幽体離脱3
「これ。」
馬上の体に小さな紙袋を押しつける。休み時間の予鈴が鳴った。
「は?何これ。」
「お礼。」
思い出したようにポンと手を打つと、紙袋を受け取った。
忘れていたといっても無理はない。あの日から一週間が経ち、寒かった冬も終わり始めていた。
私はその間、抜けやすく昏睡状態が途切れ途切れに続き、学校に来れなかったのだ。っと言ってもそれは体の話で、意識だけ・・・つまり霊体で学校に来ていた。なので授業はすべて聞いている。
ほとんど霊みたいな私が言うのも何だが、本当に学校内の幽霊は多い。人に憑いてる奴もいれば、ずっと何かを呟いている霊もいる。本当に、本当に怖かった。
しょうがない。季節の変わり目は抜けやすいのだ。
「クッキー?食べれるの?」
嫌な奴だ。食えないものをわざわざお礼として渡す馬鹿がどこにいる。ムッとして睨んだ。
「ハハッ。嘘。ありがとう。」
「じゃあ。さよなら。」
もう馬上と話す事はないだろうという意味を含め言い放った。ざわつく廊下は、外が雨の所為で余計にうるさかった。
そうだ。五時間目は何だっただろう?確か美術だ。あの口うるさい先生の顔を見なければならないのか、気が重いな。たまに寝てしまう所為で目を付けられているのだ。理由を説明しても一方的に憤怒して。馬鹿みたいだ。
「彩!」
後ろから馬上が言った。おそらく私以外の人間はそこまで気にしていなかっただろう。しかし私は振り向いてしまった。なにせ、いきなり下の名前を呼び捨てにしたのだ。
「抜けたまま学校に来ない方がいいよ。」
そう言って馬上は微笑み、自分の教室に入って行った。
あいつ、何者?
風呂上がりの濡れた髪をガシガシと拭いて、ベッドに倒れ込んだ。
散々自問自答したが一向に答えが出ない。何で私の幽体離脱の事を信じてる?信じてる人なんて今までいなかった。それに何故、学校に来てた事を知ってる?
答えの代りに頭にまわるのはあいつの言葉と馬上 梓という名前だけだった。
「あれ!?え?・・・・うわぁ。」
目の前には自分が寝ていた。体が異常に軽い。つまり抜けてしまったのだ。
すぐさま体に戻ろうとするが、一つの仮説が思い浮かぶ。
“馬上は、視えているのではないか?”
それならすべて辻褄が合うはずだ。
なるほど、そういう事なら今の状態で確認できる。気がかりは本体だ。布団をかけずに寝ているので、風邪をひかなければいいのだが。