ある元素。天界にて
ここは天界。雲の上の世界で3人の元素が今日も元気に過ごしています。
酸素「…暇!すごい暇!」
このグウタラしている栗毛の髪に赤と緑の花を添えた白い服がよく映える少女の体をした元素は酸素だ。
窒素「なら働いてくれません?」
この正論パンチを繰り出してきたどこまでも黒い髪に青とピンクの淡い色をした服をきた成人男性の体をした元素は窒素。
水素「働くと言っても仕事ほぼないだろ」
この正論ストレートをかましてきた淡い青に葉を連想させる淡い緑の服を着て星を散りばめたような装飾をつけている幼女の体をしている元素は水素だ。
窒素「あるでしょう。下界を見守ることです。」
水素「ストーカー?」
酸素「え〜!!天界にいて結構偉いのにストーカーするの!?」
窒素「どつくぞ!!…コホン。あのですね。天界にいる者として生けとし生ける者を見守り幸せを与えるのが仕事で…」
水素はおもむろに動き出す。話が長くなるのを察したのだろうか。彼女は部屋へ行ってしまった。
酸素「あ!待って待って!水素!私も行く!」
おもむろに動いた水素とは違い彼女はゲームセンターを見つけた子供のように速く立ち上がり走っていく。
窒素「おい!お前ら!!人の話を…!…はぁ…」
彼は酸素や水素のような自由人といるとどうしても普段の落ち着きを失ってしまう。天界にいる限り上品さを保たなければいけない。彼もダメだと分かっているが少しルールを逸脱しているくらいが窒素にとって丁度いいのだろう。彼はそれ以上2人を追求しなかった
水素「酸素。お前がいるのは邪魔だ。」
彼女の誘いを無慈悲に切り捨てる水素。彼女は結構な頻度で爆弾発言を淡々とぶつけてくる。
酸素「え〜!?酷い!!水素の作品好きだから私も見たいのに…」
子供のように駄々をこねる。これでも彼女は数千年は生きている長命種だというのに。だが水素は呆れ変えることはなかった。
水素「…静かにするなら。」
彼女はそう言って部屋に入っていく。照れ隠しか怒りかドアを大きな物音を立てて閉めるが普段と違い鍵をかけることは無かった。窒素は彼女の耳の赤みを見逃さなかった。
酸素「あ〜…やっぱダメだったかな?怒ってる?」
窒素「怒ってはなさそうですよ。早く行った方がいい。彼女の機嫌がもっと悪くなりますよ。」
酸素「なんだ〜!怒ってないのか!!」
酸素は喜んで水素のドアを開けに走る。だが水素の静かにするならという忠告を守っているからか彼女は興奮を抑えて音を立てないよう走り静かにドアを閉める。
水素「…そんなに良いか?」
酸素「うん!すっごい!!」
酸素は何かを作ってる時の水素の目が好きだった。どこまでも深く濃く暗い青に映る星のような輝きが。宇宙にそびえ立つ崖のような瞳が。それがとても美しく綺麗で。酸素はその瞳が本当に好きだった。
そうこうしてるうちにさっきまで不格好だった粘土がいつの間にか綺麗な花へと変わる。色がないとはいえディテールがしっかりしていて花の繊細さや美しさ、力強さがこれでもかという程表現されていた。
酸素「これあと色塗るだけ?」
水素「いや、乾かす」
水素は粘土に手をかざす。水素の手から小さな火が生まれ小さく爆破する。酸素はその一連の動作に見惚れていた。酸素は燃やすことはできても水素のように爆破させることはできない。超能力のようなものを見る目で酸素は水素の手を見つめる。
水素「…見過ぎだ。粘土に穴が空く」
酸素「え〜!開かないよ〜平気平気!」
水素「どうだかな。目からビームが出ても知らんぞ。」
酸素「え!?ちょっと出してみたいかも。」
水素「いつからお前の脳みそからシワが消えたんだ?」
酸素「あまりにも知的な悪口!?」
酸素はその言葉が刺さったのか少し大げさに胸を抑える。水素はそんな酸素を気にもとめず粘土を青く塗る。
酸素「これ乾かす?」
水素「ああ」
水素はまた小さく爆破を起こす。水素は乾燥し完成した作品を酸素に渡す。
酸素「?もう私この髪飾り貰ったから平気だよ?」
水素「窒素に渡してこい。」
酸素「え?窒素?」
酸素はキョトンとする。気性が荒かったりするときもあるが基本的に凛としている窒素がこんな可愛らしいものを付けて喜ぶ様子がわからなかったからだ。だがそんな間の抜けた顔も一瞬で悪意が詰まる。意地悪な笑顔を浮かべる酸素の様子を見て水素は小さく頷く。確信を得た酸素は楽しみのあまりドタドタと大きな足音を立てて部屋を出ていく。
酸素「ちっそ〜!!!」
窒素「はい?花はきれいに育っ…ブフォ!!!」
酸素に悪気はなかった。これだけは確かだ。窒素に意地悪をしてやろうという気持ちはたしかにあった。が、まさか窒素の頭を平手打ちするつもりは微塵も無かった。窒素の頭に花を付ける勢いがあり余ってしまったのだ。酸素に悪気はなかったのだ。ただ知能がなかったのだ。紅茶を飲んでいた優雅な窒素から情けない声が響く。これが真の茶をしばく
酸素「あ!?ごめん!思ったよりいい音なっちゃった!?ごめん!えっと…あ〜冷やす…?今液体にするから…」
窒素「結構です。私を凍死させるつもりですか?」
窒素は手から冷気を出し痛む患部を冷やす。
水素「すまん。酸素…力加減を知らないのか?」
窒素「まぁ…頭は冷やせ」
酸素「ごめんよ〜!!!うう…頭冷やしてくる。」
トボトボと情けない背を向けて歩いていく酸素を二人は追わなかった。追っても酸素は歩き続けるからだ。
水素「いつものとこか?」
酸素「うん…森林浴…」
窒素「夕飯までには帰ってくるんですよ」
水素「今日のご飯は?」
窒素「マーガリンを塗ったパンなのは確定です」
水素「よし」
酸素「あっはは!水素は本当にマーガリン好きだよね〜ちゃんと夕飯までには帰ってくるよ!いってきま〜す!!」
そう笑う酸素の背中へ小さく手を振る二人。友達、そんな言葉がこの3人にはぴったりだろう。だがきっと3人の誰も思わなかった。もう二度と友達なんてものに戻れないことを。




