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2話

(ん……ん?)


 俺は目を覚ます。


「あれ?何で俺は地面に寝ているんだ?」


 上半身を起こし見渡すと森だった。そう形容するしか思いつかない。周辺は木々に囲まれ、ツルのような植物が大量に木々の間に見える。


「昨日は確か……酒を飲んで気持ちよく寝ていた筈なんだが……」


 周辺を見渡すが見覚えがあるモノもなく、というよりは木しかない。何で自分がそこに居るのかも定かではない。


(何者かに拉致?だとしても誰もいない上に俺は今生きている。どういう事なんだろうか)


 考えても一向に答えが出ない。とは言え、ここにいつまで居ても仕方ない。水も飢えをしのげる物もあるわけではない。立ち上がりどこに行くか考える。


(つっても答えは見つかるわけないよな)


 そもそも自分がどこに居るのかすら解からないのだ。適当に歩くしかないだろう。そう考えていると近くで物音がした。


(なんだ!)


 思わず身を低くしてしまう。警戒というよりは逃げる体勢だ。獣だったら勝てる気がしない。そしてそちらを向くと居たのは少女だった。アッシュブロンドのロングヘアの少女である。


(え?ここって日本じゃないの?)


 少女を見ながら何となく思う。どう見ても西洋風の顔立ちだ。俺たちのような日本人とは顔の作りが違う。


「え、えくすきゅーずみー?」


 自慢じゃないが英語はさっぱりだ。学生の頃は多少出来はしたが、あくまで読み書き専門だ。会話なんて出来やしない。少女はこちらをじっと見てそれから口を開いた。


「初めまして管理者様。私はサポート役のイーリスと申します。以後宜しくお願い致します」


 そんな事を言ってくる。日本語で。


「え?管理者?なにそれ?」


 聞きなれない単語が出てきた。管理者という言葉自体はいくらでも聞いたことがある。パソコンのアカウント管理者辺りが一番一般的だろうか。他には賃貸やネットワークサーバーなど思い浮かぶが全部俺には関係ない。


「管理者って俺のこと?」


 色々と聞きたいことはある。ここはどこなのか?とか。だが俺は目の前の情報に飛びつく。恐らくそれがこの少女と会話をする上で一番の近道のような気がする。


「はい、貴方は迷宮の管理者として選定されました。迷宮の製作を頑張ってください」


 迷宮を作らないとならないらしい。何故迷宮なのかはさっぱりだ。どんどん頭が混乱していく。恐らくいきなりこんな所に飛ばされた事でのストレスや恐怖の蓄積なのかもしれない。この状況を知っていると思われる少女に怒鳴り散らし、喚きたくなる。


 俺はそうしようと口を開こうとすると少女は俺の額に触れる。すぐにモヤモヤは解除され頭の中が整頓されていく。これはなんだろうか。


「管理者様の思考に混乱が見えたので治療させていただきました。他に体調の優れない所はございますか?」


 そうイーリスは聞いてくる。やり場のない怒りすら消滅した。むしろそっちに困惑してしまう。それなら話を続けよう。


「いや、ない。迷宮の管理者と言ったな。俺に一体何の目的で迷宮製作なんてやらせるんだ?」


 何せ方法なんて一切知らないのだ。いきなりやれと言われて出来るものじゃない。


「目的は知らされていません。ただ管理者様に迷宮を作らせそれをサポートせよと命じられただけなので……」


 イーリスはそれだけ言ってくる。話せる事は少ないのかも知れない。


「それじゃ次の質問だ。どうして俺なのかとここは一体どこなんだ?」


 既に俺が選ばれてしまったので、今更かも知れないが何となく気になった。


「それは貴方がコアの適合者だからです。ここはジェスマ王国の深い森の1つになります」


「つまり、俺はその国の深い森に迷宮を作って過ごせという事か」


 コアとは何だろうか。そして、ジェスマとはまた知らない国だ。少なくとも日本ではなさそうに聞こえる。


「はい、その通りです。準備はよろしいでしょうか?」


 イーリスは聞いてくるが、今の俺に準備をする物なんて無い。承諾すると俺たちはその場から転移した。




 眩しい光の空間を勝手に進み、地面に足が付いた。どうやらいつの間にか目を閉じてしまっていたらしい。俺は目を開けると目の前に石造りの部屋があった。


「ここは迷宮作りの拠点になります。そこに操作盤がありますので、そちらに移動しましょう」


 そう言ってイーリスは俺を案内するかのように導く。そして操作盤の前に行き、こちらを振り向く。


「迷宮を作る上で必要な事が1つあります」


 わざわざそんな事を言ってくるくらいだ。俺の同意が必要なのだろう。


「何だ?今の俺には自分の体しかないぞ」


「はい、それで良いのです。管理者となる為に私と契約を結ぶ必要があります。それにより私は管理者様の下僕となり、それで基本的な知識も得る事が出来ます」


 イーリスがそう言ってくる。契約と聞くとエロい事なんじゃないかと思えてくる。綺麗な女の子にそんな事を言われたら断れない。


「それでその契約はどうやってやるんだ?」


 俺は期待を込めて聞く。イーリスは俺に手をかざすと何かブツブツと喋りだす。ちょっと怖い。すると俺の頭の中に様々な情報が流れ込んでくる。どうやらこれが迷宮を作る為の方法らしい。


「はい、これで契約は完了しました。これで管理者様と私は死ぬ事はありません」


 イーリスが終わった事を告げる。エロい事じゃなくてとても残念だ。


(ん?何か重要な……死ぬ事が無い?)


 不老不死にでもなったのだろうか。頭の中の情報を探してみるとどうやらそうらしい。わざわざ聞かなくても済むのは便利だ。早くも人間離れをしてしまったらしい。


 持った知識から操作盤の使用方法を調べる。すると膨大な量の情報がヒットする。それをまとめると


DPダンジョンポイントを使用して色んな事がが出来る。

・DPは侵入者を殺したり、迷宮内で魔物を生活させると勝手に増えていく。

・DPを使用すると迷宮中心部のコアが成長していく。それによって迷宮の規模が大きくなる。2階層などが作れるらしい。

・この生活区画と迷宮区画は全く別に独立しており、俺やイーリスの転移を使わない限り移動する事は出来ない。


(つまり、俺は迷宮を管理すると共に完全な傍観者で居られるのか……)


 安全な所で魔物と侵入者の戦いを眺めているだけらしい。戦闘なんてやった事がない訳だからそれは助かる。死なないとは言え切り刻まれるのは勘弁して欲しい。次はDPの使用先だ。


・魔物の召喚

・アイテムの創造

・魔物の成長・ランクアップ

・罠の設置

・迷宮の拡張(通路や部屋)

・拠点の拡張


 ひとまず迷宮を作る上で必要なのはこれくらいだろう。色々と他にも情報があるが、今はまだ必要無さそうだ。迷宮の全体図があったので開いてみると、まだかなり小さいようだ。


(これは、迷宮というより巣穴か?)


 便利な事にカメラがどこに設置されているのか解からないが、各所の映像が正面に映る。まるで警備室のようだ。解像度はかなりいいので、ぼやける心配はない。


 迷宮の内部はこの拠点のような石造りではなく、土壁に囲まれた巣穴や洞穴の様な雰囲気である。激しい戦闘をしたら崩れないのだろうか。


(しかし、まるでゲーム感覚だな)


 実際は命のやり取りをするのだろう。だとしても、傍観者として設置していくだけだとゲームをやっているのと変わらない気がする。


「イーリス、まずこの拠点の施設を説明してくれ」


 俺は隣で控えていたイーリスに聞く。まずは生活拠点がどうしようもないと迷宮運営なんて出来ないだろう。


「衣食住の基本的な部分は問題なくまかなえます。娯楽は少ないので欲しければ増やすしかありません」


 イーリスが事務的に答える。基本的、というのがファンタジーの世界の基準だとかなり危険な気がする。後で案内して貰おう。


 まずは魔物が居なければDPを稼げないので必須だろう。アイテムや迷宮内の施設(鉱石が取れる場所)などは侵入者を呼びたい時に使用する。


 罠は知能を持ったモンスターか住み分けをしないと引っかかる為、最初は設置しない方がいい。


(まずは繁殖力の高い魔物だな。そこで確実にDPを稼ぎながら拡張をして行こう)


 そう思い魔物のリストを見る。


・魔幼虫 1DP

全長20cmほどの長細い虫。成長すると徐々に大きくなり、芋虫になる。


・ゴブリン 10DP

全長120cmほどの緑の肌を持つ亜人。繁殖能力が高く男女を閉じ込めれば1ヶ月もあれば倍になる。

他種族との子をもうける事も出来る。単体の能力はとても低い。


・ウルフ 30DP

四足歩行の狼。素早い動きと集団での行動で翻弄する。狭い場所だと本領を発揮できない。


・コボルト 50DP

二足歩行する犬。武器を扱う事に長けており、知識はそれなりに高い。


・オーク 100DP

二足歩行する豚。ゴブリンやコボルトより遥かに強い。集団で行動する事が多く、駆け出しの冒険者の壁。


・オーガ 500DP

角の生えた人型。とは言え肌の色は緑色で筋肉質。中堅冒険者が集団で倒すような強さ。


・サイクロプス 2000DP

一つ目の鬼。力が強く、知能も高い為、魔法を使える個体もいる。これに出会ったら逃げろと冒険者の中では有名。


・ミノタウロス 5000DP

牛の上半身と人間の下半身を持つ人型の魔物。力の強さ、知能の高さがバランスよく高い。神話でしか知られていない。


・ドラゴン 10000DP

ファンタジーの世界で有名な魔物。全ての能力が高く、中には飛行できる個体も居る。人里には下りてこない為、噂だけ飛び交う。



(目ぼしいのはこんな感じか……他にも人型以外のキモイのは一杯居たが、今はいいだろう)


 最初からドラゴンとか作れれば良いのだが、初期DPは300しかない。オーガ以上を最初から作るのは無理な設定らしい。


(洞穴内は狭いからウルフは除外。魔幼虫は気持ち悪いから除外。ゴブリン、コボルト、オークか……)


 オークだと3体しか作れないので繁殖は辛いだろう。コボルトもどれくらいの期間が必要になるか解からない。


(よし、ゴブリンにしよう)


 ゴブリンを洞穴に男女10体ずつ召喚する。すると洞穴内には緑色の亜人が突如現れる。後は好き勝手に生きてもらおう。残りは100DPあるが、下手に他の種族を混ぜても争いになるかも知れないので貯めておく。


「イーリス、拠点を案内してくれ。この目で確認したい」


 俺はイーリスにそう言って案内して貰う。こうして俺の迷宮運営は始まった。

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