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その八 チョコレートの隣には 後編

 ゲームセンターに戻った俺とリゼーラに今度はレイラと祐一が親指を立てていた。相変わらずリゼーラとナトルは全く何が何だかわからずにいた。

「うまく行った?」

 レイラが聞いた。

「な…なんもしてねえよ」

「えー?もう勿体無いなあ。じゃあ早く次のところ行こう!次は昼ね」

 レイラにそう言われ、全員お腹を空かせて

 目的地のレストランへ向かった。

「五人です」

 俺らはすぐに席に案内され、座った。

「なんだよ、ただのファミレスかよ」

 俺はレイラの選んだレストランに期待外れだった。

「お黙りっ!クーポンがあるからここがいいの!私が全部払ってあげるからさ。それにここならいろんなものを頼めるでしょ?」

 そう言ってレイラは隣に座っている祐一と一緒にメニューを覗いた。

「リゼーラ、ナトル、写真見てどれがおいしそうとかあるか?」

 俺はこっち側に座る二人にメニューを見せた。一番奥にナトル、真ん中にリゼーラ、そして端に座る俺。

「全部食べたい」

 そうわがままを言うナトル。

 流石に全ては食べれまい。

「また今度来てやるから。リゼーラは何かあるか?」

 俺はメニューを指さす彼女を見た。

「これはなんだ?私の知っている料理に少し似ているのだが。この絵だけで口の中に味が広がってくるぞ」

「おっ、ハンバーグじゃないか。肉で作られるんだ」

「なるほど。じゃあこれが食べたい」

 少しあと、ようやく食事が届き、皆それぞれ食べ始めた。ナトルのわがままにより、彼女はピザとパスタ、そしてリゼーラが羨ましくなって後々ハンバーグも頼み、計三食も食べた。リゼーラも熱いハンバーグを食べ、俺、レイラ、祐一も腹を膨れさせた。

「食ったな。次はどこに行くんだ?」

 俺がレイラに聞くと今度は祐一が教えてくれた。

「お化け屋敷さ。レイラと一緒に俺も考えたからね。まあほぼレイラだけどさ」

 祐一が俺にしか聞こえないように小さな声で伝えた。

「なんでだよ」

 俺が聞き返すとレイラが寄ってきた。

「いいから早く電車に乗るよ!」

 俺ら五人は再び電車に乗り、目的地へ向かった。

 遅めの昼に続き、長い間電車に乗っていたからか、あたりも暗くなっていった。電車から降り、歩き始めて数分、スマホを見れば時は五時を過ぎていた。

「まだー?」

 ナトルが後ろから喚く。

「もうちょっとだから我慢しろ。多分」

 俺は疲れたようにフラフラ歩くナトルを見ていった。

「もう疲れたー」

 お子ちゃまかこいつは。リゼーラと同じくらいなんだったら軽く600行ってるはずだ。なのにこんなに五歳児みたいに。異世界(むこう)でもこうなのか?ナトルに呆れた顔をするリゼーラの様子からして、多分異世界(むこう)でもこんな感じだったんだな。よくまだ滅ぼされてないよな。いや、もう既に?俺にはわからんな。

「どうした?」

 俺は斜め下を向き、下唇を噛んでいるリゼーラに聞いた。

「いや、なんでもない…」

 彼女の言い方は何か隠しているとしか思えない。引っ越す直前からずっとこんなふうに考え込んだりする。何を考えているのだろうか?そんなに引越しが嫌だったか?そりゃ麻紀さんとは特に別れも言ってないけど…いや、マナ粒子のことか?やっぱりあれが誕生してはマズいのだろうか?

「そう?抱え込んでるなら言えよ」

 俺は今回は少し押してみることにし、彼女に少し迫った。

「唇噛んでるとその顔が台無しになるぞ」

 リゼーラが俺の言葉に一瞬見上げ、彼女の少し赤くなった顔を見た後に俺も自分の言ったことに気がつき、だいぶ恥ずかしかった。幸いなことにナトルに構っていた祐一とレイラには聞こえていなかったようだ。

「いや、でもほんとだぞ。俺も力になりたい。教えてくれよ」

「あっ、えっと、どう説明しよう…」

 言葉に戸惑うリゼーラを見て、今は聞くべき時じゃないと俺は判断した。

「分かった。今は楽しもう。帰ったら聞かせてくれ。いや帰ったら多分ヘトヘトだな。お前の中で整理して、明日にでも聞かせてくれ」

「わ、分かった…」

 そう言っていつの間にか先を歩いていた俺とリゼーラはお化け屋敷に着いたのだ。

「ジャーン!お化け屋敷ー!」

 レイラと祐一が後方から出てきてお化け屋敷を俺らにアピールした。

「お化けをやっつけるアトラクションか?」

 ナトルが聞いた。

「ちげえよ。お化けに驚かされるだけだ。お化け屋敷なんて別に怖くないしな」

 俺はナトルに言い聞かせた。

「強がっちゃってー」

 レイラに言われ、俺はムカッときた。

「うるせー、強がってねーよ!」

「じゃあナトルちゃんは俺とレイラと三人で入ろうか」

 祐一が言った。

「泰知、ナトルちゃんのことは狙ってないでしょう?彼女もあなたには全く恋愛的感情はなさそうだしね。その一方でリゼーラちゃんはチョーっとじゃなくてだいぶあなたに思いを持っているようねえ〜」

 俺が何か言おうとするとレイラが寄ってきてまた俺の耳元に囁いた。

「別に誰も狙ってねえよ!」

 俺が囁き返した。

「ちゃーんと結ばれて出てこいよ!」

 最後に揶揄いを入れ、ナトルを連れた祐一とレイラは中に消えていった。

「リゼーラ、行くぞ」

 リゼーラも俺のすぐ後ろにつき、二人で暗い暗い建物の中へ入って行った。

「何も見えないぞっ」

 そう言いながら俺の隣を歩くリゼーラ。

 すると突然、パッと一瞬の光と共に不気味なお面を被った人物が目の前に現れた。その瞬間、瞬発的に反応したリゼーラの拳はもう人物の顔面目掛けて飛んでいった。

「ぐはっ!」

 と声を出しながらお面の人物は床に倒れた。

「ああっ!大丈夫ですか?!」

 俺はすぐにお面を取り外し、お面の下の人の状態を確認した。顔は赤かったり紫だったりするが、大きな怪我はなさそうだ。

「ご、ごめんなさい!」

 リゼーラもお面の下を見るとすぐに謝った。

 その後、俺らはお化けたちに恐れられながら進んでいった。最後までリゼーラのおかげか、のせいか、全然誰にも驚かされなかったな。お化けが客に恐れてしまった…

「あの化け物全部偽物だったのか〜」

 ナトルも同じようなことをしたらしい。いや、彼女は相手を完全にフルボッコにした。

 お化け屋敷から出た後、俺ら五人は外で再集合した。

「ダメだったかー」

 レイラは俺の方を見てガッカリする。

「人の顔見てそんなこと言うなよ」


 ▼▲▼▲▼▲▼▲▼


「今日は楽しかった?また今度遊ぼうねー!」

 そう言ってレイラはナトルとリゼーラに別れを告げて電車を降りた。

 俺ら三人も少し後の駅で降り、家に無事着いた。

「疲れたなー今日」

 俺は帰ってすぐにソファーに座り込んだ。

「隣、失礼する」

 そう言ってリゼーラが座った。

「隣、しつれーする」

 リゼーラを真似て俺の反対側に座ったナトル。

 二人に挟まれギュウギュウだ。

「歩いていたときにタイチが聞いてくれたことなんだが…」

 リゼーラがついに話をしてくれそうだった。

「ナトルが聞いていいものか?」

 俺は彼女に確認した。

「いや、ナトルも気がついているだろう」

 そうリゼーラは答えた。

「どう言うことだ?何か異世界に関係があるのか?まさかもう魔王や魔物たちに世界が滅ぼされたとか?!」

 俺は心配してリゼーラに言ったが、少し早とちりだったようだ。

「まだ大丈夫だ。私がここにくる前、大臣などの予想では魔王軍の侵略が国の国境を破るのには四十年ほどかかるだろうと言っていた。だがそれ関連のことでもある」

 俺は彼女の言葉にゴクリと唾を飲んだ。

「この世界で作られたマナ粒子の話だね」

 ナトルが言った。

「そうだ。ナトル、タイチに説明してくれ」

 リゼーラにそう言われ、ため息をつきながらもナトルは俺の隣で体勢を変え、説明を始めた。

「昔、強力なマナ粒子の渦で人が突然いなくなる現象が起きてたの。それはマナ粒子が一点にたくさん集中することでその人が別の世界に飛ばされたの。それをすごい魔法使いが異世界に行ったり人を呼び寄せたりできるように魔法を作ったの。でもマナ粒子の消費が大きいし、連れてこられるのは勇者だけ」

「うーん、うーん、なんとなくわかったぞ。続けてくれ」

「この世界でマナ粒子を作ってる場所で作りすぎちゃうとマナ粒子の渦が起こるかもしれない。しかも魔王は魔法を書き換える力を持ってる。もしかしたらマナ粒子の渦を使ってこっちの世界に来て、征服を始めるかもしれない。この世界には魔法がないし、私たちの世界よりも人間が多くて魔物の餌になる。侵略しやすい」

 そうナトルは説明してくれた。

「つまりマナ粒子を作りすぎると魔王がこっちに来ちゃうかもってことだな?」

「まさにその通りだ。魔王はまず魔物を送って人間を食べさせ、力をつけさせ、マナ粒子を増やすだろうな。その後、強力な魔物を使って自分自身をこっちの世界に引き摺り込む」

 リゼーラが俺の仮説を承認してくれた。

 しかし、マナ粒子を作るのが危険だとあのシユさんに伝えて、果たしてやめてくれるだろうか?むしろ、興奮してペースを早めそうだ。

「それはやばいな。やばいんだが、作るのをやめさせる方法なんてないぞ?どこで研究してるのかわからないし、見つけても『マナ粒子を作るな!』なんて言ったら異世界人としてリゼーラとナトルが何されるかわからない」

「その時は私たちがこの世界を守るしかない!」

「そうだよタイチ〜私たちが守ってあげる〜」

 のんきそうにリゼーラの後にナトルも続いた。

「二人とも!」

 俺はソファーから立ち上がり、二人を見た。

「タイチには十分世話になっているからな。もし魔族が攻め入ってきたら私たちが全力で追っ払う。もしかしたら私たちの世界からも援軍を送ってもらえるかもしれないし、もし魔王がやってくることができても、私たちが必ず倒すと宣言しよう」

 そう頼もしく言ってくれながらリゼーラは立ち上がった。

「だ、だからな、できればそうなる前にタイチともっとこの世界を楽しみたいのだ」

 そう言ってくれた彼女を満足させると、俺は決心した。

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