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始終、運ぶは列車

作者: 佐一

ガタン、ゴトン。

列車が走る。その音を聴いて私は古い思い出を懐かしむ。


十八の頃、夢を抱いていた私は少しばかりのお金と商売道具を持って、上京した。当時の私は成功することに疑いはしなかった。

一年目、都会の生活に慣れずとりあえずコンビニでアルバイトをしながら生活する。


二年目、生活に慣れてきたので夢に向かって突き進んでいくが、成果が出ずまたアルバイトで生計を立てる


三年目、同期の一人が成功してデビューする。私も追いつこうと努力する。


五年目、同期全員がデビューしてその道を進んでいる。私を除いて。


そして十年目、私よりも下の子たちも次々とデビューしていく中、私はいまだにコンビニでアルバイトをしていた。十年もたてば私の方が古参になり新人に教える立場になっていた。

いつの間にか商売道具をよりも、バーコードリーダーの方が手によく馴染む。


十五年目、担当からとうとう才能がないと言われた。薄々感じていたが、私には才能というものは無いらしく、終わってしまったのだ。その後私は記憶がなく、気が付けば荷物をまとめ、何もない部屋にいた。かすかにある記憶を探るとひたすらに荷物を整理してたみたいだ。改めて綺麗に物一つない部屋を見渡す。始めは狭いと思ったこの部屋も、今はただ広く感じる。


故郷へ帰るために駅へ向かう。切符を買い改札を通ろうとした時、謎の嫌悪感に襲われるが気のせいだと思い無理やり通り列車に乗る。

夕方ということもあり初めは多くの人が乗っていた列車も、十五年間住んでいた街から離れていくとともに少しずつ人は降りていき、最終的に私一人だけがこの列車に乗っていた。


改札を通るときの嫌悪感、恐らくは夢花の芽が開かなかったことだろう。でもそれは仕方ないのでは?

私とて十五年諦めずに足掻いてきたが、才能がないとそう言われたらどうしようもない。むしろよく頑張ったと褒めてあげたい。そうやって自分をごまかすしかないのだ。


本当は違う。才能がないと言われてもう苦しまなくていいんだと安堵した私に対しての苛立ち、怒り、後悔。それら全てをひっくるめて私自身への嫌悪が出てきたのだ。

あの時の決意はどうした、成功することに疑いはなかったんじゃないのか?

そう見続けた結果が今の私だ。凡人だった私、天才だったかもしれない私、そんな私だったら良かったと願望も言葉に出来ずにただ、輝々とした街並みを見ながら頬に伝うナニカを拭う、これまでの自分を思いながら。

その間にも列車は走る、途中で止まりながら街から離れていく。





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