ほとんど原形のない米を飲むようにして食べた。途中、頬に何か温かいものが触れた。たぶん米だろう。そう考えたのが最後だった。
気がつくと、部屋には誰もいなくて、時計の音が響いていた。初めて、本当の意味での眠りについていいたようだ。こういう表現だと、死んだみたいだ。しかし何だろうとても、気持ちが良かった。
馬上は……帰ったのか。少しだけ、ほんの少しだけ寂しいかもしれない。
でも駄目だ。まだ…まだ私は人に甘えては駄目だ。
今回、改行が多かった。