幽体離脱16
今回は彩ちゃんです。
白い空間だった。何もない。居るのは私と彼だけ。
不思議だ。こんなにおかしな状況なのに、私はそれを理解していて、懐かしいとまで思っている。
彼が口を開いた。
「久しぶり。待ちくたびれたよ。君がまた来てくれると信じて、8年も待ったよ。」
そうだ。私は彼に会った事がある。
「誰だ?」
嘘。こんな事、自分が一番よく、
「知ってるくせに。」
彼が近づいて、私の顔をまじまじと観察した。
「大きくなったね。無愛想で、口数が少なくて、可愛くなった。でも、両親はまだ、見てくれないんだよね。」
見てくれない。その言葉が深く胸に突き刺さった。
「見るとか以前に認識されてるかどうかも怪しいんじゃない?」
違う。違う、違う。否定させてよ。お願い。
「まぁ、それは今はどうでもいいや。彩。霊視の少年に騙されないで。」
騙す?
いや、何があっても手放さないって決めたんだ。
「裏切られても同じ事が言える?いままで、他人と関わらなかったのはなんで?」
それは、裏切られる辛さを知っていたから。でも、馬上は裏切らない。
「じゃあ、君のその体質のことを他の子に話すのは裏切りじゃないんだね。」
嘘。嘘だ。馬上は、そんなことしない。絶対。
そう思うならなんで、なんで涙が止まらないんだろう。なんで、心のどこかであいつのことを疑っているんだろう。
疑惑、裏切り、孤独、軽蔑、差別、妬み、僻み、そんなのはもう嫌だ。
嫌なのに....。
「なら、どうするのがいいと思う?」
耳に纏わりつくような声は続ける。
「君ももう分かってるはずだ。他の人は君を不幸にしかしない。いつか、君から離れていく。」
そうだよ。親も、友達も、あいつだって、離れていくんだ。
「辛かったよね、寂しかったよね。もう大丈夫。」
彼の真っ黒で闇のような瞳に、私が映っていた。涙目で、どうしようもなく安堵した表情の私が。
「僕が、僕だけがずっとそばに居てあげる。もう傷付かなくて済むように。永遠の安心をあげる。」
言葉は、魔法の様で、夢の様で、確かな現実だった。
私は、私の世界は、彼だけで....。
彼は誰なんでしょうか?私が聞きたいです。