その十二 阻止阻止阻止!
俺ら四人は外に出るとすぐに魔物に遭遇した。
道の真ん中には狼のような魔物がいた。一メートル半くらいの高さまであって、車ほどの長さだ。深い毛に覆われた四本の脚は力強く、人間なんか簡単に裂いてしまいそうな大きな爪が足についている。体は主に濃い紫で、鋭い目つきをしている。赤くルビーのように光る目は四人から離れない。尻尾は長く、先は槍のように尖っている。そして口からはみ出る牙は何でも噛み砕けそうだ。
「タイチ、チャンスだよ!魔法を唱えてみて!」
イトスが威嚇してくる魔物をみて俺に呼びかけた。
「ちょっと待ってくれよ!俺唱え方もイトスがやってたような掛け声もわからないぞ?!」
俺が慌てて言うと同時に狼が向かってくる。俺は魔物の爪に真っ二つに切り裂かれる前に横にダイブし、攻撃を避けることができたが肘を少し擦りむいた。
「そう言えば、そうだったね」
イトスが呑気にしていると俺を通り過ぎた狼の怪物は立ち上がり、こちらに振り返った。二度目、怪物が俺を目掛けて攻撃してきた。しかし、地面に転がっている俺は避けることができない。飛び上がった狼の爪が俺の顔目掛けてくる。咄嗟に目を瞑った俺は切り裂く音のみ聞こえた。痛みは感じない。目を開けると、切り裂かれたのは俺ではなく、魔物の方だった。そして倒れた魔物の前に立つのはナイフを持ったリゼーラ。彼女は俺をみるとてを差し伸べてくれた。俺はその手をとり、立ち上がる。
「ありがとう、リゼーラ」
「問題ない。ここからどこに行けばいいんだ?」
リゼーラは俺に少しの笑顔を見せると俺らの家への行き方を聞いた。
「この事態じゃ、電車は止まってるだろうな。大通りに出れれば…」
「わかった」
そう言ってリゼーラは先頭を歩き出した。
「リゼーラ、大通りは反対だ」
「わかった」
向きを変えてリゼーラはまた先頭に。
「今のうちに魔法覚えちゃおう」
走り出して数分、リゼーラとナトルが前方に行手を阻む魔物を対処していた頃、イトスが提案した。
「確かにな。一番簡単なやつから教えてくれよ」
そう俺はイトスに伝えたが、彼女がそうしてくれるだろうか…
「どこからがいいかなあ」
イトスが考えている間に俺たちは大通りに出た。
「リゼーラ、ナトル、左だ!」
俺は先頭の二人が大通りに出たのを見て、彼女らに家への方向を教えると、再びイトスに注意を戻した。
「簡単なのからにしてくれよほんとに」
魔物がもう二匹目の前に現れ、ナトルとリゼーラが素早く払いのけ、俺らはついて進んだ。
「一番簡単なのからでいっか」
イトスが走りながらしばらく考え込んだ後、やっと決めてくれた。
「最初からそうして欲しいって言ってたのにな」
「じゃあ火系魔法の一番簡単な魔法からね」
「おう。走りながらでも覚えられるか?」
「初級だもん。大丈夫」
「わかった」
イトスは走りながら腕を前に出した。
「タイチもこうやって腕を上げて」
「おう」
言われた通りに、走りながら腕を前に出した。
「その次は、腕に力が流れてるのをイメージしながら」
「しながら?」
「魔法を唱えるんだけど…」
「だけど?」
「初級の火系魔法がなんて名前だったか忘れちゃった」
イトスは笑いながら言った。
「忘れたってどう言うことだよ!」
「だって、初級魔法なんて使わないからさー、忘れちゃうんだもん」
そうイトスが言うので、俺は他に方法がないか聞いてみた。
「他に魔法の唱え方はないのか?ひとつ上くらいの級でもいいからさ」
そう聞くとイトスは何か思い出したかのように斜め上を見上げた。
「あ、時間かかるかもしれないけど、方法あるよ」
「どんな?」
「じっと座ってなきゃいけない」
「じゃあ今は無理じゃねえか」
「そうだね」
結局魔法は覚えられなかった。
ズシン…
四人、大通りを走っている途中、後ろの方からとても大きな音がした。すでに周りは人の悲鳴や魔物の雄叫びでイトスとの会話中も叫ばなければいけないほどだったが、後ろからした大きな振動音はそれらを全て凌いだ。
前を走るリゼーラとナトル、そして俺とイトスもすぐに足を止め、後ろを振り返った。するとそこには大きなマンモスのように牙の生えた魔物が歩いていた。マンモスのような魔物は牙のほかに、頭の上に日本の赤いつのを持っていた。前からではわかりづらいが、足が六本あるかのように見える。その魔物はトラック二台分ほどの高さがあり、一歩一歩ゆっくりと進みながら道を砕き、道路を塞ぐ車を全て潰していった。
また、視界にふと何かが入り、それを追って空を見るとプテラノドンのような空を飛ぶ忌まわしい見た目の魔物もいた。
「思ったよりだいぶやばいなこれ。世界の終わりなんじゃないか?」
俺がつぶやくと後ろに立っていたリゼーラが俺の隣に来た。
「マナ粒子は信じられない速度で広まっていく。もう世界中がこのような事態のはずだ」
リゼーラは説明した。
「じゃあ魔王が出てくるのを阻止するって言っても世界のどこで止めればいいかわからないじゃないか!」
俺は現実を知ると焦ってきた。
「リゼーラさんにそんな口を聞くんじゃない!」
イトスは俺を叩くと、説明を続けた。
「そうではあるけど、実際のところはここかもしれない。まず、マナ粒子は人の多いところに増えやすい。だから海の上とか森とかはマナが街と比べて多少は少ない。そのちょっとの違いだけで、街の方が向こうの世界からこっちの世界に行きやすくなる」
「あと多分、マナ粒子が最初に作られたその研究所みたいなところから増えてるからそこが一番多いと思うー」
ナトルがそういうと、リゼーラもイトスも頷いた。
そう言われ、俺もつい先日に見たニュースを思い出した。
「そういえば、昨日の朝見たニュースであのなんとかシユって人が研究所で事故死したって言うニュースを見たんだよ。リゼーラたちに伝えようと思って保存しておいたんだ。研究所の場所が載って他かも!」
「でかしたぞタイチ!」
イトスが喜び声を上げる。
俺はポケットからスマホを取り出し、保存しておいたニュースの記事を読んだ。
「場所がわかった。リゼーラの剣と鎧を撮りに行ったらすぐに向かおう」
俺がそう提案すると三人はすぐに頷き、俺らは再び大通りを走り続けた。後ろでは未だに大きな魔物の足音や、周りから人々の叫び声が聞こえてくる。
祐一、レイラ、待ってろよ。この世界、俺が救うぜ!まだ魔法すら使えないし全く戦えないけどな。
大通りを進み続け、魔物を次から次へとリゼーラ、ナトル、イトスが倒す。俺は後ろで走っていて、ほとんどついて行ってるだけだ。
走っていくにつれ、倒れている人々が増えていき、建物も崩壊している。もうこの街の風景は元が思い出せないほどに変わっている。
壊れた車や電柱を避けて進む中、魔王を本当に阻止できるのか、失敗したらこの世界はもうダメになってしまうのか、もし阻止することができたとしても、復興することができるだろうか、などど数々の不安が俺の中で込み上がってきた。夢であってほしい。
だが前を走る三人を見ると、もしかしたら、全てうまくいく、そう思える。いや、きっと全てうまくいく。この三人がいれば怖いものなしだ。
走り始めて一時間ほど、俺らはついに家の駅付近までやってきた。
「その道を左にいって…」
俺は後ろから前の三人に指示を出しながら目的地にどんどん近づいた。
「ここで右に曲がって…」
そしてついに、到着した。
「リゼーラ!」
俺の掛け声に合わせて彼女は玄関のドアをあけ、中に入った。
初めてこの世界に来た時、家では靴を脱ぐと彼女に教え込んだが、この状況でも彼女は靴を脱いで家の中に入って行った。彼女は外から見えなくなり、家の中からものがたくさん落ちる音がした。そして十分ほど経つと、リゼーラが最初に俺のアパートの部屋に現れた時と同じ銀の鎧と剣を装備して出てきた。
「最初に会った時を思い出すなあ」
俺は感心しながら彼女のことを見つめた。
「お、思い出さないでくれ!」
恥ずかしそうにリゼーラは腕で顔を隠す。
「よし、じゃあ行くか!」
俺らは曲がりくねった道を進み、再び大通りに出る。研究所までの道はわからないため、道の名前や、車用の道路上の表示の地名、駅名を見て方向を探ろうとしたが、やはりいくら走ってもどこに行っているかわからない。
その時、三台の自衛隊車が大通りを走ってくるのが見えた。
彼らなら知っているかもしれないと思い、俺は三台に向かって手を振り出した。すると三台の車は俺らの前で停車し、軍服を着たレイラが中から出てきた。
「泰知たちじゃん!ナトルさっきぶり!」
レイラは俺と同じくらい驚いていたようだった。
「レイラー!」
ナトルは探検を持った両腕を上げながら言った。
レイラと再開できとても嬉しそうだな。
「リゼーラちゃんの剣とか撮りに行ってたんだ?ナトルはいつも持ち歩きだもんね、短剣」
レイラはそう言うと同時に、もう一人出てきた。
「レイラ、知り合いか?」
中から出てきた男はとても大きな体をしていて、俺よりもだいぶ背が高い。自衛隊だけあって、彼の腕はとても強そうだ。掴まれたら一瞬で腕の骨を折られそうだ。
「達夫ー、一緒に乗せてってあげてよ!この人たち結構強いんだよ」
レイラは車から出てきた達夫という男にそう言った。
確かにみんな戦えるし、強いな。俺以外は。
「レイラ、一般の生徒を巻き込むことはできないのは知っているだろう」
リゼーラはそういう達夫に対して顔を顰めた。
「この怪物たちの元凶の場所を知っているんです!」
俺はそういって乗せてもらいたいとねだった。
「わかった。二人はこっちに、もう二人はすぐ後ろのに乗ってくれ」
達夫はそう言ってくれると、レイラと車の中に乗り込んだ。
俺、リゼーラはレイラたちと一緒に車に入りこみ、ナトルとイトスには後車に乗ってもらった。
俺は彼らの運転手に研究所の場所を伝えると、すぐにその場所へ車を走らせた。




