幽体離脱4
華やかな大通りを歩いていた。夜だと言っても人通りが多い。人が多いところは霊も多い。
怖いよ。血まみれの人や空を仰いでいる人もいる。人というか霊だけど。数十年この現象と付き合ってきたが、怖いものは怖いのである。
ところで、ここまで来ておいて何だが、私・・・。
馬上の家、知らない。
うわぁ、もうどうしよう。夜も更けて、だんだん霊体がはっきりしてくる。もちろん一般人にはみえないが。この状態になってしまうともう朝まで戻れない。
大人しく家に帰ることも考えた時、ふとに覚えのある路地を見つける。
この辺は学校と逆方面であまり来る事が無いはずなのに、何故か知っている。その路地は住宅街へとつながっていた。そして、私は神社の前で足を止める。
ここも知ってる。来た事はないはず、でも知ってる。
不思議な感覚が私をのみ込んでいく。懐かしいような恋しいような、でも心の中で駄目だって言ってるような気もする。その声を振り払って、私はまた歩き始める。
再び自然と足が止まったのは渡部という家だった。ここも知ってる。
扉を通り抜け、部屋に入った。階段を上がり、右の部屋。そこはきっと・・・・・
その部屋に入った時、今まで忘れていた記憶があふれた。幼かった頃の友達だ。この簡素な部屋はいつも遊んでいた場所だ。
『あーちゃんはなんで怖がらないの?』
『だってアヤちゃんはアヤちゃんだもん。怖くないよ。』
泣きじゃくる私にそう言ってくれた友達だ。大切だった。なのに私はいつの間にか忘れてしまっていた。その理由は分からない。何故今頃思い出したのかも分からない。
涙が出たきっと今頃本体の方も泣いているんだろう。
今は、今だけはこの名前のない感情に浸っていて良いだろうか?
背後でドアの開く音が聞こえた。