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第7.5話 推しの胸中〜ダイスside〜

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

 エピソードのタイトルにもある通り、今回のみダイス視点で話が進みますので、ご了承いただきますようお願い致します。

 次回で最終話です!

 目を覚ますと、真っ白な天井が目に入る。ここ数日ではお馴染みの、ようやく見慣れてきた光景だ。


「うっ……」

 

 体の向きを変えようとすると、鈍い痛みが走った。この頃、どうにも体が動かしづらい。しばらく寝たきりだったせいかと思ったが、新條(しんじょう)と名乗るあの医者によれば、"消滅"の時期が近づくと現れる傾向らしい。

 

 病室内を見渡す。天井だけでなく、何もかもが白い。壁も、カーテンも、俺にかけられているこの布も。俺の心の内とは対照的なその色が、この目には酷く不気味に映った。

 

 脳裏にあの時の光景が浮かぶ。

 

 

 ――私っ……ダイスの事、分かんないよっ……!

 

 

 絞り出すようにそう言った彼女は、泣いていた。

 あの日から、このみは顔を見せなくなった。いや……毎日扉の外に気配を感じるから、本当は来ているのだろう。ただこの部屋に入ってこないだけで。

 彼女には辛辣な事を言ってしまった。あの涙を思うと胸が痛い。だが…………あれで良かったのだ。


「………………」

 

 静かだ。世界から断絶されているんじゃないかと思うほどに。

 だが、俺にはこれくらいがちょうどいい。また眠ってしまおうかと目を閉じた、その時だった。


「……?」

 

 微かに足音が聞こえる。それは徐々に近づいてきて、この病室の前で止んだ。

 

 ガラッ

 

 一瞬このみかと思ったが、その扉は躊躇なく開かれた。そこには……。


「……洸……」


「……よぉ」

 

 彼女の幼馴染が立っていた。





「意外だな、お前がここに来るとは」


「別に、たまに来てたし。アンタは気づいてないだろうけど」


「そうなのか」

 

 壁に立てかけてあった椅子を設置してそれに座った洸は、顰めっ面で俺を見下ろしてきた。


「それで、何の用だ」

 

 その態度から察するに、彼は俺に言いたい事があるのだろう。恐らく、このみ絡みで。


「……アンタ、このみと喧嘩したんだって?」

 

 …………やはりな。


「このみから聞いたのか」


「いや、落ち込んでたからオレが無理矢理聞き出した」


「最低な奴だな」


「アンタよりマシだろ」


「…………」

 

 この様子だと、こいつは全てを把握しているに違いない。俺がこのみに何を言ったのかも。


「アンタ、非情で恩知らずだよ……世話されてる身でよくそんな事が言えたな」


「好きに言えばいい。お前には関係ない」


「関係あんだよ」


「ないだろう。お前の場合、このみの為に動いているだけだろう」


「………………ああ、そうだよ」


「っ……」

 

 まさか肯定するとは思わなかった。いつものように誤魔化すだろうと高を括っていた。

 

 俺が不意を喰らった隙を狙うように、洸は鋭く追及してくる。


「アンタだって同じだろ」


「…………」


「このみの為、なんだろ?」


「……別にそんな理由ではない」


「じゃあなんだよ?この世界で生きる事に興味ねーのか?それとも、このみに興味ねーってか?」


「別にそういう訳ではない」


「じゃあはっきりしろよ。アンタ、なんで注射受けねーんだ?」


「…………」

 

 洸は目を細めて俺を見つめてくる。

 

 不思議な目だ。真っ直ぐに射抜くような力強さ。一つ残らずこちらの真意を炙り出そうとするような。

 

 …………そういえば、メグルもこんな目をしていたな。


「……このみの為など、そんな立派な理由ではないんだ」

 

 その目の引力に引き()られるように、俺の口から本音が零れ出た。


「俺はずっと、憎い奴等を倒す為だけに生きてきた。だが、俺はもうあちらで死んだ身だ。それが叶わん今となっては、これ以上生きる意味などないんだよ」


「じゃあこのみは捨てるのか?」


「…………これ以上迷惑は掛けられない」


「ホントにそれだけか?」


「…………」


「迷惑とか今更だろ。このみは気にしねーよ。つーか、あいつにとっては大歓迎じゃね?」

 

 洸の鋭い視線が突き刺さる。


 ……これはもう、全部白状しないと終わりそうにないな。

 俺は観念して口を開く。



「……だからこそ、さ。このみは喜んで引き受けるだろう。だからこそ、俺は苦しいんだ」


「どういう意味だよ?」


「………………あいつは、俺には眩しすぎる」

 

 このみが俺を大事に思っている事は、痛いほど伝わっている。……いつも愛おしそうな目で、俺を見ているから。

 俺は憎悪だけで生きてきた人間だ。だから彼女の純粋な眼差しを浴びる度、目を逸らしたくなる。……自分の穢れが浮き彫りにされそうで。


「……まさかアンタ……自分じゃこのみに相応しくないって言いたいのかよ……?」


「………………」


「っざけんな!」

 

 洸が激情を露わにする。それは初めて目にする表情だった。


「このみはっ、紛れもないお前が好きなんだよ!他の誰でもない、お前がっ…………!」


「っ……!」

 

 そんな激情を目の当たりにした俺は、痛いほど分かった。


 

 ああ、こいつは余程このみの事が大切なのだ、と。



「あいつが見てるのは、いつだってお前なんだよ……他の誰かじゃ、ダメなんだよ……!」


「…………」

 

 お前がいるだろう、とはとても言えなかった。それを口にすれば、その顔が更に苦しそうに歪む事が容易に想像できた。

 

 幾分か落ち着きを取り戻した洸がまた口を開く。


「っ……アンタ、さ……」


「……なんだ……」


「このみの事、馬鹿にしてんのか……?」


「馬鹿になんて……」


「してんだろ」

 

 洸はきっぱりと断言する。


「あいつがいずれ、アンタに失望するとか思ってんだろ。で、それが怖いんだろ、アンタ」


「っ……」

 

 自分でも見て見ぬふりをしていた奥底の想いを指摘され、言葉に詰まる。

 そんな俺を見てますます苛立ったように洸が顔を歪ませる。

 呆れたように一つ溜息を吐いたかと思うと、真剣な顔で再び俺に向き直った。


「アンタが心配しなくたって、あいつはどんなアンタも受け入れるよ。だから後はアンタ次第だよ」



「"相応しくない"って思うなら相応しくなれよ、ダイス・ソーディルっ!」



「っ……!」

 

 その瞬間、脳裏に一つの光景が蘇った。

 

 

 ――弱いってんなら強くなれよ、ダイス!

 

 

 自分より格上の相手と剣を交えた後。己の未熟さに打ちのめされていた俺に、メグルはそう言って怒鳴った。「お前は充分強い」など、そんな生易しい慰めの言葉は口にしなかった。今まさに足りないのならとにかく進めと、ただそう叱咤したのだ。

 

 今目の前にいる男に、メグルの姿が重なって見えた。


「……っ、はは……」


「……何がおかしいんだよ」


「いや………………ありがとう」

 

 俺が感謝の意を伝えると、洸は目を丸くした。


「………………分かったんなら別にいい」

 

 先程まで感情を露わにしていた事を恥じたのか、途端に彼は気まずそうに視線を逸らした。


「……なぁ、洸」


「……なんだよ」



「一つ、頼みがある」





 翌日、洸は再び俺の元を訪れた。しかし昨日とは違い、その手には見るからに重そうな鞄がぶら下がっている。


「言われた通り、持ってきたぞ」


「すまんな、ありがとう」

 

 洸は鞄を床に置き、ファスナーを開けた。中から取り出されたのは数冊の本……いや、コミックスと言うらしい。


「……本当にいいのか?」


「ああ、是非見せてくれ」

 

 俺に促されるまま、洸がコミックスを見せてくる。俺は少し軋む体を起こし、それらを凝視した。


「……本当に、俺がいるな」


「そりゃそうだろ」

 

 そう、俺が洸に頼んだ事は、俺のいた世界が描かれた……俺が登場する『神眼革命』を、見せてほしいというものだった。

 数冊ある中から、「1」と表記のあるものを手に取る。恐らく、これが1巻なのだろう。ページを開こうとしたが俺の体には大きく、うまくいかない。


「洸……すまんが」


「はいはい……やっぱ、電子の方が良かったんじゃね?」


「いや、いいんだ。紙の方が慣れている」

 

 洸がページをめくる。すると、今となっては懐かしい、見慣れた仲間達の姿がそこにはあった。


「メグルの奴、随分と男前に描かれているな……」


「実際は違うのかよ」


「ああ、実際はもっと(たぬき)顔だ」


「これでも十分タヌキじゃね?」

 

 そういったくだらない話をしつつ、しばらくはコミックスを見て追憶に浸っていた。

 しかし一番の目的を思い出し、思い出話をやめて洸に申し出る。


「洸、すまんが……」


「ん?」


「…………俺の死後の話を見せてくれ」


「…………いいのか?」


「ああ」

 

 実はまだ知らなかった。俺が死んだ後、メグル達がどうなったのか。

 一度このみに原作のマンガとやらを見せてほしいと申し出たことがあったが、彼女は断固として見せてはくれなかった。


「ちょっと待てよ……」

 

 洸がバッグの中を漁る。すると彼が取り出したのは、コミックスよりも大きいサイズの本だった。


「……?それはコミックスか?」


「あー、コミック誌だな」


「コミック誌?どう違うんだ?」


「この雑誌に載ってる分がまとまって、コミックスになるんだよ」


「成程……という事は」


「ああ……まだ最後の辺りはコミックスになってない」

 

 そう言いながら洸はページを俺に見せつつ、台詞を読み始めた。俺がまだ読めない文字があるから、こうして彼が読み聞かせてくれているのだ。

 そんな洸に甘え、俺は物語に集中した。目の前では、仲間達が命懸けで戦っている。

 

 …………そこに、俺の姿はない。

 

 数話にわたって激しい攻防が続くのを固唾を呑んで見守る中、やがて決定的瞬間は訪れた。

 叩き込まれた、メグルの強烈なパンチ。俺がずっと憎んでいた仇敵は血を吐き出して倒れ込んだ。そいつは足掻くが、そこへセロやチェシーを始めとした他の仲間達の攻撃が一斉に加わり、やがて………………事切れた。


「っ…………!」

 

 その光景を見た途端、俺の中を衝撃が走った。

 

 そうか……そうかっ……やったんだな、お前等っ……!

 

 激闘を終えたメグル達は俺の遺体と剣を抱え、炎で燃え盛る敵のアジトを後にした。

 その後、国には本当の意味で平和が訪れ、仲間達も楽しそうに過ごしていた。

 

 そうして、物語は幕を閉じた。

 

「…………」


「…………おい、大丈夫か?」


「……ああ、すまん」

 

 洸に呼びかけられるまで、俺は呆然としていた。しばらく様々な感情が俺の中を巡っていた。


「…………やっぱ、辛かったか?」

 

 洸にしては珍しく、俺を心配そうに見ている。

 俺は、偽りのない感想を告げた。


「いや……気分が晴れたよ」


「そうなのか?」


「ああ……」



「俺は志半ばだったが、仲間達が繋いでくれた。そして、それを成し遂げてくれた」


「それに、あいつ等が……故郷の皆が、平和に過ごす姿も見られた。…………もう思い残す事はない」



「………………そうか」


「ああ…………」

 

 仲間達が笑うあの輪に、俺もいられたら。そう思わなかったと言えば、嘘になる。だが…………仲間が、国の皆が、幸せそうに笑っている。それを見られて、俺はもう満足だ。

 

 あとは俺も、皆に恥じない自分になるだけだ。

 


「洸」


「ん?」


「もし、俺が"消滅"したら……」


「…………安心しろ。そんときゃ、オレがこのみの側にいる」


「はは……」


「なんだよ、笑うなよ」


「いや……頼もしいな、と思ってな」


「ふん……」

 

 

 …………やはりお前はメグルに似てるよ、洸。


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