エピソード11 初恋ロールケーキ 2切れ目
東京、路地裏の喫茶店「樹」
いつものようにゆっくりと時間が流れるような午後…
お客様が注文した『ファースト・ブラッシュ・ロール』をリサがケーキの由来を説明している。
「あらまあ、翔子ちゃんの初恋の味なのね」
お客様がそう言って翔子の方を見る。
「ちょっとリサ!私の事まで説明しなくていいの!」
翔子はそう言って恥ずかしそうに顔を隠した。
「ゴメーン、初恋の話は、お客様も聞きたがるものだからつい…」
「うふふ〜」
シャロンが嬉しそうに笑っている。
「そう言えばシャロンさんの初恋話って聞いてなかった!」
リサがシャロンの初恋について聞きたがった。
「リサ…それはちょっと…」
翔子はシャロンが早くに母を亡くしているのを知っていたので、今までシャロンの過去にはなるべく触れないようにしていた。
「あぁ、大丈夫よ翔子ちゃん…それにしても、初恋かあ…」
シャロンはちょっと遠くを見るようなそんな仕草をしていた。
「私が中学生の頃、同じクラスにタクミ君って男の子がいてね…多分その子が私の初恋だったのかな…」
そう言って、シャロンが思い出を語り始めた。
…
……
………
当時中学1年生だった私はクラスで浮いた存在だったの。
特に淡いブルーの髪色の女の子なんて、皆見たことがないから、よく男の子達から揶揄われてたわ。
『何だよオマエ、変な髪の毛だな!』
『中学生のくせに、髪染めてるのかよ!』
『こっちくんな、外国人!』
そんな事なんてしょっちゅうだった。
「あーワカル金髪の私だってそうだったもん」
「リサ!」「あ、ゴメン…」
でも、一人の男の子がそんな私を助けてくれたの
『…お前ら何やってんだ』
『げっ!タクミ!』
『お、お前に関係ないだろ』
『い、いこうぜ…』
その男の子はタクミ君っていって、お家が空手の道場をしててね、何かの大会に出て優勝するくらいだったの。
まあ、助けてくれたって言うより、通りかかったら巻き込まれた、みたいなものだけど…
『お前、いつもこんなことされてんの?』
『うん…』
『そうか…』
いつもこんな感じで、助けてくれる訳ではなくて、私が誰かにからかわれていると、何故かいつもタクミ君が通りかかるの。
「…いつもってシャロンさん…」「翔子、ここは黙って話しを聞こう…」
タクミ君が強いってことを皆知ってたから…でも、タクミ君は空手を使わなかった。
武道を喧嘩に使ったらいけないんだっていつも言ってた。
でもね…一度だけ空手を使って、相手を怪我させちゃった事があるの…
あの日、私は上級生に呼び出されたの。
『お前、なに髪染めてんの?生意気だよ』
『これは元からこの色なんです!』
私がいくら説明しても、その上級生は納得してくれなかった…
『ふざけんな!だったら黒く染めてこいよ!』
そう言って、その上級生が私の髪を掴んで引っ張ったの。
『痛い!やめて下さい!』
『うるせーよ、お前みたいな外国人は、サッサと日本から出てけ!』
その上級生は、そう言ってたわ…
「酷い…」「…まったくね」
その時よ、タクミ君が空手で相手を怪我させちゃったのは…
「!」「やるじゃんタクミ!」
タクミ君は本当に強くて、上級生をボコボコにしちゃったのね。
でも私、気が付いたら泣きながらタクミ君を止めてた。
タクミ君、驚いてた。
それはそうよね、私を助けるためだったのに、その私が泣きながら止めてって言ってるんだもの…
「それは、まあ」「止めなきゃもっと酷い事になってたよ」
うん…でも、怪我させた上級生の親が学校に色々いったらしくて、タクミ君暫く学校に来れなくなったの。
「あ〜」「そういう親か!」
私はタクミ君に謝りたくて、お家まで会いに行ったわ
タクミ君は道場で空手の練習をしてた。
『タクミ君、ゴメンね…私のせいで』
『お前のせいじゃないよ』
『でも、あなたは私を助けてくれたのに…私、怖くなってタクミ君を止めてしまった…』
『…止めてくれて良かったよ』
『え?』
『俺、あの時、頭に血が昇ってた…お前に止められて、初めて自分の中に暴力的な自分がいるって分かったんだ。』
『…そうなんだ』
『ただ強いだけじゃダメなんだ。お前が止めてくれなかったら、俺は空手を嫌いになるところだった』
『タクミ君…』
『いつでも冷静でいられなきゃ…好きな空手で人を傷付けたくないもんな。』
『…空手が大好きなんだね』
『お前もだろ?』
『え?』
『大好きな、あの喫茶店を継ぐんだろ?』
『う、うん…そのつもりだよ』
『俺も大好きな空手を、この道場を継ぐんだ。』
『そっか…本当に大好きなんだね、空手』
『うん…それに俺、好きな色が水色なんだ…』
『え?そうなの?』
『だから、その…お前の髪、とっても綺麗で…俺、大好きだよ…』
『あ、ありがとう…』
そう言ってくれたの。
私、髪の色にコンプレックスを持ってたけど、タクミ君に髪を褒められて、それから私はこれでいいんだって思えるようになったの…
……………
………
……
「…それで」「タクミ君とは、どうなったの?」
「どうなったって…
タクミ君は中学を卒業したら、もっと強くなるためにアメリカに行って…」
「…まさかシャロンさん」「タクミ君の告白に、気が付いてないの〜〜〜〜!?」
「え?告白?…え?え?」
みるみるうちに顔が赤くなるシャロン
「もうっ!シャロンさんたら!」
リサがシャロンの手を取って店の奥に引っ張っていく
「ほら!着替えてください!」
「え?なに?」
「さっきから翔子が『21歳、空手、タクミ』で検索かけて調べてたんですよ!」
「シャロンさん!これ見て!」
翔子がシャロンに見せたのは、スポーツニュースの記事でした。
『全米空手大会王者「藤原拓海」日本凱旋‼️』とある。
「これ…タクミ君?」
記事にはこう書かれていた
「藤原選手は自分のラッキーカラーである水色のリストバンドを着けて試合に望むことで知られています。『どんな時でも、この色を見れば冷静に戻れるんです』との事で………」
「ほらぁ!間違いないです!」
「このリストバンドの色…シャロンさんの髪の色と一緒だよ!」
「…タクミ君だぁ…」
「今日夕方に羽田に到着するって書いてあります!」
「「会いに行かなきゃダメですよ〜〜っ!」」
翔子とリサは2人同時にそう言って、シャロンを羽田へと連れて行ったのでした。
「いつか、タクミ君がお店に来てくれたら…一番にあのケーキを…『ファースト・ブラッシュ・ロール』を食べてもらおう…」
羽田へと向かうタクシーの中で、シャロンはそう思うのでした。
喫茶店「樹」の初恋ロールケーキ 2切れ目です。
シャロンの喫茶店 エピソード11 初恋ロールケーキ 2切れ目
あとがきにかえて…
シャロンの初恋話をお届けしました。
普通女子を呼び出すのは、女子の先輩だと思うのですが、今回は空手でボコボコにされちゃう設定だったので男の先輩にしました。




