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困った人には救いの手を

 父上からの厳命を受け、生まれ育った里を離れ早1年。正直厳命を忠実に実行するより世間で生きる為の知恵を養うのにそれだけ掛ってしまった。とは言え、厳命を達成する為にも必要だと確信しているし、得た物は大きい。千里の道も一歩から、チリも積もれば山となる、ドラゴン倒すならゴブリンからとはきっとこう言う事を言うのだろう。ガリガリと迷わないように木に目印を刻みながらそう思う。


「うん、これでよし」


 初めはこんな初歩的な事すら知らなかったのだ。1年を過ごした町での出来事を思い返しながら、胸にはひたすら感謝の念が湧きあがる。下手すると今を生きる事すら出来なかったも知れないのだ。人との出会いがこうも大事だったと知る経験にもなったし。同時に世の中には人を陥れようとする輩もいる事が分かった。だからこそ私は胸に誓う。今度は私が人を助けようと。


「まぁ、世間知らずがなんとおこがましいと言われそうだがなぁ」


 ふと故郷の面々を思い出し苦笑いを浮かべながら、さくさくと道を進む。俗に言う獣道だが、寧ろ私には上等な道で。故郷の中では断トツの落ちこぼれでも鍛えてない方々からすれば私はそれなりに体力はあるらしかった。――未だに実感がわかないが、実力者が居るはずのギルドでも褒められたし、くすぐったい気持ちが大きいが嬉しさもあるのは確かだ。


 それなりに深い森なのは事前に調べた情報や手に入れた地図で把握しているし、街道を進めば一人身の冒険者等盗賊の恰好の餌食になりやすいのも承知している為。無駄な争いを避ける為も含め道なき道|(私にすれば十分な道だが)をわざと進んでいるのだが。森の中では起こり得ない音を私の耳は聞きつける。


「くっ、切り結ぶ音など聞いて放っておけるか」


 単純に武芸者同士の修練なれば良いが、聞こえてくる声からすれば多分旅の業者が盗賊等に襲われたのだろう。腕の立つ者を集める業者は狙われにくいが、得られるものの多さから数に物を言わせ襲う事があると聞く。きっとこの場合もそれに違いなく、全力で向かったものの目視できる場所に辿り着いた時には馬車に群がる盗賊らしき男達が幾人もいた。


「近寄るぐっ」

「黙れ小娘ぇ。手間ぁ取らせやがって」


 盗賊にしてはみなりを整えた彼らは、しかし多分に漏れず汚い言葉を使いながらまだ年端もいかぬ少女を殴り髪の毛を引っ張る。周りに横たわる者たちは彼女を守る冒険者と盗賊の仲間達だろう、2~30もの死体の山とそれ以上の族の数から分かる通り数に勝つことなど無理と言うのが無言で証明されていた。


「あうぅ……や、やめてぇ……」

「あははは、やめてぇとはこれまた面白い事を言うなぁ。あんたは生きて貰っちゃぁ困る訳よ。とは言え楽しんだ後でも大丈夫だろうがな」


 にやぁっと嫌らしい笑みを浮かべる族に、殴られたせいか恐怖に彩られた顔色の少女。否、命はないと言われて怯えぬ女性が居るものか。更に距離を詰め思い切り私は飛ぶ。同時に抜刀し周りに群がる族を飛び越えそのまま少女に意識が向いている男を切り捨てる。一瞬の出来事から周りが復帰する前に少女を胸に抱き一目散にその場から逃げだす。逃げるが勝ちと言うより逃げなければ命がない。この人数差を覆せる等と勘違いするのはただの馬鹿以外何物でもない。まぁ、逃げ切る自信だけは十二分にあるが。


「大丈夫、必ず逃げ切るから」


 呆然としている少女にそう告げ、なるべく彼女に負担が掛らないように意識しながら道を駆け抜ける……勿論それに意識が取られ過ぎて追いつかれたら元も子もないが、私の信頼する耳と感覚は族達と距離を空ける事に成功する事を告げていた。


 私が安全だと確信出来、かつ休憩できそうな場所に出るまで少女は何も言わず暴れる事もなくじっとしていた。ただ、止まらない震えから先ほどの出来事が少女のトラウマ等にならなければと願わずにはいられなかったが……そして余裕が出てくると心の中での言ではあるが失言を思い出し、そっと謝罪の言葉を里の女性群に送る。貴女方はどんな状況に陥ろうと怯えるだけ等ありはしませんよねと。


「落ち着きましたか?」


 丁度よく岩の窪みを見つけ、そこに少女を下し私は入口で1夜を過ごす為の準備をしていた。もうすぐ日が暮れる為であり、恰好を見る限りこんな道を歩くに適さない彼女を夜に連れまわす等躊躇われたためだ。声をかけたのは窪みから出てくる気配を感じたためだ。


「……あなたの目的は何?」

「目的ですか? うーむ、旅の目的は口止めされているので、一族の厳命としか言えませんが。それじゃ駄目ですか?」


 全力で警戒する彼女に、少しでも警戒を解いて貰う為に精一杯真摯に答える。と、キョトンとした表情をされ、私の答えはおかしかったのかと内心であせる。


「いや、そう言う事では無くて、なんで私を助けたのって事よ」

「あぁ、すみません。勘違いしてしまいました。でも、困った人を助ける事に理由なんて要りますか? それに、助けれるだけの力があると確信している場合はなおさらでしょう?」


 ただ、口にはそう出しながらも確かに突然身元不明の人間に助けられても驚くだけかと思い、付け加えるようにそう言った。が、彼女には禁句だったようで噛みつくように迫られる。


「助けれるだけの力があるなら何故私だけ助けた!? 馬車のなかにはまだ震える侍女達もいたのに見捨てて。あなたなんかに助けて貰いたくなかった!」


 言いながら私の胸を叩く少女、同じくらいの身長の彼女に叩かれ若干の痛みを感じ、それ以上に胸に痛みを感じながら私は正直に事実を伝える事にする。


「すみません、あくまで私の実力で助けれるのは貴女しかいなかったのですよ。確かに馬車の中にも気配を感じていましたが、あの人数差に立ち向かって勝てる訳がないでしょう」

「そんな嘘聞きたくありません、あなたはいくら油断していたとは言えあの男を一撃で切り伏せたでしょう」

「そう、油断していたからですよ。あんな事やっておいて他の者が警戒しない訳がありません。また同時に折角助けに入ったのに人質に取られたら助けれませんよ。残念ながら私は命をかけれないですし、それは厳命を達成させるためです」


 よどみなく答える私に少女は唇を噛む、その姿に胸を痛めながらも更に続ける。


「多分貴女が思う通り私は偽善者なんですよ、それでも助けれるものなら助けたいと思って行動してしまいました。貴女にはいい迷惑だったかも知れませんが――」

「いえ、私こそ言葉が過ぎました……すみません、助けて頂いたのに」

「いえいえ、助けた事自体が私の我儘みたいなものですし、寧ろ心を傷つけた事が申し訳ないです……もっと私に力があればまた違ったのかもしれませんね」


 自嘲気味な笑みを思わず浮かべてしまう。今やっと考えが至ったが、もしかすると父上や兄上達ならばあんな人数差等物ともせずに族を片づけてしまったかもしれない。2人の間に沈黙が落ちる。しかし、私はそれを破る術を見出せなかった。故に先に彼女が口を開く。


「本当に口が過ぎました……助けて頂いた事……感謝します」


 深く頭を下げた彼女に、私はどちらが助けられてるのだと更に自分を責めたてる。


「いいえ、こちらこそそう言って頂けるとありがたいです。ありがとうございます」


 頭を下げる私に、彼女は複雑そうな表情を浮かべた。

 一人称って難しいですねー。割と三人称で書く事に慣れてしまってて、現在色々と苦戦中です……うむ、頑張ろう。

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