とある吸血鬼の日常
久しぶりの短編でございます。
今日も夜が始まる。
ま、我輩には関係ない事だ。なんせ我輩寝ないでも死なないから。いや、寝る時間が勿体ないから。
三日に一度4時間だけ眠る。それが我輩の睡眠のサイクルと言うものだ。そのおかげで元々濃いクマがさらに濃くなってしまった。
時刻は夜の7時。仕事終わりのリーマンや、晩御飯を食べ終わった学生たちやらで、画面内が賑やかだ。我輩は一日中ログインしてるけどね。
薄暗い部屋にパソコンのディスプレイで照らされる我輩。どこからどう見ても立派なニートだ。
いやしかし、吸血鬼である我輩は、人間とは違うわけで、即ちニートと言う言葉は適用されないのだろうか。よく考えると我輩、仕事なんてしたことないや。むしろ血を吸う事が仕事だよね。
さて、夜になると我輩は忙しい。
我輩は人気者だ。ギルドの皆には尊敬の眼差しを向けられ、フレンドにはサーバーのトップランカー達が並んでる。その中でも一番は我輩だ。だから人気者になるのは必然的なのだ。
今日もこれからフレンドやギルドの皆との約束で、ゲーム内で一番強いボスモンスターを倒すことになっている。我輩は忙しい。
この日本と言う国に来て、はや6年となるか。
我輩は生まれた時から吸血鬼。よくあるアニメや漫画などの設定では、人間が吸血鬼になる事が多かろう。ならば我輩もそうなのだろうか。と思い出そうとするも、どうもそんな記憶は一切ない。一欠けらもだ。
と言うことは、我輩は元々吸血鬼なのだ。ヴァンパイアだ。
我輩の最初の記憶は、確かヨーロッパに居ただろうか。最近では古い記憶も曖昧だ。ここ200年程度しか思いだせん。200年分の記憶があれば十分だろうか。
日本に来る前はロシアに居た。冬は本当に寒く、夏は本当に暑い。そんな所だったな。特に語る部分も見当たらぬ。しかし巨乳で美人は多かった。
静かな部屋にキーボードを叩く音と、パソコンから流れ出る臨場感溢れるBGM。このボスとの戦闘も何度も味わっているが、我輩を高揚させるには調度よい。
そんな楽しい時間も終わり、皆我輩に感謝の言葉を言って去って行く。
ここ数年はずっとこんな日々だ。
我輩が今住んでいるこの地下室は、家の住人を催眠によって操り人形にした際、調度いい感じの地下室を見つけ、今にいたる。
我輩にはいくつか人間にはない能力がある。
一つ吸血。これは色んな話に持ち上げられる事が多い。ので、知らない人の方が少ないだろう。
二つ魅了。これはどちらかと言うと、「魅了」すると言うよりも「支配」すると言ったほうが的確だな。
三つ肉体変化。一般的にはコウモリに化けれると言い伝えられている様だが、大体何でもいける。流石に動物限定だがな。
四つ言語能力。我輩は頭が偉い。だから人の言葉など、二言三言聴けばその国の言葉など、全てマスターできる。他の吸血鬼など会った事がないから他は知らん。
五つ、これは単純に人間の体より吸血鬼の体の方が優れている。と思うのだが、我輩は人より力が強い。耳がいい。足が速い。どれをとっても人間の数十倍から数百倍はあるだろう。
いつか忘れたが、小さな小山を拳で破壊した事もあったな。今となるといい思い出だ。
再生力なんかも人間の比ではない。一度腕が千切れてしまったが、2~3分もすれば元の腕の形になっていた。
さて、ボス討伐報酬の振り分けも終わったようだ。そして時刻は夜の0時。うむ、いい時間だ。
三日に一度程度で我輩は血を吸いに行く。血を吸う行為は吸血鬼にとって食事であり、娯楽であり、趣味のようなものだ。
長い間飲まないと死んでしまうが、一月二月なら特に命にかかわる事はない。それでも血液ジャンキーなるものになってしまう輩もいるようだ。噂でしか聞いたことはないがな。
血を吸うだけならば、家の者でもよいのだが・・・・・・。やはり同じ者を食べ続けていると飽きてしまうものだ。普通の食事も食べられるのだが、やはり栄養分にはならぬ。
そして我輩には楽しみが増えた。三日に一度、最寄のコンビニにより、お気に入りのスイーツを買って、深夜で入ってるバイトの娘と言葉を交わす。それが楽しみだ。
始まりは向こうからだった。我輩がジャージに黒のボロマントを羽織ってコンビニ訪れた際、バイトの娘にからかわれたのが始まりか。
調度その時我輩は、ウェブマネーを買いに来たのだったか。それも相まって話しかけられたのかもな。
やつは我輩にこう言ったのだ「そんな怖い顔してるのに面白いカッコですね」
何て笑顔で言ってくるものだから、勢いで吸血しそうになってしまったが、やつの笑顔には悪意の一つもなかった。
最初は頭が緩い残念な娘なのだろうと思っていたが、聞く所によると中々の高校に行っているという。
そして何度か話すうちにこやつがただ素直なだけだと分かったのだ。
ここまで一直線な人間は初めて見た。
我輩は素直な者が好きだ。犬なんて特に好きだ。だが、我輩は犬に嫌われておる。やつらは我輩を見ると狂ったように泣き喚く。なのに捻くれものの猫は我輩に寄ってくる。
我輩は素直な人間が好きだ。しかし人間というものは成長する毎に汚くなってゆく。だから我輩は子供を吸血するのだ。決してロリコンと言う訳ではない。汚らわしい血を吸いたくないのだ。
さて、出かけるとするか。
我輩は部屋着であるジャージのまま、ボロの黒マントを羽織って地下室をでる。
リビングに顔を出してみると、家の住人達がテレビを見て談笑しておったわ。こやつらに掛けた催眠は、我輩を引きこもりニートの息子に見えるという催眠だ。
そして母親設定である家の婦人に、お金を要求し、我輩は最寄のコンビニへと出かける。金をせびっていた際家の主が何かを言っていたが我輩には関係ない事だ。
玄関の扉を開けてみると、雪がちらほら降っていた。流石に12月も過ぎるとここ日本でも雪は降るものだ。
玄関に置いてある黒い傘を取り出し、コンビニへと足を進める。
コンビニに着くとまず課金だ。機械を使ってウェブマネーを買うのだ。いつも通り5千円分を買うと、次はスイーツあさりだ。
我輩は甘いものが好きだ。特にエクレアなんか最高なんじゃないだろうか。チョコに包まれたシュー生地に、その間を這うホイップクリーム。我輩のお気に入りだ。しかしたまには浮気をする。ゼリーのプルッとした食感も病みつきになるものだ。
お気に入りのスイーツとスナック菓子を手に取ると、レジへと進む。今日もあの娘が居る様だ。
「またウェブマネーですか? 親御さん泣いちゃいますよ~」
相変わらず口の減らないヤツだ。
「ふん、黙って会計せい」
「も~、少し位喋りましょうよ~♪」
「構わんが、我輩から語る事は何もないぞ」
「ケンシさんのその我輩って言うの私好きだな~」
ケンシと言うのは我輩のニックネームらしい。犬歯が尖っているから、それだけの話だ。
「昔からの癖でな。もう直そうとも思わんがな」
「私は良いと思いますよ? 何だかカッコいいし♪」
相変わらず頭がいいのか悪いのか、ハッきりしないやつだ。
「あ、会計終わりましたよ! ウェブマネー込みで、6千円になりま~す」
我輩はいつも通り一万円札を出す。
「一万円お預かりします。4千円のお釣りとなりま~す! レシートは要らないんでしたね」
「うむ、気が利いておるな」
「そりゃ毎度の事ですから!」
娘は最後に眩しいまでの笑顔を見せる。
「それじゃまた来てくださいね~!」
「あぁまたな」
そうして我輩は血を求め夜の街へと消えてゆく。
一つ安心して欲しいのは、この吸血鬼が血を吸っても、吸われた者はゾンビになったりはしませんので!