第10話 ノモンハン事件 前編
皇紀2659年(1939年)7月8日
満州国 ノモンハン上空
ノモンハンの上空にはこの日、3個小隊に分かれた十二試艦戦と合計で10個小隊に分かれている97式戦闘機、96式艦戦が訓練飛行をいた。
『隊長、今日も露助の奴等出てきませんね』
12試艦戦2号機に乗っている橋本軍曹がこの訓練飛行隊隊長である北村大尉に無線で話しかける。
「そうだな。しかし、第1次ノモンハン事件のこともある全員気を引き締めて警戒しろよ」
この世界でも、第1次ノモンハン事件は発生しているが、日ソ両軍の引き分けという形で終結していた。
「それにしても、軍曹の言う通り本当に何もないな・・・そろそろ訓練も終了だし引き上げるとするか・・・」
北村が全機に引き上げる事を伝えようとした時、
『隊長!2時の方向敵機、機種は・・・I-16が20機、I-153が40機!』
第2小隊を率いていた小隊長から無線が飛び込んできた。
「お出でなさったか!各機、敵機に対して航空戦を開始せよ!ただし、単機で挑むなよ。何時も通り2機1組で敵機にあたれ!」
『『『『『了解!』』』』』
この2機1組は、刹那達が助言して採られた所謂ロッテ戦術である。
「くっそ、流石ロシアの熊だな・・・ずんぐりしていて装甲が厚そうだぜ・・・」
北村はそう言いながら、I-16の後ろにぴったりと張り付き徐々に追い詰めていた。
「だが、この十二試艦戦にとっては脅威では無い!食らえ!」
ドドドドドドドッ
ダダダダダダダダッ
北村はそう言うのと同時に、20mmと12.7mmの発射ボタンに触れ、史実よりも高初速になった九九式20mm機銃と正式採用された九八式三号12.7mm機銃から弾丸が発射され、重装甲を誇るI-16に突き刺さっていく。
ガン ガン ガン・・・ドオォーーン
20mm弾と12.7mmを大量に喰らったI-16は翼を捥がれ墜落した。
「素晴らしいなこの機体は、スピードも速いし、重武装だ」
そう言いながら墜ちて行く敵機を見ていると、
『隊長危ない!』
相棒である橋本の声が聞こえたと思ったら、
ドオォーーン
突如後ろで大きな爆発が起こった。
「何!?」
慌てて北村は後ろを見ると、火達磨になって墜ちて行くI-16の姿があった。
『危なかったですね隊長』
無線でそう言いながら橋本の機体が近づいて来た。
「そうだな。助かった、有難う橋本」
『この位朝飯前ですよ。敵機は粗方片付けたようです』
「そうか。よし、全機帰還するぞ」
北村がそう言って地上を見た時、
「なっ!?これは、ソ連の機甲師団じゃないか!司令部に急いで連絡だ!我々も急いで戻り、次の出撃に備えるぞ!」
北村はそう言うと、編隊を組み直した全機を率いて全速で基地へと帰還した。
~ハルハ川東岸 日本軍防衛陣地~
「航空隊の報告だと敵軍機甲師団は、もう少しでこの防衛陣地ぶつかる。まず最初は、独立連合艦隊海兵隊のM777榴弾砲、99式155mm榴弾砲、203mm榴弾砲、陸海軍の榴弾砲が砲撃を開始してから我々、戦車隊の攻撃を開始する。それまでは、全戦車隊は隠蔽壕で待機しておく事。いいな」
戦車隊指揮官の言葉に全員が頷く。
「それでは、掛かれ!」
戦車隊指揮官の言葉で、全戦車兵が自分の戦車に向かいエンジンを掛け、隠蔽壕に入る。
「それでは、最初は頼みましたよ。加藤中将」
「はい。お任せ下さい」
独立連合艦隊海兵隊隊長である加藤詩織は頷いた。詩織は、陸海軍の重砲の指揮官に臨時で就任していた。
「隊長、観測機の報告で、全榴弾砲の射程に敵師団が入りました」
海兵隊員の報告に頷き、
「よし、全砲、撃ち方始め!」
ドオォーーン ドオォーーン ドオォーーン
詩織の号令で全榴弾砲が火を吹いた。
「弾ちゃーーく・・・今!」
観測員の声と同時に発射された榴弾がソ連軍機甲師団に着弾した。
「敵師団に着弾!着弾修正値入力完了!」
「撃てー!」
各榴弾砲は観測機や榴弾砲横に設置されている観測機械で測り修正された数値に従い再び榴弾砲が休む暇も無く火を吹く。
「撃ち方やめ!戦車隊が行きます!」
詩織の言葉で、引っ切り無しに撃ち続けていた榴弾砲が発砲を止め、偽装されていた陣地から九三式中戦車が出て行く。
~戦車隊 指揮官車~
「全車行くぞ!」
指揮官が無線機に向かって叫び、偽装陣地で隠れていた120両の戦車がエンジンを轟かせながら偽装陣地から出て行った。
陣地から出た九三式戦車の群れは、ソ連軍のBT-5戦車、T-26軽戦車の群れとぶつかり、乱戦状態になっていた。
「目標、2時の方向BT-5戦車!撃て!」
ドン!
指揮官の声で砲手が引き金を引くと50mm砲が火を吹き、BT-5戦車の正面に命中した。
グワアァーン
正面装甲が13mmしかないBT-5戦車では75口径50mmライフル砲から発射された砲弾を弾く事が出来ず貫通し撃破されていく。
「よし、次の獲物はどれだ・・・」
ガキーン
「っ!?くっそ、全員大丈夫か!?」
慌てて指揮官が乗員の安否の確認をとる。
「「「「大丈夫です!」」」」
九三式中戦車の正面装甲は70mmにも達するので、BT-5戦車やT-26の45mm砲で貫通する事は無い。
「よし、砲手、1時の方向、目標T-26軽戦車!撃て」
ドン
グワアァ―ン
指揮官の命令通り、砲撃したT-26軽戦車は木っ端微塵に吹き飛んだ。
『全車両、向かって来た敵戦車を撃破しました』
T-26軽戦車を破壊し終えた時、別な戦車から報告が入って来た。
「そうか。全員基地に帰還しよう」
『了解しました』
指揮官がそう言い、九三式中戦車の群れは防衛陣地へと帰還した。
~ソ連軍基地本部~
「くっそ!何だこの被害は!?」
そう言って机の上で書類を見て怒鳴っているのは、第57軍団司令官であるゲオルギー・ジューコフだった。
「それが・・・ヤポンスキーは、最新型の戦車を大量に配備しているらしく我々が使用しているBT-5戦車やT-26軽戦車では撃破が難しく、頼みの航空支援も敵航空隊によって撃破されているようでして・・・」
怒るジューコフに向かって副官が報告する。
「分かった。攻撃は、全軍が集結する8月まで待とう。航空隊の方も本国に言って増強して貰うように頼んでみよう」
ジューコフはそう言うと副官を部屋から退出させた。
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