4話
冒険者Sideです。
*アッシュ視点*
「アッシュ、良い依頼あったか?」
相棒のグレッグがそう聞いてくる。俺は今まで冒険者ギルドの依頼書を見ていた。俺は首を振ると
「いいや、ろくな依頼が無いな。明日からもう少し大きな町に行くか」
俺たちはそれなりに場数をこなし、中堅とも言える程の冒険者だ。ここの町にあるギルドの依頼は初心者向けばかりで大した依頼がない。そういった依頼は初心者にやらせて経験させるのが目的でもある。俺たちの様な中堅近くが受けてもひんしゅくを買うだけだ。
「そうか、その方が良いかも知れないな」
俺の戦闘スタイルは片手剣を2本持って戦う二刀流だ。グレッグは剣と盾で戦う。俺たちは同じ村の出身で一緒に名を上げると言って村を出てきた。兄弟は多かったので口を減らす為にも歓迎された。裕福な村ではないのだ。
俺たちには若者にありがちな無鉄砲さが全くなく、どちらかといえば慎重派だ。そのお陰で今も大した怪我をせずに生きている。俺たちがギルドで話していると1人の男がギルドに駆け込んできた。
「大変だ!!この町の近くに大量のゴブリンが巣食っていた!中には異様なゴブリンの姿も発見された!!」
男は大きな声で受付にぶつける。受付の職員は、「少々お待ち下さい」と持ち場を離れ奥へ行く。どうやら厄介事の様だ。そしてそれは俺たちの食い扶持でもある。俺たちはその依頼が張り出されるのを待った。
奥から熊のような大男が現れると駆け込んできた男から詳細を聞いている。驚いた表情をしている様子を見る限り、どうやら結構な山らしい。そして大男がたちがあると、
「緊急依頼だ。この近くの巣穴にゴブリンロードが現れた。討伐依頼をギルドから出す。腕に自信のあるものはいないか!?」
ゴブリンロードと聞いて怯む者、やってやると意気込む者で分かれた。俺たちはやってやるという方だ。俺とグレッグ、後数名が大男の方に向かう。合計6人だ。臨時のパーティを組むには丁度いいだろう。
「お前ら6人か。実力は十分そうだな。これが依頼書だ、確認してくれ」
そう言って6人全員に依頼書を見せる。6人で山分けしてもかなりの金額だ。俺たちは全員頷くと依頼を受ける旨を伝える。
「俺はアッシュ、こっちがグレッグだ。2人とも剣で戦う前衛タイプだ」
俺は自己紹介の為に他のメンバーに伝える。
「俺はデビット、魔術師だ。無口の男はダイク、野良神官だ」
「私はキャリー、魔術師よ。隣の子はフュリー、剣を使って戦うわ」
自己紹介を終える。前衛が3人、魔術師2人、神官1人とはいいバランスだ。戦う上で十分だろう。実力も大男が問題ないと答えている。
「リーダーは俺がやろう。異論はあるか?」
デビットがそう言ってくる。眼光や周りを見る目がしっかりしている。こいつなら冷静に判断できそうだ。グレッグと顔をあわせて頷く。
「こちらは異論はない。デビットは中々出来そうだな」
「私もいいわよ。ただし、変な命令は聞かないからね」
誰も異論はないらしい。そして俺たちは臨時のパーティを組んだ。
翌日俺たちはゾロゾロと巣穴へと向かう。途中連携を確認し、問題はなさそうだった。
(今回のメンバーは当たりだな)
腕もあり、性格も悪くはない。このメンバーならゴブリンロードを問題なく倒せそうだ。
「しっ、あそこの穴の前にゴブリンの見張りが2体居る。遠距離で攻撃して倒した方がいい」
グレッグがいち早く気が付いたようだ。こいつはこういった気配の察知がとても上手い。
「その様だな。俺とキャリーで同時に魔法で仕留めよう。タイミングを合わせてくれ」
「おっけー」
デビットはそう言うと2人は同時に詠唱を開始する。何度か臨時で組んだパーティの魔術師も同じ魔法を使っていた。火の球を飛ばす基本的な魔法だ。ゴブリン相手なら十分だろう。
2人はタイミングを合わせ、同時に魔法が飛ぶ。見張りの2体のゴブリンは一瞬で焼かれ絶命する。2人ともいい腕をしているようだ。
「アッシュ、先導は任せる。前衛を仕切ってくれ」
デビットから俺に指示が来る。どうやら先程の連携から読んだらしい。良い判断だ。
「ああ、それじゃ俺とグレッグ、フュリーの3人で前を歩く。行くぞ」
そう声をかけると俺たちは洞穴へと進んでいった。俺たちは臨時パーティだ。詳細まで指示を出すような真似はしない。あくまで撤退や咄嗟の判断の優先を決めるだけだ。
巣穴の中を俺たちはゴブリンを斬り殺しながら進む。ゴブリンロード以外には興味はない。あくまで討伐対象はそいつだけだ。俺たちは巣穴の奥に辿り着くとそこにそいつはいた。
そいつは他のゴブリンのよりも圧倒的な威圧感を出す。
「こいつは俺とグレッグで抑える。フュリーは他の雑魚ゴブリンを頼む」
俺たちは呼吸も合っている。下手に1人増えるとバランスが崩れる恐れがある。正面に出るのは慣れた者と一緒の方が安心できる。フュリーは頷くとすぐに理解してくれたようだ。
俺とグレッグは別方向からゴブリンロードへ切り込む。下手に魔術の射線に入らないように注意しながら少しずつ切り傷を与えていく。複数の魔法でゴブリンロードは焼かれたり貫かれたりし徐々に傷が増えていく。
俺たちはひたすら斬りつけ、攻撃は全てかわす。この程度の相手ならば問題は無い。かすり傷くらいなら気にしない。
そうしていると遂にゴブリンロードは倒れた。俺はその首に剣を立てそのまま首を切り落とす。死んだ振りされても危険だ。周囲のゴブリンは逃げ出そうとしているが、許すわけにはいかない。俺たちは追撃していく。
「かんぱーい」
あの後ゴブリンロードの頭を証明として持ってギルドへ帰ってきた。そしてかなりの報酬と共に俺たちは今酒場で祝勝会を開いている。俺は一気に酒をあおる。
「しかし、お前ら強いな。こんなに楽が出来るとは思わなかったよ」
デビットが俺たちを褒める。強さで褒められるのなら悪い気がしない。
「いや、後衛がしっかりと援護してくれたからだよ。後ろを気にせず戦えるってかなり楽になるもんだぜ?」
俺も負けじと他のメンバーを褒める。周囲の魔物を倒してくれたからこその勝利だ。
「真面目な話なんだが、俺たちとパーティを組まないか?臨時ではなくちゃんとしたパーティをさ」
デビットが提案してくる。確かにこのメンバーなら組んでもいいと思えてくる。グレッグと顔を見合わせると頷く。俺たちに言葉はいらない。
「俺たちはいいぞ。そろそろ2人では限界が来ていたしな」
「そうか、宜しく頼む。そっちはどうだ?」
俺たちが握手をして言葉を交わす。そしてデビットもう1つのパーティへ声をかける。
「うーん、あたし達はそろそろ冒険者を引退しようと思っているんだ。実家がちょっとね」
キャリーがそう言うとフュリーも頷く。どうやらこの2人はそろそろ引退らしい。
「そうか、残念だな。まぁ、しゃあない。冒険者なんてやらずに済めばその方がいいしな」
デビットはすぐに諦める。俺たちはそんなもんだ。しつこくした所で引退しようとしている奴を止められるとは思わない。そして俺たちの宴会は夜遅くまで続いた。