幽体離脱1
こんにちは!猫屋敷です!
今回は、何やら無口な女の子が登場し、大変でした。
暇つぶしにでもどうぞ。
私には特技がある。
自慢できるものではない。
幼いころからなのでそれが普通だと思っていた。
でも違った。
皆が揃って口にした。
『アヤちゃん気持ち悪い。』って。
私の特技はね。
―――――――幽体離脱が出来る事―――――――――
一概に幽体離脱って言っても、皆の認識と私のでは少し違う。
一般的には、夜寝てる時に自分の体を抜け出して、ふわふわと生き霊みたいになる事を幽体離脱という。でも私はそうじゃない。
別に、夜じゃなくてもいい。学校で寝てしまった時でも抜けてしまう事がある。
それに生き霊は感情の塊みたいなもので、何か強い念がある時に抜けてしまう。私は私自身の意思とは関係なく抜け出してしまう。だが物が触れない事は確かである。
寝てる間にいろんな事が知れて楽しいけど、起きた時ものすごい倦怠感に襲われる。
たまに、起きてる時に抜け出して本体が昏睡状態になるときだってある。
ほら今だって。
気がつくと保健室だった。また、抜けてしまったのか。
「ふわぁぁああ。」
大きなあくびと共に手を上にあげて伸びた。絡まった短い髪を手で軽く直し、ベッドから抜け出して、教室に戻った。
時間割を見ると、ちょうど今は四時間目。みんなは体育の授業に行ってしまい教室には私だけだった。今から授業を受ける気にもなれなかった。だって寒いし。寝ようにもまた抜けてしまったら厄介なので図書室に行くことにした。本でも読んでいれば無性にこみ上げてくる孤独感を紛らわせるかもしれない。運が良ければ、暖房がついているかも知れない。
古くさびれた木製のスライドドアを開ける。どうやら私は運が良かったようだ。
暖房特有の温かさが体を包んだ事で、自分の手が異常に冷えていた事に気付く。
ズラリと並んだ高い本棚には、中学生が読むとは思えない重厚な本がきれいに並べられていた。
木と紙の匂いが鼻の奥を優しく撫でて、心の中が安堵で満たされた。
一冊の本を手に取り、机のあるスペースへと向かった。
「・・・・・・・・・!」
幾つかの机の中の一つに本が積み上げられ、無造作に文房具がおかれていた。その風景の真ん中には、寝息を立てている青年がいた。
こういう場面に遭遇した時どう対処していいのかわからなかった。今まで同性である女子でさえ、ほとんど話した事が無い。あ、でも小さい頃に1人だけ私の事怖がらない女の子がいたなぁ。なんて名前だっけ?
とりあえず、抱えている本を机に置いた。ノートに名前があるかもしれないので見ようとして身を乗り出すと、机がミシミシと悲鳴を上げた。
青年に目を向けると、まだ寝ていた。案外眠りが深いようだ。ほっと一息つくと同時に四時間目の終了を告げる鐘が鳴った。そういえば授業中だった事を思い出す。
私は慌てて図書室を出た。走って教室に帰る途中、机の上に本を置きっぱなしにしていた事を思い出したが、後の祭りだった。別に借りたい訳でも無いので、今頃あの青年が本を戻してくれているだろう。
教室では着替えのために早く戻っていた生徒たちがお弁当を広げ始めていた。よくこんな所でご飯を食べれるよな。いっぱい居るのに。
起きた時倦怠感に襲われる原因でもあるのだが、抜けている間は普通では見えないもの、つまり幽霊の類が見えるようになるのだ。教室には浮遊霊やらがたくさんいる。それらがいるのを知っていながら、ご飯なんて食べる気にならない。
一番後ろの窓側の席が私の席。そこに座る。
窓を開けると冷気が入って、クラスメイトから苦情が来るので開けられない。
何もすることが無く、机に伏せた。
「やっぱ、あの本借りればよかった。」ひとり言のように小さく呟くと顔を上げた。
危うく、また抜けてしまうところだった。
お弁当を食べ終わった男子たちが、ぞろぞろと外へ出て行く。ああやって毎日飽きもせず、集団で遊ぶのだ。対して私以外の女子は、おばさん達の井戸端会議のように延々と話し合う。彼女らの将来がなんとなく見えてくる様な気がした。
・・・・・・そろそろあの青年は教室に帰っただろうか?出来れば帰っていてほしい。
本を借りるという理由で、図書室に行ってみる事にした。