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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

手紙

作者: 大宮西口

『拝啓、突然の手紙を出す無礼をお許しください。

貴方が結婚をされるということで、私はこれをしたためました。

お祝いの言葉を述べるため、ではなく、私の気持ちの整理のためでございます。私事に貴方を巻き込んでしまい、申し訳ございません。

けれど、貴方でなくては駄目なのです。

私がこれを書いたのは、貴方のことをお慕い申していることを伝えるためなのです。

誤解をなさらないで頂きたいのですが、この手紙は私の気持ちの整理のため、ただ出したものであって、貴方の結婚を壊すためでも私の方に振り向かすためでもなんでもございませんので、ご安心ください。

それではしばし、私の身勝手な言葉をお読み下さいませ。

貴方のことを愛しはじめたのは、十年程前のことでございました。

貴方は優しく穏やかで、賢く、それでいて美しくありました。

こんなに完璧な方がいらっしゃるのかと、私は驚き、そして身の程知らずにも恋をいたしました。

貴方は自分が完璧なことに驕りもせず、謙虚で素直で、無垢でした。

私のような馬鹿で愚かで、その上醜い。最低の人間、いえ、人間以下です、屑です。そんな私と貴方は住む世界が違うから、関わらないと思っていました。

ですから、貴方が声をかけて下さった時、気まぐれだと思いました。ですが、貴方のような方と一時でも話すことができるなら、気まぐれでも構わないと、そう思っていました。

けれど、一度話すと我慢ができなくなってしまいました。

貴方ともっと話したい。もっと仲良くしたい。

理性という手綱は紙のように切れました。

ですから、私は貴方に気に入られるために、貴方の好きなものを探し、それを贈ろうと考えました。

浅ましい考えです。

貴方はモノに釣られるような愚かしい人間ではございませんのに。

恐らく、そのときの私は自分の感覚で貴方の喜ぶ方法を考えたのでしょう。

若かった私は、今の私よりも愚かしい。

結局、貴方と仲良くなれたきっかけは、本の貸し借りでした。

私が読んでいた本に興味を持った貴方が「貸して?」と仰い、気に入って下さったから。

もしかしたら貴方の言葉は、社交辞令だったのかもしれません。

そうだとしたら申し訳ないことをいたしました。今更ながら非礼をお詫びいたします。

貴方と仲良くなり、私は貴方にますます惹かれました。

貴方と話すたび、この恋心を吐き出したくなりました。

けれど、それをしたら貴方との関係は終わってしまうと、私はわかっていました。

だから私は、冗談のように、大好きだと、愛していると幾度も口にしました。

私は臆病なのです。

貴方のことを愛してるのに気付いてほしいけれど、貴方が私を嫌悪することを恐れ、気付かないことを望む。

そんな矛盾した気持ちを十年程抱え、私は発狂寸前でした。

ですから、このお手紙を貴方に差し上げました。

長年ため込んだ気持ちを貴方に伝えるための、一方的な愛の告白。

きっと迷惑でしょう。

けれど、これが最初で最後でございますゆえ、どうかお許しください。

重ねて申し上げますが、貴方の幸せを壊すつもりはございません。

貴方の結婚を、私は祝福しております。

私は貴方の幸せが何よりも大事でございます。

私では出来ないということを承知いたしていますゆえ、決して壊しません。

但し貴方が幸せでないそのときは、例外でございますが。

けれど、そのようなことは有り得ないでしょう。

貴方が生涯の伴侶に選んだ方ですから、幸せな結婚生活を築くに決まっておりますもの!

私は、貴方と交際してる方がいると聞いたとき、悲しくて悔しくて、死にたくなった程でした。

私は屑ゆえ、貴方が私を選ぶことは、天地が引っ繰り返ってもあり得ないことなのはわかっておりました。

それでも悔しかったのです。悲しかった。

幸せそうにその方の話をする姿を見て、私には出来ないと悟り、さらに悔しくなりました。

勿論、貴方の前ではそんなものは毛ほども見せません。

醜い本性を見せたら、貴方は蔑み、私と一生関わらないでしょうから。

私は何よりも貴方に嫌われることが怖いのです。

貴方が私の世界の全て、そんなように考えていましたから、世界が壊れるのを恐れました。

随分と無駄なことを書いてしまいました。

私が貴方に伝えたいことは、貴方を愛していることだけですのに。

筆の思うままに書くとこのようになってしまうのですね。気を付けます。

いえ、次はないのですから必要ありませんね。

長々と失礼いたしました。貴方の幸せをいつも願っております。

私は貴方の幸せのためならなんだって致します。

貴方が幸せならば私も幸せですから。

最後に私の名前を――』


そこまで書いて私はペンを止めて、ため息をつく。

「やっぱり駄目だ。また捨ててしまおう」

そうして手紙は102つ目のゴミになった。

何が書きたかったのかよくわかりません

ありがとうございました

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