原因と言う名のプロローグ
いつもの様に朝の修練に励んでいたら、これまたいつもの様に父上に呼び出される。既にボロ雑巾の様にズタズタにされた我が身を叱咤しながら、父上の執務室へと向かう。
「只今参りました」
「――うむ、入れ」
低い声で促され、襖を開け一度頭を深く下げる。一呼吸置いて中に入り、失礼しますと口にしながら今一度頭を下げ襖を閉める。一連の動作は毎度行う我が家の礼儀作法なのだが、これですら未だにお叱りを受けたりするのだ。自分はどれほどまで落ちこぼれなんだろうと思うと同時に、皆が私を一族始まって以来の落ちこぼれと称するのも頷ける話。また、一族以外の門下生に土を付けられたのも初めてだと聞き及んでいる。
「はぁ、またそんなにボロボロなのか」
マイナス思考まっただ中にいた私に突き刺さる言葉。ほぼ毎日恒例のお叱りの一言とは言え、未だに傷つく私は寧ろずうずうしいくらいプライドが高いのではないかと思ってしまう。いや、未だに認めて貰えるかもと努力している時点で諦めの悪さは折り紙つきかもしれない。唯一それだけは褒められた事があるし。
「まぁよい、今日はそれについての話ではないからな」
予想だにしない言葉に思わず顔を上げてしまう。
「なんだ、そんなに驚く事か?」
「いえ、申し訳ありません」
「よいよい、別に怒ってる訳ではない」
「は、ありがとうございます。……それで、話とは?」
全く心当たりがない為、つい私から質問をしてしまう。こう言うところも一族らしからぬ行動であると自覚はしているが、どうしても癖を直せない。しかし、いくら実力主義の一族で上の言葉は絶対とは言え、疑問に思ってしまうのは仕方ないだろう、と思いたい……痛い目にあってすら気付かないなんてと蔑まれた事すらあるが……気付いた時には口に出てるのだ。ううむ、癖とはこれほど恐ろしいものか。流石に痛い目にあいたい訳ではないので、直す努力はしているのだけどな。
「くっくっくっ、やはりお前は面白い奴よ」
これまた予想外の展開に思わず固まってしまう。おっと、口を閉じるのすら忘れていた……どれだけ間抜け面を晒したのだろう。少しばかり恥ずかしく思いながらも、やはりいつもとはあまりに違う父上に内心で首を傾げる。
「そもそも、誰も使うなと言っていないのに頑としてアレを使わぬのもお前だけだしなぁ」
「へっ? アレって私も使って良かったので?」
「あぁ、なんだ、勘違いしてただけ……ぶふっ、すまん、あはははは」
急に笑い出した父上に私は恐怖を覚えてしまう。これは何の修練なんだろう。
「いやいや、そう言う事か。全く今まで……いや、もう良いか」
「はぁ」
未だに吹き出そうとしてそれを堪えている父上に、生返事以外どう返して良いものか判断すら出来かねていた。うーむ、これでいつも通りの存在感さえなければ父上かどうかすら疑っているのだがなぁ。まぁこんな日もきっとあるのだろうと無理やり納得する。
「とにかくだ、これからは里から出るのだし躊躇なくアレを使うのだぞ」
「――すみません、全く話が見えないのですが?」
凄まじく嫌な予感を胸に覚えないがら、ニヤリと笑みを浮かべた父上を目にして私は少なくとも私にとって楽しい話ではないだろうなと確信するのだった。
全て勢いで書いてますので、更新速度も滅茶苦茶になると思います。一応大まかな筋道は考えてますが……果たしてこれからどうなるか作者の僕ですら分かりません。ので、生温かい目で見て頂ければなぁとか思ってます。