表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パーティメンバーが勇者の俺より強い気がする  作者: 憂姫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

第1魔将の領域

 境界は、音で分かった。


 それまで一定だった風の流れが、唐突に途切れる。葉擦れの音が消え、代わりに足音だけが強調されるようになる。地面を踏む感触も微妙に変わった。柔らかさがなく、反発が強い。


 ここから先が、第一魔将の領域だ。


 誰もそう口にはしなかった。だが、全員が同じことを感じ取っていた。


 ガルドの歩幅が、わずかに詰まる。慎重になったわけではない。踏み込む準備だ。戦士としての癖が、身体に現れている。


 俺は一歩後ろから、周囲を見る。


 森の形が不自然だった。木々の間隔が均等すぎる。岩の配置も、人為的な意図を感じさせる。自然がそうなったのではない。


 そう【させられている】


 地形そのものが、敵だ。


 次の瞬間、地面が動いた。


 隆起。いや、壁だ。地表がせり上がり、視界を分断する。前後が切り離される感覚に、背筋が冷える。


「来るぞ」


 ガルドが短く言う。


 合図はそれだけで十分だった。


 地面が割れ、魔物が現れる。数は多くない。だが、配置がいやらしい。壁の陰から、こちらの動きを測るように現れる。


 ガルドが前に出る。迷いはない。剣が振るわれ、最初の一体を叩き伏せる。


 だが、そこで終わらなかった。


 地形が動く。足場が傾き、踏み込んだはずの一歩がずれる。ガルドの体勢がわずかに崩れた。


 その隙を逃さず、魔物が群がる。


「ガルド」


 声を上げるより早く、身体が動く。


 俺は一歩前に出て、盾を構える。衝撃が腕に走る。重い。だが、受けきれないほどではない。


 その間に、背後から魔力が走った。


 リィナの魔法が、壁の陰を焼く。正確だ。だが、いつもより範囲が狭い。地形が、詠唱の狙いを狂わせている。


 セシルが詠唱を始める。だが、回復の光が届く前に、足場が沈む。彼女のバランスが崩れた。


 俺は振り返り、手を伸ばす。


 指先が触れる。間に合った。それだけで、胸の奥が少しだけ軽くなる。


 レインはすでに動いていた。壁の裏に回り込み、地形を操る核を探している。だが、簡単には見つからない。地面が生き物のように応じてくる。


 戦場が、こちらを試している。


 ガルドが吼え、無理やり前線を押し戻す。力技だ。だが、この場では悪くない判断だった。


 俺は周囲を見る。壁の動き。魔物の出現位置。沈む地面の周期。


 規則がある。


 完璧ではない。だが、偏りがある。


「次、左が沈む」


 言葉にすると、リィナが即座に動いた。詠唱の位置をずらし、火球を放つ。沈みかけた地面が爆ぜ、動きが一瞬止まる。


 その隙を、ガルドが逃さない。踏み込み、剣を振るう。魔物が倒れる。


 セシルの回復が届く。遅れはない。


 戦況が、わずかにこちらに傾いた。


 それでも、楽ではない。地形は執拗に動き続ける。疲労が、確実に蓄積していく。


 俺は剣を振るう。魔法を使う。必要とあらば回復も行う。判断を止める暇はない。


 すべてを同時にやる感覚。慣れているはずなのに、負荷が重い。


 ガルドの剣が止まる一瞬が見えた。


 疲れだ。


「一歩下がれ」


 声をかける。彼は反論しない。半歩退き、体勢を立て直す。その隙を、俺が埋める。


 俺の剣は軽い。だが、止めることはできる。


 レインが合図を送る。地形の核を見つけた。


 リィナが詠唱を始める。長い。だが、必要な時間だ。


 俺は前に出る。盾を構え、魔物の注意を引く。衝撃が続く。腕が痺れる。足場が揺れる。


 それでも、退かない。


 退けば、詠唱が途切れる。


 光が走った。


 地形が悲鳴を上げるように崩れ、壁が沈む。魔物の動きが止まり、統制が失われた。


 ガルドが一気に前に出る。剣が閃き、残った敵を叩き伏せる。


 静寂が戻る。


 息を整えながら、周囲を見る。全員、立っている。致命傷はない。


 勝った。


 そう理解するまでに、少し時間がかかった。


「……厄介だったな」


 ガルドが言う。額に汗が滲んでいる。


「地形操作。嫌い」


 リィナが短く吐き捨てる。魔力の消耗が、顔色に出ていた。


 セシルが全員に回復を回す。いつもより、詠唱が多い。


 レインが肩をすくめる。


「俺一人じゃ、無理だったな」


 その言葉に、俺は何も返さなかった。


 確かに、俺一人でも無理だった。だが、それ以上に、俺がいなければ成立しなかったとも思えない。


 地形を読み、繋ぎ、埋めただけだ。


 誰にでもできる。そう思おうとした。


「判断が早かったな」


 ガルドが俺を見る。その目に、疑いはない。


 俺は視線を逸らす。


「たまたまだ」


 本心だった。もし一つでも遅れていたら、誰かが倒れていたかもしれない。その事実だけが、胸に残る。


 第一魔将の気配は、すでに消えていた。倒したのか、それとも退いたのか。分からない。


 だが、この領域は越えた。俺たちは、さらに奥へ進む。胸の奥に残る疲労と、拭えない感覚を抱えたまま。


 この戦いで、俺が役に立ったのかどうか。

 その答えを、俺はまだ見つけられずにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ