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封じの花は目覚めに咲く  作者: Spring
第一章 封じられし、光
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第三話

 「話をしたいんだけれど、時間はある?」


 私が答えないからか、もう一度声をかけられた。その男性は、苛ついてるわけでも、怒っているわけでもなく、ただ本当に私に話しかけているようであった。


 「ぅ、あ、申し訳ございません。このような生まれの者です。目を合わせてしまい、不快にさせてしまったこと謝罪いたします。」


 はっとし、すぐにその場にひれ伏した。彼は私がまだ無能だということに気が付いていないのだ。だからこんなにも普通に話しかけているのである。


 「このような生まれって?神通を持ってないからならそんな頭を下げることないよ」


 君が神通を持ってないことは見てわかるし、顔を上げて。と言われ、恐る恐る顔を上げる。間違っても目を合わせることがないように。


 「目を合わせないのは、屋敷の方針なのかな。まぁいいや。時間はある?」


 時間はある?なんて。私の身分ではこの人に逆らうことなどはできない。

 はい。とだけ返事をし、続きの言葉を待つ。


 「なんか調子狂うな。私も急ぎでいかなくてはいけないのでね。一つだけ。」


 近づいてくる気配がある。その気配は正座した状態の私の前に膝をつき、私の顎に手を当て、持ち上げ、金色の瞳と目を合わせた。



 「君、封印されているね。神通。」



 その不思議な男の人はさっと私から手を離すと、数歩後ろに下がった。一瞬あの瞳の金色がさらに輝きを増していたように見えたのは気のせいではないはずだ。


 「女性にいきなり失礼。」


 「な、にを…?」


 「君が気づいていないだけだよ。君の中には力がある。…とても。本当に強い力がね。」

 「こんな事急に言っても信じられはしないだろうが。私は君の味方となる存在だよ。」


 それだけ言ってその不思議な男の人は風と共に消えていった。何だったんだ一体。

 薄い桃色の花びらがいちの肩に舞い落ちた。ただの一枚の花びら。重いはずもないのに、ズシリとその肩に重くのしかかった。


 その後慌てて酒を届けに行き、遅くなったため何かされるかと覚悟していたら、何をされるわけでもなく、出ていけと締め出されるだけに終わった。余程、私達(無能)を見せたくないほどの身分の方が来ているのだろう。



□□□



 あれから不思議な男の人を忘れられず、あそこに行ったらまた会えるかもしれないと、何度かあの花の木のもとへ通ったが、一度も会うことはできていない。


 あの日の出来事は夢だったのではないかと思い始めたとき、いつも使っている納屋に一通の手紙が置いてあった。


 誰宛の手紙だろう。

 実は無能は無能で仲がいいわけではない。相手を貶めても自分が助かればいいといった人が大半である。そのため、使用人から受けた私宛の言伝をを黙っていて、使用人に折檻されるように仕向けられることもあった。また、その類だろうか。

 主人あての手紙を私が預かったことにして、届けさせないつもりか。そう思いながら宛先を見ると、


『綾瀬いち様』


 私宛…?

 よくここまで私宛の手紙が届いたなと思う。普通に届けたら捨てられるのが関の山だ。仮に届いたとしても中身は読める状態ではない。それがきれいな状態のままここにあるということは、普通の状況ではない。


 「誰からだろう」


 封を開いて、手紙を広げる。


 『あなたの力が目覚める前に、また桜の木の下で会いましょう。』


 「何の木の下…?」


 普通に字は読めるものの、読めない字も多い私は、これが何の字なのかわからずに途方に暮れてしまう。


 「まだ、続きがある。」


 『あなたを守るために。あなた自身を知るために。力のことを教えましょう。』


 力のこと…。

 思い至った私は、手紙を握りしめて駆け出した。


 『桜』この字をなんと読むのかはわからない。

 けど木の下で会ったのは、力が神通のことを指すのなら…。

 

 久しぶりに全力で走ったので息も切れ切れとし、もう走る気力もない。そんな中薄桃色の花をつけていた木は新緑へと姿を変えていた。

 高くにあった日は、すでに傾き始め、世界は独特の雰囲気を持ち始めている。


 「やっぱり、あなた様だったのですね。」


 その木の下に立つ、あの時と同じ格好をした不思議な彼へ話しかける。

 その不思議な彼はゆったりとした態度で振り向き、どこか安心したような、申し訳なさそうな、複雑な感情が見え隠れしている。

 前会ったときには一つの感情も見せていなかったというのに。私にここへ来てほしくはなかったのだろうか。


 「来てくれると思ってたよ。綾瀬いちさん。」


あんなに厚着をしているのに、初夏と言っていいほどの暑さの今日に汗一つもかかず、そう言って微笑んでいる姿がある。場所を変えようと、歩き出した彼についていかないわけにもいかず、黙って歩を進める。


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