エピソード11.5 再会の羽田
羽田空港、国際線到着ロビー。
そこは、凱旋帰国した若き王者を一目見ようとするファンと報道陣で溢れかえっていた。
「シャロンさん、もっと前へ!」
「ちょっとリサ、引っ張らないで……!」
リサに手を引かれ、翔子に背中を押されながら、シャロンは人混みの端に立っていた。急いで店を飛び出したため、まだ店のエプロンを外したばかりの私服姿だ。
(本当に、タクミ君なの……?)
シャロンの心臓は、これまでにないほど激しく鳴っている。
その時、ゲートが開き、カメラのフラッシュが一斉に焚かれた。
長身で、引き締まった体躯。真っ直ぐな眼差し。
そこには、かつて自分を守ってくれた少年の面影を残しつつも、世界を制した「藤原拓海」が立っていた。
彼の左手首には、ニュースにあった通り、淡い水色のリストバンドが巻かれている。
「タクミ選手、日本凱旋おめでとうございます!」
「今の気持ちをひとこと!」
記者たちの質問攻めに、タクミは丁寧にお辞儀をしながら答えていたが、ふと、その視線が止まった。
色とりどりの服を着た人々、光り輝くフラッシュ。その喧騒の中で、そこだけ時間が止まったかのような、透き通った淡いブルーの髪。
「……あ」
タクミの顔から、王者の険しさが消えた。
彼は記者たちの制止を振り切り、真っ直ぐに人混みをかき分けて歩き出す。
「ちょっと、タクミ選手!?」
「どこへ行くんですか!」
ざわつく周囲を気に留めることもなく、彼はシャロンの前で足を止めた。
数秒の沈黙。シャロンはただ、彼を見上げることしかできなかった。
「……遅くなって、ごめん」
タクミが最初に発した言葉は、インタビューの答えではなく、あの日、道場に残してきた少女への謝罪だった。
「……タクミ、君」
「やっと見つけた。ずっと、その髪を探してたんだ」
タクミは少し照れくさそうに笑い、左手のリストバンドに触れた。
「これを見るたびに、あの日お前が泣きながら俺を止めてくれたことを思い出してた。冷静にならなきゃって……お前に褒めてもらえるような、空手をしなきゃって」
シャロンの目から、一筋の涙がこぼれた。
「……ずっと、覚えててくれたの?」
「忘れるわけないだろ。俺の初恋なんだから」
その瞬間、ロビーにどよめきが走ったが、今のシャロンには何も聞こえなかった。
「シャロンさん、やったぁ……!」
「タクミ君、かっこよすぎ!」
後ろで抱き合って喜ぶリサと翔子の声に、シャロンは顔を赤くしながらも、勇気を出してタクミの手を取った。
「タクミ君……お帰りなさい。私…お店、継いだんだよ…」
「ああ。……あの頃言ってた、喫茶店だろ?」
「うん。食べてほしいケーキがあるの。『初恋』っていう名前の、甘くて……少し酸っぱい、ロールケーキ」
タクミは優しく微笑み、シャロンの手を握り返した。
「楽しみにしてるよ。……今度は、俺がゆっくり話を聞く番だな」
夕暮れの羽田空港。
大勢の人々に囲まれながらも、二人の間にはあの日道場で流れていたような、穏やかで温かい時間が流れていた。
シャロンの喫茶店 エピソード11.5 再会の羽田 完
あとがきにかえて…
シャロンは初恋を成就させました。
この前ひどい目に合わせてしまったので、これで許してねシャロン。




