幽体離脱5
神社とお寺の違いってなんでしょうか?
「あ、彩!?」
馬上?確かここは渡部さんの家のはず。
両者理解不能でフリーズする。
馬上も風呂上がりの様で、上半身は何も着ていない。強いて言うなら、タオルを首にかけているぐらいだ。目のやり場に困る。それにしても、中学生にしては筋肉がついていて、でもムキムキという訳でもなく華奢だった。これがぞくに言う細マッチョというやつだろうか?
「抜けたままうろつくなって言っただろ!?」
いきなりの大声にびくりと肩を揺らす。
そう言われても毎晩の事だし、仕方が無い。
「・・・・・だ?」
「え?もう一回言って。」
この会話で確信を得た私は大きな声で言う。
「やっぱり、視えてるんだ!」
少し睨みを利かせると、馬上はきょとんとした様な顔をした。
今、私は本体から抜けているんだ。普通の人に見えるはずが無い。
「・・・覚えてないの?」
はぁ?私はそんな事全く知らない。そもそも覚えているとは?何を?
今の状況を確認しても良いだろうか?
幼き日の友達“あーちゃん”の家である渡部さんの家に上がると、図書室の謎の青年の“馬上”がさも自分の家の様に入ってきて、何故か私は説教された。
自分の存在の方が理解しがたいと言われれば、それで終わりなのだが。それでも私はグルグルする思考を止められない。そもそも、馬上は不法侵入ではないのか?
ふと、机の上の写真が目に入る。そこには泥だらけになって笑う幼き日の私とあーちゃんがいた。
思い出した・・・・。そうだ、そうだ。
あーちゃんは私が視えてた。だから
『だってアヤちゃんはアヤちゃんだもん。怖くないよ。』
「思い出した?彩ちゃん。」
馬上が微笑む。
「あーちゃんは女の子じゃなかったのか。どちらにしろ私を理解してくれる人がいたんだな。」
「あー、もうあーちゃん呼びはやめてよ。でもまぁ思い出してくれただけましかな。」
馬上がタンスからトレーナーを出し着た。
「とりあえず、また明日。早く体に戻りなよ。」
馬上は時計が夜十二時を回った事を確認し、言った。
「無理。朝まで戻れない。毎晩なんだ。夢を見たことない。」
「えぇ!?それで今までよく・・・・。できれば彩、自分の体から離れないようにしておいて。」
はぁ。と首をかしげ、家に帰った。
本体の私はスヤスヤと寝ていて、別に特別危ないという訳ではない。まだ髪が濡れていて、少し枕が湿っていた。体に戻ってちゃんと布団に入りたいのは山々なのだが、今はまだ朝の五時だ。陽が昇らないと戻れない。あと、一時間。
そういえば、馬上と話している時は幽霊の事忘れてた。あいつはずっと視えてるんだよな。怖くないのかな?つか何で私あいつの事あーちゃんって呼んでたんだろう?何で忘れてたんだろう?馬上はいつ私の事を分かったんだろう?
でも、恐らく中学校に上がってから初めて会話した・・・出来た人だ。
「・・・・・うぅ。」
私の本体が唸った。突然の事で驚いた。よく見ると、汗の量が尋常じゃない。それに呼吸も浅く苦しそうだ。
風邪だ。そりゃこんな寒い時期に髪濡れっぱなしで布団もかけずに寝ていたら風邪くらい引くだろうが、なにせ風邪を引くのが八年ぐらい前に一度引いたきりである。どうしたらいいのか分からない。
霊体の手がだんだん薄くなっていく。陽が昇ったのだ。
とりあえず体に戻ってみると、悪寒が酷い。歯ががちがちと鳴って止まらない。
これは、ヤバいかも知れない。