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その十 双方のプレゼント

 先週、ナトルはレイラと一緒に住みたいと言い出し、引っ越した。レイラとは随分仲良くなったみたいだし、リゼーラと一緒にいるといつも家を破壊しそうになるから俺はすぐにオッケーを出した。

 男と一緒よりレイラとの方がいいと思うしな。リゼーラにも行かないかと聞いてみたが、即答で嫌だと言われたからな。

 俺がここでサポートしてやるか。とはいえ、家事の半分以上は彼女にやってもらっているし、バイトもしてもらってる。世話されてんのは俺のほうかもな。

 リゼーラの世界にクリスマスという電灯行事はないそうだ。よくよく考えてみればこっちの世界のある一つの主教の神様の誕生日を祭ってるわけだし、向こうには他の宗教のイベントがあるのかもしれない。

 俺はリゼーラにプレゼントをあげたいと思う。寒いし、マフラーや手袋がいいかもしれない。俺は不器用だから手編みは得意ではないが、彼女にあげると思って頑張れば成功する気がする。

 リゼーラはほとんど毎日バイトをしてくれているが、俺もちょくちょくと週一でしていたため、金は少し溜まっている。

 リゼーラにはたっぷりと働いてもらっているし、彼女の稼いだ分は彼女の服やアクセサリー、その他の彼女が欲しいと言ったものをほとんど買っている。アクセサリーは彼女の世界ではほとんど全てが魔道具であり、魔物よけや身体能力増加のような効果がついていて着飾るというより道具として使うという概念の方が強いらしい。そのため、見た目以外なんの意味もなさないこちらのアクセサリーにはとても驚いていた。

 何かを買ってやると彼女はとても喜んでくれるが、クリスマスは特別にしたい。ただ彼女の欲しいと言ったものをあげたくはない。サプライズだ。

 サプライズだと少しリスクはあるが、この二ヶ月半、俺は彼女のことをだいぶ知ったと思う。まだとても親密というほどではないが、彼女の好き嫌い、クセ、そのような小さなものも知っているつもりだ。ひとつ言ってみるとすると、リゼーラには言いたいことがあるけど、遠慮してしまう時、長い耳の下当たりを触る。そんな彼女に無理をさせない程度で話してもらったり、そのような動作を見るのが俺の日々の癒しである。

 好きなものといえば、彼女はとてもこちらの世界の料理が好きだ。そして俺も彼女の世界の料理が好きだが、作るときは俺がほとんどやっている。

 彼女は自分で料理をするのがとても好きなようだが、あまり得意な方ではない。彼女は何度も挑戦する。少しずつ上手くなっているが、まだまだ彼女の納得いくようには作れないらしい。

 そんなリゼーラがたくさんの料理を満足できるように作れるようになって欲しい。店で食べるよりもリゼーラの作ってくれたものの方が美味しいくらいになってほしい。

 俺は料理本を彼女に買うことにした。もちろんこれは俺からのプレゼントだし、俺の稼いだ金で買うつもりだ。


 ▼▲▼▲▼▲▼▲▼


 何せ、サプライズなのだからリゼーラに何を買っているかを知られたくない。そのため、俺はこうして大学の帰りに本屋に来ている。ネットで買ってもいいのだが、リゼーラが先に見つけてしまうと大変だ。

 俺は本屋の棚を探り、目当ての料理本のありそうなところを探した。

「料理本ってあります?」

 大量の本から探すのに苦労していた俺は店員に聞いた。

「ああ、料理本ですか?確認します」

 俺は案内され、店員が俺の探したところと同じところを見て周り、手でなぞりながら確認していくところを見た。

「すみません、聞いてきますね」

 そう言って店員は店長らしき人に助けを求めに行った。

「料理本ってありませんか?」

 俺はその店長らしき人に聞いた。

「いやー、つい先日買われましたよ。なんと言っても一生忘れられないくらい綺麗な姉ちゃんが買っていってなあ」

 そう天井を見ながら答える店長を収める店員。

「ちょっと店長!」

「わかりました。ありがとうございます」

 俺はそう言って店を出た。

 そんな美人がいたのなら俺も見たかったな。でも普段から並ではない美しさをもつリゼーラと一緒にいるからその美人も対して美人には見えないかもな。リゼーラを見てるとインターネットで整形とかフィルターとかしてる奴らが可哀想に思えてくる。と言ってもやらない方がいいけどな。怖いんだよなあ、フィルターって。ゲーム実況してる人気の若い女性の配信者が裏では歳のオバサンか男だと思うと背筋が震えてしまう。そんな奴らを何も無しで凌ぐリゼーラって改めてすごい美人だよな。彼女を思い浮かべただけで鼻血が出てきてしまいそうだ。

 俺は他の近くの本屋を探し、大きくて料理本がありそうな本屋に向かった。

 歩いている途中、祐一から通知が来た。二十五日にレイラと俺とリゼーラとナトルと優一の五人でクリスマスパーティーをやりたいらしい。リゼーラへのプレゼントはイブに渡しておけと言われた。

 こいつ俺がリゼーラにプレゼントあげるつもりなこと知ってたか…

 本日第二の本屋に辿り着き、再び料理本を探す。棚の一番上を見上げて探し、下の方も屈んでしっかりと探す。俺は欲しかった本を何百冊の中から探し当てるとそれを手に取り、レジに行った。

「プレゼントですか?ラッピングしますか?」

 レジにいる女性に聞かれた。

「そうです。お願いします」

「分かりました。親御さんにですか?」

 と聞かれ、俺はノーと答えた。

「兄弟?友達ですか?」

 商品を包みながらまた聞かれると俺はまたも違うと伝えた。

「いえ…」

「あ、彼女ですね?」

 自信満々そうに言われ、俺は違うというのに少し躊躇ってしまった。

「料理が好きな彼女さんなんですねー。手作り美味しいですか?」

「いやその彼女じゃ…」

「名前のタグつけますか?」

「は、はい…」

 俺が言っても聞いてもらえず、結局そのまま買ってしまった。

 周りからしょっちゅう彼女だのカップルだの言われると本当にそう思えてしまう。俺はリゼーラのことが好きなのか?いやそんなわけない。それにリゼーラは俺のことを慕っているようにしか思えない。向こうも好きではないだろう。そう、友達って感じだな。でもひょっとしたら?いや、考えるのはやめだ。

 買った本を鞄の中にしまうと俺は家に持って帰った。


 ▼▲▼▲▼▲▼▲▼


 数日後のクリスマスイブ。その日は水曜日で、レイラと祐一にまた明日と行った後、リゼーラの待つ家にできるだけ早く帰った。

 外の空気は冷たく、赤く腫れる耳をてで温めようとしながら駅から走る。

 家の扉には鈴が二つ、飾ってある。

「おかえり、タイチ」

「ただいま、リゼーラ」

 俺が玄関のドアを開けるとリゼーラは白いセーターを着ていて、珍しくも長い金色の三つ編みを頭の後ろに送らせ、後ろに赤いリボンでティアラのように結ばれていた。まるで彼女がプレゼントのようだった。

「冷凍庫から出しておいたからもう解凍できているはずだ」

 リゼーラに言われ、彼女を見つめていた俺は我に帰った。

「お、おう。ありがとな」

 俺は玄関から上がり、着替えてからキッチンへ。

 リゼーラは俺の監督と手伝いの下、鶏肉を調理した。

「やっぱりクリスマスはチキンだな」

 まだ熱い鶏もも肉をいくつかリゼーラの皿にも乗せる。

「この日にはこのにわとりという動物を食べるのが決まりなのか?」

 リゼーラがもも肉に食いつきながら言った。

「いや、俺は別に宗教に入ってないから好きで食べてるだけだ」

「なるほど」

 冷めないうちに俺らは全て平らげた。

「リゼーラ」

 食べ終わった後、俺はカバンからラッピングに包まれた本をリゼーラに手渡した。隠す場所が思い浮かばず結局カバンに入れっぱなしにしてしまった。

 プレゼントをもらった彼女はとても驚いていた。彼女はとても嬉しそうに持っていた。

「開けていいぞ」

 彼女をソファーに座らせて俺は彼女にラッピングを取るように言った。

 紙の包みを破きとると中からは俺の買った料理本が出てきた。

「これは!」

 リゼーラは驚いて声を上げた。

「料理本だよ。料理上手になってほしくてさ」

「ありがとうタイチ!」

 リゼーラは目を光らせながらそう言ってお隣に座る俺に飛びかかってきた。

 喜んでくれたようで何よりだ。

「ちょっと待っていてくれ!」

 俺から離れると彼女は寝室に駆け込んで行った。

「リゼーラ?」

 しばらくすると彼女は手に何か持って出てきた。そしてその手に持ったものを俺に渡してきた。

「ナトルがプレゼントを買うと言っていて、私もタイチに何か買おうと思って…」

 彼女が渡してきたものは料理本だった。

「タイチからいつもものを買ってもらってばかりで、私はもらうだけで…それにタイチの好きなものも料理以外あまり知らなくて…」

 彼女は必死になって俺に説明した。

「かぶってしまったし、タイチの欲しいものでもないかもしれない…」

 そう言っていた彼女を、俺の体が無意識に抱きしめた。

「タイチ?!」

 俺の体は彼女を離さない。

「リゼーラ、ありがとう。嬉しいよ」

 彼女も何も言わずに俺の背中に手を回した。

「じゃあこれからも一緒に料理頑張るか」

 俺がいうと俺の肩に顔を当てたまま彼女は頷いた。

 リゼーラがここにきてから二ヶ月半。俺を、彼女の世界を救うために勇者として迎えにきてから色々なことがあった。イトスに冤罪をかけられたり、ナトルがリゼーラを追ってきたり、一番やばいのはシユって人にリゼーラたちが狙われているということだろう。

 それでも今はこうして静かなクリスマスイブに、リゼーラと共にいる。時には頼れる立派な騎士、もうひと時にはこの世界にあれこれに腰を抜かす女の子。同じことの繰り返しだった俺の毎日の人生が、彼女がきてから充実している。誰かの役に立っていると感じることができる。

 リゼーラに感謝され、俺もリゼーラに感謝している。リゼーラはもう変えることができなくなってしまい、故郷の人々に会えなくなってしまったが、俺は彼女が来てくれたことを嬉しく思う。俺が代わりに異世界に行っていたら、彼女と同じように過ごせただろうか?そもそもリゼーラに出会えていただろうか?そう考えることは時々あるが、俺は後悔していない。

 リゼーラと今まで、そしてこれからも一緒にいたい。いられるように、今、この日に願おう。

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