その一 天から来た、異世界から来た
私はリゼーラ。私たちのエルフの王国、キリメラと人間たちのレコロン帝国およびほかの王国諸国は連携して魔物および魔王軍を押しとどめていた。しかし私たちの数の減る一方で魔物と魔族の数は増えていった。勇者に頼るしかなかった。古の召喚術を使い、異世界から選ばれし勇者を召喚した。が、勇者たちは負けた。一人残らずやられてしまった。そして次の勇者は呼ばれているというのに拒否しているの?ならば、私が彼を連れてくる!
『トキトジゲンノユウシャヨ!』
ん…?
『ワレラノショウカンノギシキコタエ、テンカラオリテコノセカイヲスクイタマエ!』
はぁ?召喚?
『サア、イセカイカラヨバレシユウシャヨ、ワレラヲコノキキカラスクイタマエ!』
異世界?勇者?変な夢だな。どっか行け!帰れ!休みなんだから寝させろよ!
『ヨ…レシ…ウシャ…』
『ワレ…ヲス……タマ…エ』
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今日は日曜日。日曜日のいいところはバイトもないし、授業もないこと!とりあえず一日ダラダラできる。でもこれもまた日曜日の悪いところ。次の日は月曜日で、明日は授業あるし、バイトもある。月曜日が日曜日の次なせいで日曜日が日曜日の価値を失う気がする。日曜日の次の日は日曜日であるべき。
大学生の俺は一人暮らし。友達はまぁいなくはないし、彼女、はいないけど、別に女の子と話せるし?ネット上ならいっぱい女性の人と仲良しだし?彼女いないことに文句あんのかコラ。
「ゲーム買いすぎたなぁ。家賃やばいかも」
そんな中、俺は何とか生きていた。
「腹減ったな。なーんかないかなー」
冷蔵庫を漁っても特に何も食べれそうなものはない。まぁ食材とかならあるが、日
曜日の昼のために料理なんてしたくない。一日一回、夜だけで十分めんどくさい。
「買いに行くか」
俺は適当に床から服を取り、それを着てフラフラっとドアを出る。
画面ばっか見てて頭いてぇ。三十分以上見たら少し水でも飲んで休憩したほうがいいな。
アパートの階段を降り、道路に出歩く。
コンビニ、コンビニエンスっていうくらいだからコンビニエンスな俺のアパートの隣とかに作ってほしいなー。
少し歩いた後、右に曲がり、大通りに出てすぐのコンビニに入った。
「紅鮭売り切れ?そんなん俺が許さん。が、今日はツナマヨで我慢してやる」
おにぎりとサンドイッチを一つずつ手に取り、セルフレジまで持ってくる。
セルフレジって現金できないんだっけ。
一度置いた商品二つをもって隣のレジに置く。見上げると茶髪のかわいい系のお姉さんが立っている。
「ちょっと泰知くん、明日六時からバイトだからね?遅れないでよ?」
このいろいろすごくて俺と同い年くらいだと思われてナンパされまくってそうな女性は俺のバイトの先輩。こう見えても実は三十一で結婚している。旦那が良く出張に行っていて暇すぎるからバイトしているらしい。ほかの人の人生に興味ないからあんまり聞かないが、旦那さんもうちょっと奥さんといてやれよ。
「聞いてる?あなたのいない分私がやってるんだからね?」
これだから有人レジは嫌だ。暇なんだったら俺の分もやってればいいだろ。仕事部やしてくれてありがとうございますとでも言ってくれ。
「ハイハイ努力します」
それだけ言ってお金を置いて俺はコンビニを去った。後ろからガミガミ聞こえるが
気にしない。ビニール袋を反対の手に持ち替えながらアパートにもどる。
飲み物買うの忘れたな。
アパートにつくと二階まで階段を上り、カギを取り出す。俺、行くときカギ閉めてないな。もう老いて記憶がやばいかもしれん。
ドアを開けて俺の部屋に入る。テーブルに買ったツナマヨ、おにぎりとサンドイッチの入った袋を置く。
「わっ?!」
俺の、アパート部屋の真ん中に、人がいる。よくわかんない、ドっから来たかわかんない女性。鍵あけっぱだったしな。泥棒かコノヤロウ。俺の遊びかけのゲーム盗んだらただじゃおかねぇ。フライパンと盾見たく、おたまを剣っぽく持って泥棒に接近。泥棒か?これ。
俺の目の前に立っている人は言うほど泥棒って見た目でもなかった。全身金属っぽい鎧、その上、腰には大きくて長い剣がある。身長は、たぶん防具のせいで少し高くなっているが俺より少し低いくらい。鎧なしで165とか?わかんないけど。警察に、「犯人の身長は?服装は?」とか聞かれる奴、答えてみたいんだよな。もちろん被害者になるのは嫌だけど。
それより、俺の目の前の人はその金属の鎧の上、髪の毛は長い金髪。染めたくらい金。もう黄色。こんな黄色な金髪ナチュラル、欧米人でもいるか?そして彼女の長い髪から出る二つの尖った耳。エルフみたいだな。服装と合わせてなんかのコスプレか?顔めっちゃ美人じゃん。人形っぽいかわいさもあるけど超美人。頭と顔めっちゃ丸い。目はエメラルドグリーンで茶色い眉毛と長いまつげが美しい。鼻とか顎とか小さいし、アイドルとか全員比べ物にならん。この目の前の人、天使みたいだ。人生頑張ってる俺に天からご褒美か?
彼女は俺のほうを向いた。
「選ばれし勇者よ!私の世界を救ってくれ!」
ああ、声も美しい。ん?勇者?そんな夢見た気がする。俺まだ夢見てんのか?あいや、つねっても痛い。
「勇者の剣と盾まで準備できているのだな!早速行こう!」
彼女は嬉しそうに俺に言ってきた。
剣?おたまが?
「ちょっと待った。俺は勇者じゃないしこれは剣でも盾でもない。それより君は誰だい?」
「私はリゼーラ。キリメラ王国騎士団長だ。勇者殿を迎えに来た!」
「だから俺は勇者じゃないって!」
「勇者じゃないなんてことはない。勇者殿は勇者として選ばれたのです!その勇者の剣と盾の名前は何と?」
「剣と盾じゃなくておたまとフライパンだよ」
「オマタとふらぱん?」
いやオマタはダメだろ。なんなんだこいつ、人の家に入りこんどいて。
「何なの君は?」
「説明が足りなかったか、申し訳ない。私は私の世界から勇者様を迎えに来た。勇者殿の力で魔王を討ち取ってほしいのだ!」
「異世界から来たってこと?」
「そうだ!」
「でも俺に勇者の力なんてないよ?」
「私の世界に来れば力は使えるようになる。さあ行こう勇者殿!」
「いや、だから俺は勇者じゃないし異世界に行きたくないって」
「頼む、魔王が強すぎたのだ!ほかの世界からも勇者を呼んだが皆やられてしまった!」
「なおさら行きたくないよ!転移転生で無理やり連れてくればよかったんじゃないの?」
「そうしようとしたが勇者殿は召喚を拒否したのだ。だから私が来て勇者殿に行きたいと言わせるのだ!」
ああ、思い出した。あのへんな夢か。
「いやだよ!もう一回召喚されそうだったらまた拒否してやる!」
「頼む!ご馳走をたくさん出す!女も用意する!金も渡す!勇者の欲しいものは把握している。必ず良いおもてなしをする!」
彼女は鎧の状態で俺の足に縋り付いていた。
女と金ってほかの勇者どんな奴だったんだよ。
「重いって!それより、俺が行ったら君はどうやって戻るの?勇者を召喚するやつでしょ?」
「大丈夫だ。私は… 私は… 私はどうやって帰ればいいのだ?!」
彼女は立ち上がって頭を抱える。
帰れないんだこいつ。
「ご馳走だっけ?俺ちょっと異世界の料理食べてみたいし、勇者としてちやほやされるんだったら召喚されようかなあー」
俺の顔はいまとんでもなくニヤニヤしているだろう。
エルフの女リゼーラは強く俺の足に縋り付いているが今度は涙目になっている。
「やっぱり行かないでくれ勇者殿!私をこの世界に置いていかないでくれ!」
「さっきまであんなに行ってほしかったのにー?」
「頼む勇者殿!私じゃあこの世界で生きていけない!」
「そうだねえ…たぶん警察に捕まって身ぐるみはがされるね」
「け、ケイサツというのは盗賊か?!」
「騎士みたいなものさ。俺が彼らに君を引き渡せば一生地下牢かもね」
「た、頼む!私を助けてくれ!異世界の料理なら私が作る!金はないが、体ならある!」
そう言って彼女は鎧を脱ぎ始めた。俺もそれをしばらく眺め見ていた。いかんいかん。布が次なくなったらもう肌だ。
「落ち着け!分かった分かった!」
彼女をなだめて脱ぐのをやめさせる。鎧を脱いだ体はやばいな。鼻血出そう。
「とりあえず、なんか食べるか?」
俺は机の上のビニール袋をとり、中のツナマヨおにぎりを彼女に渡す。
「これはなんだ?」
渡されたおにぎりよりも彼女はビニール袋で遊んでいた。
「いいからこれを食べろ」
俺はおにぎりを開けてやり、彼女の口に入れる。
「フゴッ?!」
俺は彼女を机に座らせ、隣に立つ。この長い耳、面白いな。引っ張ってみよう。
「痛いではないか!」
おーすげーほんものだー
「悪い悪い。ところで君、いやリゼーラ、エルフなんだろ?何歳なんだ?2000ちょい?」
俺が適当に言うとその数字は彼女の怒りを買ったみたいだった。
「に、2000?!失礼な!そんなに老いてないぞ私は!まだ656だ!」
「ごめんよ。俺にはエルフの年は分からないって」
「それなら勇者の力を使えばいい」
「勇者の力は異世界に行かないと使えないんじゃないの?」
「魔法などはこの世界では使えない。しかし勇者のみに与えられる力、全てを見る目は使用できる。私のことが知りたいと強く念じながら目の前にガメンというものを意識してみてくれ。私もよくはわからないが余暇の勇者はそのように説明していた」
言われた通りに俺は画面を意識してみた。すると目の前に何かが浮かび上がってきた。
「うわなんだこれ!」
「それは勇者だけが使えるスキルでものをはかることができるのです」
ゲームの鑑定みたいなものか。目の前の画面には棒みたいなものがいくつかあり、彼女の名前とともにHP-52617/52617、Lv-249、ランクS、そしてほかにも騎士団長とかいろいろ書いてあった。お?
「二十歳って書いてあるぞ?俺と一つしか変わらないな。こっちの世界に来たら変換される的な感じかな?」
「二十?!赤ん坊ではないか!」
「この世界ではそうじゃないんだけどな」
目の前の画面は瞬きしたら消えた。自分のも見れるんだろうか。念じてみるとまた画面が現れた。自分の名前を教えられてるみたいで変だな。それより、俺は…レべル26?!HP-136/136?!ランクS。でもランクはどうせ勇者だからとかなんだろうな。まぁいいや。異世界人と比べても意味がない。
「もうこんな時間か」
俺は時計が八時を指しているところを見る。俺が時計を見ると彼女も興味深そうに時計をの張りが進むのを見ていた。
「これで時間が分かるのか!ところで勇者殿」
「ああ、その勇者殿勇者殿やめてくれ。泰知で」
「タイチ殿だな」
「いやもうタイチだけでいい」
「ではた、タイチ、私はここに住んでもよいか?ケイサツには引き渡さないでくれ!できるだけ手伝う。どうか私をここにおいてくれ」
「安心しろって。そのつもりだよ」
俺は彼女を風呂に案内する。今日は休めた気がしない。大学の授業は明日休もう。取りあえずこのポンコツエルフには寝て黙ってもらおう。彼女が風呂にいる間、俺はとりあえず彼女の鎧や剣をしまっておいた。売ったらどのくらいになるかな。なんちゃって。いやでも別にいらないよな?
「こ、この世界にも魔法が?!」
なんか知らんが彼女はシャワーヘッドを魔法だとか電動歯ブラシが怖いとかどうのこうの言っていた。石鹸とタオルは知っていたらしい。
服がないし、正直これに俺の服を着せたらいろいろ破けてしまいそうだったので彼女の鎧の下に来ていた布一枚みたいなやつを着てもらった。ベッドに案内し、俺は部屋の電気を消してやるとソファーに倒れこむ。
ちょうど寝つけそうだったとき、肩を揺さぶられた。
「タイチ…眠れないのだ…」
リゼーラがもじもじしていた。とんでもないパワーだなこいつがもじもじしているのは。
「しょうがないな。」
俺は彼女についていき、寝室に入る。彼女に布団をかぶせ、俺はベッドのふちに座って彼女を見守る。今の彼女は立派な騎士様にはとても見えない。か弱い姫のようだ。まぁ、食費やらは二倍になるかもしれんが、彼女に家事でも叩き込んでバイトをさせてれば俺も楽になるだろう。やめやめ。考えるのは明日だ。今日はこの天使が寝たら俺もぐっすりソファーで寝かせてもらおう。