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第1話 まさかの出会い

 初めての投稿です!

 二次元の推しがフィギュアの姿を借りて現れる、というお話です。

 一通り執筆した後に『超可動ガール1/6』という作品を知り、同じネタなので出していいのか迷いましたが、せっかく書いたので載せることにしました。

 二番煎じな内容になっていたら申し訳ありません。

 拙作ですが、少しでもお楽しみ頂けると幸いです。

「おはよう、このみちゃんっ!」

 

 新年度を迎えたばかりの4月上旬。

 この芯明(しんみょう)大学でも本日から授業が始まり、多種多様な学部の学生達が行き交い、活気付いていた。

 そんな芯明大学の文学部に所属して2年目の私、春家(はるいえ)このみは、1限目の講義室に向かっていた最中、聞き慣れた友人の声に足を止めた。


「ミマちゃん!おはよう」


「偶然だね!途中まで一緒に行ってもいい?」


「うんっ」

 

 ミマちゃんが隣に来たのを確認して、私は彼女とともに歩き出す。

 

 好元(よしもと)ミマちゃんは高校に通っていた頃からの友人だ。同じ大学に入って、今でもこうして交流が続いている。

 私とミマちゃんが仲良くなれたのには、あるひとつの共通点があったからだ。それは……。


「ねぇねぇこのみちゃんっ、今週の『神革(しんかく)』見たっ⁉︎」


「見た見たっ!もーホントやばいよね!来週どうなるんだろう……!」

 

 そう、私たちは『神眼革命(しんがんかくめい)』というマンガのファンなのだ。

 

 『神眼革命』……略して『神革』は、週刊ルーティンという少年マンガ雑誌にて連載中で、アニメ化も果たし、原作コミックの累計売上部数が2000万部を突破した大人気のマンガだ。

 あらすじとしては、相手の実力を見抜ける"神眼"という眼を持った主人公・メグルが、次々と街の人を殺していく謎の組織を倒すため、"神眼"の力を使って仲間を募り、謎の組織に立ち向かっていくというストーリー。細かく張り巡らされた伏線と、個性豊かなキャラクター達によって人気を博した作品だ。

 

 そう、本当にキャラクターが魅力的。中でも私の最推しは……。


「あそこのダイス、カッコよかったなぁ……。敵の強さに圧倒されながらも、家族や仲間の事を思いながら、死にものぐるいで戦って」


「このみちゃんはホントにダイスくん好きだね〜」


「だってめっちゃカッコいいんだもん!」

 

 そう、ダイス・ソーディル。それが私の最推しの名前だ。

 

 物語初期から登場するメインキャラは4人。主人公のメグル、メグルの幼馴染であるセロ、紅一点のチェシー、そして国の部隊に所属しているダイスだ。まあダイスはメグルたちの仲間になるため、途中で部隊を辞めるんだけど。

 

 ダイスは、幼い頃に家族を殺した謎の組織を倒すため、ひたすら剣の腕を磨いたキャラクター。作品における人気としては2番手か3番手だけど、その中性的な見た目と、クールな表情の裏に隠された弱さや優しさに、私は心を射抜かれた。


「それにしても、どうなるんだろうね〜……今後の展開」

 

 興奮した表情から一変して、深妙な表情でミマちゃんが呟く。私もそんなミマちゃんにつられるように、少し声のトーンが落ちる。


「そうだね……なんかだんだん終わりに近づいてる感じがして、寂しいなぁ……」

 

 『神革』は最終章に突入しており、主人公たちメインサイドと敵サイドとの戦いは佳境に入っている。ファンからはおそらく後2〜3ヶ月で最終回を迎えるだろうと予測されており、ネットでは今後の展開に対する考察で盛り上がっている。

 

 ミマちゃんが悟りを開いたかのように、胸に手を当てて言葉を紡ぐ。


「でもそれは物語の運命(さだめ)……私たちはファンとして最後までただ見守るしかない……」


「そう……だね」

 

 ミマちゃんの言葉に同意しながらも、少ししんみりした気持ちになる。物語が終わるって事は、推しの活躍も見られなくなるって事だよね……。

 

 などと考えていると、腕時計をちらりと見たミマちゃんが焦りだす。


「ヤバい、このみちゃん!そろそろ講義始まっちゃう!」


「えっ……あ、ホントだ!」

 

 私も腕時計を見ると、時計の針は8時58分を指していた。9時から授業だから、確かに急がないとまずい。


「じゃあね、このみちゃん!後でね!」


「うん、後で!」

 

 1限目の授業が違う私達は、それぞれの方向へ足を進める。

 先程までのしんみりした気持ちは、一旦脇に置く事にした。





 その日の夕方。今日一日の授業を終えた私は、大学の図書館に来ていた。

 借りていた本を返却し、出口を抜けたその時……。


「お、このみ?」


「え、(こう)?」

 

 ちょうど図書館へ入ろうとしていた幼馴染と遭遇した。

 

 北野(きたの)洸。私の幼馴染だ。幼稚園から高校までずっと一緒で、まさかの大学も一緒。だけど洸は医学部でキャンパスが違うから、本来なら大学での遭遇率は低いはずなんだけど……。


「また本借りに来たの?」


「まあ、今借りてるのが返却日だし」


「相変わらず勉強熱心だねぇ」

 

 そう、洸はわざわざ本を借りに本キャンパスの図書館まで来るのがしょっちゅうだ。だから図書館に行きさえすれば結構な確率で遭遇する。

 洸は幼い頃から近所に住んでいて、よく家族ぐるみでお付き合いしてたから、小学校低学年まではたまに一緒に遊んでいた。お互い同性の友達と遊ぶ事が増えるにつれ、学校以外で会う事は少なくなっていったけれど。それでもそういった過去があったからか、学校でも変に意識する事はなく、普通の友達のような感覚で互いに接していた。


「じゃ、オレ行くわ」


「うん、バイバイ」

 

 私に手を振った洸は、そのまま図書館内へと姿を消した。

 

 ……手に持ってた本めっちゃ分厚かったけど、あれホントに2週間で読み切れたんかな。


 

 

 

 それから数日後。待ちに待った週刊ルーティン発売日。つまり、『神革』の最新話が読める日。

 

 日付が変わった数分後、私は自宅から一番近くのコンビニに寄って、早速週刊ルーティンを買った。

 お店の自動ドアを抜けると、暗くて静まり返った住宅街を急ぎ足で歩く。そのスピードに呼応するように、私の中のドキドキも増していく。

 小さなアパートの2階。いつもの私なら考えられない速さで階段を上り、手前から3つ目の、最奥のドアの前で立ち止まる。

 バッグから鍵を取り出し、それを鍵穴に入れてドアを開けた。思ったより音が響いて一瞬ヒヤリとしたけど、隣の部屋に住人はいないから大丈夫だろうと自分に言い聞かせる。

 ドアを閉める。鍵をかけた事を確認すると、靴を脱ぎ捨て、電気を点けた後テーブルの前にすぐさま座った。着替えもせず、真っ先にバッグから週刊ルーティンを取り出す。

 

 確か先週号の告知で、『神革』はセンターカラーだって書かれてたはず。裏表紙をめくり、目次に目を通した。その中から『神眼革命』の文字を探す。

 あった。183ページ!

 雑誌を表に返し、慎重に先頭ページから目当てのページまでどんどんめくる。作家の先生方には申し訳ないけど、他のマンガには目もくれなかった。

 

 ようやくたどり着いた183ページ目。カラーイラストが目に飛び込んできて、私の動作が止まる。

 そこでは、主人公のメグルが拳をこちらに向け、そしてその隣にいる私の最推しがメグル同様、剣をこちらに向けていた。

 

 ウッソ……ここへ来てメグルとダイス2人のカラー新規絵……⁉︎メグルは主人公だから分かるけど、なんでもう一人がダイスなの?他にもメインは何人かいるのに!てかダイスカッコいい……ヤバい……。

 

 予想外の推しの供給に動揺しかけたけど、一旦目を閉じて深呼吸をする。


「よしっ!」

 

 気持ちが落ち着いてきたのを見計らって、私は思い切ってページをめくった。

 

 カラーから一転、ページ全体が白黒になる。そこでは先週に引き続き主人公のメグル達が、ラスボスであるジャーグと激しいバトルを繰り広げていた。

 メグル達が次々と攻撃を仕掛ける。ジャーグは押され気味だったけど、そう簡単に負けるはずがない。強烈な一撃をかまし、主人公達は吹き飛ばされた。

 それでもメグルが立ち上がり、仲間達もそれに続く。また連続攻撃が始まった。息をもつかせぬ程の緊迫の展開に、思わず固唾を呑む。

 

 すると、メグルがジャーグの一撃を喰らった。

 

 呻き、よろめくメグルに、ジャーグがトドメを刺そうとする。

 主人公が死ぬなんてありえない、どうか助かってくれ……!そう思いながら、私はページをめくった。


「…………え」

 

 手が止まった。


「……え……?」

 

 目を疑った。状況が飲み込めず何度も瞬きしてみせたけど、目の前の光景は変わらない。

 

 手が震え出す。いや、きっと大丈夫だ。そんな僅かな期待を胸に、恐る恐るページをめくった。

 だけどそんな期待は裏切られ、物語は予期せぬ方向へ進んでいく。

 メグルがかつてない程激昂したところで、「次回へつづく」の文字。次のページをめくっても、コミックスの宣伝が載っているだけだった。

 

 雑誌を閉じる。話を読み終えても衝撃が治まらず、ただ呆然と週刊ルーティンの表紙を眺めた。

 え、何?どういう事?私の頭の中ではそういった言葉が並ぶばかりで、混乱が治まらない。

 

 ひょっとして私は幻を見たんじゃないか?そう思い立ち、もう一度雑誌を開いて『神革』に目を通した。だけど、何度見てもそこに描かれてるものは変わらない。

 

 最後のページを眺める。徐々に理解が追いつき、頭の中で一つの事実が明確になっていく。

 信じられない。信じたくない。でも実際に描かれてるんだから認めるしかなかった。


 

 ダイスが、死んだ――――。





『このみちゃん、大丈夫?』


『授業の資料貰っといたから、次会った時渡すね!』

 

 受信音とともに光ったスマホの画面を見ると、友人のメッセージが表示されていた。

 だけどまともに返信する気力もない私は、とりあえずスタンプを一つだけ送り、横になったままスマホを置いた。ごめんね、ミマちゃん……。


「はあ…………」

 

 衝撃の一日から数日経ち、今日は金曜日。私は今週、大学に行かなかった。というより、行けなかったという方が正しいかもしれない。

 

 月曜日、衝撃のシーンを読んで以降ショックから立ち直れず、そのまま一睡もせずに朝を迎えた。いつもなら家を出る時間になっても、体を動かす気力もないまま、私はただダイスの事ばかり考えていた。食事をする事も忘れていて、その日の夜お腹が鳴く音を聞き、ようやくカップ麺を口にする始末だった。

 火曜日以降もどこか魂が抜けたような心地で、床の上にひたすら寝転がっていた。立ち上がるのはお手洗いか食事の時だけ。料理をする気力はもちろんなく、キッチンの棚に貯まっていたカップ麺が減るだけだった。こんな状況でも生理的欲求だけは働くんだなと虚しくなった。

 

 ミマちゃん、きっと心配してるよね……。そう思っていると。

 

 〜〜♪

 

 今度は着信音が鳴り出した。電話だ。

 画面を見ると、そこには幼馴染の名前が表示されていた。

 

 洸か……。悪いけど、今は電話に出られる気分じゃない。スマホを置いて、逆の方向へ寝返りを打つ。

 

 〜〜♪


「……」

 

 〜〜♪


「…………」

 

 〜〜♪


「…………っ」

 

 〜〜♪


「……っ、もう!しつこいっ!」


『あ、出た』


「あまりにしつこいから!」

 

 いつまでも鳴り止まない電話に業を煮やした私は、思わず電話に出てしまった。そうして聞こえた洸の声は、全然反省の色が見られない呑気なものだった。


『そんなに嫌なら拒否ればよかっただろ』


「う……」

 

 確かに洸の言う通り、拒否ボタンを押せばよかった。その内鳴り止むだろうと信じてた私が甘かった。


『ま、元気そうで安心したわ』


「何の用だったの?」


『いや、生存確認』


「は?」


『だって好元が、お前が大学来ない〜って言ってたから』


「ミマちゃんに会ったの?」


『ああ、図書館で』


「また図書館……」


『ま、そんなに元気なら来週からは大学来れるだろ』


「元気じゃないよ、全然……」


『キャラクターが死んだくらいでそんな落ち込むなよ』


「な……」


『じゃ、来週ちゃんと来いよ。じゃないと単位危なくなるぞー』

 

 洸は言うだけ言ってさくっと通話を切った。


「………………」

 

 私の中で沸々と怒りが込み上がる。

 

 何、「キャラクターが死んだくらいで」って⁉︎オタクを馬鹿にしてんの⁉︎こっちは本気で落ち込んでるのに!


「……はぁ」

 

 けどまあ、洸の言う通りだ。このままじゃミマちゃんに心配かけるし、単位も危なくなるし。来週からはちゃんと行こう……。





 そして月曜日。私は1週間ぶりに大学へ足を運んだ。


「このみちゃん!」

 

 掲示板を見ていたらミマちゃんの声がしたので振り向くと、小走りで私の元へ駆け寄ってくるところだった。


「よかったー、大学来たんだね!」


「うん、心配かけちゃってごめんね。ちゃんと返信もできなくて……」


「全然!でも、その……私、なんて言ったらいいか……」

 

 いつもの明るい彼女にしては珍しく、ミマちゃんは俯いて言葉を濁らせた。私がダイス推しなのを知っているから、きっと先週の『神革』の展開に心を痛めているのだろう。


「大丈夫だよ。ミマちゃんが毎日私の事心配してくれて、とても嬉しかった。ありがとう」

 

 私が感謝の言葉を伝えると、ミマちゃんは曇った表情から一転、照れくさそうにはにかんだ。


「そっか、それならよかった!」

 

 私達は講義室の方向へ向けて歩き出す。


「あ、そういえば」


「ん?」


「洸くんも心配してたみたいだったから、一言声かけた方がいいかもよ?」


「そっか……そうだね、今度会ったら」


「えー、学部違うしなかなか会えないでしょ。今日ラインだけでも送れば?」


「う……そうだね」

 

 ミマちゃんの言う通り、わざわざ会わなくてもラインとか電話で伝えれば済む話なんだろうけど……。


「このみちゃん、洸くんに対してなんか素っ気ないな〜。照れ隠し?」


「違うから!」


「じゃあなんで?」


「だってまたなんか言われそうだもん……たかがキャラクターだろ、とかなんとか」


「あ〜」

 

 そう、洸はキャラクターの「推し」というものに関してはいまいち理解できていないようだった。アニメとかの話題には乗ってくれるけどどこか冷めていて、特定のキャラに熱中するような事はない。


「洸くんってカッコいいし優しいし、基本このみちゃんの良き理解者だと思うけどなぁ」


「そっかなぁ……」

 

 ミマちゃんはそう言うけど、推しを理解してくれないという障壁は厚い。洸には悪いけど。

 とりあえず洸にはまた今度お礼を言おう。


 

 

 

 それからまた数日が経ち、ゴールデンウィークが間近に迫った金曜日。

 

 帰途についた私は、着替えた後に週刊ルーティンの今週号を開いた。

 実は月曜日にはちゃんと買っていたのだけど、心の整理がつかなくて読むのを後回しにしていた。

 

 何故なら、『神革』の最終回が載っているから。

 

 ネットを見たところ、想定よりも早いラストに私同様ファンの大半は心が追いついていないようだった。それでもなんだかんだで盛り上がってるけど。

 

 ミマちゃんから聞いた話だけど、ダイスの最期のシーンが描かれた先々週、主人公を庇ってメインの一人が亡くなるという展開にネットは大荒れだったらしい。演出のひとつとして支持する声があった一方で、純粋にダイスの死を悲しむ人もたくさんで。

 今でもその展開に対する様々な意見は見られるけど、今週は物語の完結を素直に祝い、感謝を述べるコメントで溢れていた。

 

 雑誌をめくる。事前に目次で確認していたページに辿り着いた。一つ息を吐いた後、目を通していく。

 

 戦いが終わり、敵のジャーグが炎の中息絶えていくのを見つめていたメグル達。やがて彼が事切れるとその場を後にした一同だけど、その際、メグル達はダイスの遺体と剣を抱えていた。

 そして街には平和が訪れ、メグル達が楽しそうに暮らす姿で物語は幕を閉じた。


「………………」

 

 話を読み終えると、感動よりも切なさが胸にこみ上げた。

 

 どうしてこの輪の中にダイスはいないのだろう。みんなと同じように、戦いを終えたら幸せに過ごしてほしかった。

 やっぱり私は、素直に終わりを祝えない。ダイスがいない以上、この気持ちを埋める事はできない。こんな事を思ったところで何も変わらないのは分かっているけど……それでも。

 

 棚の上に目をやる。そこにはこれまで集めてきたダイスのグッズが並んでいる。

 そしてその中央、長い裾を翻し華麗な姿でそこに位置しているダイスを眺めた。私が唯一持っているフィギュアだ。

 

 ミマちゃんや洸には平気なように振舞ってみせてたけど、最近はずっとこんな調子だ。一人でいるとすぐダイスの事を考えて、胸が苦しくなる。グッズやフィギュアをひたすらボーっと眺めて終わる休日もあった。


「ダイス……」

 

 気づけば頬が濡れていた。視界がぼやけていく。

 

 洸の言うように、「たかが二次元のキャラクターだから」と済ませられたらよかった。ミマちゃんのようにいろんな作品の推しを見つけて、気持ちを切り替えられたらよかった。

 でも私、ダイス以外に知らない。こんなに惹かれる存在なんて。


 

 ねぇダイス、もう一度あなたの笑顔が見たかったよ。





『ダイスー!』


『メグル、久しぶりだな』

 

 数メートル先でダイスとメグルが会話をしている。


『今度街で祭りあるけどさー、セロ達と一緒に回らねー?』


『ああ、その日は剣の稽古があるから後から合流でもいいか?』


『ダイスお前、戦いは終わったのにまだ剣やってんだな』


『お前こそ、子ども達に武術を教えてるんだろう?お互い様じゃないか』


『はは、まあな』

 

 あぁ、ダイス楽しそう……尊い……。


『じゃあ当日、夜7時に広場の噴水前でな!』


『分かった。その時間なら大丈夫だろう』

 

 どうやら話は終わったようで、メグルはどこかへ駆け出していった。

 すると突然ダイスが振り向き、目が合った。途端に彼が顔を顰める。


『おいお前』


 そこで映像は途切れた。


 

 視界に入ってきたのは木目調の壁だった。いや、違う。これはとっくに見慣れた自室の天井か。(もや)がかかったような意識が、徐々にクリアになっていく。


「……ぃ」

 

 さっきのは夢かぁ。そういえば昨日泣きながら寝転んで、そのまま疲れて寝ちゃったんだな。


「……おい」

 

 夢にまで見るとか私どんだけ……。でもあの笑ったダイス、素敵だったなぁ。あれ、そういえば最後……。


「おいお前!」


「っ⁉︎」


 突然耳元で怒鳴るような声がして、私は思いきり飛び起きた。

 おそらく声がしたであろう場所を見回すと、そこには……。


「これは一体、どういう事だ」


「…………え?」


 やや紫がかった黒い髪を揺らし、黒地に金色のラインが映える裾の長い服を身に纏った、細身の青年が立っていた。

 

 ………………え?


「……ぅわあああああああっ⁉︎」


「……っ」

 

 私の突然の大声に、青年は僅かに体をビクリとさせた。

 

 しまった、つい大声を出してしまった。ここそんなに壁厚くないのに。いくら隣室が空いてるとはいえ。

 いや、それよりも今のこの状況だ。私は目の前の青年をまじまじと見た。

 

 紫がかった黒髪。裾が長い黒地の服。スラリと細身の体型。中性的な整った顔立ち。

 

 見間違えるはずがない、これはどう見ても…………

 ダイスだ。

 だけど…………


 

 とても、小さい。


 

 容姿は間違いなくダイスだけど、全体的にとても小さい。私の手のひらに乗れそうなくらいだ。

 でもこのサイズ感、見覚えがある。そう、まるでフィギュアの……。

 

 そこまで考えてふと思い至った。

 日頃使用している棚の上に視線を移す。そしたら……。


 「ない…………!」

 

 そう、なかった。グッズに囲まれるようにして真ん中に置いてあったはずのフィギュアが。


「おい」


「ひゃい!」

 

 後ろから声をかけられた。反射的に返事をしたけど、あまりにドスの効いた低い声に、緊張して声が裏返った上に噛んでしまった。

 ダイスと思わしき小さな青年と目が合う。少し間があった。その僅かな間に、私の推測は確信へと変わっていく。

 

 信じられない。ありえない。だけどそれ以外に説明つかない。


「何度も言わせるな。これは一体どういう事だ」


 

 推しのフィギュアが動いてる――――⁉︎


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