5話
俺は冒険者たちがゴブリンを蹂躙していく様子を眺めていた。今はゴブリンロードと冒険者が戦っている。
(こりゃ駄目だな)
すぐに判断を下す。どう考えてもゴブリン側に勝ち目は無い。このまま冒険者の勝利で終わるだろう。
そしてゴブリンロードの首が落とされ、配下のゴブリンは虐殺されていった。
「あーどうすんだ、これ」
現在のDPは0である。生物を生活させなければDPは溜まらない。召喚出来なければ生活すらさせられない。
(やべぇ……完全に詰んだ)
DPを全て使わずに貯めておけば良かったと今更後悔する。
「困りましたね」
どうやらイーリスにもお手上げのようだ。
(本当にどうするんだろうな)
そして俺たちは困ったまま数ヶ月の時を過ごす羽目になる。少なくとも食事と多少の娯楽はある。引き篭もり生活になるだけだ。
数ヵ月後、俺はDP確認を毎日している。いつも0のままだ。どうしようもない。最近はダラダラした生活を送っているのでイーリスの視線が痛い。俺もイーリスも運動をろくにしていなかったが、特に太るとかないらしい。不死最高。
画面を見ていると何者かが入ってきたようだ。
(ゴブリン?)
良く見るとただのゴブリンである。それが複数集まってくる。そしてDPが2000まで回復した。これは何だろうか。
「管理者様、ゴブリンのステータスを確認してください」
イーリスは何かに気が付いたのだろうか。ステータスを確認するとゴブリンLV5が居た。
(まさか、ゴブ吉か?)
ゴブ吉は指の本数が足りなかったり、体に大きな傷をもっているが、ちゃんと生きていてくれたようだ。しかも帰還まで果たすとは嬉しく思える。
俺はすぐにそのDPを消費し、適当なゴブリンからゴブリンアーチャーを5名、ゴブリンメイジを5名作る。これで500DPだ。残りのDPを全てゴブ吉へのレベルへと振った。ゴブ吉はLV20になった。
ゴブ吉たちは驚いたようだが、すぐに順応してくれた。建物の奥に祭壇のような物を作り、毎日感謝の供え物をしている。
(まさか、俺たちに感謝しているのか?)
帰ってきたらいきなり強くなれたという事からだろうか。超常的な力が働いていると思ったのだろう。何かが居ると本能で理解したのかも知れない。
巣穴がいきなり賑やかになり、俺は毎日それを楽しく見ている。生活で入ってきたDPを使い、ゴブ吉のLVを40へ、最初に付き従っていたゴブリンのメスをゴブリンクイーンにした。これでかなり強いだろう。
ゴブリンたちは近くの村から娘を攫って来ると襲い始めた。どうやら他種族の相手も襲うらしい。俺が気にしても仕方ない。存分にやってもらおう。
そして数ヵ月後、攫って来た娘がゴブリンを生んだ。そのステータスを確認するとハーフゴブリンとあった。体はゴブリンだったが、顔がやや人間に近い。
ステータスもゴブリンより高いようだ。ゴブリンはその誕生に喜び、更に子をなす為に襲い掛かっていった。
ゴブリンは調子に乗ったのか、更に村を襲い始めた。ゴブリンメイジとアーチャーが居るので村人では対抗できない。すぐにその村は壊滅し、多くの人間が攫われて行った。
(これはやりすぎかもしれないな)
恐らく冒険者か軍隊が来るかも知れない。警戒しないとならなそうだ。ゴブリンメイジとアーチャーを各5体増やす。ゴブ吉とクイーンは奥の方の部屋で過ごしているようだ。ゴブリンは強いとハーレムを作るのかと思っていたが、どうやらゴブ吉はクイーン1人で満足らしい。
いつしか、この巣穴はかなりの戦力になっていた。
「さぁ、来るなら来い。返り討ちにしてやる」
俺は覚悟して迎撃の態勢を整えた。
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*アッシュ視点*
ゴブリンロードを倒して1年以上過ぎようとしている。俺たちは中堅の冒険者として少しは名を覚えられているらしい。
「アッシュ、またあの巣穴にゴブリンが巣食ったらしい。今回はかなりの勢力でメイジやアーチャーまでいるそうだ」
デビットが言ってくる。驚いた事にまた現れそうだ。あの穴を塞いだ方が良いのかもしれない。成長したゴブリンが居るという事はもしかしたら何かあるのかも知れない。
「それで調査依頼か?その規模になると俺たちだけではどうしようもないぞ」
俺はデビットに戦力分析の結果を言う。さすがにアーチャーとメイジが何体いるかは知らないが、4人では辛いだろう。
「ああ、その通りだ。出来るだけ戦力を調べる。そして後でやる掃除の為に、少しでも減らして欲しいんだそうだ」
デビットが言ってくる。どうやら必ずしも殲滅する必要は無いようだ。
「俺は受けてもいいと思うが、グレッグとダイクはどうだ?」
俺は2人に聞くと同意してくれた。この2人は無口で困る。
「それじゃ、久しぶりにあの町に戻るか。準備をしよう」
俺たちは久しぶりに戻る事になった。俺たちが出会ったあの町へ。
俺たちが町に到着すると雰囲気がかなり悪かった。恐らくゴブリンの大群が近くに居る事で活気を失ってしまったのだろう。
(ゴブリンでここまでなるとは恐ろしいな)
普通では有り得ない。ここまで多くのゴブリンが1つの場所に集まる事は無いだろう。意図的な何かを感じる。
俺たちはギルドへ向かうと大男に歓迎された。
「おう、お前ら。良く来てくれた。早速だが依頼をいいか?」
すぐに言ってくる。俺たちもそのつもりで来たのだから問題は無い。デビットが持ってきた依頼と同じ様だ。それを受けると俺たちは準備をする為に宿を取った。
翌日俺たちは以前の巣穴へ向かう。入り口には普通のゴブリンが見張っていた。どうやら入り口から特殊なゴブリンは置かないようだ。俺たちは死角から一気に距離を詰め見張りを仕留める。
俺とグレッグが前衛に立ち、デビットとダイクが後ろに続く。嫌な予感がする。少し歩くとすぐに広い広場に着く。以前来た時にこんな広場があっただろうか。
俺たちは警戒しながら広場の中心部へ移動すると、周囲からゴブリンが大量に出来てきた。
「罠か!!」
普通のゴブリンであればここまでの知能は無い。やはり誰か裏で糸を引いている人物が居るのかもしれない。
アーチャーやメイジも多くいるらしく、俺たちは苦戦する。徐々に後退しながらゴブリンを倒してく。そして俺たちはいつの間にか誘導されたと気が付かないまま、あの部屋へと辿り着いた。
「ここは……」
以前ゴブリンロードを倒した部屋だ。見覚えがある。視線の先には豪華な椅子があった。そこには1匹のゴブリンが座っている。アーチャーやメイジといった体格が少し大きくなったゴブリンとは違い。見た目だけではゴブリンだと思えない。
「何だ……こいつは……」
見た目だけでは理解出来ない。恐ろしいほどの威圧感を放っていた。
「こいつはやばい、逃げるぞ」
デビットは声を出して撤退を指示する。俺とグレッグはそれに反して剣を構える。
「逃がしてくれそうにもないぞ」
後ろを見ると通路をゴブリンメイジとアーチャーが塞いでいる。ここでようやくここまで誘導されてきた事に気が付いた。正面のゴブリンは椅子から立ち上がり剣を構える。それだけで凄まじい殺気が襲ってくる。
(ここで意識を失ったら終わりだ!!)
気合を入れる。今までだって危険な戦いはいくらでもあった。それに打ち勝てたのは全て気合で負けていなかったからだ。俺は剣を構えるとそのゴブリンに向かって切りかかった。
「え?」
思わず声が出てしまう。目の前には俺の腕が飛んでいた。何が起こったのかさえ解からない。
「アッシュ!!」
グレッグが声を出して叫ぶ。そしてグレッグはゴブリンと俺の間に盾を構えて割り込むが盾ごと体を横に両断された。
「……グレッグ!!」
俺は相棒の死体を見てすぐにゴブリンを見る。その表情はニタァと喜ぶ笑みをしていた。俺は激情に駆られそのまま残った腕を振りゴブリンに斬りかかったが、かわされ反撃をされてそして俺の胸をゴブリンの剣が貫いた。
俺は倒れかすむ意識の中、ゴブリンがデビットとダイクに襲い掛かっている姿が見えた。そして俺の意識は閉ざされた。